【完結/R18/短編】恋人として君と続いていく日々

テルマ江

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 携帯電話のアラームが小さく鳴ったのをベッドの中からモゾモゾと手を伸ばして止めた。寝ぼけた頭で隣を見ると敬久さんが寝ている。

(6時……出社の準備しないと……いや……今日は、土曜だった……良かった。あっ!)

 敬久さんの腕がオレの頭の辺りに伸びている。

(これは……腕枕!?)
 
 オレは敬久さんの枕を抱えたまま丸まっていたはずなのに、きちんと布団を被り敬久さんの腕を枕にして寝ていたようだ。オレの枕はベッドの端の方に追いやられている。

(敬久さんがオレが丸まって枕を離さないから、腕枕をして布団をかけてくれた……?)

 アラームに気づいていないのか敬久さんはまだ寝息を立てている。優しさにジンと来てしまい、胸の辺りに潜り込みそっと頬を寄せた。敬久さんは枕を使わずに眠ったのだろうか。

(オレの枕を使ってくれて良かったのに。敬久さんが体を痛めていたらどうしよう)

 目を閉じて敬久さんの心音を聞いていると頭を包み込むように抱きしめられた。

「……おはよ」

 寝起きの敬久さんの掠れた声色が頭上から降って来た。オレは顔を上げて「おはようございます」と返した。

「今日……仕事?」

 眠たそうな敬久さんが小さく欠伸をした。寝起きの気だるそうな表情は少しだけ拗ねているようにも見えて、胸がキュンと鳴った。

(寝起きの敬久さんは相変わらず可愛い)

 身をよじって横向きになった敬久さんは片手でオレを抱き寄せ、空いた手を自分の頭の下に入れて腕枕のようにしている。

「仕事は休みです……あの、敬久さん、ごめんなさい」
「え、何で謝るの?」

 敬久さんは怪訝そうな表情になり、オレの背中をポンポンと撫でた。

「遥君ってけっこう唐突に謝ってくるよね。僕は何もされていないよ」

 慰めるように背中を撫でられるとホッとしてまた眠ってしまいそうになる。

(こんな子どものように甘えてしまうのは良くないのだけれど、すごく安心する)

「もしかして怖い夢を見た?」

 オレを落ち着かせるように言う敬久さんの優しさに胸が締め付けられるような気分になった。

「違います……その、枕を取っちゃって、ずっと腕枕してもらっていたみたいで、先に寝ちゃいましたし……ごめんなさい」
「ああ、そんなことか。平気だよ」
「そんなことって……腕とか体は痛くなってないですか?」
「うん、全然」

 敬久さんはクスクスと笑うと、オレの額に唇を落とした。

「君が僕の枕を抱きしめて寝ていたからさ、少し嫉妬したんだ」
「し、嫉妬……」
「僕は物にも嫉妬する狭量きょうりょうな男だって知ってるでしょ?」

 オレの腕の中にある枕をひょいと取り上げると、自分の頭の下に敷き直した。

「寝ている時に取り上げてしまいたかったんだけど、寝顔が嬉しそうにしていて可愛かったから」

 目を細めふうっとため息をついてオレの頭を撫でた。

「布団をかけ直していたら遥君が身をよじって僕にひっついて来て、腕を枕にしてもらったら僕の気が晴れるかなって」
「……敬久さんはオレの枕で寝てくれて良かったのに」
「自分の枕をおじさんに使われるのって嫌でしょ?」

 自虐するように言うので敬久さんの胸をポカポカと叩いた。

「敬久さんはおじさんじゃないですし、オレのパートナーなんですから、枕なんていくらでも使ってもらってかまいません!」
「遥君は優しいね」 

 からかうような口調の敬久さんを見上げていると、顔が近づいて来たのでオレも首を伸ばして唇をそっと重ねた。

「ん……敬久さん、あの……今日もここにいて良いですか?」
「うん、好きなだけいてよ」

 ついばむような口づけを交わしていると胸がいっぱいになる。初めて敬久さんとキスをした時は頭が真っ白になって何だかよく分からなかったのに、今ではどんな風に触れ合うと喜んでもらえるか考える余裕が多少だが生まれている。

(敬久さんとこの先も、ずっとこんな風にしていたいな)

 鼻先を合わせるように顔を近づけると、彼はくすぐったそうな表情になってふっと息をついた。

「今日は家で過ごしますか?」
「僕は……昼前に打ち合わせに出かけて帰ったら少しだけ作業があるから、遥君を退屈させちゃうかもしれない」

 少し申し訳なさそうに彼は言った。

「退屈なんて、そんな……」

 敬久さんは土日を休日にするように調整しながら執筆している。その彼が土曜日も作業すると言うことは、スケジュールが押しているのかもしれない。敬久さんが執筆で忙しいのに泊まりたいと言うオレの方がどうかしている。

「敬久さん、やっぱり今日は帰ります。お互いに落ち着いてからの方が、もっとゆっくり――」
「それは……ダメかな」

 オレをギュッと抱きしめて捕まえ「遥君がここにいたいって言ったんだからさ」と囁いた。

「そんなすぐに言葉を取り下げるのは無しだよ。ね?」
「……でも忙しいのに」
「遥君が家にいてくれるのが好きなんだ。僕のわがままだけど」
「ぅう……」
「ね、傍にいてよ」

 懇願するように囁かれ、何も言えなくなってしまったオレはコクリと頷いた。

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