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あの日の記憶

第43話 ひろし、追い詰める

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 ー ギーカブル社内 ー

 ハッキング中のヤマちゃんは焦りながら真理に言った。

「真理さん、ヤバいよ。押されてる。もう、やめようよ」

「なにを言ってるの!? 3年もかけたの。逃げられるわけないでしょ」

「でも、相手のエンジニアの人数が絶対増えてる。このままじゃ……」

「黒のメンバーは何してるの!」

「だいぶ数を減らしてる。もうやばいよ。逃げよう」

「逃げないわ。メンバー全員にボイスチャットを繋いでちょうだい」

「真理さん、ごめん。今ちょっと手が離せないよ」

「わかったわ、自分でやる」

 真理は苛立いらだちながらパソコンのキーボードを打ち始めた。

 しかし、プロのエンジニアたちが攻防を繰り広げる中、黒のメンバーたちにアクセスするのは難しかった。

「なんなのよ! じゃあこっちなら」

 真理は手っ取り早くハッキングできるコーシャタ内のアナウンスを乗っ取り、こちらで話しかけた。

「ピィィ……ガガッ……」

「黒のメンバーたち、よく聞きなさい。このまま世界中に恥をさらすつもり?」

 それを聞いた黒のメンバーたちは一斉に声に耳を傾けた。

「私たち黒は革命を成功させるまで諦めないわ! どんな手を使ってもいい。革命を成功させるのよ!」

「「「おーーー!」」」

 黒のメンバーたちは真理の声に鼓舞こぶされて士気しきをあげた。

 それを聞いた営業の山下は冷静に分析し、少し離れた建物を指差しておじいさんたちに話した。

「今、侵入者たちの声は一か所から響いて来ました。おそらく全員あの建物の裏側に居るでしょう」

 そして、一緒にいた受付の山本が続けて言った。

「あの声、間違いないです。ギーカブルの大埼さんです。わたし何度も話しているから分かります」

 それを聞いた営業の山下は、他の社員に連絡するように指示を出すと、おじいさんたちに話し始めた。

「これから、あの建物の裏側へ向かって挟み撃ちを仕掛けます。仲間がこちらへ向かっているので左から攻撃するよう指示します。我々は右から行きましょう!」

「「「はい!」」」

 おじいさんたちは指示された建物の右側へ走っていった。


 その頃、社長たちはカワセミとミドリとの戦闘が続いていた。

 社長とイリューシュは攻防一体となって弓使いのミドリを狙い、専務の大谷はカワセミと一対一の戦いになっていた。

 カワセミは冷静に素早い突きの連撃れんげきを放つと、大谷は両手の刀を回転させながら攻撃を弾いた。

 そして、大谷は低くかがむと回転しながら斬り込んで足を狙った。

 ビュッ!

「なかなか、早いね」

 カワセミは一言つぶやくと大谷の攻撃をジャンプしてかわし、空中から一突きした。

 キン、ズバッ

 大谷は刀で弾いたものの、腕を切られて後ろへ倒れた。

 ズシャッ!

 しかし、大谷はニヤリと笑いながら立ち上がるとカワセミに言った。

貴方あなたは強い。私の技術では倒し切るのは無理そうですね。仕方ない」

 大谷は左手の刀を投げ捨てて一本の刀を両手で握ると、気合もろともカワセミに飛び込んだ。

「いやぁぁああ!」

 カワセミは大谷の動きを冷静に判断し、低い体勢から突きを放った。

 キンッ!

 しかし大谷は回転しながらカワセミの剣を弾くと、遠心力を利用して全力で斬りかかった。

「ふんっ!!」
「くっ!」

 ズバッ!

 カワセミは辛うじて後ろへかわしたものの、脇腹にダメージを負った。

「斬られた……。本気でやらなきゃ」

 ブワッ!

 斬られたことで本気になったカワセミは、尋常ではない速度で突っ込んできた。

 しかし大谷は歯を食いしばると渾身の力でレイピアを弾いた。

 キン!

 カワセミは弾かれた力を受け流してレイピアをクルリと回転させると、一瞬で剣を構え直した。

「うん。なかなか強かったね」

 そしてカワセミは大きく足を前に出して踏み込むと、低い体勢から重たい突きを放った。

 ズドッ!

 レイピアは大谷の腹を貫いた。

 しかし大谷は笑いながら素早くカワセミの腕を左手で拘束するとカワセミに言った。

「待ってましたよ」

 ズッ

 そして、そのままカワセミの足に刀を突き刺し、身動きを取れなくした。

「……これは想定外」

 カワセミがそう言うと大谷が叫んだ。

「エージェント、やれ!!」

 ゴォーーン!

 ドドドドドドドド!

 イリューシュの放った矢は大谷を貫通してすべてカワセミに刺ささり、二人は吹き飛んだ。

 ドシャァ……

 そして二人は転がるように道路に倒れると、静かに消滅していった。

 ヒュッ……ドッ!

「うっ!!」

 しかしその時、ミドリが社長の盾のほんの数センチの隙間を縫って、イリューシュの腕に矢をヒットさせた。

 イリューシュは下がりながらも体勢を整えてサイドステップすると、急いでミドリに大弓を引いた。

 しかし、ミドリのシンプルな弓のほうが引きが早く、先に矢を放った。

 ヒュッ……ドッ!

「くっ!」

 今度はイリューシュの胸に急所に刺さって会心ダメージを負わせると、イリューシュは倒れこんだ。

 社長は急いであいだに入ったが、すでにイリューシュは大ダメージを負っていた。


 ー 株式会社イグラア社内 ー

「常務! 連絡の通り、ギーガブルからの接続状況がおかしく、遮断しました」

「よし、ハッキングのほうはどうだ?」

「はい、エンジニアの数も安定してきました。もう少しです」

 すると常務は社員を鼓舞して言った。

「みんな、もう少しだ! 頑張ってくれ!!」

「「はい!!」」


 ー ギーカブル社内 ー

「真理さん、ヤバいよ! ギーカブルからの回線が遮断された。バレたよ!」

「なんですって? ハッキングのほうは?」

「まだ2件しか抜き出せてないよ。暗号資産も少ししか買えてない」

「くっ! 失敗だわ。逃げるわよ」

「う、うん」

 真理とヤマちゃんはパソコンを放棄して荷物をまとめると、会社の入っているビルのエレベーターに飛び乗った。

 真理は苛立いらだちを隠せずにヤマちゃんに当たった。

「3年もかかったのよ! あなた何やってるの!」

「だ、だって……、黒のやつらが……」

「黒のやつらも口だけだったわね。チッ」

 エレベーターが1階に到着して扉が開くと、目の前には大勢の男たちがいた。

「警視庁サイバー犯罪対策課だ。話を聞かせてもらいたい」

「……」

 ◆

 その頃、社長とイリューシュは迫ってくるミドリに身構えていた。

 しかし、ミドリは突然回線が不安定になった事に気づいて攻撃の手を止めた。

 そして弓を下ろすと社長とイリューシュに言った。

「今日は帰るわ。妹を倒したのはめてあげる。でもあんな妹、もう知らないけど」

 そう言うと、ログアウトしていった。
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