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さぁ、調合を始めようか。5
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~冒険者ギルドの寮~
荷物を抱えて帰宅してきたシヴィーとジェイクだったが、目の前広がるポーションの空き瓶の山に沈黙してしまっていた。何もわからないジェイクは、シヴィーが何もしゃべらないので合わせているのだろうが、机の上にちょっと転がってる程度を想像していたシヴィーは、足場がないほど転がっている空き瓶の量には何も言えないでいたのだ。
「「…………」」
何かを言いたい。だが、何も言えない。
すやすやと眠るリリーとリーネの姿を捉えてはいたのだが、シヴィーは見なかったことにして二階へと足を向けることにした。ジェイクもそれに続き、シヴィーに先導されながらもよろりよろりと階段を上っていた。上り終えてすぐ隣に見える扉の先がシヴィーの部屋となっていて、内装は用意されていた物以外に、運び込まれた調合道具が少しある程度であった。
部屋の隅に薬草の詰まった木箱を置き、ポットを用意する。
それだけの作業であるが、これらの単純作業も調合だ。気を抜くことなく黙々と準備を進めるシヴィーをなぜか正座して眺めているジェイク。記憶がなくなる前であっても調合たるものを見たことがないジェイクにとって、これは初めての人生で見る初めての仕事なのだ。
特に会話と言ったものはなかったのだが、シヴィーが取ろうとしたものにいち早くジェイクが手を伸ばし、助手として行動をしていた。もしかしたら、リリーよりもジェイクを調合師として育てたほうが、今後の活動に大きく影響をするのではないか、と、シヴィーは頭の隅で考えているくらいだ。
「よし、まずは薬草がどれくらいいい物か検証だな」
「俺は、なにをすればいいすか?」
「あーそうだな、一階にあった木箱の山から未使用の空き瓶を取ってきてくれ」
こくりと頷いたジェイクが、空き瓶を持ってくるまでの間。シヴィーは別の工程を急がせた。
小さな鉄製の作業台を用意し、その上に買ってきた薬草の葉をいくつか広げる。
萎凋と呼ばれる工程の準備だ。
萎凋とは、簡単に言ってしまうと水分を軽く飛ばしてしおれさせるだけの工程である。
他にもいくつか工程があるのだが、簡易の物となるとこの程度のことしかできない。しかし、この工程が完了すれば別の工程へと移行でき、萎凋を終えただけでも使用することが可能なのだ。そして、それらを部屋の隅へと移動させてしばらく放置する。他にもやれることはないかと探している時に、ジェイクが空き瓶を持って部屋へと戻ってきた。
「これくらいで足りるっすか?」
「1、2本で良かったんだぞ? まぁ、あるだけ作っとくか」
数えるだけで6本はある。何本持ってこいとは言っていなかったため、これはこれで仕方がないことだ。次に水を用意しなければならないのだが、
「アルのやつ、いつもどこから水汲んでんだ?」
「アル? 知り合いっすか?」
「ここに住んでる調合師だ。朝方会ったはずだろ」
「えーっと、あの自分大好きな感じの……」
否定できなかった。
仕方がないので、大通りに買い出しに戻ろうとしたふたりだったのだが、ちょうどタイミングよくアルティミスが帰宅してきた。それにおまけして、レイラとマスターも一緒だ。
「あぁー、なんかもう疲れた」
「初仕事だもの、疲れて当然よ! それよりも、なかなか好評でよかったわぁ──私の服」
「私じゃなくて服なのね……」
「ふふ、僕には! マスターから頂いたこの服があるからな!」
いつぞやのセーターだった。
あの後、剥がされたまま帰らせるのはいささか問題があったようで、気を利かせたマスターが悔しそうにセーターを渡したのだ。だが、アルティミスにもこのセーターを着させるとは……恐るべしマスター。
お疲れムードの一同。であるが、無数に転がる空き瓶の量を見てぎょっとしている。しかし、若干1名は目を白黒させながらブリッチしていた。
「アァァァァァァ!? 僕の! 僕のポォォォションが!?」
「「…………」」
流石のふたりでもどう反応すればいいのかわからず、真顔のままその勇姿を見ていた。そこに、シヴィーとジェイクが混ざり、ここに至るまでの経緯はわからないが、調合をするのに水が必要なことを伝えると、
「それなら、裏にある井戸に雨水が溜まってると思うわ」
マスターが場所を教えてくれた。
海岸に面しているこの街では、水が湧くはずもなく、それらを支えているのが雨水だ。そして、各家にひとつはある井戸は、深めに掘られていて雨水を多く溜める為だけに作られている。シヴィーは、宿を長い間借りていたためにそのことを知らず、井戸で汲んでいれば水代が浮いていたかもしれないと悔やんでいた。
