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蘇る恋情Side大貴
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彼女からの連絡が唐突に途絶えてから、1年。
偶然見かけた彼女を諦められなくて、僕は池袋の街であてもなく、ふらふらと彷徨っていた。
僕を見て怯えたように、体をすくませた彼女。どこか探るような視線に、心がしんと冷えた。彼女の中で僕は、完全に終わっているのだと思いしらざるをえなかった。
仕方がない、と思いながら、苛立ちもある。
かつてのどうしようもない恋情が蘇って、胸が締め付けられる。ようやく焦げ付くような、想いにふたをできたと思っていたのに。
勝手な彼女のことなど完全に忘れてしまえればよかった。
「会えるわけ、ないよな……」
こんな人ごみの多い池袋の街で偶然なんて早々起きるはずがない。だが、今日を逃せば、それこそ会える可能性なんて、皆無に等しくなる。そもそも僕と会うのが気まずくて、この駅を彼女が利用しなくなってしまう可能性だってあるのだ。
知らず重いため息が出た。
それでも、あの時のカフェに足を延ばしてしまったのは、最期の未練だったのだろう。
***
その姿を見た瞬間、雷に打たれたように僕は立ちすくんだ。
―――天音、さん。
胸が震えた。もう、会えないと思っていたその人は、出会ったあの時のように、難しい顔をして、手帳を見つめていた。鼓動が大きく脈打つ。
逃げないで、お願いだから逃げないで、心の中でそう念じながら、彼女に僕はそっと近づく。怖がらせないように、極力声を柔らかくして、僕は物思いにふける天音さんに声をかけた。
「――もう、用事は終わったんですか?」
その声はみっともなく震えていた。
「……っ!」
驚いて、彼女が立ち上がろうとする。
「逃げなくたって、いいじゃないですか。もう、一年も前のことですよ?」
自分で言いながらその言葉の痛さに顔をしかめそうになった。その一年も前の出来事にいつまでも囚われているのは誰だ。
「……そうね、ごめんなさい。」
どうぞ、と彼女は向かいの席置いていた荷物を寄せると、僕に座るよう促した。
「本当に久しぶりですね。」
「ええ……」
彼女の表情は硬い。
「今は何をされているんですか?僕は相変わらずな感じなんですけど。あはは」
僕の空笑いに付き合うこともなく、彼女は淡々としている。
「職場は変えたけれど、まだ広告の仕事を…。」
「そうなんですか。なら、よかった。」
「よかった?」
「あ、いやへんな意味じゃなくて。」
怪訝そうな顔をする彼女に僕は慌てた。
「すごく一生懸命仕事していたから…。」
「――あなたには、そう見えていたんですね。」
ふ、と彼女が寂しげな微笑みを見せた。
懐かしい、その笑顔に、過去の記憶が刺激された。この、どこか儚げな表情に、いつも胸が締め付けられた。お願いだから、僕を見て、何度そう叫びそうになったことか。
ふと机の上に携帯が置いてあるのに、気が付き、僕は目をそらす。あの頃、その携帯は僕と一緒の時でも机の上に常にあった。そうして、目障りな着信を告げるランプがチカチカチカチカと目を刺す。見たくもないのに、僕に思い知れと言わんばかりに、何度も、何度も、何度も――。
あの日に置いてきた、焦げ付くような感情に、息が詰まる。
「――だい……深谷さん?大丈夫ですか?」
「あ、ええ、大丈夫ですよ。」
心配そうに顔を覗き込む、彼女の表情は昔のまま。気が強く、ドライに見えるけれど、本当は気遣いやで、誰よりも繊細な人。
「心配かけちゃってすみません。仕事でちょっと疲れてるのかな。」
「それなら、早く休まないと…」
「ええ…そうなんですけど、名残惜しくて」
彼女が息を止めたのが分かった。
「迷惑かもしれないですけど、もしよければ、また会っていただけないですか。今度は友人として。」
「……………それで、あなたはいいんですか?」
「僕、今度女の子の後輩ができたんですけど、色々教える才能ないみたいで。よければ、女性の友人が欲しいと思っていたところなんです。」
思ってもいないことを言う。未練たらたらのくせして。でも、そうでも言わなければ、彼女は僕と会うことを承諾しないだろう。
「………駄目、ですか?」
天音さんは悩んでいるようだった。僕は内心の焦りを押し隠し、彼女の回答を待つ。
