夢にまで見たあの世界へ ~女性にしか魔法が使えない世界で、女神の力を借りて使えるようになった少年の物語~

ゆめびと

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63話「村長への報告、旅の再開

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村の入り口に、丸太の塀を背に腰を掛けるアシュリーがいた。

「アシュリー大丈夫か?」

 ニケは、駆け寄りアシュリーの前にしゃがみこむと、顔を覗き込みながら問いかけた。
 下を向いていたアシュリーが、顔を上げニケの顔を見た。

「ニケさん……一応大丈夫ですけど、どうやら両腕が折れているようで」

 何も痛みも感じないのか、アシュリーは両腕をあげて見せた。 
 両腕は、曲がってはいけない方向へと曲がって垂れるようにくっついていた。
 ニケは、そんなアシュリーを見ながら少し寂しそうな顔つきになった。

「やっぱり、アンデットの身体は痛みを感じないのか?」

 アシュリーの垂れる腕を、ニケは優しく持ち上げながら聞いた。
 ニケに腕を持ち上げられても、アシュリーの表情は変わらなかった。

「痛み……そうですね、痛みというよりも違和感のほうが大きいですね」

 そう言うと、アシュリーは腕を下ろした。
 ニケも手を離すと、力なく垂れる腕。
 そこにミーチェが到着した。

「アンデットの再生能力は高い、しばらくすれば元通りになるだろう」

「あーそういえば、ゲームでもそうだったな。自然回復力がどうとか」

 ミーチェの発言に、ニケは記憶を思い返しながらつぶやいた。

「あの、ゲームってなんですか?」

「あぁ、そういえば言ってないっけ。俺、異世界からきたんだ」

 知らない単語に、アシュリーが反応するとニケは、転生した話をアシュリーに話した。
 ニケの話を聞いているアシュリーは、最初何を言っているのかわかってない様子だったが、ミーチェが説明を加えたことにより理解できたようだ。
 話終えるとニケは、はぁっとため息をついた。
 異世界に転生してからというもの、魔法を学び始め、死というもの間近に感じ、村を救うと言う異世界にきてから、現実世界じゃ体験できないことを体験したなと、思い返したからだ。
 そんなニケの表情を伺いながら、ミーチェはアシュリーを立ち上がらせるために肩を貸した。

「私は、アシュリーを馬車に連れて行く。お主は、村長のもとへ報告へ行ってくれ」

「あ、あぁ。気をつけてな」

 ニケの返事を聞くと、ミーチェとアシュリーは馬車のある馬繋所と向かっていった。
 そんな二人を見ていると、シロがニケの服を咥えて引っ張った。

「はいはい、行きますよ」

 シロに急かされ、ニケは歩き出した。
 広場に行くと、冒険者たちの手当てが行なわれていた。
 ニケは、通り過ぎる途中ルトを見かけた。ルトも、ニケを見つけたらしく手を上げていた。
 手を上げ返すとニケは、ルトのもとへと向かった。

「よぉ、お疲れ様。まさか、魔法を使うなんてな」

「ま、まぁな」

 少し嬉しそうにニケは、頬を掻いていた。

「んで、そっちのウルフは召喚獣……すごいんだな、お前さん」

「そうでもないよ、まだまだひよっこだからね」

 ニケは、苦笑いを浮かべると肩をすくめた。
 そんなニケを見ながら、ルトは喋り始めた。

「まぁ。お前さんたちがいなかったら、この村はどうなってたかわからん。本当に感謝してるぜ」

 そういって、ルトは右手を差し伸べた。

「困ったときはお互い様だろ」

 ニケは、笑顔で右手を伸ばし握手をした。
 これが男の友情ってやつなのか、その後ルトとニケは、しばらく話をしていた。
 ルトがなぜ冒険者になったのか、この村はすごいとかいろいろと話をした。

「あ、村長のところに行くんだった」

 話をしていて、ニケはミーチェに言われたことを思い出した。

「報告か?」

 ニケの一言に、ルトが立ち上がりながら問いかけた。

「そうそう。んじゃ俺、村長のところ行ってくる」

 ニケは、ルトに小さく手を振ると、シロと一緒に石造りの階段を駆け上がっていく。
 階段を上った先には、村人たちが村を眺めているところだった。

「おぉ、いいところに。戦闘は終わったのかね?」

 ニケは、腰の曲がった老人に話しかけられた。
 杖を地面につきながら、ニケのほうへと振り返った老人にニケは答えた。

「終わったぜ、今広場でみんなが手当てとかしてると思う」

 それを聞いて、老人が後ろにいた村人に声をかけた。

「終わったそうじゃ!わしらも、手伝いにいくぞ!」

 そういうと、村長の家からぞろぞろと村人が出てきた。
 皆が皆、何かを思っているのだろう。そんな顔つきで階段を降りていった。

「終わったのか、ご苦労様じゃの」

 最後に村長が出てきた。
 村長は、広場を眺めながら目を細めた。

「この村を、村の皆を守ってくれてありがとう」

 腰の後ろで手を組みながら、村長は頭を下げた。

「そんな、よしてくれよ。俺たちは、やるべきことをやっただけさ」

 頭を下げる村長を見ながら、ニケは鼻を指でこすりながら照れくさそうに答えた。
 村長は頭をあげると、少し待っていなさいと言い、家の中へと戻っていった。
 しばらくして、村長は小さな布袋を持って出てきた。

