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エターナル・マザー編

赤眼

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闘技大会の決勝、中堅戦。

ナイト・ガイからはリーダーであるガイ。
ブラック・ラビットからはレイが出る。

向かい合う2人に大きな歓声が沸いた。

ガイは布の服の上に黒い皮の胸当てを着用し、ブラウンのレザーパンツを穿く。
両腰、背中、両太もも、両ふくらはぎにダガーを2本ずつ、さらに左上腕に1本身につけていた。

一方、レイはローブを着用し、大きめの杖を1本だけ持つ。
目に見えている武器はこの杖だけだが、一昨日の戦闘の噂を聞くに、さらに4本の武具を所持している。

ガイは眉を顰める。
それはレイの殺気の無さが気になったからだった。
ステージ下にいる赤髪の男とは全く違う。
ある意味で異質な存在。

レイはただ笑みを浮かべてガイを見ているだけだ。

そこに審判が間に入り、ルールの説明をし始める。
何度も聞いた話であったので、全く耳に入ってこない。
その説明が終わると同時くらいにレイが口を開いた。

「久しぶりだね。まさか決勝であたるなんて」

「俺も驚いたぜ」

「少し気になったんだが、彼女のことは好きかい?」

レイはそう言って視線を逸らす。
その視線の方向が気になったガイは振り向いた。
レイが見ていたのはローラだった。

ステージ下のローラは突然のことに心臓が跳ねる。
それは見つめられたことによってのことでだった。
ローラには2人が何を話しているのかまでは聞こえない。

「好きじゃねぇよ」

「そう。ならよかった」

「どう言う意味だよ」

「いや、今日の夜に食事に誘ったんだ。近づきになりたくてさ」

その言葉に自分でも不思議なほど動揺した。
怒りなのか、悲しみなのか、よくわからない感情で興奮するのがわかる。
ガイはそんな自分の感情に困惑した。

「……行くって言ったのか?」

「いや、返事は聞いてない。だけど彼女は来る。理論も理屈もない、ただの勘だけどね」

それだけ言うとレイは審判に促される前に後ろへと下がる。
ガイから目を逸らすことなく、笑みも崩さない。
ガイも後方へと下がるが、よくわからない感情のせいで体が震えていた。

なぜ、こんなに緊張している?
そもそもこれは緊張なのだろうか?

様々な思考が巡る中、審判が両手をあげて開始合図の準備に入る。

そして、その時はきた。

「決勝、中堅戦、始め!!」

審判が両手を振り下げると同時に前に出たのはレイだった。
凄まじい力で地面を蹴って、瞬時にガイとの距離を縮める。

一瞬、出遅れたガイも地面を蹴ってダッシュした。
左腰のダガーのグリップを強く握る。

そしてステージ中央付近。
お互いが攻撃の間合いに入った。

ガイは左腰のダガーを引き抜きと同時に横へ抜剣。
鋭い一線がレイの胸付近へと伸びる。
……が、レイは片手持ちの杖でガードしてダガーを上方向へと受け流す。
バンザイする形で無防備になるガイ。
そこに、もう一歩踏み込んだレイはガイの胸目掛けて掌底を放つ。

ドン!と鈍い音は直撃を意味していた。

「がはぁ!!」

たった一撃だがガイの意識は遠のいた。
これは明らかに遠距離型の打撃ではない。
洗練されたインファイターの攻撃だ。

「だが……なんという固さだ……」

レイは目を細めた。
今までにない感触が手に伝わる。

ステージ下にいた赤髪の男は一瞬でガイの特殊能力を理解した。

「ほう。闘気をあそこまで繊細に操る人間がこの時代にいるとは……考えを改めなければならんようだ」

それは赤髪の男がガイに対して最初に抱いた感情だった。

"こいつはすぐ死ぬ"

そう思っていた。
だが、闘気を操れるとなると話は別。
波動と違って全ての人間が平等に使えるわけではない。
限られた武人に許された特権能力なのだ。

「だが……その程度だとレイには絶対に勝てないがな」

赤髪の男はそう言ってサングラスの真ん中を人差し指で押し上げた。

ステージ上ではガイが後方に吹き飛ぶ。
レイはそれをさらに追うかたちでダッシュした。

ガイは空中にいた。
地面スレスレ、着地寸前のこと。
右手にはダガーを持ったまま、左手を背中に伸ばした瞬間、それを猛スピードで振り下ろす。

ビュン!と音を立てて"何か"がレイの方向へと飛び、同時に着地。
ガイは着地の瞬間、地面を蹴って前へ出る。

レイの方向に飛んだのはダガーだ。
グルグルと高速回転して迫るダガー。
すぐさま反応したレイは持っていた杖を大きく左の方へ横振りしてダガーを弾き飛ばす。

「マズイ!!」

レイは自分の行動に判断ミスがあることに気づいた。
恐らく飛ばしたダガーでのダメージは期待していない。
今のダガーの役割は"杖を大振りさせる"とこにあるのだと。

ほぼ時間差がなくガイがレイの目の前に着く。
ダガーを両手持ちし突き刺すように突進してきたのだ。

極めてシンプルな直線攻撃ではあるが、この鋭い猛攻の前にはダメージは避けられない。

レイがとった行動は右腕によるアームガードだった。
もちろん右腕には鉄甲などの装備は一切していない。
ダガーによる突き攻撃はレイの腕を貫き、橈骨と尺骨の間に食い込む。

「くっ!!」

レイの表情が少し歪む。
さらなる追撃のためガイは刺さったダガーを引き抜こうとした。

「な、なんだ、これ!!」

ダガーは引き抜けなかった。
あまりの腕の筋肉の伸縮による強さなのかびくとも動かない。

レイは振り抜かれた杖から手を離し、地面に落とす。
そして杖を持っていた腕を一気に前に突き出して、ガイの顔面へ向けて掌底。
これも完全に直撃して鈍い音を上げて吹き飛ぶ。

レイは後方に落ちた杖をカカトで蹴り上げて引き戻した手に納めた。

数百メートルは地面を転がるガイを見つめるレイ。
その後、ダガーの刺さった腕を見る。

「私がダメージを被るとは……油断したな」

そう言って、果たしてダガーを引き抜いている時間はあるのかを思考する。
ガイの方を見るに立ち上がる様子はない。

「立ち上がるなよ」

レイは呟く……が、その淡い期待は崩れ去る。

審判も観客も、もう終わりかと思った時、ガイは地面に両手をついて起き上がった。

しかし、その姿は満身創痍まんしんそうい
膝はガクつき、立っているのもやっとのようで、俯いたままだ。

それを見かねたレイは言った。

「降参した方がいいのでは?」

「……」

ガイはゆっくりと顔を上げる。
その瞳はレイの方ではなく、レイの頭上を見ていた。
目を細めて首を傾げている。

「頭がおかしくなったか?」

レイは困惑していた。
彼の視線の先は何もない空だ。

「仕方ない。倒すしかないか」

そう言ってレイが一歩を踏み出そうとした瞬間、ガイの視線がレイへ向けられた。
不思議にも眼の色が少しだけだが赤く発光しているように見える。

「なんだ……何が見えてる?」

「モヤモヤしたものが……先に動いてる……」

ガイが発言するとステージ下にいる赤髪の男がその意味に気づき、すぐさま叫んだ。

「レイ!!そいつは"闘気"が見えてるぞ!!」

「え?」

レイが赤髪の男を見るため振り向く。
それと同時にドン!!という轟音が鳴った。
音の方向を見返すレイはハッとする。

ガイが一瞬にしてレイとの距離を縮めていたのだ。
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