寝ていたふたりが起きるころには空は赤く染まっていた。ポーションの在庫のほとんどがなくなったことに説教をされるアルティミスと、のんびりとソファーでくつろぐレイラ。それぞれが適当な時間を過ごしていたのだが、気まずそうなリリーは経緯とリーネのことを説明し、なぜかアルティミスと一緒に土下座していた。ほんと、このふたりは気が合うのかもしれない。
四捨五入して24歳ということに誰も突っ込まなかったのだが、アルティミスだけが「どこの位を四捨五入したんだ」と心底不思議そうにつぶやいていた。
しばらくして、若干しおれた薬草を調合することとなり、一同揃ってシヴィーの作業に注目していた。
冒険者ギルドであれだけの効果を持つ調合師の仕事ぶりを見れる。内心わくわくしながら見ているマスターと、その横で指を咥えて目を輝かせるリーネ。そして、初めて見るシヴィーの調合を興味津々に眺めるレイラとリリー。
アルティミスは手伝おうと立候補したのだが、そこはジェイクが丁重にお断りしてくれていた。
そして、
「水出しっていう方法で作ってみたんだが」
水出し、それは冷たい水でエキスを抽出する方法だ。しかし、水出しの場合は1:1で水を足さなくてもいいのだ。もともと多めの水に少量の薬草を使用する方法で、薬草1枚に対して水は1:100の分量なので分配されている状態でポットから出てくる。それによって、時短などをする調合師が多いのだが、これはあくまで検証ということでポーションとしての効果は極めて薄いものだ。
「ちょうど6本あるし、みんなで分ければいいわよね」
「シヴィーちゃんに、レイラでしょ? 私に、リーネちゃんとリリーちゃん、あとジェイクね!」
「え、あれ? 僕の! ポーションがないのだが、手違いかな?」
「おめぇは同じ調合師だからなしだ」
「あんた、水でも飲んでれば?」
「アルティミスさん、さっき汲んできた水ですがどうぞ」
「なんなんだよ!? 君たち会った時からなんなんだよ!? 僕が何かしたのか──」
結局、アルティミスは水を、他の全員はシヴィーの水出しポーションを飲んだ。他のポーションよりも、苦みが抑えられていて口当たりがいいというレイラからの評価が得られ、リーネからは寝る前に飲んだポーションよりもぐっと来ると言われた。マスターとリリーとジェイクには違いがよくわからない様子で、ただただ薄い苦みのある水としか認識されなかった。
「んぐ、んぐ。おぉ、こいつはいい! あの店にはしばらく世話になりそうだな!」
こうして、『いい薬草』を見つけることができたシヴィー。嬉しそうに笑って見せるシヴィーに一同もまた、それを応援するかのように笑ったのだった。
荷物を抱えて帰宅してきたシヴィーとジェイクだったが、目の前広がるポーションの空き瓶の山に沈黙してしまっていた。何もわからないジェイクは、シヴィーが何もしゃべらないので合わせているのだろうが、机の上にちょっと転がってる程度を想像していたシヴィーは、足場がないほど転がっている空き瓶の量には何も言えないでいたのだ。
「「…………」」
何かを言いたい。だが、何も言えない。
すやすやと眠るリリーとリーネの姿を捉えてはいたのだが、シヴィーは見なかったことにして二階へと足を向けることにした。ジェイクもそれに続き、シヴィーに先導されながらもよろりよろりと階段を上っていた。上り終えてすぐ隣に見える扉の先がシヴィーの部屋となっていて、内装は用意されていた物以外に、運び込まれた調合道具が少しある程度であった。
部屋の隅に薬草の詰まった木箱を置き、ポットを用意する。
それだけの作業であるが、これらの単純作業も調合だ。気を抜くことなく黙々と準備を進めるシヴィーをなぜか正座して眺めているジェイク。記憶がなくなる前であっても調合たるものを見たことがないジェイクにとって、これは初めての人生で見る初めての仕事なのだ。
特に会話と言ったものはなかったのだが、シヴィーが取ろうとしたものにいち早くジェイクが手を伸ばし、助手として行動をしていた。もしかしたら、リリーよりもジェイクを調合師として育てたほうが、今後の活動に大きく影響をするのではないか、と、シヴィーは頭の隅で考えているくらいだ。
「よし、まずは薬草がどれくらいいい物か検証だな」
「俺は、なにをすればいいすか?」
「あーそうだな、一階にあった木箱の山から未使用の空き瓶を取ってきてくれ」
こくりと頷いたジェイクが、空き瓶を持ってくるまでの間。シヴィーは別の工程を急がせた。
小さな鉄製の作業台を用意し、その上に買ってきた薬草の葉をいくつか広げる。
萎凋と呼ばれる工程の準備だ。
萎凋とは、簡単に言ってしまうと水分を軽く飛ばしてしおれさせるだけの工程である。
他にもいくつか工程があるのだが、簡易の物となるとこの程度のことしかできない。しかし、この工程が完了すれば別の工程へと移行でき、萎凋を終えただけでも使用することが可能なのだ。そして、それらを部屋の隅へと移動させてしばらく放置する。他にもやれることはないかと探している時に、ジェイクが空き瓶を持って部屋へと戻ってきた。
