夢にまで見たあの世界へ ~女性にしか魔法が使えない世界で、女神の力を借りて使えるようになった少年の物語~

ゆめびと

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7話「夕飯と見上げる星空」

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「ただいま~」

 家に入ると、台所で物音がしていた。
 ミーチェが、夕飯を作っているのだ。

「戻ったか、もう少しでできるから待っているがよい」

「わかった」

 夕飯を、盛り付け終えたミーチェが皿を持ってきてくれた。

「夕飯は、干し肉ときのこのスープだ」

「おぉ、肉が入ってる!」

 嬉しそうにはしゃぐニケを横目に、ミーチェは気になったことを聞いてきた。

「お主、先ほど魔法を使ったであろう?」

「あぁ。ゴブリンと鉢合わせしまってな、そのままたたかうしかなかった」

「そうか。まぁ、その...なんだ。無事でよかった」

 ミーチェは、心配してくれていたようだ。

「今後は、気をつけるようにな。お主は、冒険者ではないのだから。無理に魔物と戦う必要はないのだ」

「あぁ。わかったよ」

 その後、他愛もない会話で盛り上がった。
 きのこの種類が多すぎる、とか薬草の種類が多いとか。
 こんなに楽しい食卓は、何年ぶりだろうか...。
 ん?...あれ、俺食卓を囲んだことあったっけ...?

「どうかしたのか?」

「おかしい...向こうの世界での記憶が、欠けてる...」

「ないと困る記憶でも、あったのか?」

「学校に通っていたことなどは、思い出せるけど...」

 ミーチェは、心配そうな眼差しで見てきた。

「家族と過ごした記憶が...ないんだ」

 確かに、家族と過ごした記憶は大事だ。
 俺は、向こうの世界での家族をどう思っていたのか。
 今では、もうわからない。
 わかることも、できない。
 胸の中で、何かが抜け落ちた感じを覚えた。

「こちらでは、私が家族になってやろう」

 ふとした言葉に...救われた。
 そうだ、この人は俺の師でありこれから一緒に過ごすのだ。
 もう戻れない世界に、未練はない...。
 ならいっそ、こちらから戻りたいと思えないようになればいいのだ。

「ありがとう、師匠」

「別に構わぬ。私は幼い頃に母を亡くしてな、そのあと父と共に王都で暮らしてたのだ」

「いきなり、身の上話するなよ」

 ほっと息をつきながらも、ミーチェの話に耳を傾けるニケ。

「昔は、楽しかった。魔法を学び、魔法の真理について考えてた」

「魔法を学ぶ...?」

「そうだ、王都には魔法学校なるものがあってな。そこで私は勉強に明け暮れていた」

「授業だけ聞いてれば、なんとかなるっしょ?」

「そうだな、普通の魔法使い達はそうしてた。けど、私は違った。私は皆と、同じでいることが嫌だったのだ」

「みんなと同じが嫌だって、ことだろ?」

 俺がそう答えると、ミーチェは遠い目をしながら語りだした。

「私はな、ニケよ。本当は、魔法というものが憎いのだ。母は、魔女狩りのせいで焼かれた。魔法も使えない母が、だ...。」

「それは...つらいだろうな」

「それでも私は、魔法を学ぶ道を選んだ。それはなぜだかわかるか?」

「母の仇を討つため...とか?」

「そうだ。魔女狩りは、とある協会が行なっている」

「協会が?それはなんでだ」

「魔法は、神々を滅ぼす方法であり。彼等は、神の信者だからだ...!」

 んー、また難しい話に...。

「お主も、魔法使いとして旅をすることがある場合、協会の連中には気をつけるんだ」

「わかった...」

「私もいずれ、彼らとたたかう日が来るだろう」

「そうなったら、俺も手伝うよ!」

「お主が?」

「あぁ!」

「ひよっこのくせに、偉そうに口を開く出ない」

 そうミーチェは、笑いながら言ってきた。

「そうだ、地下に書庫がある。後ほど行ってみるがいい、お主の使える魔道書があるやもしれん」

「地下なんてあるのか?」

「玄関から入って、右手の扉から下に降りれる」

「わかった。後で行ってみるよ」

「うむ、精進するがよい」

 なにやら嬉しそうに部屋へと、戻っていくミーチェ。
 さてと、シロは寝てるし。今から書庫にでも行ってみるか。
 立ち上がって、玄関へと向かう。
 玄関から入って右手...今正面にある扉か。
 扉を開くと、階段に自然と灯りが灯る。
 便利だな。
 階段を降りていくと、そこにはかなり広い書庫があった。

