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"魔王は倒されたのだ……"
"六大英雄と呼ばれる強者達の手によって"

この世界はもう成すべきことが成された世界。

数百年前に出現した魔王はこの世界を破壊した。

そこに六人の英雄が立ち上がり魔王は難なく倒された。
それから、その六人の姿を見る事は無く……。
時が流れるほどに人々の間では魔王も、その英雄が存在したのか信じる者は少なくなっていた。

だが魔王が存在した痕跡は未だに残る。

それは魔物の存在だった。
魔物は魔王が生み出した獣で飢えからか人々を襲っていた。

人間達はその魔王の"置き土産"とも言うべき魔物達を狩るため冒険者ギルドを設立。

各地にいる魔物をランク1からランク10までランク付けし、また冒険者にもFからSまでのランク付けをすることで適正レベルの魔物を狩れるようにした。

そしてこの世界にはもう一つ"大きな力"が存在した。


____________



セルビルカ王国


ここは自然豊かで農作物が多く栽培される。
国の北の方に位置するが、気候が安定し暮らしやすく冒険者や商人に愛された。

王都から東に行ったところにカレアという町があった。

そこにもギルドがあり、いつも通り冒険者達が集まり自分に合った依頼を木材でできた掲示板から探す。
掲示板には多くの紙が貼られ、そこには依頼内容が書いてあった。

それをまじまじと見る1人の青年がいた。
青年はロングヘアの黒髪で、それを後ろで結っている。
白ワイシャツに黒いジーパン、その上からボロボロの布のマントを羽織っていた。
そして体格は華奢だった。

「パーティ必須……パーティ必須……どれもこれもパーティ必須……」

青年はぶつぶつと呪文のように小声で"パーティ必須"という言葉を繰り返した。
周囲にいる数人の冒険者は横目でその青年をジロジロと見る。
明らかに駆け出し冒険者というなりで、皆が笑いを堪えていた。

「これは参ったな……」

青年は頭を掻く。
すると青年の頭からフケが飛び、周囲に広がった。
嫌がった他の冒険者は掲示板から離れていく。

そこに青年に1人の女性が近づいた。
それはカウンターにいた女性だった。
流石に他の冒険者から苦情があったのだろう。

「あ、あのー、なにかお困りでしょうか?」

「え?」

青年が女性の方を見た。
女性は青年の容姿に顔を引き攣らせた。
顔は悪くは無いが、目の下にクマがあり、さらに痩せ細っていた。
もしかしたら今日、餓死でもしそうなレベルだった。

「何かお困りならご相談に乗りますが……」

「ああ、じゃあ、ソロの依頼とかは無いのでしょうか?パーティがいないもので……」

青年がそう言った瞬間、ギルド内で笑いが起きた。
青年が周りを見ると他の冒険者がニタニタと笑っている。

「あ、あの、このカレア周辺は魔物のレベルが少し高いので、依頼は全てパーティ必須ですよ」

「それは困ったな」

青年はため息をつき、また頭を掻いた。
女性はそれを見ると一歩後ずらりした。

「じゃあパーティ組みたいんですけど、どうしたらいいでしょうか?」 

「それなら、まずギルドに登録してもらって、それからパーティ募集の掲示板に貼り出すか、こちらからコンタクトを取るかになります」

女性の説明に頷く青年。
2人はカウンターへ向かった。

女性がカウンター側へ回ると、向かい合うようにして青年が立つ。

「ではお名前をお伺いします」

「僕?僕はクロード」

「クロードさん……クロード?」

女性が少し考え込んでいた。
するとハッと何かに気づいたようで興奮気味に語り出した。

「"クロード"って六大英雄の1人の名前ですね!私、あの物語が好きなんです!」

「あ……ああ、そうなんだよ……たまたま同じなのさ」

クロードは歯切れの悪い返事をした。
女性はニコニコとクロードを見ている。

「あっ!私はジェシカです!あとは"波動"のチェックですね!」

「"波動"のチェック?」

「"波動"は武具を操る面で必要となる力になります。武具にもランクがあって、高いランクのものを操るにはそれ相応の"波動"が必要になります。その数値をこの水晶で測ります」 

そう言うとジェシカはカウンターの下から拳ほどの大きさの水晶を取り出して置いた。

「へー懐かしい」

「え?」

「あ、いや、なんでもない」

「クロードさんは波動の詳しい説明などは必要ですか?」

「いや大丈夫だ。波動は熟知してる」

ジェシカはその言葉に驚く。
駆け出し冒険者が"波動"を熟知していることなどあり得るのであろうかと。

「では触れて下さい」

「……」

クロードは水晶に手を添える。
すると少し水晶が光ったと同時に、数字が浮かび上がってきた。

「3……?」

「ああ。3だな」

その瞬間だった。
ギルド内で大笑いが起こる。
完全にその場にいる冒険者全員が笑っていた。

「3?……3だと!聞いたことねぇ!そんなんで波動を熟知してるなんて笑えるぜ」

「どんだけ弱いんだよ!田舎に帰ったほうがいいぞ!」

「一桁台なんて珍しいにもほどがある!」

皆が言いたい放題だった。
クロードはキョトンとした顔で冒険者達を見ていた。

波動数値は100~800ほどが基準値だった。
それ以上になると珍しく、逆に、それ以下も珍しい。

「ク、クロードさん……もしかしたらパーティ見つからないかもしれないです……」

「え?」

「流石に基準値より低い冒険者は選ばれづらいですから……」

クロードはため息をつく。
そしてまた頭を掻き始めるとジェシカは少し後退りした。

「私がここで働き始めてから何年もなりますが、一桁台はクロードさんで2人目ですよ……」

「マジか。僕の他にもいるのか?一桁台が」

クロードは驚いた表情でジェシカを見る。

「ええ最近の来た駆け出しの冒険者です。もうすぐ薬草の採取依頼から帰ってくると思いますよ」

「そうか……」

するとすぐにギルドの入り口ドアが開かれた。
そこには赤髪で短髪、ボロボロの皮の鎧をみに纏った少年が息を切らして入ってきた。
その後ろからは白いローブを着たロングヘアで赤髪の少女がいた。
こちらも疲れ切った様子だ。

「ああ、ちょうど帰って来ましたね」

「ちなみに数値は?」

「え?ああ、彼の数値は"7"でしたよ」

その瞬間、クロードはニヤリと笑い、ガイという少年の元へ歩き出した。
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