【完結/R18】恋人として君と過ごす日々

テルマ江

文字の大きさ
148 / 154
また君と星を見上げて・後編(柊山視点)

9

しおりを挟む
「おかえりなさい」

 部屋の鍵を開けると玄関の近くで待っていてくれたのだろうか、すぐに遥君が現れた。羽織は脱いでおり、浴衣一枚の遥君からはますます色気が漂っている。

「ただいま、遥君」

 僕は部屋の中に入ると遥君を抱きしめた。布一枚にくるまれた彼の熱い体温がこちらにも伝わってくる。

「敬久さん、温泉の良い匂いがします」

 遥君は僕の背中を優しい手付きで撫で、くすぐったい声色で囁いた。

「うん、別館の温泉に行ってみたんだ」
「そうなんですね。別館の温泉はどんな感じでした?」
「君がいなくて寂しかったから温泉からはすぐに出ちゃった」
「そ、そう、ですか……」

 そう伝えると遥君は僕の肩に顔を埋めてギュッと抱きしめ返してくれた。

「寂しくさせてすみません。もう、準備出来ていますから」

 肩に頭を擦りつけ誘うような言葉に僕は心の中の欲望を膨らませた。彼は少しの間そうしてから顔を上げて僕の唇に軽くキスをした。

「ん……」
「……はぁ……このまま一緒に寝室行きますか? ああ、お風呂上がりですし水分補給しないとですね」

 彼は気遣う様に優しく尋ねてくれた。

「飲み物を用意しますよ」
「ううん、外で水分を摂って来たから大丈夫。あー、そうだ……洗面所に行って来て良いかな。顔を洗いたいんだ」
「分かりました」

 遥君は頷いて体を離した。そしてしばらく僕を見つめた後に耳元に顔を近づけて「先にお布団で待っていますから、早く来てくださいね」といたずらっぽく囁き、寝室の襖を開けて中に入って行った。

――遥君がどんどん小悪魔になっていく。ああいう可愛らしい……僕の心をかき乱す言い方はどこで覚えて来るんだろうか?

 しばらく立ち尽くして遥君の甘ったるい言葉を噛み締めた。

――はぁ……顔を洗おう。性急にことを進めないように落ち着かないと

 羽織を脱いで畳むと、はやる気持ちを抑えるために洗面所に向かった。

 洗面所は玄関のすぐ近くにある。磨き込まれた洗面所の鏡を見つめて深呼吸をした。自分で思っているよりは普通の表情をしていたので心底ほっとした。

 蛇口を捻り、冷たい水をすくってパシャパシャと顔を洗った。ひんやりとした水が火照った顔や心を落ち着かせてくれる。

――少しだけ落ち着いて来たな。理性が引きちぎれないようにしないと……遥君に怖がられることだけはしたくないからな

 彼に対する気持ちが暗い方向に盛り上がると「閉じ込めたい」だとか「攫って家に帰したくない」だとか、危ないことばかり考えてしまう。

 僕は頬を軽く叩いて洗面所を後にした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...