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エターナル・マザー編

疑問

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雲空、雨がパラつく昼頃のこと。
メイアの寮の部屋を訪れたのはエリカだった。

昼休み返上で会いにきてくれたエリカに対して申し訳なさを感じつつも、少し嬉しかった。

2人はベッドに隣同士で座る。
暗い表情のメイアを察するようにエリカは優しい笑みを浮かべて口を開いた。

「大丈夫ですか?」

「ええ……ご迷惑をお掛けしました」

「迷惑なんてことはないですよ。あなたが来たことによってクラスの空気は変わりましたから」

メイアはそっと顔を上げ、隣座るエリカを見る。
その表情はとても柔らかい。

「自分たちよりも優秀な人間がいれば、自ずとその環境は引き締まります。あなたのおかげで、クラスは今そんな雰囲気にある」

「それはいいことなのでしょうか?」

「いいことですよ。私たち女子だけじゃない。クラウスにとってもね」

その言葉にメイアは眉を顰めた。
明らかにクラウスはメイアに対して悪い感情を抱いている。
エリカの言っていることの意味がわからなかった。

「私はクラウス君にとっては邪魔者だと思いますけど」

「それは違う。彼にとって、いつかは向き合わなければならない出来事が少し早くきてしまっただけのこと」

「どういう意味ですか?」

「彼の夢は王宮騎士なのです」

「……」

メイアは少し考えていた。
やはり何が言いたいのかわからない。
クラウスが王宮騎士を夢見ていることと、自分と関わりを持つことに何の関係があるというのだろうか?

「王宮騎士は市民から信頼され、悪人が逃げ出すほどの実力が必要。そしてなによりも仲間との意思疎通は最も大事なことです。それが事件解決への近道ですからね」

「ああ……なるほど」

「クラウスには多くのものが欠けている。それを学ばせるために、彼の両親はアカデミアに入れたんです」

「エリカさんはクラウス君の家柄と関係が?」

「遠い親戚ですよ。彼の両親とはよく食事をします。この前、王都であったパーティーでこの話を聞いたんです」

「そうなんですか……でもクラウス君の家柄は高位ですよね?この学校で彼をたしなめることができる人はいないのでは?」

「そんなことはありません。さっきエメラルド学長からこっぴどく怒られていましたよ」

エリカはクスクスと笑いながら答える。
メイアが最初に会話した時に、エメラルドという人物は格差によって差別はしない人間だと思っていたが実際にそうだったようだ。

「だからもう大丈夫ですよ。午後の授業は一緒出ましょう。波動の使い方、教えて下さい」

そのエリカの笑顔にメイアは涙した。
ここまで胸の奥で暖かさを感じたのはいつ以来だろうか。
メイアも笑みをこぼし頷いた。

2人は一緒にメイアの部屋を出た。
雨のせいか湿気が鼻をつくが嫌な感じはせず、むしろ心地いいと感じるほどだった。

2人が向かう先は教室だ。
少し不安は残るがエリカが一緒にいてくれるというだけで心強し、女子グループも全員メイアの味方であることは言うまでもない。
それを思うだけでメイアの足取りは少し軽くなった気がした。


ちょうど寮から学校に入る境目のあたりで、メイアはある人物見かける。

実技講師のハリスだった。

ハリスは眠そうにあくびをしながら、メイアたちの教室とは逆方向に歩いて行くのが見える。

「あ、エリカさん、先に行ってもらえますか?少しハリス先生に質問があって」

「え?ええ、いいですよ。教室で待っていますね」

笑顔でそう答えるエリカと別れ、メイアは小走りにハリスのもとへと向かう。
よほど眠いのか背後の気配に気づかないハリスだったが、距離が数メートルというところでようやくメイアの足音に気づいて振り向いた。

「ハリス先生」

「ん?おお、優等生じゃないか。どうした?」

「ちょっと個人的に質問がありまして」

「俺より君の方が知ってそうだがね。まぁいい。質問とは?」

「この学校の波動の教学書に書かれていることです。……いえ、厳密に言えばです」

ハリスは険しい表情をした。
恐らく、この後の"質問"というのがわかっているのだろう。

「なぜ、この学校の教科書には波動の基礎になる"三工程"が書かれていないのですか?」

「……やはり、それか」

メイアは一晩で、この学校の教科書の全てを読み切った。
そして一番の疑問点がここだ。
波動連続展開については少しだけ書かれていた。
だが詳細は避けられ、"こんなこともできる可能性がある"くらいにしか書かれていなかった。

最も高難度なことは書かれているのに対して、それを発動するために必要な……いや、それ以前に波動自体を発動するために必要なことが書かれていない。
それがどうしても納得できなかったのだ。

「どうして書かれていないのでしょうか?先生は私の波動を見た時に"最初の三工程のスピードがずば抜けてる"と言いました。つまり先生は三工程を知っている。でも教科書に書かれていない。これは何か意図があるのでしょうか?」

「……メイアとか言ったな」

「ええ」

「あまり勘繰らない方が身のためかもしれないぞ」

「どう言う意味でしょうか?」

「俺の前の講師が同じことで学校側に対して問いただした。だが結局、何も解答は得られなかったようだ。その後に原因は不明だが、彼女は死んでるからな」

「彼女……とは?」

「第一騎士団副団長のゼニア・スペルシオだよ」

メイアは絶句する。
それはフィラルクスの事件でメリル・ヴォルヴエッジに殺されたローラの姉の名だった。

だが、その事件の真相はクロードによって明らかにされている。

メイアは思考した。
何かもっと深い部分にゼニアの死の真相があるのだとしたら……
そう考えるとメイアは背筋が凍るような感覚に襲われた。
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