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あの日の記憶

第42話 ひろし、活躍する

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 その頃ミルネの前では、イリューシュとめぐとおじいさんが黒のメンバー相手に善戦をしていた。

「おじいちゃん、詠唱するから足止めおねがい!」

「はい!」

 シャァァアアア……、ガオォン!

 おじいさんは敵の弓使いに石を投げつけると弓を吹き飛ばした。

「聖なる雷を司る者たちよ。我にその慈悲と慈愛を与えたまえ。清く正義の力をもって嘆願する。あの者に裁きの雷を!」

 ガガガーーン!

 弓使いは大きくダメージを食らうと突然、逃走を図った。

「あ! めぐちゃん、うしろ!」

 おじいさんが大声で言うと、めぐの背後にひそんでいた斧の騎士が襲い掛かっていた。

「きゃぁ!」

 イリューシュとおじいさんはそれを見ると、同時に斧の騎士へ攻撃した。

 ヒュッ、ヒュッ……、ドドッ!

 シャァァアア……ガン!

 イリューシュの矢も、おじいさんの石も見事に急所をとらえると、斧の騎士は大きく後ろへ倒れた。

 ドシャッ!

 イリューシュはステップを踏んで体を反転させると、逃げようとしている弓使いを狙った。

 ヒュッ、ヒュッ……、ドッ、ドッ!

「聖なる雷を司る者たちよ。あの者に裁きの雷を!」

 ガーン!

 そこへ、めぐは小呪文で追い打ちをかけると、逃げようとした弓使いは消滅していった。


 しかしその時、大ダメージを受けて倒れていた斧の騎士が立ち上り、大声で叫んだ。

「革命を! 革命を成功させるんだぁぁあああ!!」

 おじいさんは立ち上がった斧の騎士に向かって投球フォームに入ると、斧の騎士は咄嗟とっさに斧でガードした。

 シャァァアア……ググッ!

 しかし、おじいさんはガードしたのを見て即座に指のにぎりをずらし、微妙に石の軌道を変えていた。

 ガツッ!

 おじいさんの放った石は斧の騎士のひざを撃ち抜くと、斧の騎士はたまらず前に倒れた。

 ドシャッ

 斧の騎士はHPを減らして危険な状態だったが、また再び立ち上がろうとした。

「負けん! 負けんぞぉぉぉ!! 革命がおれたちの生きる意味なのだぁぁあああ!」

 すると、オロチの大弓に切り替えたイリューシュが8本一束になっている矢を引き絞った。

「そのお気持ちには敬意を表します。ですが不正は許しません」

 イリューシュはそう言うと矢を放った。

 ゴォーン!

 ヒャァァ……ドドドドドドドド!

