夢にまで見たあの世界へ ~女性にしか魔法が使えない世界で、女神の力を借りて使えるようになった少年の物語~

ゆめびと

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2話「魔法の修行は朝日とともに」

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 チュンチュン...。
 早朝、まだ日が昇ってない時間。
 鳥たちは餌を求め今日も出かける。

「ん...あぁ...もう朝か...。」

 大きなあくびをしながら、起床したニケ。

「って...あれ?」

 見慣れぬ、天井...。
 あぁそうか、異世界に来たんだった。

「朝から、魔法の修行だっけ?」

 大きな扉を開け、通路を抜けた。

「お、やっとお目覚めか?」

 昨晩家に入ったときに、見かけた広々としたリビングに、ミーチェはいた。

「やっとって言われても、まだ日は昇ってないぞ?」

「そうであったな、先に顔を洗ってくるがよい」

 食事の支度をしながら、母のようなことを言うミーチェに対して、どこか安心感を抱いた。

「どこで、洗えばいいんだ?まだ場所がわからないんだ」

「お主の部屋に続く通路の反対側に、扉があるであろう?そこから外に出れる、出てすぐのところに井戸があるから。自分で、水を汲んで洗うがよい」

「わかった」

 えーっと俺の部屋の、反対側の扉...。
 ニケは、大きな扉を開け、外に出た。
 まだ朝日は昇っておらず、あたりは霧に包まれていた。
 ミーチェの言った通り、出てすぐのところに井戸があった。

「こういう井戸って、どうやるんだっけ」

 井戸の隅に、縄に繋がれた木のバケツがあった。

「確かこれを、井戸に入れて引きずりあげるんだっけ」

 井戸の中に、バケツを放り込んだ。
 ちゃぽんと、水に落ちた音がした

「お、あとは引き上げるだけか」

 ニケは、縄を引っ張り木のバケツの中に水があるのを、確認した。

「にしても、水道とかないってのは不便だけど、これはこれでありかなぁ、なんか楽しいかもしれない、めんどくさいけど」

 顔も洗ったことだし、相棒を呼び出すかな。

「サモン、シロ!」

 目の前に、魔方陣が現れる。
 光とともに、俺の相棒シロが出てきた。

「おはよう、シロ」

 『シロ』は、眠そうにあくびをしている。

「俺だって眠いんだ、いきなりあくびするなよ」

 呆れ混じりに言うと、シロは、首をかしげた。

「いや、なんでもない」

 ニケは、そういいながらシロの頭を撫でた。

「んーシロ、一回立ち上がってみろ」

 そう言うとシロは、立ち上がって万歳のポーズをとった。

「なんで、万歳してるの」

 ニケは、笑いながらもシロに、身長で負けてることに気がついた。

「やっぱシロ、でかいよね...俺これでも170あるのに」

 シロは、立ち上がったまま首をかしげた。

「言葉は、あまり通じないのかな?」

 これから覚えてくれるのかな。

「あ、顔洗ったから師匠のところに戻らないと。行くよ、シロ」

 シロは、小さく咆えた。
 扉を開けて、シロを中に入れた。
 通路は2、3人は並んで通れるほど広いので、シロが変に尻尾を振らなければ問題ないだろう。
 家に入って通路を抜け左手に、リビングがある
 そこでミーチェは、朝食を食べていた。

「師匠戻りました」

 先に食べ終えたミーチェは、木でできた皿を持って立ち上がったところだった。

「朝食ができているから、食べるがよい。あと、家の中であまりウロチョロさせるでないぞ?やたらとでかいのだから、邪魔でしょうがない」

「はーい」

 ニケは、シロに『お座り』するよう命じた。
 シロは、ニケの隣に来るとちょこんとお座りをした
 『お座り』は理解できるようだ。
 机の上にはきのこのスープとパンがあった。

「朝は、お米がいい!」

「米?麦のことか?」

「お米が、ないだと...」

 異世界には米はないのか...