「―――あなたが、それでいいのなら。」
しばらくして、彼女は戸惑いがちにそういった。
偶然見かけた彼女を諦められなくて、僕は池袋の街であてもなく、ふらふらと彷徨っていた。
僕を見て怯えたように、体をすくませた彼女。どこか探るような視線に、心がしんと冷えた。彼女の中で僕は、完全に終わっているのだと思いしらざるをえなかった。
仕方がない、と思いながら、苛立ちもある。
かつてのどうしようもない恋情が蘇って、胸が締め付けられる。ようやく焦げ付くような、想いにふたをできたと思っていたのに。
勝手な彼女のことなど完全に忘れてしまえればよかった。
「会えるわけ、ないよな……」
こんな人ごみの多い池袋の街で偶然なんて早々起きるはずがない。だが、今日を逃せば、それこそ会える可能性なんて、皆無に等しくなる。そもそも僕と会うのが気まずくて、この駅を彼女が利用しなくなってしまう可能性だってあるのだ。
知らず重いため息が出た。
それでも、あの時のカフェに足を延ばしてしまったのは、最期の未練だったのだろう。
***
その姿を見た瞬間、雷に打たれたように僕は立ちすくんだ。
―――天音、さん。
胸が震えた。もう、会えないと思っていたその人は、出会ったあの時のように、難しい顔をして、手帳を見つめていた。鼓動が大きく脈打つ。
逃げないで、お願いだから逃げないで、心の中でそう念じながら、彼女に僕はそっと近づく。怖がらせないように、極力声を柔らかくして、僕は物思いにふける天音さんに声をかけた。
「――もう、用事は終わったんですか?」
その声はみっともなく震えていた。
「……っ!」
驚いて、彼女が立ち上がろうとする。
「逃げなくたって、いいじゃないですか。もう、一年も前のことですよ?」
自分で言いながらその言葉の痛さに顔をしかめそうになった。その一年も前の出来事にいつまでも囚われているのは誰だ。
「……そうね、ごめんなさい。」
どうぞ、と彼女は向かいの席置いていた荷物を寄せると、僕に座るよう促した。
「本当に久しぶりですね。」
「ええ……」
彼女の表情は硬い。
「今は何をされているんですか?僕は相変わらずな感じなんですけど。あはは」
僕の空笑いに付き合うこともなく、彼女は淡々としている。
「職場は変えたけれど、まだ広告の仕事を…。」
「そうなんですか。なら、よかった。」
「よかった?」
「あ、いやへんな意味じゃなくて。」
怪訝そうな顔をする彼女に僕は慌てた。
「すごく一生懸命仕事していたから…。」
「――あなたには、そう見えていたんですね。」
ふ、と彼女が寂しげな微笑みを見せた。
懐かしい、その笑顔に、過去の記憶が刺激された。この、どこか儚げな表情に、いつも胸が締め付けられた。お願いだから、僕を見て、何度そう叫びそうになったことか。
ふと机の上に携帯が置いてあるのに、気が付き、僕は目をそらす。あの頃、その携帯は僕と一緒の時でも机の上に常にあった。そうして、目障りな着信を告げるランプがチカチカチカチカと目を刺す。見たくもないのに、僕に思い知れと言わんばかりに、何度も、何度も、何度も――。
あの日に置いてきた、焦げ付くような感情に、息が詰まる。
「――だい……深谷さん?大丈夫ですか?」
「あ、ええ、大丈夫ですよ。」
心配そうに顔を覗き込む、彼女の表情は昔のまま。気が強く、ドライに見えるけれど、本当は気遣いやで、誰よりも繊細な人。
「心配かけちゃってすみません。仕事でちょっと疲れてるのかな。」
「それなら、早く休まないと…」
「ええ…そうなんですけど、名残惜しくて」
彼女が息を止めたのが分かった。
「迷惑かもしれないですけど、もしよければ、また会っていただけないですか。今度は友人として。」
「……………それで、あなたはいいんですか?」
「僕、今度女の子の後輩ができたんですけど、色々教える才能ないみたいで。よければ、女性の友人が欲しいと思っていたところなんです。」
思ってもいないことを言う。未練たらたらのくせして。でも、そうでも言わなければ、彼女は僕と会うことを承諾しないだろう。
「………駄目、ですか?」
天音さんは悩んでいるようだった。僕は内心の焦りを押し隠し、彼女の回答を待つ。
「―――あなたが、それでいいのなら。」
しばらくして、彼女は戸惑いがちにそういった。
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