「少ないが、これは今回の報酬じゃ。受け取るがいい」

 差し出された布袋を受け取ると、チャリンと軽い金属音がした。
 どうやら中身は、お金のようだ。

「それと、この手紙を」

 村長から、一通の手紙を受け取った。

「これは?」

「お主達、旅をするのじゃろ?次に寄った村の、冒険者ギルドにこれを届けて欲しいのじゃ」

「あぁ、そういうことね。わかったよ」

 ニケは、受け取った手紙を魔編みの鞄に仕舞った。

「んじゃ、俺達は行くよ。元気でな村長さん」

 小さく手を上げ、ニケは踵を返した。
 村長は、手を振りながら石造りの階段を下っていく、その背中を見送った。
 広場に戻ると、ルトの姿はなかった。
 冒険者たちも手当てが終わったらしく、皆どこかへ行ったようだ。
 住宅の奥に見える馬繋所へとニケは、足を進めた。
 何人かの村人が、ニケたちの馬車に集まっているのが見えた。
 どうやら、差し入れとばかりに食材を持ってきたようだ。
 少し困ったような笑顔を振りまきながら、ミーチェが差し入れを受け取っていた。
 巻き込まれるのがいやだったニケは、馬繋所の手前で腰を下ろすと終わるのを待っていた。
 シロが、横で伏せてあくびをしていた。
 しばらくすると、村人達が帰っていった。
 それを確認すると、ニケは腰を上げ馬車へと向かった。

「お疲れ様、なにもらったの?」

「ニケ……見てないで、手伝ってくれてもよかったのだぞ」

 威圧感のある笑顔をミーチェは、ニケに向けた。
 ニケはたじろきながら苦笑いを浮かべた。流石にまずかったかなっと、ニケは額に汗を滲ませた。

「まぁよい。食料が少し増えたくらいだ、あと鍋ももらった」

 そういって、新品だろうか。綺麗な鍋をミーチェは持ち上げて見せた。

「これで、汁物ができるな」

 ニケは、ふと思った。ミーチェは、何気に家庭的なのではないのかっと。

「今、失礼なこと考えておらんか?」

 ミーチェは、そんなニケの顔を覗き込んだ。
 ニケは、即座に目をそらした。

「何を考えてたのだ?私に、言ってみろ」

「ナ、ナニモカンガエナイデス」

「ふむ、ならば良いのだがな」

 どうやら危機は去ったらしい。ニケはふぅっと息を吐き出した。
 馬車に乗り込むと、布で覆われた何かがあった。

「師匠、これなに」

「あぁ。アシュリーだ」

「なんで布被せてるの……」

「村人に見られると厄介だからな、隠した」

 振り向きながら、まるでキメたような顔をするミーチェ。
 ニケは、そんなミーチェを無視して布をめくった。
 するとアシュリーが、恥ずかしそうに両手で顔を隠した。

「ど、どうかしたの」

「い、いえ。その、なんとなく」

 なぜか気まずい反応をされ、ニケは再度布を被せた。

「なんでまた被せるんですかー!」

「いや、そっちのほうがいいかなって」

「お主ら、仲がいいのだな」

「そんなんじゃないだろ……」

 再度、布をめくった。
 アシュリーの腕は、ある程度動かせるようにはなっていたようだ。
 自分で起き上がると、馬車の側面に背を預けた。

「そろそろ出発するぞ」

 ミーチェは、御者席に移動すると手綱を握った。
 馬車の馬を走らせ、馬繋所を出た。
 村の中央の広場を右に曲がり、看板の並ぶ通りを抜けた。
 村の出口で、冒険者数名とルトがいるのが見えた。

「もう行くのか?」

 出口付近で馬を止めると、ルトが声を掛けてきた。

「あぁ。またどこかで会おう」

「西の魔女様に会う為なら、例え地の果てでも行くぜ」

 そういうと、ミーチェは笑った。

「ルトさん、またどっかで会ったら話そ」

 ミーチェの横から、ニケが顔をだした。

「あぁ、元気でな。そういえばお前さん、名前なんて言うんだ?」

「俺は、ニケ・スワムポール」

「その名前、覚えておくぜ」

 ミーチェは、またなっと声を掛けると馬車の馬を走らせた。
 馬車の後ろから、ルトたちが手を振るのが見える。
 ニケが手を振り返すと、シロが咆えだした。

「なんだ、シロもお別れの挨拶か?」

 御者席から、ミーチェがにやけながら横目に見ていた。

「そうみたいだな。可愛いやつめ」

 そういって、ニケはシロを撫でた。
 ニケたちは、王都を目指して旅を再開したのだった……。
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