「米は、聞いたことがないな、麦はあるが」

 日本男児ならわかるはずだ、朝はお米がいいと...!

「まぁ、食べれるだけいいか」

「それが一番だ、大地の恵みに感謝しながら、食べるがよい」

「あいよ、んじゃいただきます」

 きのこのスープは、思ったより味が薄かった。
 パンは、生地が硬くまるで小さいフランスパンだ...。

「師匠、朝から修練するって、言ってたけど。具体的になにをやればいいんだ?」

 修練、といっても何をすればいいのかわからない。

「そうだな、まず魔法使いの初歩の初歩、『瞑想』からかな」

「めいそー?」

「うむ、『精神統一』とも言うな」

 『瞑想』って、座禅組んでやるあれか...あれなのか!
 少しでも動いたら、肩たたかれるんだっけ...?

「魔法使いは、己の力量...すなわち魔力の状態を確認するために『瞑想』を行なうのだ」

「具体的に、どうやってやるんだ?」

 わからないことは、聞くに限る。
 そう思い、気になったことは聞くようにしている。

「やりかたは人それぞれだ、立ったまま自分の魔力を、確認する者もいれば、座って集中するものもいる、どちらかといえば前者が多いな」

「俺の知ってる、魔法の『瞑想』って魔力を回復させたりするものなんだが、それとはまた違うのか?」

「『瞑想』は、自分の魔力を確かめる他、精神を落ち着かせ魔力を回復することでもあるから。その認識は、あながち間違ってはおらぬ」

 どうやら、現実世界での知識はちょっと役立ったようだ。

「さぁ、食べ終わったなら皿を片付けて、着替えて外に出て待ってるがよい」

 皿を洗いながら話しかけてくるミーチェ。

「え、着替えなんて俺持ってないぞ?」

 着替えなんて持っているはずがない。
 気がついたら森で寝ていたのだから。

「お主の部屋に、タンスがあったであろう、あの中にいくつか古着があったはずだ」

「それって、師匠の古着ってことか?」

「違う、ここに前住んでいた異能力者の物だ。彼もまた、召還術を使えたから、なにかしら召還術に役立つ効果のある服があるかもしれん。そこは自分の目で、確かめるんだな」

「わかった」

 ニケは、そういうとシロと一緒に自分の部屋へと戻っていった。
 その背中を見ながらミーチェは、つぶやいた。

「召還術と錬金術を使える、男...か、ついでに魔法も使えるとなると、その力欲しさにあやつは、何者かに利用されてしまうかもしれないな」

 ニケに聞こえないような、小さな声でミーチェはささやいた。

「独り言とは、私も歳かな。ふふふ」

 そういうとミーチェは、自分の部屋に戻っていった。
 ...部屋に戻ったニケは、ベットでごろごろするシロを見ながら、ため息をついていた。
 タンスの中にあったのはどれも薄着でひらひらしているものだった...。
 その中でニケは、白いワンピースのような青と黄色で雰囲気のあるものを取った。

「これもう、スカートじゃん...?」

 シロは、ベットの上でご主人様着替えを興味深そうに見ていた。

「あ、あんまじろじろみるな、シロ!」

 シロは、プイっとそっぽを向いた。

「まぁ、ジーパンと半袖のヒートテックよりましかな...支給品が、これだけってのもなんだかあれだな」

 服の他に、『装飾品』――指輪やらネックレスなどが入っていた。

「この指輪の宝石って、エメラルドだったりするのかな?」

 タンスの中に入っていた指輪を、手に取り窓から差し込む日差しに照らしてみた。
 ん?日差し?

