夢にまで見たあの世界へ ~女性にしか魔法が使えない世界で、女神の力を借りて使えるようになった少年の物語~

ゆめびと

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88話「朝の運動と話し合いと」

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 澄み渡る朝のにおい。
 冷え切った大地を朝日が暖め始める。
 朝霧が輝かしく日の出を飾る。

 屋敷の前でひとつの人影が大剣を振るう。
 汗を掻かず、息も上がらず。
 その身体は人間のものとは比にならないほどの身体能力を有す。
 
 アンデットとして再び地を歩くことができるようになったアシュリー。
 今更剣の修練などっと思うかもしれない。だが、剣は振るわない分衰えていくもの。
 毎日の鍛錬こそ己を高めるものであり、アシュリーにとっては日常となりつつあるものでもある。
 
「ふぅ、そろそろニケさんたち起こしにいきますか」
 
 大剣を仕舞い。
 踵を返し、屋敷へ。

 女中もまだ起きていないのか、屋敷の中は静かである。
 アシュリーは階段を上り、ニケの部屋を目指す。
 途中すれ違う女中メイドたちに挨拶を交わし、笑顔で振舞う。
 逆に笑わないと死人のような顔になるからだ。死んでいるが故に。

 アンデットの身体は軽く、そして丈夫である。
 筋力の枷も外され、常人外れの力さえも使える。
 だが、肉の身体の喜びはない。
 睡眠、食欲などといった欲求がないのだ。
 それ故に夜は暇つぶしに大剣を振るい、屋敷を警備して過ごしていた。
 ここ最近では、王都で生活していることもあり、夜の巡回の警備兵とも話していることもある。
 城の兵士の中で、アシュリーが人気なことは本人が知ることはないだろう。
 アシュリーと話ができる。それだけの為に、夜番を引き受ける者までいるのだとか。
 
 扉の前で、アシュリーは深呼吸をしていた。

 扉を叩き、入る。

 ベットの上には1匹と2人がいた。
 そう、シロを枕にニケとミーチェが寝ているのである。
 シロが大きくなっていることに驚きながら、アシュリーは重たい足取りで近づいていく。

「起きてくださいッ!!!」

 その声が、屋敷の外へと響き渡ったことは言うまでもない。

 ニケはアシュリーの大声で起こされた。
 横にはミーチェ、そして枕になっているシロ。
 
「なんでシロが? それよりもなぜ師匠が……」

 ここ最近シロが勝手に召喚される現象が起きている。
 それよりも問題なのは、ミーチェであった。
 
「ニケさん。ミーチェさんとそんな関係に……っ!?」
「いや、寝るときはいなかったよ?」
「では、なんでミーチェさんがいるんですか!」
「んー、シロがいたから枕にするため?」

 はぁっとアシュリーは溜め息をこぼす。
 当の本人は未だに夢の中である。
 暫くすれば起きるだろうと、ニケとアシュリーは先に下に下りるのであった。

 台所では女中達が忙しそうに料理を作っている。
 その横の部屋で、王様が眠そうな目を擦りながら紅茶を啜っていた。

 長い机、人数よりも多い椅子。
 開いた窓から吹き込む風。
 一人お茶を楽しむ王は、どこか優雅に見えた。

「おぉ、ニケに魔女の付き人ではないか」
「おはようございます、王様」
「昨晩はありがとうございます、王様」
「ッ!?」

 突然のニケの言葉遣いに、アシュリーは肩を揺らしてまで驚いていた。
 驚くのは無理もない、むしろ驚いて当然だろう。

「ニケさん、いつから敬語を嗜んで……」
「あぁ、昨晩王様と一緒に散歩してさ、いろいろ教わったんだよ」
「王様とも仲良くなってますし……」
 
 唖然とするアシュリー。
 
 王の横に、ニケが自然と座りいろいろと話し始めた。
 アシュリーからみる2人は友人のようにも見えた。
 流石に王が楽しそうに話をしているのを邪魔するわけにはいかないと、アシュリーは一礼をするとミーチェを起こしに部屋を後にした。

