夢にまで見たあの世界へ ~女性にしか魔法が使えない世界で、女神の力を借りて使えるようになった少年の物語~

ゆめびと

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87話「それぞれの考え事と夜食と散歩と」

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 ニケは泣き疲れたのか、そのまま寝てしまった。
 そんなニケの寝顔を、ほっとしたような表情で窺うミーチェ。
 
「こやつも、一皮剥けたようだな」
「そうですね。この間まであんなにはしゃいでる感じでしたね」
「そうだな。異世界から来たとはいえ、こやつはまだ子供。
私達がいろいろと教えてやらねばな」
「まずは言葉遣いですかね」
「それを言ったらきりがないぞ?」

 ふたりして部屋の中で笑いあい、ニケの今後について話すのであった。

 星達が空を楽しそうに駆ける。
 辺り一面に静けさとどこか寂しげな雰囲気が漂う。
 
 窓際に立ち、ミーチェは今後のニケに対しての考えをまとめていた。
 つまるところ、一番教えてあげなければならないのは言葉遣い。
 次に、人に対しての情け容赦。これはデオドラに対して、ニケが手を抜いたことから来ている。
 まぁ、人間相手に本気を出すのもな……っと、ミーチェは考えていた。
 なんやかんやで世話の焼ける弟子に、どこか愛着さえも感じているのである。
 
「さて、明日からいろいろと教えてやるか」

 そう呟くと、ベットへと入り眠りへとつくのだった。

 同時刻、アシュリーは屋敷の前の植木近くのベンチに座っていた。
 流れる星達は、死んでいった仲間へと同じ光を降らせているのだろうか。
 昔の仲間達の顔を思い出そうとするが、アシュリーの記憶の大半は失われている。
 残っている記憶は自分の名前、故郷、戦い方。それしか記憶にないことに、アシュリーは少し不安を募らせていた。
 
「もし、神様がいるなら。少しでいいので記憶を取り戻したいですね。
でも、今の生活が一番楽しいので昔の記憶なんていらなく感じてしまいます……」

 覚えていない過去。
 大切な記憶もあったはず。
 
「この生活が長く続きますように」

 星に願いを。
 
 その願いに応えるかのように、星達は夜空を綺麗に飾っていた。
 屋敷へ戻るアシュリーの足取りは軽く、どこかうきうきとしていた。



 皆が眠り、静まり返った屋敷。
 そんな屋敷の廊下を、腹を空かせた少年が歩いていた。
 窓から差し込む月明かり。
 どこか不気味な感じを漂わせる廊下。
 ニケは、台所を目指していた。

「やばい、夕食食べずに寝ちゃった……」

 空腹に鳴るお腹は、収まりどころを知らずただ食べ物を求めていた。
 暫く歩き、階段を降りる。
 そこで、偶然にも意外な人物と遭遇した。

「あ、王様」
「おぉ、お主か! 驚いたわい、てっきり妻かと思って腰を抜かすところだったぞ」
「それはごめん。でもなんで嫁さんだと驚くの?」
「それはだな……夜食を禁じられておるからじゃ!」
「な、なんだってー」

 文字に書いたような棒読み。
 少し互いを見合い、笑い合う。
 ニケと王様は気が合うようだ。

「して、お主も夜食か?」
「そうそう、夕飯食べずに寝ちゃって」
「ならば一緒に参るか」
「だね」

 ニケと王様は、同じ歩幅で台所へと向かった。
 
 台所で、手ごろな食材を集め、パンに食材を挟み互いに食す。
 美味しそうにパンを頬張るニケ。
 王様は満足そうな顔をしながら一緒に頬張っていた。
 
「美味しかったぁ」
「うむ。美味であったな」
「さてと、俺はもう一眠りするかな」
「ふむ。少年よ、暫し外を歩かぬか?」
「んー。食後の運動?」
「そうでもある。まぁ歩きながら話すとしよう」

 そう言って席を立つ王様。
 ニケはその後に続いて、台所を後にする。
 
 澄み渡った空気。
 優しく出迎えるそよ風。
 今宵もまた、二つの月が大地を照らす。

 ニケは王様と一緒に、外を歩き始めた。
 庭と言うには広く、歩いているだけでも疲れる。

「お主は少し、言葉遣いを直したほうがよいかもしれないな」
「ん? あー、それはちょっと思ってた」
「公衆の面前では、だがな。だが、今日のあれは周りからしたら目に余るものであっただろう」

 昼間の謁見の間の件についての話だと、ニケはすぐに理解した。
 それもそのはず、目上どころか一番上の立場に立つ者に対して敬語すら使わなかったのだ。
 王様が気にするのも仕方ないことである。

「こういう二人のときはいいのだがな。もう少し周りを気にしたほうが良いぞ?」
「わかった。これから気をつけるよ」
「うむ。わかればよろしい」
 
 暫くの間、王様と散歩をしながらいろんなことを話していた。
 黒髪の事については、王様は既に知っていたらしく、頷いて聞いていてくれたのだ。
 ニケは、自分が異世界にきたらやりたかったこと、これまでのこと、そしてミーチェと会えてよかったと話していた。
 そのことに対し、王様はなぜ弟子入りをしたのかっと疑問に思っていたが、ニケが魔法かっこいいからっと言ったので納得していた。
 
 男の身でありながら、魔法をつける存在。
 いつしか、王様はニケに興味を抱いていた。

「魔法学校は楽しみか?」
「楽しみではあるよ。だけど、俺以外みんな女なんだろ? 少し気まずいや、あはは」
「そこまで気にすることはない。男で唯一魔法が使えるのだ、胸を張って行くが良い」
「うん。でも、師匠とかと会えなくなるのが寂しいかな」
「そういう時は戻ってこればいい。学校にも外出届けを出せば大丈夫であろう」
「まぁ、そのとき考えるよ」
「うむ」

 その後も、一緒に星を眺めながら王様と話をしていた。
 ニケにとって、王様は偉大な人であり、自分より人間関係を熟知している。
 王様の話す一言一言に意味があり、そして説得力がある。
 
「さて、身体も冷えてきたことだ。そろそろ戻るか」
「俺はもうちょっとここで星を見てるよ」
「そうか。では、また話そうぞ少年」
「俺の名前はニケだよ、王様」
「はっははは。名を名乗るのは初めてであったな、すまないなニケ。
わしの事はヒューズで良いぞ? だが、それは二人の時だけだ」
「わかった、おやすみヒューズさん」

 ニケの言葉に対しヒューズは頷き、歩き出した。
 一国の王と対等に話をしているニケ。
 それは誰しもが夢に見ることであり、光栄なことでもあった。
 果たしてニケにとって、王様との話は普通の会話で終わってしまうのだろうか。
 今後のニケの成長に皆が期待を寄せる中、夜は更に深みを増していくのであった。
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