「あ、やっべ早く外でないと」

 急いで服を着替え、手に持っていた指輪はそのまま胸ポケットの中に仕舞った。
 あとで、師匠に聞けばいっか。

「シロ、行くよ!」

 のっそりと起き上がったシロが、後ろからついてくる。
 通路を抜け、リビングを横切り玄関についてから気がついた。

「あれ、靴がない...」

 シロが、足を舐めてきた。

「シロ、今それどころじゃ...あ、履いてたのね」

 いつもは、玄関で靴を脱いでたので癖で探してしまったようだ。
 玄関の扉を開け、外に出た。

「師匠はどこだろう」

 見渡すが、開けた土地にミーチェの姿はなかった。

「まだ、きてなかったのか」

 慣れない服を着たので、落ち着かない。
 なんで、ワンピースなのだろうか。

「よく、似合ってるじゃないか」

 笑い混じりにミーチェが、声をかけた。

「似合ってる?どこ見て言ってるんだ、これじゃ女と同じ服装じゃないか」

 くるりと回って、服を見せてるが絶対に似合ってないだろこれ。

「仕方がないだろう、女にしか魔法は、使えないのだから。魔力が練られてる服装は、女物しかない」

「そ、それなら仕方がないが...あ、そうだ師匠。タンスの中に指輪があったんだけど、これって、魔力的な効果あるかな?」

 先ほど、タンスで見つけた指輪を見せるニケ。
 ミーチェは、じっとその指輪を見つめた。

「これの指輪は『守護の刻印』がされておるな」

「守護の...なんだって?」

 聞きなれない言葉ばっかりだ。

「『守護の刻印』――身に着けた者の、防御力があがる魔法が彫られておる」

「防御力か、ないよりはマシってことだろ?」

「まぁそうだな、使わないからタンスの中にあったのだ、自由に使うがよい」

 『守護の刻印』――か、やっぱ異世界って感じだな、と思いながら指輪をはめるニケ

「さて、『瞑想』だが、まずは普通に立ってみろ。腕など組まず深呼吸するように」

 深呼吸する感じか。
 ニケは、少し足を広げた。

「そうだ、それの状態から身体に流れる魔力を感じ取るのだ」

「昨日やった、魔力の脈を感じればいいんだな?」

「そうだ、どこにも意識せず、脈を感じれれば良い」

 昨日感じた、あの感覚を...。
 身体の中を、うごめく血液以外のもうひとつの脈。
 血液と違って、身体全体にいきわたる力のようなものを感じた。

「たぶん、わかったと思う」

「次に、今感じた魔力を背中に集中させるのだ」

「せ、背中!?」

 毎度毎度、どこに意識しろとか言われるのだが、流石に背中は驚いた。

「いいから、やってみろ」

 背中に集中させるなんて、どうやればいいんだよ...
 意識を背中に集中させはじめると、身体全体に行き渡っていた力のようなものが、背中に集まり始めた。

「こ、これでいいのか?」

「あぁ、初めてにしては、上出来だ」

 上出来だと、いわれると結構嬉しいものだ。
 褒めて成長させるのもまた、ミーチェの考えなのだろうか。

「ここから、どうすれば」

「今の状態を維持するのだ、さすれば魔力は、回復を始めるはずだ」

 今の状態を、維持っと。
 しばらくすると、背中に集まった魔力が大きくなっていくのを感じた。

「師匠、魔力が大きくなってる気がする」

「それが魔力の回復だ、その感覚を覚えておけ。魔法使いは、魔力を使いすぎて魔力が尽きたとき失神したり、立てなくなったりする」

「魔力切れは、ダウン状態になると」

 魔力が、なくならないように『瞑想』しながら魔法を使え、ってことか?
 これは、早く慣れたほうがよさそうだな。

「それぐらいで良いだろう、背中から意識を離してみろ」

 意識していた背中から、魔力がまた身体全体に行き渡るのを感じる。

「さっきより、身体が軽い気がする」

「それが魔力の力だ、もともと魔法が使えない身体から、使える身体になったからそう感じると思うが。私たち、魔法使いにとっては、これは生まれながらの体質みたいなものだ、じきに慣れる」

