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一浪目

浪人生はハンターになり、武器を得る。

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『スーッスーッ』

ん。なんだ?顔に弱い風が当たっている。朝か。

――でもなんか、苦しいッ!俺は慌てて目を開ける。起き抜けなので視界はぼんやりしているが、目の前にあるものが何なのかは容易にわかった。

エレナの顔が距離にして一センチもないほどに近づいている。しかも、思いっきり抱き寄せられている。

なっっなにこれ!顔っ近っっ!ていうか、胸が、当たってっ、、く、、、苦しっ、。



――――あれは、昨日の夜のことだった。


「悪いがベッドはそのひとつしかなくてな。普段は俺達が二人で使っているのだが、お前は疲れているだろう。俺は床で適当にねるから、ゆっくり休むといい。」

左頬を右手の人差し指でぽりぽりかきながら男らしく、かつ品のある声でアマンドが言う。

「そうね。狭いだろうけど、そうしてくれる?」

続けてエレナが言う。

それっていいのか?と思いながら、変に否定するとかえって意識しているようなので、アマンドの言葉に甘え、エレナと二人でベッドで寝たのだった。

そういえば言ってたっけ。アマンドが。

「エレナは寝相が悪いからな。気をつけろ。」

少しニヤリとしながらアマンドが言っていたがその理由がわかった。つまりこの状況が、そういうことなのだろう。



「――――ってっこれっどうしたらっ」

もがいていると、後ろからアマンドの声がした。

「起きたか、ヒカゲ。エレナは毎朝そんなんだ。強引に引き剥がさないと起きないぞ。」

この光景を少し楽しんでいるようだ。妙に笑いをこらえているかのような声だ。

「そっ、、そんなっこと、いわれてもっムリですよっ、た、、たすけっ」

エレナに体を完全にホールドされていて無理やり引き剥がすことも出来ない。

「しょうがないな。」

そういいながらアマンドが近づいてきて、俺とエレナを引き剥がす。エレナは反動でベッドから転げ落ちたが、それでも起きない。恐ろしいな。

「あ、ありがとうございます。。。」

アマンドは、やつれた顔で言う俺を見て少し満足げな顔で頷き、

「今日から、ハンターになるための一週間が始まるな。昨日行った集会所の横に訓練場がある。そこへ行けばいい。」

と言ってきた。

そんなのあったか?と思ったのだが、どうやら集会所と訓練場つながっている建物らしく見落としていたみたいだ。

俺はアマンドからもらった固めのパンをよく噛んで牛乳と一緒に流し込み、訓練上に向かった。



「――――ここか、、。」

確かにあった。集会所のヨコに、『訓練場』と書かれた建物がある。たのもー!と意気込んで入ってやろうと思ったが、滑ったら最悪なので、俺は三回ほどノックをして恐る恐るその建物に入っていった。




――――あれから六日が過ぎた。

座学は、この島、そして周辺の島の地形、天候、出没するモンスターとそのモンスターの詳細な情報。道具の使い方。などなど手厚く教えてもらった。

俺がガネルで気を失ったのは、ガネルに住み着く、ドーグラという大型の鳥の化物の鳴き声、というか攻撃。らしい。ドーグラは攻撃力、防御力こそないがその大きな鳴き声は神経を麻痺させ、まともに聞くと気を失ってしまうらしい。群れでは行動しないし、生息数も少ないらしいので、戦う時だけ、耳栓をつけるのが基本だという。

倒したモンスターによっては、皮や爪や牙などが武器や防具に使えるというが、それはほんの少数で、基本はすべて『換金』らしい。確かに、化物の革で作ったらしき防具を身につけているハンターは見てないな。大体は甲冑やら鎧のような、金属じみたガチャガチャした格好だ。中には、胸、肩、脛、肘、膝などの部分だけに、革製の軽めの防具を身につけているものもいた。
動きやすさを重視しているのだろうか。

俺は大学に落ちさえしたものの、少し前までは、『受験生』だった。講師の話は漏らすことなく、日用品店で買ったノートにメモした。

俺は、この6日間で気になったことが一つあり、講師に質問してみることにした。

「あの、この村って、鍛冶屋。というか、武器は売ってないんですか?ハンターの人たちは、みんな武器を持っているみたいですけど、それらしい店をまだ見ていなくて。ヨコの防具や道具を売っている店にも、武器はなかったし、、。」

俺は六日間、村の至るところに足を運んだが、それらしい店を見なかった。生活必需品の店でのナイフや、農具、工具店でのハンマー、ピッケル、鍬などしか、武器と言えるようなものはなかった。ましてや、道行くハンターが身につけているような剣やら、馬鹿でかい斧なんて、どこにも売っていない。

それを聞いた講師は、何当たり前の事を言ってるんだこいつは。みたいな顔で俺を見て、口を開いた。

「売っていないのは当たり前です。もう何百年も前からここらの島に武器職人はいませんよ。村長が代々飼われている武器を生む鳥があなたに合った武器を産んでくれるのです。」

武器を、、産む????鳥が???

