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1章
23.噂とお叱り
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「それで、一体何をしてこうなってるの?」
医務室に来た私は、先生にそう詰められながら火傷の治癒をしてもらっていた。
「えっと......」
「それは......」
火傷の原因を尋ねてきた先生に、私とセラは口をつぐんでしまう。
話すとアメリアも怒られるだろうし。
それで今度はアメリアが怒る。
あぁ、医務室じゃなくてアル兄様に頼んで治癒魔術の得意なアスク殿下にお願いした方が良かったかな。
なんて目を逸らして考えていると、先生はため息を吐いた。
「ま、私はただの医務室の先生だし? 話したくないなら別に良いんだけどね。 入学早々に火傷だらけで医務室に駆け込んでくるなんて相当珍しいわよ?」
「す、すみません」
寛容な先生で良かった。
「はい、終わり。 良かったわね跡が残るほどの火傷がなくて」
先生はそう言って、私の二の腕から手をどける。
最後に残った両腕の火傷も、五分もしない間に綺麗さっぱり治してくれた。
「ありがとうございます」
「あんまし怪我するような事はしないようにね」
「はーい」
と、私は先生の言葉を受け流すかのような返事をしてそそくさと医務室を後にした。
◇◆◇◆◇
——まさか、この私が負けるなんて。
「おーい、アメリアさん? そろそろ動いてはくれませんか?」
学院の剣術場。
その中心で幼馴染のリオウにそう言われながら、私は地面にうずくまってすすり泣いていた。
幼い頃から、努力をしてきた。
父に言われた通りジーク殿下と結婚するため、この国の王女になるための努力を。
そして、去年の春。 アスク殿下のパーティーで初めてジーク殿下と会った時、胸が高鳴るのを感じた。
初めての挨拶は凄く緊張したけど、ジーク殿下がアメリアと呼んでくれた事が凄く嬉しかったのだ。
けれど、そのすぐ後。
白い髪の女の子とぶつかった時の殿下の顔を見て、私へ向けていた表情が偽りなんだと察した。
その女の子を見た時の殿下の目は、私の時とは違ってどこか輝いているように見えたからだ。
それを見た私は焦った。
ジーク殿下に最も近いのは私じゃなきゃダメなのに、あんな誰とも知らない他の女の子に取られたくないと......。
一年経って学院に入って、ジーク殿下とさらに距離を詰めても、あの時のような輝いた目が私に向けられることはない。
だと言うのに、ジーク殿下はあの白髪のエルアリアとか言う子を見かける度に目を輝かせる。
その度に、私は胸がざわついて、居てもたってもいられなくなるのだ。
なんで私にはその目を向けてくれないのかしら。 なんで私と話す時は、エルアリアのことを語る時のような素の表情で話してくれないのかしら。
なんで、なんで。
そんな苦しい気持ちで胸が一杯になる。
エルアリアなんかのどこがいいのか。
私の方が殿下の隣に相応しい。
相応しくなるように沢山努力した。
なのに、なんで......。
その答えは、ジーク殿下が既に示してくれていた。
きっと、ジーク殿下はエルアリアの強さに引かれている。
彼女との手合わせの時の話を楽しそうに語るのだから。
見た目なんて二の次だ。
確かにあの時、興味を持ったきっかけは白髪と言う見た目だったのかもしれない。
けれど、それ以上に殿下を引き付けたのはエルアリアの強さにある。
殿下と剣を交わし、そして楽しませた。
その点でエルアリアは私よりも殿下の心に鮮烈に刻まれているのだろう。
だったら......。
私がそのエルアリアよりも強いと証明すれば、殿下は私を見てくれるはず。
エルアリアなんか忘れるくらい、私の方が凄いんだって、わからせてやる。
そう思って、エルアリアに勝負を挑んだ。
ちょうど幼馴染のリオウがエルアリアに負けたと聞いたので、それの敵討ちもついでに出来ると息巻いたけれど。
本音を言えばただの嫉妬。
その上、勝負にも負けてるもの。
——けど、こんなんじゃ諦められない。
「もっと努力する......」
もっと強くなって、次こそあの女を負かすんだから!