「そういうものなのか、さっきと身体の感覚が違うから、違和感を感じるよ」

 肩をまわしながら、ニケはそう言った。
 確かに身体は軽くなった、まるで筋肉痛が治った次の日くらい身体の感覚が違うのだ。

「さてと、『魔法』を習得するに当たって、まず『詠唱』の種類から覚えなければならない」

「詠唱の種類?」

「そうだ、お主のいた世界では、何種類くらい詠唱の方法があった?」

 方法?...ゲームとか小説とかで読んだことを、そのまんま言えばいいのかな。

 「俺が知ってる範囲だと、地面に魔方陣を書いて、詠唱するやつとか。普通に呪文を詠唱して、発動するやつくらいだと思う」

 ニケの回答に、ミーチェは、うんうんとうなづいた。

「こちらの世界では、そこにあと3つ詠唱方法が加わるのだ」

「あと、3つもあるのか!?」

「そうだ。1つは、文字を魔法の線で空中や物に書き込んで発動させる『直筆詠唱』。2つ目は、もともと魔法を閉じ込めてあって、魔力を注ぐだけで詠唱を完了させる『即席魔法』。最後に、脳裏に呪文を暗記させて発動させる『無詠唱魔法』だ」

「5種類の魔法が存在している、ってことなのか?」

「詠唱方法、または使用方法は大きく分けて5種類だ」

 聞けば聞くほど、奥が深い...。
 現実世界にいたときは、授業とか聞いてると眠くなっていたのだが...。
 ミーチェの話は、眠くなるどころか、知識欲をさらに刺激してくる話ばかりだ。

「5種類の詠唱から成り立つのは、『魔法』、『召還術』、『精霊術』、『死霊術』の4つだ」

「『死霊術』?それは、どういう魔法なんだ?」

「魔法、というより『召還術』に部類されるものだ。たとえばゾンビなどのアンデット系のものを呼び出したり。死者と話をして、情報を得たりできる術だ。まぁ、悪用されやすい簡単な『召還術』の一種だと思ってくれ」

 悪用されやすい?
 やっぱり悪い魔法使い、ってのもいるわけだよなぁ。
 流石、ファンタジー。

「話を戻そう。『錬金術』は、イメージの具現化。魔法に近いが、あれは物を生成する術だ」

「魔法と、どう違うんだ?」

「魔法は、もともとないものを一時的に具現化するものだ。対して、『錬金術』は現実に存在するものを存在する材料と、魔力でその場に練成するのだ」

「なるほど、それだと金貨とかそういうものを使って、稼げる奴がいるんじゃないのか?」

 確かに、そう考えるとそういう世界になっていてもおかしくないはずだ。

「お主は、まだこちらの世界の通貨を見たことないのだな?」

「あぁ、昨日来たばっかりでなにもかも、さっぱりだよ」

 ニケは、ため息をつきながら『降参』のポーズをとった。

「こちらの世界では、カッパー、シルバー、ゴールド、ミスリルの4つの通貨でまわっている」

「ちなみに、何カッパーで1シルバーなんだ?」

「100カッパーで1シルバーになる、100シルバーだと1ゴールド、100ゴールドで1ミスリルになるのだ」

 となると、1カッパー1円ってことなのか?
 そう考えると、1シルバーが100円。
 1ゴールドが、10,000円。
 1ミスリルが、1,000,000円。
 ってことか...ひとつの通貨で100万ってどうよ...。
 と考えていると、ミーチェがポケットからコインを出した。

