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Act・11
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その日から晴海は、ほぼ毎日、学校帰り制服のまま、蒼子の自宅を訪れるようになった。
天気の良い日は、「そらちゃん号」に蒼子を乗せて、2人で陽が沈むまでずっと芝生広場で、視界一面を覆う大きなF灘を見つめていた。
「今日も1日無事過ごせたわ。沈んでいく夕日がきれい。晴海君と連絡が取れなくなったとき、部屋の窓から沈んでいく夕日を見るのがとっても怖かった。もしかしたら明日はもう、目覚めることがないかもしれないって、夜が凄く怖かったわ」
「うん。僕も夜になると必ず鳴る君からの電話に、出たくて、出たくて......。でも、約束したから、泣きながら音が鳴りやむまで耐えてた。『蒼子は今日も生きてる』。鳴る音に、それだけを感謝してた」
晴海もぽつりと呟いた。
「でもね。今は怖くないのよ。就寝時間のちょっと前になると、晴海君、必ず電話をくれるじゃない。睡眠薬で私が眠るまで微笑んで『また明日ね』って何度も何度も子守唄のようにささやいていてくれるから、私は安心して眠りにつけるの。『晴海君が待っててくれるから、明日も元気に起きよう』って思いながら眠れるの」
「だって僕らはそう約束した。『またね』って。だから、必ず明日も一緒に過ごすんだ」
晴海は言いながら、そっと蒼子を抱き上げた。
「明日も晴れるといいな」
晴海の胸の中で呟くと、蒼子はそのまま眠ってしまった。
だんだんと、蒼子が起きていられる時間が短くなってきていることを晴海はわかっていたが、絶対に口にはしなかった。そっと車椅子に乗せて自宅まで戻ってくると、蒼子を抱いたまま静かにドアを開けた。その音に気がついた蒼子の母親が、慌てて玄関にやってきた。
「眠っちゃったんです」
晴海はささやくと、そのまま靴を脱いで部屋まで運んだ。母親が布団をかけると、晴海に微笑んだ。
「今日もありがとうね。晴海君。まだ、時間ある?」
「ええ」
晴海はリビングへと通された。
「私、あなたに謝らないと。って、ずっと思ってたの」
母親がコーヒーを淹れて運んできた。
何か、謝られるようなことをされたかな? と、考えたら、蒼子が救急搬送された時に言われた言葉しか思い浮かばなかった。しかし、それはもう解決済みだと晴海は思っていた。
こうして、蒼子の家へ来ることを許され、家族のように扱ってもらっている。
「蒼子が救急車で運ばれた後、私はあなたに『蒼子の命を縮めるだけの存在だ。蒼子の命を削る真似はしないで。あなたから別れを言って』って、言ったわ」
やっぱりあの時のことだったんだと、晴海は納得して聞いていた。
「でも、逆だった。蒼子の余命は半年だと言われてたの。けれど、あれからもう、ひと月が過ぎたわ。でも、蒼子はまだ生きてる。晴海君が『また、明日会おうね』。そう言ってくれてるから、蒼子はまだ生きてるって、やっとわかったの。あなたが、蒼子の命を伸ばしてくれてるのよ。ありがとう。晴海君。蒼子がいつもあなたのことを、『晴海君は神様が私にくださった最期のGIFTなの』って言ってた......」
蒼子の母親は、半分泣きながらも晴海の両手を握って、その手の中で何度も何度も頭を下げた。晴海も一緒に泣いていた。切れそうな細い絹糸くらいでも繋がっていたいと、あの時願った。今もそれは同じだった。
この糸が完全に切れるまでは、いや、切れないように細心の注意を払って、蒼子に寄り添っていようと強く誓っていた。
「またね」という呪文が解けないようにと、誰もが願っているのだった。
天気の良い日は、「そらちゃん号」に蒼子を乗せて、2人で陽が沈むまでずっと芝生広場で、視界一面を覆う大きなF灘を見つめていた。
「今日も1日無事過ごせたわ。沈んでいく夕日がきれい。晴海君と連絡が取れなくなったとき、部屋の窓から沈んでいく夕日を見るのがとっても怖かった。もしかしたら明日はもう、目覚めることがないかもしれないって、夜が凄く怖かったわ」
「うん。僕も夜になると必ず鳴る君からの電話に、出たくて、出たくて......。でも、約束したから、泣きながら音が鳴りやむまで耐えてた。『蒼子は今日も生きてる』。鳴る音に、それだけを感謝してた」
晴海もぽつりと呟いた。
「でもね。今は怖くないのよ。就寝時間のちょっと前になると、晴海君、必ず電話をくれるじゃない。睡眠薬で私が眠るまで微笑んで『また明日ね』って何度も何度も子守唄のようにささやいていてくれるから、私は安心して眠りにつけるの。『晴海君が待っててくれるから、明日も元気に起きよう』って思いながら眠れるの」
「だって僕らはそう約束した。『またね』って。だから、必ず明日も一緒に過ごすんだ」
晴海は言いながら、そっと蒼子を抱き上げた。
「明日も晴れるといいな」
晴海の胸の中で呟くと、蒼子はそのまま眠ってしまった。
だんだんと、蒼子が起きていられる時間が短くなってきていることを晴海はわかっていたが、絶対に口にはしなかった。そっと車椅子に乗せて自宅まで戻ってくると、蒼子を抱いたまま静かにドアを開けた。その音に気がついた蒼子の母親が、慌てて玄関にやってきた。
「眠っちゃったんです」
晴海はささやくと、そのまま靴を脱いで部屋まで運んだ。母親が布団をかけると、晴海に微笑んだ。
「今日もありがとうね。晴海君。まだ、時間ある?」
「ええ」
晴海はリビングへと通された。
「私、あなたに謝らないと。って、ずっと思ってたの」
母親がコーヒーを淹れて運んできた。
何か、謝られるようなことをされたかな? と、考えたら、蒼子が救急搬送された時に言われた言葉しか思い浮かばなかった。しかし、それはもう解決済みだと晴海は思っていた。
こうして、蒼子の家へ来ることを許され、家族のように扱ってもらっている。
「蒼子が救急車で運ばれた後、私はあなたに『蒼子の命を縮めるだけの存在だ。蒼子の命を削る真似はしないで。あなたから別れを言って』って、言ったわ」
やっぱりあの時のことだったんだと、晴海は納得して聞いていた。
「でも、逆だった。蒼子の余命は半年だと言われてたの。けれど、あれからもう、ひと月が過ぎたわ。でも、蒼子はまだ生きてる。晴海君が『また、明日会おうね』。そう言ってくれてるから、蒼子はまだ生きてるって、やっとわかったの。あなたが、蒼子の命を伸ばしてくれてるのよ。ありがとう。晴海君。蒼子がいつもあなたのことを、『晴海君は神様が私にくださった最期のGIFTなの』って言ってた......」
蒼子の母親は、半分泣きながらも晴海の両手を握って、その手の中で何度も何度も頭を下げた。晴海も一緒に泣いていた。切れそうな細い絹糸くらいでも繋がっていたいと、あの時願った。今もそれは同じだった。
この糸が完全に切れるまでは、いや、切れないように細心の注意を払って、蒼子に寄り添っていようと強く誓っていた。
「またね」という呪文が解けないようにと、誰もが願っているのだった。
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