「なんだこりゃ...広すぎだろ」

 本棚はニケの身長より、はるかに高く。
 本棚の列も多い。
 奥行きは、そこまでだが。
 降りてきた、階段の後ろ側にも本棚があった。
 書庫というより図書館だ。
 本棚の最初のところに、プレートで分類されているようだ。
 右から『精霊術』、『錬金術』、『召喚術』、それぞれの属性魔法ってところか。
 後ろの本棚には...『創作魔法』?と書かれていた。
 創作ってことは、自分で作るってことかな?
 自分で魔法を作れるなんて、なかなか興味深い。
 ニケは、『創作魔法』の本を手に取った。
 『創作魔法』――ありとあらゆる時代で、自分でしか使えない魔法を創ってきた、者たちがいる。時にどんな『異常状態』でも治す魔法や、天気を操る魔法。一昔前では、召喚魔法ですら『創作魔法』があったのだ。ではなぜ、『創作魔法』がこの世から消えたのか。それは、人類が進化したからである。人類が進化するにあたって、一番最初に変わったのは魔法だ。昔の魔法は、直筆魔法によるものしかなかった。今では『詠唱魔法』が主流となり、結果的に直筆魔法を使うものは少ない。詠唱魔法が今の現代における、一般的な詠唱になったと同時に、さまざまな詠唱が生まれた。まず、刻印を直筆魔法に変えて作られた呪文書、これは魔力を注ぐだけで魔法が使えてします優れものだ。ありとあらゆる状況でも、魔力さえあれば起動してしまう物だ。これは半世紀以上も前に、開発された技術で。今だと魔法石や布などに呪文を書き込むだけで、詠唱ができてしまう物もある。次に無詠唱魔法だ、本来魔法は、詠唱、魔法名の順番に行なわなければ発動しない。無詠唱魔法はその名の通り、魔法名だけで発動するものだ。これは、一部の者にしか使えないと言われている。そう、『黒髪』にのみ使えると...。

 詠唱のページは、興味を引かれるものがあった。
 呪文を練り込んだ、代物。
 マジックアイテムって、やつかもしれない。
 詠唱のことの本も、探そう。
 これから役に立つかもしれない。
 プレートに小さく、『直筆詠唱』と書いてあった。
 この中から、直筆詠唱の性質と、仕組みが書かれてる本を、探さなければ。
 そのまんまの、題名の本があった『直筆詠唱について』
 これを外で読むかな。
 あと雷属性の魔術書も探そう。
 『属性魔法』のプレートのところには、カラフルな本がたくさんあった。
 たぶん、紫色の本あたりかな。
 あった、『雷魔法の書』。
 さてと、上に上がろう。
 階段に戻るとミーチェが、降りてきているところだった。

「あのあと、すぐに書庫に潜ったのか?」

「あぁ、シロは寝てるしやることなかったからな」

「それで、なんの書を持ち出すものだ?」

「『創作魔法の云々』ってのと、『直筆詠唱について』、あと『雷魔法の書』だな」

「ふむ、創作魔法に興味を持ったのか?」

「あぁ。自分で魔法を作れる、なんてかっこいいじゃん?自分だけの魔法ってさ」

「たしかに、そうだな」

 明日は早いから寝坊するなよ、とだけ言い残すとミーチェは、書庫の中へ消えていった。
 さてと、部屋に創作魔法の本を置いてから、外に出よう。
 その前に、『光魔法の書』で調べておきたい魔法があった。
 部屋に戻り、机の上に持ってきた書物を置いた。
 光魔法の書を、開いた。
 確か、灯りをだす魔法があったはずだ。
 あった、これだ

「″光よ我に灯りを″。ライト!」

 魔方陣が展開され、魔法が発動した。 
 魔方陣のなかから、光の球体が出てきた。
 太陽とまではいかないが、文字は読めるほどの灯りだった。

「さてと、夜風に触れながら読書タイムだ」

 異世界にきてから、二度目の夜が来た。
 今日も一日、今までになかった生活を経験した。
 書物を手に、外に出るニケ。
 こちらの空は、綺麗だな...
 あ、流れ星だ。

 満天の星空の下、少年は何を願ったか。
 物語は...動き始める。
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