「これが、シルバーコインだ。コインにも数字が書いてある。1と5、10と50だ」

「なるほど、でもそういうコインって、『錬金術』で生成できちゃうんじゃないか?」

「いい質問だ。例えば、『錬金術』でこのシルバーコインを練成したとしよう」

「その人の、イメージが強ければより明確な形に近づくんだっけ?」

「そうだ。だが、『錬金術』によって練成された物質は、元の物質より軽いという性質があるのだ」

 なるほど、元の物質の重量計があれば『ニセモノ』だと判断できるわけか。
 何気に、しっかりしているんだなその辺。

「大体理解できた。だけどそうすると、『錬金術』の重要性って、物質が軽くなるだけってことだよな?」

「練成によってできたものは、元の物質より軽い性質があり、使用者によって物質の硬さが変わったりするのだ」

「使用者の魔力が、高ければ高いほどよりよいものが、出来上がるってこと...でいいのか?」

「そうだ、熟練度やイメージの明確さなどもあるが、一番大きいのはそこだ」

 『錬金術』で、どんなものが作れるかまだわからないが、硬くて軽いものがつくれるのはわかった。

「となると、練成で作った鉄で剣を作れば、軽くて強固な剣ができあがるのか?」

「錬金術で練成したものを、加工することはできないのだ。もともと、魔力が物質の変換されただけで、性質までは再現できないのだよ」

「そういうことか」

 最初に、練成された形を維持したままってことか。
 話を聞くと、より奥が深くなってくる、疑問が増える一方だ。

「『錬金術』で、できたものは一度練成した形のまま、ずっと残っているってことなのか?」

「いいや、魔力によって形を成したものはいずれ、魔力が尽きて元の形に戻るのだ。つまり一定時間だけ、現実に構築できる物質と考えればよい」

「一定時間か、それも『錬金術』を使用する人の魔力で、変わってくるのか?」

「仮に、イメージがあまり強くなくて魔力だけが強い場合は、不安定な状態となり、つぶれたり折れたりすると、その場で形を失って消えてしまうのだ」

 ふむふむ、なんとなく理解できてきた。
 あれ、なんで俺こんなに難しいことを理解できているのか...?
 好きなことには夢中になるって、言うけどこういうことなのかな。
 ニケは、腕を組みながらひとりで考え事をしていた。

「さて、ここまで『瞑想』と『詠唱方法』、5つの詠唱からなる魔法と、『錬金術』について話してきたが、他に気になったこととかはないか?」

「あぁ、大丈夫だ」

「では、次の話に移ろう。今度は、魔法についてだ。魔法とは、かれこれ昔から存在していて今もなお増えたり、改変されたりしている物だ」

 ミーチェは、魔法の話をするときは誇らしげに話すので、見ていて楽しいものだなとニケは思った。
 実際、魔法が好きなのは見ていてわかる。
 彼女の、魔法に対しての気持ちは強いものなのだろう。

