夢にまで見たあの世界へ ~女性にしか魔法が使えない世界で、女神の力を借りて使えるようになった少年の物語~

ゆめびと

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89話「つまらない王政と闘志に燃える闘技場と」

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 日が真上に差し掛かる時。
 ニケとミーチェは兵舎の傍にある闘技場にきていた。
 もともとは貴族たちが競い合う場として賑わっていたが、近年はそういう催し物がなく、兵士達の訓練などで使われるようになっている。
 
 360度を覆う観客席。
 中央に設けられた広々とした戦場。
 足元は砂で覆われ、観客席までの壁の高さは5mと高い。

 そんな闘技場で、ふたりは向き合っていた。

「王から許可を貰った。今日から入学試験までの一週間、ここを鍛錬に使っても良いとのことだ」
「王様も景気いいな。これだけ広いなら暴れても大丈夫そうだ」
「最初は魔法の使用は禁止だからな?」
「まじかよ。俺楽しみにしてたのに!」
「基礎が出来てなくて実践なんてできるものか」

 言い終えると同時に、ミーチェは詠唱を始める。

「“漆黒の闇に命ず。
汝、我との契約の元。その姿を見せたまえ”!
我が元に来たれ! ギルティーサイス!」

 魔方陣が展開されると同時に、その手には2mの大鎌が握られていた。
 いつもながらの大きさに、ニケは唾を飲んだ。
 
 素手と大鎌。
 
 簡単に推測すれば、大鎌の方が有利である。
 しかし、ニケに対してその大鎌が猛威を振るうかっと、聞かれたらなんとも言えない。
 
 両者が見合い。
 無言のまま肉薄した!



 城の中はなにやら騒がしかった。
 行きかう兵士達が、口先に“闘技場へ行くぞ”と言っているからだ。
 正直なところ、今すぐにでもこの会議を放り投げて見に行きたい気持ちを抱く王。

「最後に、これが今月の税の合計です」
 
 紙を渡すや、別のテーブルに座る側近達にも配り始める男。
 渡された紙を見ると、そこには毎月より大幅に少ない税が記されていた。
 それを見るや側近達の顔に不安の表情が浮かぶ。
 当然の事ながら、国を動かしたりするのにお金は必須。
 外壁の補強や、兵の食用事情、他にも街の治安強化やいろんなことに使われる。
 
 背伸びをし、再び見る。
 そして揺るがぬ現実。

「さて、どうしたものか。
今月に入ってから何が起きたのかわかっている者はおるか?」

 王の呼びかけに、側近達は顔を逸らす。
 誰しもが知っていることだろうっと、王は「愚問だったな」とだけこぼした。
 つもるところ、協会が王都に攻めてくるとでも噂になったのだろう。

「民が避難を始めているわけか……」

 その言葉に、側近達の目線が集まる。
 王はどうするのかっと、その目は語っていた。
 
「考えていても仕方がない、魔女達の到着を待つのだ。
これにて会議は終了とする」

 王が終止符を打つと、側近達は立ち上がり一礼をする。
 そのまま王は席を立ち、闘技場へと向かうのだった。

 闘技場に入り、驚く。
 兵の多さ、熱気、歓声。
 
 その全てが降り注ぐ先に彼等はいた。
 
 見惚れるような回避。
 大鎌を流し、打ち返す拳。

 ニケの戦い方が、兵士達を刺激したようだ。
 大鎌相手に、素手で挑む少年。
 見るものを惹きつけ、釘付けにする。
 通りかかった貴族でさえ目を奪われていた。
 王は頷くと、闘技場にある自分の席へと歩き始めた。



「「「おおおおおおおッッッ!!!」」」

 響き渡る歓声。
 歓声など聞く暇もない。
 大鎌を流し、避ける!

 その動作の中で、隙を見つけては殴りかかる。
 だが、殴りかかるときの動作が大きいため、ミーチェにすぐさまかわされる。

「師匠ッ! よけないでよねッ!!」

 大鎌を流す。
 その隙に蹴りを入れる!

「脳筋の考えることなんてッ! すぐにわかるものさッ!」

 地に刺さる刃を利用し、反対側へと滑るように移動する。
 それだけでもすごい技術だと言えよう。

 大鎌を伝い、反対側へと廻った。

 観客にはそう見えているだろうが、実際には大鎌を軸に跳んだだけである。
 両者の戦闘は早すぎて見えない部分も多いが、少数の兵士には見えるようだ。
 その目がひとつひとつの行動を追っている。
 
「もう何時間やってるんだッ?」
「わからん。だが、参ったというまで続けるぞッ!」

 刃を抜き、払う。
 遅れて伝わる衝撃。
 
 ニケが刃を蹴り上げ、肉薄していた。
 そのまま、ミーチェの腹部へと拳を入れる。

「「「おおおおおおッッッ!!!」」」

 それだけでこの歓声。
 観客の大半が認めるであろう、この技術の高い戦闘。
 
「っく……。ニケ、今躊躇しだだろう?」
「いや、だって師匠殴るのに抵抗が……」
「それでデオドラに負けたのではないのか?
人間相手でも手を抜くな、いいな?」
「わかったよッ!」

 返事するや、肉薄し回し蹴りをお見舞いする。
 バランスを崩し、すぐに体勢を直すミーチェ。
 
 再び見合う両者。
 そしてぶつかり合う拳と大鎌。

 ニケがお腹すいたと言い出すまでの間、繰り返し鍛錬が行なわれた。
 満足そうな顔をしながら、余熱に浸り、語り合いながら帰路に着く兵士達。

「あれは興奮するわ!」
「だよな! 素手であそこまで戦えるなんて」
「しかも、相手はあの“西の魔女”!」
「これから一週間見れるなんて、俺も強くなりてぇ!!」

 語り合いながら、意気込む者、上を目指したがる者。
 それを嬉しそうに眺めながら、王は2人の下へと歩き出す。



 ニケは地に寝そべり、肩で息をしていた。
 その横に、満足そうな顔をしながら座り込むミーチェ。
 そして、2人の下に王がやってきた。

「2人ともご苦労であったな、兵にもいい薬になっただろう」
「あ、王様。いえいえ、師匠と遊んでただけですよ」
「遊んではないぞ? あれは修行だからな?」
「はっははは! 愉快でよろしい!」

 ニケは身体を起こすと、ミーチェを見て笑いかけた。
 この馬鹿がっと、ミーチェは溜め息をこぼす。
 
「さて、わしも空腹じゃ。そろそろ屋敷に戻るとしようか」
「俺もお腹すいた……」

 ニケは起き上がり、王と共に歩き出した。
 その後ろを、肩を回しながらミーチェが続く。

「今夜はなんだろう、肉がいいな!」
「ふむ。今夜は魚の炒め物だと言っておったぞ?」
「えぇ……肉食べたかった!」
「魚も美味いものだ、何事も好き嫌いがあっては成長しないのだぞ?」

 そんなやり取りをするニケと王。
 ミーチェは微笑ましく思いながら、2人と共に屋敷に戻っていくのであった。
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