「して、西の魔女は?」
「まだ寝てるよ、俺の相棒を枕にして……」
「相棒? 他に客人はいないはずだが」
「たぶん師匠と一緒に降りてくるよ」
「ふむふむ、それは楽しみであるな」

 2人はわいわいと話をしているが、相棒とはシロのことであり大きな狼である。
 その後、ミーチェとアシュリーの後ろを4m程のシロが付いてきて、王が卒倒しそうになったのは言うまでもない。

 朝食を食べ終え、王は城へと向かった。
 「また夜にシロの話を聞かせてくれ」そういい残して。
 そして、残った3人と1匹。

「ニケ。前から思ってはいたのだがな、お主は喋り方を直したほうがいいと思うぞ」
「あの、ミーチェさん。さっきニケさんが王様に敬語使ってましたよ……?」
「……ふぇ?」

 驚きを通り越して、阿呆な声を漏らしていた。
 それから、ニケは昨晩の話をミーチェとアシュリーに話し、今後は気をつけると意気込みを語った。
 静かに頷くミーチェ。
 微笑みながらアシュリーがシロを撫でる。

「それなら大丈夫だな」
「心配してたの?」
「いや、そろそろ注意せねばなと思ってな」
「まぁ、今後は気をつけるから」
「そうだといいのだがな」

 心配していないと言うと嘘になるなっとミーチェは考えながら、ニケの話を聞いていた。
 そして今後のニケが、魔法学校に入学する事についての話し合いが始まった。
 
「正直言えば、私の下で教えてやりたいのだがな」
「師匠がここに来た理由は協会絡みでしょ?」
「そうだ。だから、その間だけでもと思ったが、行くと決めたなら最後まで学んで来るがいい」

 結論としては賛成のようだ。
 魔女の役目として、協会が攻めてきた場合の王都の防衛。
 それがある限り、ニケの面倒を見ることができないのだ。
 「そう早くは攻めては来ない」っとミーチェは言うが、実際のところはわからない。
 話し合いはすぐに終わり、ミーチェは学校での約束事を設けた。

「魔法学校には学科がいくつかある。
ひとつ、魔法科。これは直筆詠唱から呪文詠唱までが学べる。
たぶんニケはこの科に入れられるだろう。
ふたつ、錬金術科。
みっつ、召喚術科。
そして、最後。精霊術科。
才能がない限り錬金術や召喚術は普通覚えれないのだ。
お主の場合は、”黒髪”だからっという理由で片付くが、普通なら4つとも使えるなんておかしい」
「いわれてみれば、ニケさん全部使えますよね? 死霊術は別としても」
「そうだ。だから逆に利用価値があると考えられると厄介だ。
だからニケ、直筆詠唱以外使わないように」
「んー、わかった。その場合シロを出すのもだめなんだよね?」
「部屋とかなら構わん。だが、他人に見られるのだけは避けるのだ」
「わかった」

 他に約束事はなく、すぐに話し合いが終わった。
 アシュリーは席を立ち、女中達の手伝いに行くと言った。
 ミーチェはニケと少し話があると言い残し、アシュリーを見送った。
 
 場所を移し、屋敷の外へ。
 既に日が昇りそこそこ暖かい。

 ニケとミーチェは植木の横のベンチに座る。
 シロはその足元で寝転がっていた。

「これから少し修行に付き合おうと思ってな」
「修行? 魔法の?」
「いや、近接戦のだ。学校でなにかしらあったときに、魔法以外での対処なども求められる。
そのために、錬金術なしの近接戦の練習をと思っててな」
「なるほど」

 先ほどの約束事の内容で魔法以外の使用禁止がある。
 その場合、錬金術が使えないため素手での対処となる。
 修行と言っても、ニケは近接戦と魔法を組み合わせた戦闘をしてきた。
 今更と思うが、相手がミーチェと言うこともあり、ニケにとって不足のない相手でもある。

「師匠が相手なら楽しそうだな」
「手は抜かないからな?」
「あはは、望むところさ!」

 こうして、ニケの近接戦強化週間が始まろうとしていた。
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