「5つの詠唱方法からなる魔法は、4つと2つの『基本属性』がある」

「水、火、風、土、あと聖と闇?かな」

「微妙に違うな。正確には聖ではなく光属性だ。それ以外は合格点をやろう」

「その6つの属性が、魔法の大体ってことか?」

「他にも、雷や氷などの属性もある。そして、ここ最近で新しい属性の魔法があるらしくてな。私は見たことがないのだが、『無属性』の魔法があるらしい」

 『無属性魔法』――俺がいた世界の、ゲームとかだと他の属性の属さない魔法だったと思う。
 なかなかゲームとの内容が一致しているのが、すごいな。

「魔法使いにとって、自分自身の属性を知らないとまず、話にならない」

「自分自身の属性以外の魔法は、使えないのか?」

「いや、使えるが体質的なものでな。魔法にも、身体の有利不利があるのだ」

「好き嫌いって、ことか」

「そうだ、今日はお主の『得意属性』を知るために、属性石を使って属性を調べようと思ってな」

 そういうとミーチェは、懐から6種類の六角柱の形の水晶を出した。
 ミーチェが触った時、属性石と呼ばれる水晶の青色と、黒色が光った。

「今光ったのは、私の『得意属性』だ。今みたいに、触れるだけでこの石は反応して、光りだすのだ」

 そういいながら赤、青、オレンジ、緑、白、黒の属性石を並べた。

「自分が、好きな色を取るがよい。好きな色と、『得意属性』は似ているからな」

「好きな色か、これとこれかな」

 ニケは、白と青を取った。
 すると、二つの属性石は両方とも光を帯びた。

「光属性と水属性か。ためしに、他の色も取ってみるがよい。基本的に1つが一般的なのだ」

「2つ以上だと、才能があるってことなのか?」

 ミーチェは、小さくうなずいた。何か、考え事をしているようだ。
 ニケは、続いて赤の属性石と、オレンジの属性石を取った。

「驚いた、また2つとも光を帯だ...これは一体...」

「なんかおかしいのか?それともすごいのか?」

「すごい、なんてもんじゃない。4つも『得意属性』があるなんて、聞いたことがない」

「そ、そんなに?」

 自分に、魔法の才能があることがうれしくて、つい別の属性石も試したくなってきた。
 次に、黒の属性石と、緑の属性石を手に取った。
 すると、黒の属性石は光を帯びず、緑の属性石は光を帯びた。

「5つの『得意属性』持ち...これも、異能によるものなのか?」

「そういえば、師匠言ってたな。黒髪は、異能力者の体質だって」

「そうだ。もし仮に、お主の『得意属性』が異能によるものだとすれば、説明がつくからな」

 またミーチェは、黙り込んでしまった。
 ニケは、すべての属性石をミーチェに返し、地面に腰を着いた。

「私が、教えてやることができるのは、水属性の魔法のみだ」

「闇属性は、反応しなかったから使えないってことか」

「使えはするが、威力と、魔力の消費が激しいのだ」

「あー、つまり無理やり使うってことか」

「その解釈のほうが、正しいな。」

 水属性の魔法かぁ、ゲームなどの知識だと回復と、防御系のイメージが強い。
 仮に、『攻撃魔法』があったとしても、かっこいいイメージがあまりないのだ

「なぁ師匠。水属性の魔法って、大まかに分けるとどういう魔法が、多いんだ?」

「ん?そいうだな。癒し系――つまり、『回復系魔法』。他に、障壁などの『防御系魔法』が多いな」

「攻撃に使える魔法、とかは少ないってことか」

「そうだな。あったとしても、ダメージが低いが『異常状態』と、いった効果のものが多い」

「『異常状態』――毒や、麻痺そんな感じの魔法ってことか」

「まぁ、そんなところだな」

 『異常状態』魔法となると、相手をちょっとずつ弱らせたり、隙を突くような魔法ってことだよな。
 なんか奥手な感じというか、卑怯というか...。

「まぁ、攻撃に使える魔法もあるが。最初のうちは、使えないものばかりだ」

「どういうことだ?」

「魔法には、位階序列があってだな。『第1位階魔法』が最初に、習得できるものだ。そこから、熟練度に応じて、魔法というものは成長をしていくのだ」

「なるほど。ちなみに、師匠が使えるのは何位階序列魔法なんだ?」

「私か?私は、『第5位階魔法』までなら使えるぞ。人間で使える最大の位階は、第7位階までと聞く」

 どこは、努力ってことか。ニケは、渋々うなずくしかなかった。

「まぁ、以上が魔法の基礎というものだ。属性も把握できたことだ、早速『第1位階魔法』の練習といこうか」

「待ってました!やっと俺も、魔法が使えるんだ!」

「はしゃぐのは、まだ早い。先ほど詠唱の話をしたな?」

「あぁ。5つ?の、詠唱があることはわかったぞ」

「最初は、『直筆詠唱』の練習からだ」

 『直筆詠唱』――...確か、何もないところと、壁や、地面に呪文を書いて発動させる...だっけ。

「『直筆詠唱』は、まず指先から、魔力の線を出せなければ使うことができない。仮に、地面に書く場合は、木の棒などでやることが可能だが。ちんたらやっている間に、やられてしまう場合が多いのでな。」