そう、心に誓って私は拳を強く握った。
「おう、応援するけどよ。 早くしねぇと昼休み終わっちゃうよ?」
リオウはそんな私の横で、膝に頬杖を付いて見下ろしていた。
「うるさいわね! まだ痛みが残ってるの! 早く手を貸して!」
そういうと、リオウはやれやれと苦笑いを浮かべながら、医務室まで付き添ってくれるのだった。
◆◇◆◇◆
医務室を後にした私は、制服へと着替えてセラと一緒に教室への廊下を歩いていた。
「——お腹すいたね......」
「結局、お昼ご飯食べてないですもんね」
昼食をとるには残りの昼休み時間が余りにも少なすぎるという事で、セラと相談して教室に戻ることにしたのだ。
「それにしても、アメリア強かった~」
「中級魔術使ってましたよね、それも詠唱省略で」
詠唱省略は、それなりにその魔術を使い慣れてないと出来ないはず。
「うん。びっくりしたよ、ほんと」
「けどエル様は勝ちました! 凄いです!」
セラはそう満面の笑みで私を褒めてくれる。
「えへへ......。 とは言え相手が勝負慣れしてなかったからだけどね~」
なんて言ってる間に、教室の前へと到着する。
既に昼休みが終わる間際という事もあって中からはクラスメイトたちの話し声が漏れ聞こえていた。
「あ、私開けますよ」
私がドアに手を伸ばしたところで、すかさずセラが間に割り込んでくる。
「ありがとう」
私がお礼を言うと同時に開かれるドア。
そしてセラと一緒にそれをくぐると、それまで騒がしかった教室が一気に静まり返った。
クラスメイト全員から刺すような視線が一直線に私へ注がれる。
そして、私が動き出すと全員がヒソヒソと話し始めた。
私とセラはその光景に何事かと困惑しながら、いつもの窓際の席へと向かう。
「み、皆さんどうしたんでしょうかね?」
「さぁ? 」
私とセラも周りに合わせてヒソヒソと話しながら席に着く。
すると、前の列に居たフィスが振り返って話しかけてきた。
「エル、あのアメリア・ヴァーネットと喧嘩したってほんと? 学校中で噂になってるぞ」
「噂?」
「うん、剣術場であのアメリア・ヴァーネットと白髪の子が戦ってたって。 あれ、エルの事だろ?」
どうやら先程の勝負、リオウとセラ以外にも観戦者が居たらしい。
まぁ食堂で、しかもあんな大声で話してたら気にもなるよね。
それにしても、噂が広がるの早すぎない?
「アメリア・ヴァーネットと言えばあの第二王子様のお気に入りって噂だけど」
「へー。 そうなんだ」
確かに、ジーク殿下と一緒にいる所をよく見る。
「その様子だと喧嘩はエルが勝ったんだな」
「もちろんです! エル様の大勝ちでした!」
ヒソヒソ声の中、大声で話に割り込んでくるセラ。
その言葉にクラス全員が騒がしくなった。
「け、喧嘩じゃないけどね。 普通にちょっと手合わせしただけで.......」
まぁ喧嘩......ではあったのかも知れないけど、噂が変に広がると面倒だし。
一応、否定しておこう。
「すげぇ。けどアメリアって第二王子派の筆頭って話だし、アメリアにも取り巻きの男子が大勢いるって聞くから、気おつけろよ?」
第二王子派か......。
いくら学院内の身分差意識が薄いとは言え、流石に王族相手には通用しない。
学院側も王族にはある程度の配慮や便宜を取り計らっている程だ。
第一王子派と第二王子派。
貴族出身の子達はその辺にとても気を使っている。 一般家庭出身の子達もその影響を受けて自ずとどっちかの派閥に属し始めている。
私達が入学してから早くも一週間。
このクラスには、まだ中立の子が多いけど、ジーク殿下の方のクラスは殆どが第二王子派に染まっているらしい。
この調子だと、中立の子が少数になるのも時間の問題だろう
まぁ、かくいう私はスタンス的には中立でいようと思っているけど。
アスク殿下にもジーク殿下にも面識がある以上、どちらか選べと言われと言われても選べないのでね......。
なんて考えていると鐘が鳴り、シアニス先生が教室へ入ってくる。
「はーい、四時限目はじめるわよ~」
その声に、クラスメイト達は段々と静かになった——。
——カーンという鐘の音が四時限目の終わりを告げる。
「今日はここまで。 帰ってよし。 あ、エルアリアだけ残って。 それじゃ、かいさ~ん!」
先生の号令でクラスメイト達はぞろぞろと教室を出て行く。
残れと言われた私はその様子を席に座って眺める。
まぁ多分、怒られるんだろう。
アメリアで喧嘩したことと、剣術場を勝手に使った事で......。
「じゃあなエル。 また明日」
フィスもなんとなく同じ予想をしていたのか、憐れむような目で私を見て教室をそそくさと出ていった。
そうして、教室に残ったのは私と先生とセラだけ。
「セラも先に帰ってて良いよ?」
「なら、廊下で待ってますね」
セラも心配そうな表情でそう言って席を立って教室を出ていく。
「さて、エルアリア。 なんで残るよう言われたのか分かるわよね?」
相変わらずの眠そうな目で睨んで来るシアニス先生。
「はい、わかってます」
「はぁ......生徒同士での魔術を使った喧嘩は結構ある事だけど、まさか入学一週間でやらかすとはね」
先生は頭を抱えてそう言った。
「すみません」
「まぁ今回は場所が剣術場で、お互いに大きな怪我もしてないからよかったけど。 もし他の場所でやってたら今頃、腕章持ちの子達にボコボコにされてたわよ?」
腕章持ち? なんのことだろう初めて聞いた。
「あの先生、腕章持ちって?」
「え? あぁ、まだ見た事ないのね。 この学院では魔術を使用した喧嘩がそれなりに起きるから、そう言う時に教師が到着するまで、周りの生徒たちの安全を確保する学院秩序維持委員会。 通称、腕章持ちって呼ばれてる子達がいるの」
学院秩序維持委員会。
そんな組織があったなんて知らなかった......。
「まぁ最近の腕章持ちの子達は、教師が到着する前に問題の生徒を無力化して無理やり喧嘩を収めてるけどね」
と言うことは、腕章をつけてる子はそれなりに剣や魔術に長けてるんだろうか。
どんな子が居るのか少し気になる。
「教えてくれてありがとうございます」
「はい。それじゃ、早く帰って。 中等部の子達の授業まで仮眠とりたいから」
そう言って私はシッシッと手を振る先生に教室を追い出された。
腕章持ちか......。
今度詳しい事をお兄様に聞いてみよう。
そう考えながら、セラと一緒に帰宅したのだった。
医務室に来た私は、先生にそう詰められながら火傷の治癒をしてもらっていた。
「えっと......」
「それは......」
火傷の原因を尋ねてきた先生に、私とセラは口をつぐんでしまう。
話すとアメリアも怒られるだろうし。
それで今度はアメリアが怒る。
あぁ、医務室じゃなくてアル兄様に頼んで治癒魔術の得意なアスク殿下にお願いした方が良かったかな。
なんて目を逸らして考えていると、先生はため息を吐いた。
「ま、私はただの医務室の先生だし? 話したくないなら別に良いんだけどね。 入学早々に火傷だらけで医務室に駆け込んでくるなんて相当珍しいわよ?」
「す、すみません」
寛容な先生で良かった。
「はい、終わり。 良かったわね跡が残るほどの火傷がなくて」
先生はそう言って、私の二の腕から手をどける。
最後に残った両腕の火傷も、五分もしない間に綺麗さっぱり治してくれた。
「ありがとうございます」
「あんまし怪我するような事はしないようにね」
「はーい」
と、私は先生の言葉を受け流すかのような返事をしてそそくさと医務室を後にした。
◇◆◇◆◇
——まさか、この私が負けるなんて。
「おーい、アメリアさん? そろそろ動いてはくれませんか?」
学院の剣術場。
その中心で幼馴染のリオウにそう言われながら、私は地面にうずくまってすすり泣いていた。
幼い頃から、努力をしてきた。
父に言われた通りジーク殿下と結婚するため、この国の王女になるための努力を。
そして、去年の春。 アスク殿下のパーティーで初めてジーク殿下と会った時、胸が高鳴るのを感じた。
初めての挨拶は凄く緊張したけど、ジーク殿下がアメリアと呼んでくれた事が凄く嬉しかったのだ。
けれど、そのすぐ後。
白い髪の女の子とぶつかった時の殿下の顔を見て、私へ向けていた表情が偽りなんだと察した。
その女の子を見た時の殿下の目は、私の時とは違ってどこか輝いているように見えたからだ。
それを見た私は焦った。
ジーク殿下に最も近いのは私じゃなきゃダメなのに、あんな誰とも知らない他の女の子に取られたくないと......。
一年経って学院に入って、ジーク殿下とさらに距離を詰めても、あの時のような輝いた目が私に向けられることはない。
だと言うのに、ジーク殿下はあの白髪のエルアリアとか言う子を見かける度に目を輝かせる。
その度に、私は胸がざわついて、居てもたってもいられなくなるのだ。
なんで私にはその目を向けてくれないのかしら。 なんで私と話す時は、エルアリアのことを語る時のような素の表情で話してくれないのかしら。
なんで、なんで。
そんな苦しい気持ちで胸が一杯になる。
エルアリアなんかのどこがいいのか。
私の方が殿下の隣に相応しい。
相応しくなるように沢山努力した。
なのに、なんで......。
その答えは、ジーク殿下が既に示してくれていた。
きっと、ジーク殿下はエルアリアの強さに引かれている。
彼女との手合わせの時の話を楽しそうに語るのだから。
見た目なんて二の次だ。
確かにあの時、興味を持ったきっかけは白髪と言う見た目だったのかもしれない。
けれど、それ以上に殿下を引き付けたのはエルアリアの強さにある。
殿下と剣を交わし、そして楽しませた。
その点でエルアリアは私よりも殿下の心に鮮烈に刻まれているのだろう。
だったら......。
私がそのエルアリアよりも強いと証明すれば、殿下は私を見てくれるはず。
エルアリアなんか忘れるくらい、私の方が凄いんだって、わからせてやる。
そう思って、エルアリアに勝負を挑んだ。
ちょうど幼馴染のリオウがエルアリアに負けたと聞いたので、それの敵討ちもついでに出来ると息巻いたけれど。
本音を言えばただの嫉妬。
その上、勝負にも負けてるもの。
——けど、こんなんじゃ諦められない。
「もっと努力する......」
もっと強くなって、次こそあの女を負かすんだから!
そう、心に誓って私は拳を強く握った。
「おう、応援するけどよ。 早くしねぇと昼休み終わっちゃうよ?」
リオウはそんな私の横で、膝に頬杖を付いて見下ろしていた。
「うるさいわね! まだ痛みが残ってるの! 早く手を貸して!」
そういうと、リオウはやれやれと苦笑いを浮かべながら、医務室まで付き添ってくれるのだった。
◆◇◆◇◆
医務室を後にした私は、制服へと着替えてセラと一緒に教室への廊下を歩いていた。
「——お腹すいたね......」
「結局、お昼ご飯食べてないですもんね」
昼食をとるには残りの昼休み時間が余りにも少なすぎるという事で、セラと相談して教室に戻ることにしたのだ。
「それにしても、アメリア強かった~」
「中級魔術使ってましたよね、それも詠唱省略で」
詠唱省略は、それなりにその魔術を使い慣れてないと出来ないはず。
「うん。びっくりしたよ、ほんと」
「けどエル様は勝ちました! 凄いです!」
セラはそう満面の笑みで私を褒めてくれる。
「えへへ......。 とは言え相手が勝負慣れしてなかったからだけどね~」
なんて言ってる間に、教室の前へと到着する。
既に昼休みが終わる間際という事もあって中からはクラスメイトたちの話し声が漏れ聞こえていた。
「あ、私開けますよ」
私がドアに手を伸ばしたところで、すかさずセラが間に割り込んでくる。
「ありがとう」
私がお礼を言うと同時に開かれるドア。
そしてセラと一緒にそれをくぐると、それまで騒がしかった教室が一気に静まり返った。
クラスメイト全員から刺すような視線が一直線に私へ注がれる。
そして、私が動き出すと全員がヒソヒソと話し始めた。
私とセラはその光景に何事かと困惑しながら、いつもの窓際の席へと向かう。
「み、皆さんどうしたんでしょうかね?」
「さぁ? 」
私とセラも周りに合わせてヒソヒソと話しながら席に着く。
すると、前の列に居たフィスが振り返って話しかけてきた。
「エル、あのアメリア・ヴァーネットと喧嘩したってほんと? 学校中で噂になってるぞ」
「噂?」
「うん、剣術場であのアメリア・ヴァーネットと白髪の子が戦ってたって。 あれ、エルの事だろ?」
どうやら先程の勝負、リオウとセラ以外にも観戦者が居たらしい。
まぁ食堂で、しかもあんな大声で話してたら気にもなるよね。
それにしても、噂が広がるの早すぎない?
「アメリア・ヴァーネットと言えばあの第二王子様のお気に入りって噂だけど」
「へー。 そうなんだ」
確かに、ジーク殿下と一緒にいる所をよく見る。
「その様子だと喧嘩はエルが勝ったんだな」
「もちろんです! エル様の大勝ちでした!」
ヒソヒソ声の中、大声で話に割り込んでくるセラ。
その言葉にクラス全員が騒がしくなった。
「け、喧嘩じゃないけどね。 普通にちょっと手合わせしただけで.......」
まぁ喧嘩......ではあったのかも知れないけど、噂が変に広がると面倒だし。
一応、否定しておこう。
「すげぇ。けどアメリアって第二王子派の筆頭って話だし、アメリアにも取り巻きの男子が大勢いるって聞くから、気おつけろよ?」
第二王子派か......。
いくら学院内の身分差意識が薄いとは言え、流石に王族相手には通用しない。
学院側も王族にはある程度の配慮や便宜を取り計らっている程だ。
第一王子派と第二王子派。
貴族出身の子達はその辺にとても気を使っている。 一般家庭出身の子達もその影響を受けて自ずとどっちかの派閥に属し始めている。
私達が入学してから早くも一週間。
このクラスには、まだ中立の子が多いけど、ジーク殿下の方のクラスは殆どが第二王子派に染まっているらしい。
この調子だと、中立の子が少数になるのも時間の問題だろう
まぁ、かくいう私はスタンス的には中立でいようと思っているけど。
アスク殿下にもジーク殿下にも面識がある以上、どちらか選べと言われと言われても選べないのでね......。
なんて考えていると鐘が鳴り、シアニス先生が教室へ入ってくる。
「はーい、四時限目はじめるわよ~」
その声に、クラスメイト達は段々と静かになった——。
——カーンという鐘の音が四時限目の終わりを告げる。
「今日はここまで。 帰ってよし。 あ、エルアリアだけ残って。 それじゃ、かいさ~ん!」
先生の号令でクラスメイト達はぞろぞろと教室を出て行く。
残れと言われた私はその様子を席に座って眺める。
まぁ多分、怒られるんだろう。
アメリアで喧嘩したことと、剣術場を勝手に使った事で......。
「じゃあなエル。 また明日」
フィスもなんとなく同じ予想をしていたのか、憐れむような目で私を見て教室をそそくさと出ていった。
そうして、教室に残ったのは私と先生とセラだけ。
「セラも先に帰ってて良いよ?」
「なら、廊下で待ってますね」
セラも心配そうな表情でそう言って席を立って教室を出ていく。
「さて、エルアリア。 なんで残るよう言われたのか分かるわよね?」
相変わらずの眠そうな目で睨んで来るシアニス先生。
「はい、わかってます」
「はぁ......生徒同士での魔術を使った喧嘩は結構ある事だけど、まさか入学一週間でやらかすとはね」
先生は頭を抱えてそう言った。
「すみません」
「まぁ今回は場所が剣術場で、お互いに大きな怪我もしてないからよかったけど。 もし他の場所でやってたら今頃、腕章持ちの子達にボコボコにされてたわよ?」
腕章持ち? なんのことだろう初めて聞いた。
「あの先生、腕章持ちって?」
「え? あぁ、まだ見た事ないのね。 この学院では魔術を使用した喧嘩がそれなりに起きるから、そう言う時に教師が到着するまで、周りの生徒たちの安全を確保する学院秩序維持委員会。 通称、腕章持ちって呼ばれてる子達がいるの」
学院秩序維持委員会。
そんな組織があったなんて知らなかった......。
「まぁ最近の腕章持ちの子達は、教師が到着する前に問題の生徒を無力化して無理やり喧嘩を収めてるけどね」
と言うことは、腕章をつけてる子はそれなりに剣や魔術に長けてるんだろうか。
どんな子が居るのか少し気になる。
「教えてくれてありがとうございます」
「はい。それじゃ、早く帰って。 中等部の子達の授業まで仮眠とりたいから」
そう言って私はシッシッと手を振る先生に教室を追い出された。
腕章持ちか......。
今度詳しい事をお兄様に聞いてみよう。
そう考えながら、セラと一緒に帰宅したのだった。
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