「これくらいで足りるっすか?」
「1、2本で良かったんだぞ? まぁ、あるだけ作っとくか」
数えるだけで6本はある。何本持ってこいとは言っていなかったため、これはこれで仕方がないことだ。次に水を用意しなければならないのだが、
「アルのやつ、いつもどこから水汲んでんだ?」
「アル? 知り合いっすか?」
「ここに住んでる調合師だ。朝方会ったはずだろ」
「えーっと、あの自分大好きな感じの……」
否定できなかった。
仕方がないので、大通りに買い出しに戻ろうとしたふたりだったのだが、ちょうどタイミングよくアルティミスが帰宅してきた。それにおまけして、レイラとマスターも一緒だ。
「あぁー、なんかもう疲れた」
「初仕事だもの、疲れて当然よ! それよりも、なかなか好評でよかったわぁ──私の服」
「私じゃなくて服なのね……」
「ふふ、僕には! マスターから頂いたこの服があるからな!」
いつぞやのセーターだった。
あの後、剥がされたまま帰らせるのはいささか問題があったようで、気を利かせたマスターが悔しそうにセーターを渡したのだ。だが、アルティミスにもこのセーターを着させるとは……恐るべしマスター。
お疲れムードの一同。であるが、無数に転がる空き瓶の量を見てぎょっとしている。しかし、若干1名は目を白黒させながらブリッチしていた。
「アァァァァァァ!? 僕の! 僕のポォォォションが!?」
「「…………」」
流石のふたりでもどう反応すればいいのかわからず、真顔のままその勇姿を見ていた。そこに、シヴィーとジェイクが混ざり、ここに至るまでの経緯はわからないが、調合をするのに水が必要なことを伝えると、
「それなら、裏にある井戸に雨水が溜まってると思うわ」
マスターが場所を教えてくれた。
海岸に面しているこの街では、水が湧くはずもなく、それらを支えているのが雨水だ。そして、各家にひとつはある井戸は、深めに掘られていて雨水を多く溜める為だけに作られている。シヴィーは、宿を長い間借りていたためにそのことを知らず、井戸で汲んでいれば水代が浮いていたかもしれないと悔やんでいた。
寝ていたふたりが起きるころには空は赤く染まっていた。ポーションの在庫のほとんどがなくなったことに説教をされるアルティミスと、のんびりとソファーでくつろぐレイラ。それぞれが適当な時間を過ごしていたのだが、気まずそうなリリーは経緯とリーネのことを説明し、なぜかアルティミスと一緒に土下座していた。ほんと、このふたりは気が合うのかもしれない。
四捨五入して24歳ということに誰も突っ込まなかったのだが、アルティミスだけが「どこの位を四捨五入したんだ」と心底不思議そうにつぶやいていた。
しばらくして、若干しおれた薬草を調合することとなり、一同揃ってシヴィーの作業に注目していた。
冒険者ギルドであれだけの効果を持つ調合師の仕事ぶりを見れる。内心わくわくしながら見ているマスターと、その横で指を咥えて目を輝かせるリーネ。そして、初めて見るシヴィーの調合を興味津々に眺めるレイラとリリー。
アルティミスは手伝おうと立候補したのだが、そこはジェイクが丁重にお断りしてくれていた。
そして、
「水出しっていう方法で作ってみたんだが」
水出し、それは冷たい水でエキスを抽出する方法だ。しかし、水出しの場合は1:1で水を足さなくてもいいのだ。もともと多めの水に少量の薬草を使用する方法で、薬草1枚に対して水は1:100の分量なので分配されている状態でポットから出てくる。それによって、時短などをする調合師が多いのだが、これはあくまで検証ということでポーションとしての効果は極めて薄いものだ。
「ちょうど6本あるし、みんなで分ければいいわよね」
「シヴィーちゃんに、レイラでしょ? 私に、リーネちゃんとリリーちゃん、あとジェイクね!」
「え、あれ? 僕の! ポーションがないのだが、手違いかな?」
「おめぇは同じ調合師だからなしだ」
「あんた、水でも飲んでれば?」
「アルティミスさん、さっき汲んできた水ですがどうぞ」
「なんなんだよ!? 君たち会った時からなんなんだよ!? 僕が何かしたのか──」
結局、アルティミスは水を、他の全員はシヴィーの水出しポーションを飲んだ。他のポーションよりも、苦みが抑えられていて口当たりがいいというレイラからの評価が得られ、リーネからは寝る前に飲んだポーションよりもぐっと来ると言われた。マスターとリリーとジェイクには違いがよくわからない様子で、ただただ薄い苦みのある水としか認識されなかった。
「んぐ、んぐ。おぉ、こいつはいい! あの店にはしばらく世話になりそうだな!」
こうして、『いい薬草』を見つけることができたシヴィー。嬉しそうに笑って見せるシヴィーに一同もまた、それを応援するかのように笑ったのだった。
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