あぁ、そうか。ここはファンタジーの異世界じゃないか。鳥が武器を産もうが驚くことではない。魔法もないみたいだし、妙に現実世界に似ていることばかりで少し忘れかけていた。そうかそうか。いいじゃん。武器を生む鳥。楽しみだな。あー楽しみ。



――――さらに詳しく教えてもらうと、武器は、最初に産んでもらったものを永遠に使うらしい。正確には、同じものなら、完全に使い物にならなくなったりした場合のみ、全く同じものを産んでくれるらしい。

そして、武器と同じくらいに重要なものがあった。それが『波動』だ。どうも人間には、炎、水、雷、闇、光という五つの波動のうちどれか一つが流れているようで、ハンターはそれを引き出す手首のサイズにあったリングが渡されるという。波動は、武器や防具にまとわせたりするらしいのだか、そこはで実戦で覚えていくのが早いと言われた。そして、波動にはそれぞれ『効果』があり、炎は攻撃力。水は防御力。雷はスピード、回避力。闇は動体視力、観察力。光は体力、道具力にそれぞれ関わってくるらしい。道具力というのは、道具の持続性、効力などが上がるらしい。
まぁ、とにかく波動については実戦が一番らしいので、あまり聞かなかった。





――――「や、。やっと終わった。」

最後の1日の基礎訓練は意外ときつかった。体力、筋力なんて1日ではどうしようもないのに、それをみっちりやらされた。
立って歩くのがやっとだ。

まぁでもこれで、ハンターになることは出来た。あとは武器と波動リングを貰うだけだな。そういえば結局、村長には挨拶していなかったし、昨日帰ったらしいのでちょうどいいな。挨拶も兼ねて、武器とリングをもらいに行こう。


村長の家は村の一番端にあり、なかなか大きな庭付きの、木で作られた家だった。

少し不安だった俺はアマンドについてきてもらった。アマンドの武器は大剣だった。
そういえば、俺が記憶を失う前に見た後ろ姿の男も、うろ覚えだが大剣を持っていたきがする。当たり前だが、やっぱりあのときの二人はアマンドとエレナだったんだな。
エレナは確か結構大きめの銃を構えていた気がした。

「村長。アマンドだ。新人のハンターを連れてきたのだが。」

ドアをノックしてからアマンドが大きめの声を出す。

すると家の奥からなにやら音がして、ドアが空き、村長が出てきた。

「やあやあ、アマンド。昨日ぶりだね。横にいる子が新人くんかな?」

爽やかな笑顔で、爽やかな声でそう言った。


これが村長??正直イメージとぜんぜん違うな。もっと年配のおじいさんが出てくるかと思ったが、30代前半くらいの爽やか男だ。

「やあ。僕は村長のイバンだ。よろしくね。君の名前は、。」

「あっ、ヒカゲっていいます。今日は挨拶もかねて、武器とリングをもらいに来たんですけど、、」

すると村長はなにか思いついたように笑い、

「ああ。そうだったね、ヒカゲくんだ。実はアマンドから昨日聞いていてね。いろいろ大変だったみたいだね。ちょっとまってて、連れてくるから。」

そう言って村長は再び家の中に入っていき、でっかいダチョウのような鳥を連れてきた。これが武器を生む鳥、か。

なんかすっごい見られてるんですけど。俺に合う武器を考えてくれているのか。少し怖い。

するとそのでかい鳥は目をぎょろりと見開く。

「産むみたいだ。」

村長が言うとそのでかい鳥は、

ヴォエエッッッと気持ち悪い声を出しながら、口から卵らしきものを生んだ。

口から出るのかよ。

気持ち悪すぎて引いていると、その卵らしきものは光りはじめ、形を変えていく。

それは、鞘に収まった二本の刀と一つのリングになって、光は収まった。

「ほお、刀か。しかも二つ。これはかなり珍しいな。そのリングだけど、腕につけると小さくなって手首に収まるようになるから。付けてみて。」

村長に言われるように、俺はリングを手首に通す。するとまた光り出して、形を変え、手首にフィットした。そして、銀色だったリングは、形を変えるとともに、黄色になっていた。

「あ、あの。色が変わったんですけど、これは?、」

村長に見せて尋ねると、

「それは波動を示す色だね。炎なら赤、水なら青、雷なら黄色、闇なら黒、光なら白になるよ。黄色ということは、君の波動は雷、ということだね。」

「そ、そうですか。・・・なるほど。」

正直よそ者の自分に波動が流れているか心配であったが、流れていたようだ。雷の波動ってことは、スピードと回避力が上がるのか、これは嬉しい。死なないためには、水か雷がいいと思っていた。

「武器も持ってみろ。」

アマンドが顎をクイッとしゃくりながらいうので、言われるがままに二本の刀に近づき、恐る恐る持ち上げてみる。

「――――ッッ意外と軽い!?いや、なんか、ほぼ重さがない?」

俺は、重いものを持ち上げるように勢いをつけたので、その違いに尻餅をつきそうになった。

アマンドが持っている大剣に比べたら細身の刀ではあるが、それにしても軽い。プラスチックですなんて落ちはないよな?冗談じゃないぞ。

アマンドと村長は俺の反応を見て顔を見合わせて不思議そうにしていたが、しびれを切らしたのか、アマンドが口を開く。

「鞘から抜いてみたらどうだ?」

俺はその言葉に従い、一本の刀を鞘から抜いてみる。

「え。」

「あ?、」

「そんなっ」

三人ほぼ同時に声を出す。

その刀は、柄、つばはあるのだが、その先にあるはずのものがなかった。


――――そう。この刀には、『刃』が無かった。





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