夢にまで見たあの世界へ ~女性にしか魔法が使えない世界で、女神の力を借りて使えるようになった少年の物語~

ゆめびと

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23話「緊急回避」

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 左右に展開された魔方陣から、雷を帯びた衝撃波が繰り出される
 アンデットたちは吹き飛ばされ、ニケとシロは呆然と立っていた。

「や、やりやがった……ッ!?」

 驚くレイン。
 向かっていた方向から、くるりと後ろを向き斧を構えなおした。

「ニケ坊、頼んだぞ……うおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!」

 再び北口に向け、走りだすレイン。

「まさか、第六位階まで極めた私でも出来ない『多重詠唱』を行なうとはな……」

 『多重詠唱』――3個以上の魔方陣を同時展開する高等技術。ニケの双線は、両手での直筆詠唱を片手に収縮したもの。本来の多重詠唱は、両手での直筆詠唱に加え口頭で行なう、呪文詠唱が成功事例だ。

「ニケ!そのままウィッチを討て!」

「あぁ。そのつもりさッ!」

 ウィッチの元へと、ヨロヨロと歩き出すニケ。
 シロは、後方から迫り来るアンデットに対し飛び掛っていた。

「お互い、無様だよな」

 左手に残っている、魔方陣をウィッチに向ける。
 魔法を放とうとした直後、ウィッチの懐に魔線が引かれているのに気がついた。

「まじかよッッッ!!!」

 急いで地面に向けて魔法を放つニケ。
 魔方陣が展開し、魔法が発動すると同時にニケは後方へと吹き飛ばされた。
 吹き飛ぶ瞬間、ウィッチの足元に魔方陣が展開したのが見えた。

「っく、詠唱されたのか」

 ミーチェは、ニケが吹き飛ぶと同時に炎の柱が天に昇るのを見た。

「ニケ!無事か!」

 アンデットと対峙しながら、叫ぶミーチェ。

「一応……生きてる!」

 着地して転がったニケは、うつ伏せのまま答えた。
 ほっと胸を撫で下ろすミーチェ。
 目の前のアンデットに意識を戻した。
 倒しても倒してもきりがない。
 かれこれ20体は倒しただろう、だが目の前にはまだ20体ほどいる。
 目の前のアンデットを薙ぎ払うと、ミーチェは詠唱に入った。

「″闇の力よ。我、力を求める者なり。汝、その力を持って、敵と共に爆ぜろ″!ネクロボム!」

 迫り来るアンデットの群れの中心部に、魔方陣が展開される。
 魔法が発動し、黒い炎が出現した。
 黒い炎は、その場で小さくなっていった。
 木の実ほどの大きさまで小さくなった炎は、爆発を起こした。
 ドォォォォォォォォォンッッッ!!!!
 地面が揺れる、すごい音だ。
 紫色の炎が周囲を埋め尽くすと、紫色の煙があがり始めた。
 煙が風で流れていく、アンデットたちは爆発に巻きこまれ塵となっていた。

「ニケッ!」

 ミーチェは、すぐさま西口付近に転がるニケの下へと駆けた。

「シロ……逃げろ……ッ!!」

 ニケは、小さな声でシロに呼びかけていた。
 シロは未だ、アンデットたちの群れの中でたたかっていた。

「北口確保ッ!」

 最後のアンデットの、脳天を叩き割ったレイン。
 広場中央では、火の柱が立っているのが見えた。

「なんだ、ありゃ」

 額の汗をぬ拭うと、うつ伏せで手を伸ばすニケの下にミーチェが駆け寄っていくのが見えた。

「なにかあったのかッ!」

 すぐさまレインも、ニケの下へと駆けていった。

「師匠……あの火の柱……こっちに向かってくるのか……?」

「あれは、前方にのみ向かう。だがその前方は、術者の意識内での前方だ」

「おいおい、ニケ坊。大丈夫か?」

「これが……大丈夫そうに見える?」

 うつ伏せのまま、レインを見るニケ。
 起き上がろうとするが、どうやら着地のときに腕を折ったらしい。
 右腕が、変な方向に曲がっている。
 立ち上がろうとするニケに、手を差し出すレイン。

「だが、不自然だ。なぜ、あの火の柱は動かない」

「ウィッチが、死んだんじゃないのか?」

 ニケを起き上がらせながら、レインは言った。

「死んだ後に発動する魔法は、聞いたことがない。となると、ウィッチはまだ生きている」

「アンデットの数は減ったが、ウィッチを倒さないんじゃなぁ」

「レイン兄……ありがと」

 無事、起き上がることが出来たニケは、レインに感謝をした。

「さて、ウィッチを討つとしても、残りのアンデットが邪魔だな」

「なら、火の柱に気を配りしつつさっきの配置で続行するか?」

「そうだな、早めにウィッチを討たねば」

「俺も……たたかうぜ」

「ニケ。魔力はあと、どれくらいあるのだ?」

「あと……2発が……限界かも」

 右腕を抑えながら、ニケは言った。

「先に腕を治せ、そのあと瞑想して後衛に入るのだ」

「わかった、レイン兄。シロのいるところまでいける?」

 ニケは、シロのほうを見ながらレインに聞いた。
 シロは、返り血で真っ赤に染まりながらも未だたたかい続けている。

「いけるだろうが、中央部は数が多い。シロがいつまで持つか」

「今は、シロの心配よりウィッチを討つほうが先だ。私も前に出る、レイン援護を頼むぞ」

「了解。ニケ坊、すぐにシロを呼び戻せ。お前一人だと危ないだろう」

「確かに、瞑想中は無防備になる。そちらのほうがよいだろう」

「わかった。シロ!戻ってこいッッ!!!」

 アンデットの間を、必死に避けながらシロが向かってくる。
 ニケの元へ来ると、折れた右腕を舐めていた。

「さぁ、これで最後にしようじゃないか」

 ミーチェは、大鎌を構えた。

「そうだな、早く終わらして休みたいもんだ」

 レインも斧を構えた。

「二人とも、気をつけてな」

 ニケは、壁に背を預け左手を構えながら言った。

「ウィッチ狩りと洒落込もうじゃないかッッ!!!」

 ミーチェと、レインは走り出した……。
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