「まぁ、確かに地面にお絵かきしたら、やられるわ。」

「なので、魔法は進化して指先から魔力の線をだして、何もないところに呪文を書くようになったのだ。」

 そう言うとミーチェは、右手の人差し指で何もない方向に指を指した。
 大きく息を吸い、指先から白い光の線を出し、左右に振って見せた。

「今のが、魔法の線...。これを、『魔線』と呼ぶ。これを出せるようになったら、呪文を書いて魔法の名前を言うだけで、魔法が発動するのだ」

「なるほど、だけどひとつ気になることがあるんだ」

 そういうとミーチェは、『魔線』を引くのを止めこちらを向いた。

「ん?どうした。やり方なら、指先に意識を集中するだけだぞ?」

「違う違う。魔力の使い方は、大体理解してるからそれはわかったさ。俺が言いたいのは、俺が知ってる文字は向こうの世界の文字って、ことだよ。」

 少ししてからミーチェは、俺が異世界から来たことを忘れてたかのような、素振りを見せた。
 いや、昨日の今日だよ...?

「あぁ、そういうことか。確かに、お主がいた世界とは異なる文字だと思うが。しゃべることができるなら、そう理解に苦しむものでもなかろう」

「そうだと、いいんだけどね。」

 ため息混じりに、素っ気なく振舞ってしまった。
 師に対して、この態度は流石に怒るだろう、とも身構えていたが。

「それなら、先に魔線を引けるようになればよい。文字なら、いつでも教えてやれるからな」

「それだと、朝に魔法を学ぶのって、意味があるってことか?」

「そうだ。朝日は、魔力を高めてくれるのだ。それに、澄んだ空気ほども力が使いやすい環境はない。最初は、皆早起きをして練習するものなのだ」

 そういいながら、もう日は45度くらいにまで昇っているのだが...
 流石に、一言多いと何か言われそうなので黙っておくことにした。

「まぁ、やることは決まった事だし。魔線の練習でもして、おるがよい」

「いきなり、放任主義発言するなよ師匠...」

「魔線が使えなければ、詠唱もできないであろう!私は、お主が使える魔法に関する書物を探してくる」

 あぁ、そういうことか。
 何気、面倒見がいい師匠でした。

「わかったよ。とりあえず、魔線が引けるように頑張るからさ。お昼くらいから、文字を教えてもらってもいいかな?」

「お昼ごろか。それなら、お昼の前に食べ物を探しに行かねばならぬ」

「ここにきてまさかの、自給自足。」

「そうだ。山菜採りや、狩りなどをして私は、今まで過ごしてきたのだ」

 ミーチェは、少し遠い目をしながらそう語った。
 かなり前から、ここに住んでいるのだろうか。
 そういえば、前にいた俺の同じ異能力者の話もお昼ごろに伺うとしよう。

「とりあえず、お昼前になったら切り上げて、私の元へ来るがよい。ここで暮らすのだ、山菜の種類など覚えてもらわなければな」

 ミーチェは、嬉しそうに笑いながら家へと戻っていった。

「弟子ができたことに、喜んでるのか?同居人ができて喜んでるのかの、どっちかだよなぁあれ。なぁ、シロ?」

 今まで、構ってもらえずそばで寝ていたシロ、が顔を上げる。

「もしかして、俺が眠いの我慢してたのに寝ていたのか、シロ!」

 シロは、あくびをしながらこちらを見ている。

「このー、俺めっちゃ眠かったのに...シロぉ~...」

 そういいながらニケは、シロに抱きつきわしゃわしゃしていた。
 初めて、魔法に触れたことによる満足感と、これから魔法を覚えるという緊張感が今は、心地いい。

「よっしゃぁ!いっちょ魔線使えるようになって、魔法使えるようになりますかぁ!」

 晴天の空に、響く声はやる気に満ちていた。
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