夢にまで見たあの世界へ ~女性にしか魔法が使えない世界で、女神の力を借りて使えるようになった少年の物語~

ゆめびと

文字の大きさ
91 / 93

90話「夜食と散歩と鍛錬と」

しおりを挟む

 晩御飯を食べ終え、そして皆が眠りについた時間。
 
 扉を開け、周りを見渡す。
 月明かりのみが照らす廊下。
 
「……だれもいないね」

 皆が寝ていることを確認してから、彼は廊下へと足を踏み出す。
 
 目指すは台所。

 小腹が空いたこともあり昨晩と同じ、台所にて夜食を食べようとしているのだ。廊下を歩く際に、足音が立たないように気をつけながら、一歩、また一歩と歩みを進める。
 そして、階段を降りようとしたとき、暗がりに見覚えのある人影を見つけた。

「お主か、心臓が止まるかと思ったぞ」
「それはこっちのせりふだよ」
「夜食か?」
「うん、王様も……だよね」

 目線の先には、お腹が鳴るのを隠そうとする王。
 
 互いに頭を掻き、歩き出す。
 目指すは台所。
 彼等の憩いの場である。

 そこそこの広さの部屋に、かまど、洗い場、そして食材庫がある。その中央には、出来た料理を置くであろう大きな机が置かれている。
 ニケは部屋の端にある椅子を二つ持ってくと、王がその間にパンとハムを持ち出してきていた。
 机の上に食材を並べ、ハムを切り、挟む。
 そして、互いに持ち上げ食欲に身を任せ食べ始める。
 ニケにとってこの時間がここ最近の楽しみでもあった。
 親身になって相手をしてくれる王から漂う、父親の愛情にも似た優しさ。
 父親の記憶を失ったニケでも、その優しさはありがたいものだった。
 暫くの間、パンに夢中になっていた両者。
 
 食べ終え、手を合わせる。
 そして、見合い、笑い合う。

「お主も小腹を空かせるとはな」
「俺だってお腹空くもん」
「晩の飯は少なかったのか?」
「いや、あれはあれで満足したけど、これはこれだよ?」
「そうかそうか。わしは外を歩くが、お主はどうするのだ?」
「あー、俺も散歩しよっかな」

 恥ずかしそうに笑い、そして席を立つ。
 共に外にでて、共に歩く。

 星空に雲が架かり始め、あまり外は明るくなかった。
 2人は一緒に歩き、そのまま城の中央の噴水にまで来ていた。
 噴水の端に座り込む。そして、一息つく。

「今日の闘い見事であったぞ。わしもつい見入ってしまった」
「そうなの?」
「うむ。あの大鎌を流す技術、それによくは見えなかったが反撃するときの拳の早さ。
どれを見てもお主の戦闘能力の高さが凄いとわかる」
「そんな褒めても何もでてこないよ」
「はっははは。本来はあそこに魔法が加わるのだろう?」
「それはもうちょっとしてからだってさ」
「ふむ、まぁ明日も頑張るが良い」

 その後、ニケと王は今日の鍛錬の話しで盛り上がり、暫くしてから屋敷へと戻ったのであった。



 枕元のもふもふが気になり、ニケは目を覚ました。
 
 毛に埋もれる視界。
 まだ見慣れぬ天井。
 そして、怒りに肩を震わせるアシュリー。
 
「なんでまたミーチェさんとシロさんと寝てるんですか!」

 朝一番の怒鳴り声。
 その声に耳を動かすシロ。
 今だに、夢の中にいるミーチェ。

 ニケは身体を起こし、眠そうにあくびをした。

「いや、俺にもわからん。故になにも言えん!」
「開き直らないでください!」

 とりあえずシロとミーチェを放置して部屋を出る二人。
 台所を通り過ぎ、食卓の並ぶ部屋へ。
 王はまだ起きていないのだろうか、誰もいない部屋に料理が並んでいるだけであった。
 別に待っていなくてもいいっと、アシュリーは言い残してどこかへ言ってしまった。

 椅子に座り、料理に手を出す。

 やわらかめのパンにコンソメスープといったシンプルな朝食だ。
 王宮で振舞われる料理はどれもがニケの胃を虜にする。
 濃い味付けのコンソメスープはここ一番のものであった。
 満足した顔をしながら、ミーチェの起床を待っていたニケは、いつの間にか寝てしまっていた。

 起きた頃には、食器などが片付けられており、シロが足元で寝ていた。
 
「やべ、寝ちゃってた」

 ミーチェはどこにいるのだろうか、シロが足元にいるということは起床したことは間違いない。 
 シロは枕にされるとしばらく寝ていることが多いので、移動していることが何よりの証拠ともいえよう。
 
「やっと起きたか。早く闘技場に行くぞ」

 部屋の入り口から、ミーチェが呆れた顔をして話かけてきた。
 ニケは返事をすると立ち上がり、シロを指輪に戻す。
 そして、屋敷を出て闘技場へと向かう。

 途中、兵士達とすれ違う。
 皆、目が合うと会釈する。
 
「なんで、俺挨拶されるの」
「昨日の鍛錬でも見ていたのだろう。それなりに認められたということだ」
「なるほどね」

 暫くして闘技場に付く。
 
 催し物などないのにも関わらず人だかりが出来ている。
 どうやら非番の兵士達が見物にでも来たのだろう。
 その中には、いかにもお嬢様と言えようドレスを着ているものや、高そうな身のこなしをしている者。
 そして、なぜか王とアシュリーまでもがいた。
 
「おぉ、やっときたか。今日も楽しませてくれるのだろう?」
「王、私たちは遊びでやっているわけではないのだぞ」
「わかっておる、まぁ頑張るのだぞ!」
「ありがとうございます、王様」

 挨拶を終え、中へ。
 
 観客達が席に座り、互いに盛り上がりながら話をする。そして、ニケとミーチェが中央へと現れる。
 それだけで客席に緊張が走る。
 アシュリーはひとり、中央に見える両者を心配そうに眺めていた。
 ミーチェが大鎌ギルティーサイスを出し、ニケも構え始める。 
 そして、無言のまま鍛錬が始まった。
 
 刹那、大鎌が消える。
 
 それだけミーチェの振るう力が凄いものだとわかる。だが、それすらもかわすニケの知覚能力もかなりのものであると言える。
 立て続けに2度、3度消える大鎌をまるで落ち葉を避けるかのように見切るニケ。
 華麗なるニケの回避劇。それは観客達に鳥肌を立たせるほどの興奮を与えるものであり、一斉に歓声をあげさせた。
 中には名前を叫ぶ者までも現れ始めた。
 
 距離を置き、互いに見合う。

 先に動いたのはニケだった。一歩踏み出したかと思えば、既に肉薄していた。
 繰り出される拳のひとつひとつが力強く、そして踏ん張る足からわかるその一撃の重さ。腰の入った拳ほど、ダメージの大きいものはない。
 だが、大鎌の柄によって直接的な攻撃には至らない。ましてや、その間に繰り出される攻撃に、一歩たちとも退かぬニケの立ち振る舞いは、まるで猛闘志とでも言おう。
 退かぬ当たらずの攻防、見ている者たちにまで手汗を滲ませるようなたたかいだ。

「昨日と違って、今日はハードだね!」
「これくらいでないと楽しくなかろうに」
「ははは、それは言えてるや」

 楽しそうに話しているが、手は休まず、止まらず。
 俊敏に流し、よけるニケに対して隙のない連撃を繰り出すミーチェ。
 鍛錬と呼ぶには程遠い、卓越した戦闘。
 歓声と熱気の溢れ返る中、彼らの鍛錬は続くのであった。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...