 イリューシュの放った8本の矢は全て斧の騎士に突き刺さって吹き飛ばした。

「マリ……様……」

 斧の騎士はそう言い残すと消滅していった。


 おじいさんたちは斧の騎士を倒して回復薬を飲んでいると、腕に白い布を巻いたプレイヤーたちが走ってやって来た。

「お疲れ様です。株式会社イグラア営業部の山下です。大丈夫ですか?」

 するとイリューシュが答えた。

「はい、こちらは大丈夫です。状況はいかがですか?」

「今のところ、戦力は拮抗きっこうしていますがハッキングの遮断作業しゃだんさぎょうを開始することができました。もう少しです」

「そうですか。それならば無理に倒さず時間を稼いでも良さそうですね」

「はい、しかし2名の強敵が報告されています。カワセミとミドリというプレイヤーです」

 イリューシュはその名前を聞くと驚き、少し笑いながら答えた。

「そうですか。おそらく、この世界では最強レベルの2人ですね。ふふふ」

 その会話を聞いていためぐはイリューシュに尋ねた。

「その2人、そんなに強いんですか?」

「ええ、最強の姉妹です。1人ずつならわたしでも戦えますが、2人一緒だと勝てるかどうか……」

「ええ!?」

 めぐはイリューシュの言葉に驚いた。

「イリューシュさんが勝てないなんて、怖いですね」

「この世界は脳のイメージで動くので現実世界の能力が反映されます。2人とも現実世界のアスリートなんです」

「現実世界のアスリート……、ですか?」

「ええ。ミドリはアーチェリーの日本代表選手で、この世界では弓使い。カワセミはフェンシングの強豪校トップ選手で、この世界では騎士です」

 その時、イリューシュにボイスチャットが入った。

「エージェントのだれでもいい、社長をフォローしてくれ! カワセミとミドリの姉妹と戦っている!」

 それを聞いたイリューシュは、矢を補充しながら言った。

「わたしは社長を助けに行ってきます。ひろしさんとめぐさんはミルネ周辺の侵入者の排除をお願いします」

 イリューシュが社長たちの元へ向かおうとすると、前からアカネが走ってきた。

「アカネ!」

 めぐが声をあげると、アカネは急に大声で泣き出した。

「黒ちゃんが! 黒ちゃんがやられたよぉ!」

 アカネは大声をあげると足をもつれさせて、その場に転んでしまった。

 ズシャァ……

「アカネ!」

 おじいさんとめぐは急いで駆け寄って優しくアカネを抱きしめると、アカネはせきを切ったように泣き出した。

「あぁぁあーーー! 黒ちゃぁぁぁん!」

 イリューシュはその姿を見ながら小さくうなずくと、社長たちの元へと走って行った。


 ー 高鳥屋から少し離れた大通り ー

「大谷くん、大丈夫か!?」

「はい、なんとか!」

 社長と専務大谷は5人のうち3人は倒したが、残ったカワセミとミドリに押されていた。

 カワセミは防具を一切つけず、片手に細身の剣「レイピア」を持つだけだった。

 そしてミドリも防具は一切つけておらず、シンプルな弓を持つだけだった。

「社長、騎士を攻めると射抜かれます。先に弓をやりましょう」

「おう!」

 社長は両手の盾を固めると大谷を背後に隠して突進していった。

「おぉぉおおお!」

 ヒュッ、ヒュッ……カン、カン!

 社長は矢を軽々と跳ね返すと、盾を水平に出して叫んだ。

「大谷くん!」

 ズザァァアアア!

 しかし大谷は社長の横へ吹き飛ばされた。

「なにっ!?」

 なんと防具を装備しないカワセミは大谷を凌駕りょうがする素早い動きで、大谷に凄まじい突きを食らわせたのだった。

「社長、すみません……」

「大谷くん、あぶない!」

 カワセミは素早くガードレールを踏み台にして飛び上がると、大谷にトドメを刺しに急降下した。

 ゴォーーン!
 ヒャァァアアアア!

 その時、イリューシュが放ったオロチの矢が一斉にカワセミと大谷の元へ飛んでいった。
 
 ガガガ、ドッ、ガガガガン!

 すると8本のうち1本がカワセミにヒットし、残りは咄嗟とっさにガードした社長の盾で全て弾かれた。

「ふん!」

 カカン!

 そして社長は急いで後ろを振り向くと、背後からミドリが放った矢も防いで大谷を守った。

 カワセミとミドリは一旦攻撃を止め、少し離れて体勢を整えた。

 それを見た社長は盾を構え直してイリューシュに言った。

「エージェントくん! 我らも巻き込んで矢を放つとは、最高の判断だったぞ! はっはっは!」

「ふふふ。社長なら防いでくれると分かっていましたから」

 大谷は全回復薬を飲むと社長に言った。

「申し訳ございません、私としたことが……」

「何を言ってるんだ大谷くん! 誰だってミスをする。何しろハッキングされている事自体、社長の私のミスだからな! はっはっは!」

 社長は大谷の手を取って体を引き上げると続けた。

「すまないが、もう少し私の尻ぬぐいに付き合ってくれ」

 大谷はそれを聞くと笑顔になって答えた。

「もちろんですとも」

 社長と大谷とイリューシュは再び戦闘態勢に入った。
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