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47話「困惑」
しおりを挟むニケが、気を失ってすぐの事。
「アシュリー!無事か!」
ミーチェは、急な斜面を木につかまりながら降りてきた。
気を失ったニケは眼中にないのか、トレントはアシュリーのもとへとゆっくりと歩いていた。
「右手が動きませんけど無事です!」
右手を上げるアシュリー。どちらかといえば、右肩から腕をあげてる感じだった。
ミーチェは、アシュリーのもとへ着くと腕を見ながら言った。
「逃げ切るにしてもニケを置いてはいけぬ。アシュリー、まだたたかえるか?」
座り込んでいるアシュリーの前に、しゃがみこむミーチェ。
「そうですね、片手だけでもたたかえますが……」
右手を見ながら、アシュリーは答えた。
トレントとの距離はおよそ30m。
「私は、ニケの回復に向かう。それまで持ちこたえてくれ」
アシュリーと話をしていると、ミーチェの足元にシロが寄ってきた。
「シロ、お主はアシュリーの手伝いをしてやってくれ」
シロは小さく咆えると、その場にお座りした。
アシュリーは起き上がりながら、トレントを見た。
「まずは、斧を回収しなきゃ……」
「では、頼むぞ!」
ミーチェは、川を渡りトレントの反対側を走りながらニケのもとへと向かった。
「いきましょう、シロさん」
そういうと、アシュリーはトレント目掛けて駆け出す。
その後ろを、シロは舌を出しながらのんびりついてきていた。
トレントにだいぶ近づいてきた、斧を探すアシュリー。
斧は、トレントの背後に落ちていた。
「ぬ、抜けたんだ!」
駆けながら、アシュリーは詠唱の構えに入った。
「あんま使いたくないけど、状況が状況だから……ッ!」
トレントとの距離は、残り10m。
「″風よ、我は風と共に駆けるもの、汝、我に風の加護を与えよ″!ウィングステップ!」
『ウィングステップ』――風属性第二位階補助系統魔法。術者に風の加護を与え、瞬時に意識した方向へと回避ができる。
アシュリーの足元に、魔方陣が展開され始めた。
魔法が発動し、アシュリーの身体は風を身に纏い始めた。
「シロさん!待っててください!」
アシュリーが指示を出す、シロはその場で構えた。
トレントの正面を、無視して通り過ぎようとするが枝による連撃が道をふさぐ。
「何度も同じ手には掛かりませんよッ!!!」
アシュリーの身体が、横から押されたかのように動く。
一度ならぬ、二度、三度も。
枝を避けながら、斧のもとまでたどり着いたアシュリー。
―――ニケのもとへとたどり着いたミーチェ。
「まったく、無茶しよって」
急斜面の岩を背に、座り込むようにして動かないニケの頬に触れながら、ミーチェはつぶやいた。
「″大いなる水よ、我が呼びかけに応えよ、汝、かの者の傷を癒したまえ″!ウォーターメディック!」
『ウォーターメディック』――水属性第四位階回復系統魔法。洗練された、清らかな水を呼び出し、対象、もしくは術者の傷を癒す。
ミーチェの前に、魔方陣が展開され魔法が発動する。
魔方陣から、透き通った水が溢れ出し、ニケの身体のいたる部分に付着した。
水は青白い光を帯びながら、蒸発していく。
「これで動けるようにはなるだろう」
そういいながら立ち上がると、ミーチェはアシュリーのもとへと駆け出した。
――左手で斧を持ち上げ、引きずるようにして駆け出すアシュリー。
トレントが、アシュリーの方向へと向きを変え始めていた。
「振り向き際が、勝負どころ!」
トレントと目が合う、咄嗟に左に避けるアシュリー。
「視界に入ったら、枝の攻撃がきますからね……」
慎重に対処しなければっとつぶやきながら、アシュリーはトレントの懐へと駆け出す。
その背中へと、身体を回しながら斧を叩きつける。
だが、思っていたほどダメージは入らないようで斧はすぐさま抜けてしまう。
「やっぱ、片手じゃ厳しいですか」
すぐさま距離を置く。
そこに、ミーチェが駆け寄ってきた。
「すまない、一応回復魔法をかけてきた」
「大丈夫ですよ、思っていたほど時間掛かってなかったようですし」
トレントが二人を視界に捉えたようだ。
咆哮をあげると、大股で歩き出す。
ズシン、ズシンと重い足音がこだまする。
「どうする……」
魔法を使うにしても属性は不利。ダメージに期待ができない。
ミーチェの得意とする魔法は、基本的に対人の魔法だ。魔物相手では、あまり効果がないのだ。
アシュリーは右手が使えない分、攻撃力が著しく低下している。
このままでは、消耗戦になりどちらかが倒れるだろう。
「私が、前に出ます。その間に、ミーチェさんはニケさんと共に離脱を!」
そういうと、アシュリーは斧を構えた。
「馬鹿者!一人では、食い止めれる相手ではないぞ!」
力なき左手を引っ張るミーチェ。
アシュリーは、困った顔をしながら振り返った。
「で、では、どうすればいいんですか!」
少し涙を浮かべながら、アシュリーは小さく叫んだ。
「ど、どうしようもない……」
珍しくミーチェが、黙り込んでしまった。
「どうしようもないなら、倒せばいいんじゃないか?」
その声に、ミーチェ、アシュリーは振り返った。
先ほどまで気を失っていたニケが、そこに立っていたのだ……。
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