永遠の生命と想い出の花園 〜鷹華キャラシナリオ〜

内藤 春翔

文字の大きさ
2 / 5

第2話 幸せの鳥をお守りに

しおりを挟む
「ふふ~ん♪ やっぱり素敵だわ 」

召使いさんと庭園を散歩した日の夜、彼女は生涯の宝物(予定)のシロツメクサの花冠を抱きしめながら就寝しようと横になっていた。...もっとも、テンションも上がって眠りにつけないのだが。

「この花冠もそうだけど、やっぱりあの召使いさんは素敵な女性だわ! 」

召使いさんは私が出来ないことを、苦手なことを何でもできる凄い人だった。

...もっと彼女のことを知りたい。

そう思ったとき、脳裏にとある疑問が浮かんだ。

『シロツメクサ、でございますか。可愛いらしい名前でございますね 』

...そう、名前だ。私は召使いさんの名前を知らない。お父様からも何も聞いてないし、ここしばらくはお屋敷に帰ってきてすらいない。

「明日にでも聞いて見ましょうかね。きっと素敵な名前に違いないわ 」

そんなことを考えているうちに、いつのまにか意識が夢の中へと吸い込まれていった。





「はぁ、私の名前でございますか? 」

次の日の朝食にて、召使いさんに思い切って聞いてみた。

「えぇ!きっと素敵なお名前なのでしょう? 」

目を輝かせながら返答を待っている私に対して、召使いさんはバツの悪そうに苦笑しながら口を開いた。

「...実はお嬢様、私には自分の名前がございません 」
「...え? 」

名前がない。確かに今彼女はそう言った。しかし私には意味がわからなかった。

「...驚かれるのも無理もないでしょう。私は生まれてすぐにご主人様の、お嬢様のお父様が経営しておられる施設に預けられた、と聞いています。物心ついたときから施設で過ごしていましたから寂しいと感じたことはありませんが 」

衝撃だった。私のお父様は孤児院も経営しているけれど、召使いさんもその出身だったなんて。
召使いさんは続けた。

「その施設でも私は古参の方だったから、でしょうかね。施設の子供たちや職員たちからも『お姉ちゃん』と呼ばれていたのです。施設の名簿にも目を通しましたが、名前のない子供は番号で管理されていたので名前で呼ばれたことは一度もないのです 」
「...そうだったのね。ごめんなさい 」

思わず謝ってしまったが、召使いさんは首を横に振った。

「謝る必要はありませんよ、お嬢様。名前は無くてもこうやって今、ご主人様に天職を頂いているのですからね 」

召使いさんはそういってウインクしたが、どこかぎこちなかった。...やはり少し気にしているみたいだ。

しばらくの沈黙の後、先に口を開いたのは、召使いさんだった。

「...あ、あのお嬢様、もしよろしければお願いがあるのですが 」
「え、えぇ、何かしら。私にできることならなんだってするわよ 」

こんなに真剣な表情の召使いさんを見たのは初めてかもしれない。そして召使いさんはこう言った。

「お嬢様、私に名前を頂けませんか? 」




...それからしばらく後。

「あぁぁぁぁぁ!!いい名前が思いつかないわ!!!! 」

屋敷中に響くほどの大声で鈴は発狂した。

「どうしてお父様の集めてらっしゃる本の登場人物は外国の方々ばかりなのよ!?これじゃあ参考にならないじゃないの!! 」

...素敵な名前をつけてあげるわ!
そう召使いさんに伝えて早3時間。お父様の書斎にある本なら参考になるのでは?と閃いて来てみればご覧の有様であった。

召使いさんみたいなTHE和風美人に、キャシーだの、クリスティーナだのといった名前を付ける勇気は私には無かった。そして最も怖いのは彼女ならきっと抵抗もせずそのような名前を受け入れてしまうのだろうということだ。容易に想像できてしまう。

『わかりました、お嬢様。本日より私はゴンザレスと名乗ることにします 』

...そういうのが一番つらい。後々後悔すること待ったなし。だから真剣に考えなきゃ。

「...そういえば、お父様が前に私にりんって名付けた理由を教えてくれたっけ 」

...それは去年の誕生日、15歳になった私に、どうしても外せない仕事があるから、とお父様が送ってくれたお祝いの電報の中に書かれていた。

『お前が生まれてすぐの頃、本当によく泣いて母さんと僕を困らせたものだった。そんなとき、母さんが持っていた鈴の音を聴かせると不思議とすぐに泣き止んで可愛く笑ったんだ。それを見て、この子の好きな鈴を名前にしようと、母さんと一緒に決めたんだ 』

...そうだ、召使いさんの好きなものだ!好きなものを名前にしたら絶対に気に入ってもらえるはず!そうと決まれば早速聞きに行かなきゃ!




「はぁ、私の好きなものでございますか? 」

玄関で箒をかけていた召使いさんを見つけたので聞いてみた。

「そうよ、大切なもの、とか? 」

召使いさんは少々首を傾げ考え、そして答えた。

「勿論お嬢様でございます 」
「...わたし? 」

...そう来たかぁ。確かに物凄く嬉しいけどややこしくなるから。私と召使いさんの区別つかなくなっちゃうから、読者的に。

「それは嬉しいんだけど...。じゃあ何か宝物とかはない?あ、私とかあのワラ人形はなしね! 」

一応釘を打っとく。彼女なら言いかねないし。

「宝物ですか?うーん、あ、ひとつだけあります 」

召使いさんは思い出したように手をポンと叩くと、彼女は自分の部屋に向かった。

間もなく召使いさんがこちらにやって来た。...右手に何かを握り締めながら。

「こちらです、お嬢様。私の宝物、というよりは形見の品でしょうかね 」

彼女の手には小さなお守りが握られていた。紫色の布に大きな鳥が刺繍されていた。...この鳥もお父様の書斎の図鑑で見た気がする。確か...

たか、よね? 」

「えぇ、おそらく。私が施設を出るときに、院長から頂いたのです。なんでも、私の親から預かっていたものなのだそうです 」

「...素敵なお守りね。鷹って夢で見ると幸せになれるって本で読んだわ。きっとあなたの両親もあなたの幸せを願っているのよ! 」

「.....!お嬢様、ありがとうございます 」
召使いさんの目が少し潤んでいた。

「私決めたわ!あなたの名前には鷹って文字を入れるの!でももう少しだけ待ってて欲しいの、絶対に最高の名前をつけてあげるわ! 」

こうして私に、召使いさんに名前を付けるという1つの目標が出来たのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

処理中です...