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82話「支払われる女神の枷の代償と近づく王都と」
しおりを挟む夜空に流れ星が駆ける。
そんななか、ニケは夢を見ていた。
懐かしいようなそうでもないような夢を―――
―――夢の中でひとりの少年が、父親らしき男と手を繋いであるいていた。
夕焼けの見える丘の公園。
揺れるブランコの軋む音。
丘を撫でながら響く、夕方の鐘の音。
「さぁ帰ろうか」
父親らしき男が手を引きながら歩き出す。
それに続き、隣を歩く少年。
ニケは、遠くへと消えていくそんな2人を見ていた。
見覚えのある公園。
「ここは……昔近所にあった公園だっけ」
ニケは懐かしさを感じながら、公園を歩き出した。
丘から見える街。
夕焼けに照らされる街は、どこか寂しさを醸し出してる。
ふと、見慣れた家を見つけた。
「よくあそこから一緒に来たっけ」
思い出すと同時に、ニケの記憶に亀裂が入る。
「あれ?誰と来てたっけ……」
記憶が消えていくような感触を、ニケは味わっていた。
次第と頭痛がこみ上げてきた。
ふと、不安が胸を叩く。
「まさか、力の代償って……」
アテナが言っていた「力の代償」。
ニケは、それが記憶だとは思っていなかったのだ。
現実世界の記憶は、今のニケを成り立たせている。
では、その記憶が消えたら? ニケはどうなる。
思い出そうとしても靄がかかっていく記憶のなか、ニケは夢から覚めていくのだった―――
―――朝焼けが大地を照らす。
辺りの霧が肌寒さを感じさせる。
先に目を覚ましたのはガメリだった。
背伸びをしながら毛布を羽織ながら立ち上がる。
傍に寝ていたニケとシロを起こそうと近づく。
ふと、ニケが泣いているのをガメリは複雑な心境で見ていた。
自分の息子への後悔。
あの時こうしていれば。っとガメリはひとり目を伏せる思いだった。
広がる空が青みを帯び始めた。
鍋などを馬車に片付けると、ガメリはニケを起こした。
ニケは、自分が泣いていることに気がつくと、恥ずかしそうに頭を掻きながら笑った。
不器用に笑うニケに、ガメリは微笑み返す。
「さて、王都に向かうか! 朝から泣いていては西の魔女様が泣くぞ? がっははははは!」
「やめてくれよガメリさん。
師匠が恋しくて泣いてたわけじゃないからな!」
「ほほう?では、なぜ泣いておったのだ?」
「父の記憶が……無くなってたんだ。
どんな顔をしていて、どんな喋り方だったのかも全て」
「そりゃ何が起きたんだ?」
「んー。力を得る犠牲って言ったほうがいいのかな。
まさか記憶とは思ってなくて」
「なるほどな。まぁ、辛いことがあったら言うといい」
そういうとガメリは御者席へと座った。
シロと共に、ニケも馬車へ乗り込んだ。
向かう先は王都。
馬車は早朝の日の出と共に走り始める―――
―――すでに日が昇り、傾き始めた頃。
行きかう人々が増え始め、いろんな種族が見て取れる。
エルフ、ダークエルフ、ドワーフにフェアリー。
はじめてみる亜人種に、ニケの高鳴る胸は収まるところを知らなかった。
「ガメリさん! エルフだよ!」
「あぁ。エルフだな」
「ガメリさん! ガメリさん! ダークエルフだぜ?
クールな感じが堪らないぜ!」
「そうだな。ダークエルフだ」
「ガ、ガメリさん……ドワーフのおっちゃんだ!
やっぱ身長低いんだな!」
「おっちゃんかどうかわからんが、ドワーフだな」
「うおぉ!? すっげぇ! フェアリーだ!」
「ちっこく飛んでるやつだな」
既にガメリは空返事だった。
大興奮のニケに比べ、ガメリは王都に拠点を構える商人。
亜人種は日常的に見ているので、あまり興味を示さなかった。
照りつける太陽を手で隠しながら、ガメリは空を見上げた。
清々しいくらいの快晴。
流れ行く雲。
ふと感じる空腹。
「飯にするか」
馬車を街道沿いに寄せた。
御者席からガメリが中へと移動する。
水の入ったビンを片手に、馬のもとへと歩いていった。
相変わらずシロはあくびをして、ニケに擦り寄っていた。
馬車の中には木箱などが多く乗っており、揺れても音をたてないのを見ると中身は空のようだ。
その隅においてある布袋は食料が入っている。
中からパンと干し肉を取り出すガメリ。
ニケと自分の分を切り分ける。
パンに干し肉を挟むと豪快に噛り付く。
その様子を見ながら、ニケも真似をして噛り付いた。
互いの顔を見合い、笑いあいながらの昼食は、実に優雅な時間だと言えよう。
軽く昼食を済ませ、再び馬車は走り出す。
「さぁ、今夜中には王都手前まで行くか!」
「頼むぜ? ガメリさん!」
「任せろ、絶対に会わせてやるからな! がっははははは!」
ミーチェとアシュリーの待つ王都はあと少しだ……
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