24 / 93
23話「緊急回避」
しおりを挟む左右に展開された魔方陣から、雷を帯びた衝撃波が繰り出される
アンデットたちは吹き飛ばされ、ニケとシロは呆然と立っていた。
「や、やりやがった……ッ!?」
驚くレイン。
向かっていた方向から、くるりと後ろを向き斧を構えなおした。
「ニケ坊、頼んだぞ……うおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!」
再び北口に向け、走りだすレイン。
「まさか、第六位階まで極めた私でも出来ない『多重詠唱』を行なうとはな……」
『多重詠唱』――3個以上の魔方陣を同時展開する高等技術。ニケの双線は、両手での直筆詠唱を片手に収縮したもの。本来の多重詠唱は、両手での直筆詠唱に加え口頭で行なう、呪文詠唱が成功事例だ。
「ニケ!そのままウィッチを討て!」
「あぁ。そのつもりさッ!」
ウィッチの元へと、ヨロヨロと歩き出すニケ。
シロは、後方から迫り来るアンデットに対し飛び掛っていた。
「お互い、無様だよな」
左手に残っている、魔方陣をウィッチに向ける。
魔法を放とうとした直後、ウィッチの懐に魔線が引かれているのに気がついた。
「まじかよッッッ!!!」
急いで地面に向けて魔法を放つニケ。
魔方陣が展開し、魔法が発動すると同時にニケは後方へと吹き飛ばされた。
吹き飛ぶ瞬間、ウィッチの足元に魔方陣が展開したのが見えた。
「っく、詠唱されたのか」
ミーチェは、ニケが吹き飛ぶと同時に炎の柱が天に昇るのを見た。
「ニケ!無事か!」
アンデットと対峙しながら、叫ぶミーチェ。
「一応……生きてる!」
着地して転がったニケは、うつ伏せのまま答えた。
ほっと胸を撫で下ろすミーチェ。
目の前のアンデットに意識を戻した。
倒しても倒してもきりがない。
かれこれ20体は倒しただろう、だが目の前にはまだ20体ほどいる。
目の前のアンデットを薙ぎ払うと、ミーチェは詠唱に入った。
「″闇の力よ。我、力を求める者なり。汝、その力を持って、敵と共に爆ぜろ″!ネクロボム!」
迫り来るアンデットの群れの中心部に、魔方陣が展開される。
魔法が発動し、黒い炎が出現した。
黒い炎は、その場で小さくなっていった。
木の実ほどの大きさまで小さくなった炎は、爆発を起こした。
ドォォォォォォォォォンッッッ!!!!
地面が揺れる、すごい音だ。
紫色の炎が周囲を埋め尽くすと、紫色の煙があがり始めた。
煙が風で流れていく、アンデットたちは爆発に巻きこまれ塵となっていた。
「ニケッ!」
ミーチェは、すぐさま西口付近に転がるニケの下へと駆けた。
「シロ……逃げろ……ッ!!」
ニケは、小さな声でシロに呼びかけていた。
シロは未だ、アンデットたちの群れの中でたたかっていた。
「北口確保ッ!」
最後のアンデットの、脳天を叩き割ったレイン。
広場中央では、火の柱が立っているのが見えた。
「なんだ、ありゃ」
額の汗をぬ拭うと、うつ伏せで手を伸ばすニケの下にミーチェが駆け寄っていくのが見えた。
「なにかあったのかッ!」
すぐさまレインも、ニケの下へと駆けていった。
「師匠……あの火の柱……こっちに向かってくるのか……?」
「あれは、前方にのみ向かう。だがその前方は、術者の意識内での前方だ」
「おいおい、ニケ坊。大丈夫か?」
「これが……大丈夫そうに見える?」
うつ伏せのまま、レインを見るニケ。
起き上がろうとするが、どうやら着地のときに腕を折ったらしい。
右腕が、変な方向に曲がっている。
立ち上がろうとするニケに、手を差し出すレイン。
「だが、不自然だ。なぜ、あの火の柱は動かない」
「ウィッチが、死んだんじゃないのか?」
ニケを起き上がらせながら、レインは言った。
「死んだ後に発動する魔法は、聞いたことがない。となると、ウィッチはまだ生きている」
「アンデットの数は減ったが、ウィッチを倒さないんじゃなぁ」
「レイン兄……ありがと」
無事、起き上がることが出来たニケは、レインに感謝をした。
「さて、ウィッチを討つとしても、残りのアンデットが邪魔だな」
「なら、火の柱に気を配りしつつさっきの配置で続行するか?」
「そうだな、早めにウィッチを討たねば」
「俺も……たたかうぜ」
「ニケ。魔力はあと、どれくらいあるのだ?」
「あと……2発が……限界かも」
右腕を抑えながら、ニケは言った。
「先に腕を治せ、そのあと瞑想して後衛に入るのだ」
「わかった、レイン兄。シロのいるところまでいける?」
ニケは、シロのほうを見ながらレインに聞いた。
シロは、返り血で真っ赤に染まりながらも未だたたかい続けている。
「いけるだろうが、中央部は数が多い。シロがいつまで持つか」
「今は、シロの心配よりウィッチを討つほうが先だ。私も前に出る、レイン援護を頼むぞ」
「了解。ニケ坊、すぐにシロを呼び戻せ。お前一人だと危ないだろう」
「確かに、瞑想中は無防備になる。そちらのほうがよいだろう」
「わかった。シロ!戻ってこいッッ!!!」
アンデットの間を、必死に避けながらシロが向かってくる。
ニケの元へ来ると、折れた右腕を舐めていた。
「さぁ、これで最後にしようじゃないか」
ミーチェは、大鎌を構えた。
「そうだな、早く終わらして休みたいもんだ」
レインも斧を構えた。
「二人とも、気をつけてな」
ニケは、壁に背を預け左手を構えながら言った。
「ウィッチ狩りと洒落込もうじゃないかッッ!!!」
ミーチェと、レインは走り出した……。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる