魔術師狩りのエルアリア ~魔術が使えない少女は剣で憧れを目指す~

雪柳ケイ

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1章

24.お出掛けの約束

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 アメリアと戦ってから二週間が経ったある日の四時限目。
 私達は何度目かになる魔術の授業を、教室で受けていた。


「——このように、魔術はその術者の技量によって形や効果を変化させることができる。 この事を私達魔術師は性質変化と呼んでるの」

 教卓に立つシアニス先生はそう語って、実際に水玉アウルの形を球体から四角や三角へと変化させてみせた。

「さて、何人か実際にやってみましょう」

 シアニス先生はそう言って教室全体を見渡すと、ビシッと一人の生徒を指さした。

「エーデルレオン、まず貴方から」

 私の隣でノートを取るのに夢中で、机に視線を落としていたセラは、突然の指名に慌てて席を立つ。

「は、はい!」

「その場でいいわ、まず水玉アウルを唱えて。 出来るなら詠唱省略してもいいから」

 そう言われ、セラは胸の前で両手を合わせると、ほんの少しだけ手と手の間に空間を作る。

「其は無形の流転、潤いもたらす大地の恵み。 湧き出て満たせ、水玉アウル

 セラは若干声を震わせながらも詠唱を全て唱えた。
 すると、少しずつ掌から小さな水の雫が滲み出てきて、それがどんどん空中で塊になって行く。

 そうしてリンゴほどの大きさになると、綺麗な球体からグニョグニョと形を変え始めた。

「くっぅ......」

 難しいのか吐息を漏らしながら手の水の玉を睨むセラ。

 やがて水の玉は少しずつ形を変え、最終的に綺麗な正方形が出来上がった。

「上手いじゃない! 水は適当に窓の外にでも放り投げていいわよ」

「は、はい!」

 褒められたセラは安堵の表情を浮かべて、すぐ横の開け放たれた窓へと水の箱を放り投げる。

「それじゃ次は......」

 そうして、その後は鐘がなるまで全員で水玉アウルの形を変える練習をして、授業を終えた——。



 ——そして放課後。

「エル様。明日は休日ですけど、なにか予定とかありますか?」

 帰宅の準備を終えて教室を出ようとした所でセラがそう尋ねてきた。

 そう、明日と明後日は休日だ。
 学院も毎日あるという訳じゃない。
週に二日ほど休校日が設けられているのだ。

「師匠との稽古以外には特に予定ないけど......?」

 その私の言葉を聞いたセラは突然、私の両手をがっしりと掴んで瞳を煌めかせながら身を寄せてきた。

 その勢いに、私は肩をビクッとさせる。

「なら、一緒にお出かけしませんか?! 実は私、王都観光まだ出来てないんです!」

 そう言えばセラはこっちに越してきてまだ二週間しか経ってないんだったか。
 入学準備とか引越しの片付けとかで忙しかったのが、ようやく落ち着いてきたんだろう。

「いいよ。 けど、住んでる身でなんだけど私も全然詳しくないよ?」

 そう実は私、王都をあまり出歩いたことが無いのだ。

 生まれてこの方、家にひきこもって本読んでるか剣の稽古してばっかりだったから......。

 もちろん、一度もない訳じゃない。
 今着てる制服や去年パーティーに着ていったドレスなどは、ちゃんと服屋さんでサイズを測って仕立てて貰ったものだし、たまにお母様の買い物に着いて行ってたりもする。

 しかし、移動のほとんどは馬車だし、コゼットに勝手にフラつかないようにキツく釘を刺されていたので、この学院に入学して徒歩で登下校をするようになるまで、王都を自由に歩いたことはなかったのだ。


「でしたら、二人で探検ですね!」

 セラはそんな私の話を聞いてもガッカリせず、嬉しそうに笑ってくれた。

「けど、流石に私たち二人だけじゃ不安だよね」

 ほかの街に比べて治安がいいと言われている王都だが、女の子二人で歩くのは少し危ない気がする。

「でしたら、お互い身近な大人の方に頼んで着いてきていただくのは?」

 身近な大人か......。
 確かに。 いくら剣を扱えるとは言え、チンピラ相手にセラを守りきる自信は、今の私には無い。

「うん、いいと思うよ」

 コゼットなら二つ返事で了承してくれるだろうし、ずっと屋敷の中で過ごしているのでたまには外にも出たかろう。

「でしたら明日、お昼前にエル様のお家に呼びに行きますね!」

「あ、うん」

 そうして、学院から家に着くまでの道でどこへ行こうかセラと相談をしながら帰宅した——。



 ——家に着き玄関を開けると、早速その場でコゼットに約束のことを話した。

「ごめんなさい。すっっっっごく行きたいんですけど、奥様の様子を見てるよう旦那様から言われてまして、明日は屋敷を離れられないんです」

 話の途中から既に顔から滲み出ていたけど、話し終えた瞬間に涙を流しながらそう言うコゼット。


 今月でお母様が妊娠して五ヶ月になる。
 体調が安定した反面、妊娠の影響で魔術の調子が悪いらしく、魔術の実験でやらかさないか、見張る人が必要なのだとか。

 せめて、こんな時くらい魔術に夢中になるのは辞めて欲しいとは思うけど、お母様の場合は魔術に関する事をしてないと逆に体調を崩しやすくなるらしい。


「仕方ないね。 誰か別に見つけるから気にしないで」

 コゼットが着いて来れないのは予想外だったけど、屋敷にはまだ何人か使用人が居る。

 その中の誰かに頼めば......。

 いや、使用人達よりも適任の人物が居るじゃないか!
 
 と頭の中に顔が浮かんだと同時に、真後ろの玄関が開かれてその人物が姿を表した。


「——あれ、エル。 まだ制服なの?」


 そう、ルビス師匠だ。

 師匠なら王都にも詳しいはず!
 それに、トラブルに巻き込まれた時に、この人以上に頼りがいのある人は居ない。

「師匠、明日の午後は稽古休んでお出掛けしませんか?」

 私はそう満面の笑みを浮かべて師匠の方を振り返った。

「......え?」

 しかし、そんないきなりの誘いに師匠はポカンとした表情を浮かべたのだった。
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