夢にまで見たあの世界へ ~女性にしか魔法が使えない世界で、女神の力を借りて使えるようになった少年の物語~

ゆめびと

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62話防衛戦 誤解から始まった戦闘に終止符を」

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両手から双線を引きながら、ニケは駆け出した。

「 ″我、火を志すもの、汝、その火の力を敵にぶつけよ″ファイヤーボール!」

 文字の精霊達が、綴られた呪文に重なり始めた。
 だが、先ほどより数が少ない。呪文は6層ではなく、4層だった。
 それでも、気にしている暇はなかった。すぐさまキメラが、こちらへと駆け出した。
 正面衝突は避けれないようだ。

「くらえぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!!」

 魔方陣を展開、左右に2つずつ魔方陣が展開された。
 1つの魔方陣に対して、3つ追加の魔方陣が重なった。
 右手を前に、右側の2つを同時に放つ。
 キメラは、放たれた火の玉を左右に避けながら迫ってきた。
 ニケとの距離が縮まる。

「っく!」

 ニケは、急いで右側へと跳んだ。
 左肩から着地し、転がりながら態勢を直しキメラを視界に捉える。だが遅かった。
 キメラは、獲物を追い詰めると同時に右前足にを振りかぶった。

「……ッ!?」

 ニケの頭の中に、緊張と別にひとつの文字が浮かんだ。
 『死』、その文字が頭に浮かぶと、身体は言う事を聞かなかった。
 ただただ、振り下ろされる手を見ていることしかできなかった。
 ニケは、身を守るように両手を頭につけた。
 だが、正面からくるはずだった衝撃は来なかった。
 変わりに、横から何か太いものに押された。
 押された瞬間、視線を横に向ける。そこに居たのはガリィだった。

「ガリィッ!」

 ニケを押した触手が、キメラの爪によって裂かれた。
 緑色の体液を垂らしながら、裂かれた触手の先端が宙を舞う。
 ニケは、身体を捻り背中で受身を取りながら、地面に叩きつけられた。
 すぐに起き上がらないとと思いニケは、上半身を起こした。
 見えるのはキメラ……ではなく、シロの尻尾だった。

「ニケ、無事か!」

 ミーチェが、ガリィの上から飛び降りるとニケのもとへと駆けてくる。

「師匠!今きたらだめだ!」

 ニケは、急いで立ち上がりミーチェを静止しようとした。
 だがミーチェは、それを無視してこちらへと駆けてくる。
 冷や汗が、ニケの額に流れた。このままでは、キメラの攻撃範囲内にミーチェが来てしまう。
 そんな焦りと、危機感を抱きながらニケは、キメラに目線をやった。
 キメラは、動かずにシロと睨み合っていた。

「……っえ?」

 何が起きているのか、ニケには把握できなかった。
 シロとキメラが、ガウガウワンワンと咆え始めた。

「大丈夫か?」

 そんな光景を呆然と眺めていると、ミーチェが覗き込むように声を掛けてきた。

「あ、あぁ。大丈夫だけど……どうなってるの、これ」

 ニケは、指を指しながら隣に来たミーチェに答えた。
 シロがワンと咆えるたびに、キメラがガウっと答える。

「どうやら、キメラは死霊術とは関係ない様子でな」

 困った顔をしながら、ミーチェは右手で頭を掻いていた。
 ニケは、周りを見渡した。
 ルト含む、冒険者たちはアンデットを倒し終えたようで、負傷した者に肩を貸しながら村へと引き返していた。

『なるほどぉ~』

 ニケが、村へ引き返すルトを眺めていると、ニケの目線上に文字が綴られた。

『なんか、キメラ君はオークたちに寝床を荒らされちゃったみたい』

「は?どういうこと?」

 シロと咆え合うキメラに、ニケは目線を移しながらリーディアに問いかけた。
 ミーチェにもリーディアの綴る文字は見えているようだ。

「ほう、この文字を綴っているのが文字の神とな」

 文字を眺めながら、ミーチェが呟いた。

『そうだよ~。っと、今は向こうの話をしよっか』

 シロが大きく咆えだした、するとキメラは腰を下ろした。
 どうやら、たたかう意思はないようだ。
 腰を下ろしたキメラに、シロが近づいていく。

「シロ大丈夫なのか?」

 そういうと、ニケは構えた。
 すぐに魔法を放てるように、左手をキメラに向ける。
 すると、シロがこちらを向いて咆えた。
 攻撃をするなとでも言いたいのだろうか。
 シロに咆えられたニケは、困惑した結果左手を下ろした。
 下ろすと同時に、手を払い魔方陣を消し去った。

『んー、氷帝様には頭が上がらないみたいだねぇ』

「氷帝?それってシロのことか?」

『うん、ニケちゃんすごいよねぇ。氷帝と契約して、私と契約するんだもん』

 リーディアの綴る文字に、ニケが訳もわからない様子だった。
 そのやりとりを見ながら、ミーチェが話し出した。

「ニケ。お前が、今まで契約した召喚獣と精霊は、最も危険な植物と神話上でしか存在しないとされる神獣、あと神の類なのだぞ?」

 馬鹿を見る目でミーチェは、ニケに言った。
 それを聞くなりニケは、なるほどっと左手を右手の拳で叩いた。
 頭を抱えながら、ミーチェはやっぱ馬鹿だっと呟いていた。

『話終わったみたいだよ?』

 その文字を読み終えると、シロがこちらへと駆けて来た。
 キメラは、背を向けると森へと戻っていった。
 尻尾をぶんぶんと大振りに振りながら、ニケの足元に擦り寄ってくる。

「んで、一体どういうことなんだ?誰か説明してくれ……」

 そう言いながらしゃがみこむと、シロを撫でるニケ。

『んー、今の話を整理すると。寝床を荒らされて、アンデットを呼び出した元凶がいると思って、キメラ君はついてきたみたい』

「確かに。アンデットが、森から出てきて森の入り口からキメラが来たな」

『それで、人間とアンデットがたたかってたから困惑しちゃって、立ち止まってたところにニケちゃんが襲い掛かってきたと』

「原因、俺みたいじゃんそれ!」

 ニケは、シロを撫でるのをやめ勢いよく立ち上がった。

「ま、まぁ。私が、ニケに行けと言ったんだがな……」

 引きつった苦笑いを浮かべながら、ミーチェは目を背けた。

「し、師匠……?」

 ニケは、ミーチェに手を向けると怒りに肩を震わせた。

「頑張った俺の努力は、なんだったんだぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」

 両手で拳を作ると、ニケは日が昇り始めた空へと叫ぶのだった。
 無事に、アンデットから村を守りきったニケ、ミーチェ、シロ、ガリィ、そして新しく契約したリーディア。ニケは、ガリィをネックレスに戻すと村へと歩き出した。
 その横をシロが尻尾を振りながら、ご機嫌に歩いていた。
 そんなニケの背中を見ながら、ミーチェは呟くのだ。

「ここ数日で、成長したな」
 
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