3 / 5
第3話 噂は風とともに
しおりを挟む
召使いさんの名前を考え始めて1週間が過ぎようとしていた日の朝、事件は起こった。
私が目を覚まして食堂に向かおうと廊下を歩いていると、血相を変えて走ってくる召使いさんと鉢合わせた。
「お、お嬢様!!大変でございます! 」
「おはよう、召使いさん。どうしたのそんなにあわてて… 」
「とにかくこちらをご覧ください! 」
彼女の手には今朝の新聞と思われるものが握られていた。その一面にはとてもよく知っている人物の写真が載っており…
『天音製薬、遂に不老不死の薬の開発に成功か 』
「…え? 」
そう、そこには…
私のお父様、天音 樹のインタビュー記事が掲載されていた。
見出し通り、長年に渡り開発していた不老不死の薬をお父様の会社が開発したらしい。ただ、材料が物凄く希少なため、2人分しか作れなかったそうだ。勿論、その2つの薬には既に買い手がついていて、一般販売はできない云々…というのが記事の大まかな内容だったのだ。
「凄いじゃないの!さすがは私のお父様だわ! 」
はしゃぐ私とは裏腹に召使いさんの顔色はどんどん青くなっていく。
「……? どうしたの召使いさん?喜ぶべきことじゃない 」
ふと我に返ったように召使いは口を開いた。
「よくお考えくださいお嬢様!不老不死になりたい人間がどれだけの数いるとお思いですか!?この薬が買えなかった人々はどのように行動するでしょうか!? 」
……ハッと、そこで私もようやく気がついた。
「……薬の、奪い合い…? 」
召使いさんは静かに頷いた。
「…ただの奪い合いならまだ結構です。しかし恐らく彼らは殺してでも薬を奪おうとするでしょう。そしてその矛先はここの記事に載っておられる2名の購入者、そして…… 」
私は戦慄した。召使いさんが次言うであろう言葉がわかったからだ。…わかってしまったのだ。
「……私たち、天音家の人間…! 」
その時だった。玄関のドアが強引に開けられた音がしたのは…
「さがせぇぇぇ!!薬はここにあるはずだぁぁぁ!! 」
男たちが武装してお屋敷に侵入してきたようだ。幸い、私たちのいた廊下は玄関とは反対方向にあり、気づかれてはいないようだった。
召使いさんと私は息を殺して耳を澄ませていた。音がよく響く構造がこれほど役に立ったことは今までない。
「旦那!ここが天音製薬の社長の屋敷ってのは間違いありません! 」
どうやら若い男がリーダー格の男に報告しているようだった。
「それとこの情報が確かなら、少なくともこの屋敷には社長の1人娘と召使いがいるようですぜ?見つけたらどうしましょうか? 」
「そんなの決まってるだろ、娘は薬の人質にする、召使いの方は…… 」
殺せ。
「「……!! 」」
私たちは声を押し殺して絶叫した。ついさっきまで可能性の話だった召使いさんの話が現実になってしまったのだから。
「……?旦那、こっちの方にも部屋があるようですぜ? 」
……まずい、こっちに来る!!
「……ね、ねぇ召使いさ… 」
「…お嬢様、しっかり掴まっていて下さい 」
そう言って召使いさんは私を強く抱きしめた。私は何がなんだか分からなかったが、召使いさんの背中に手を回した。
次の瞬間、召使いさんは近くにあった窓に思いっきり飛び込んだ。
バリンッ、と鋭い音が屋敷中に響いた。
「旦那ぁ!こっちです!! 」
「よし!追いかけろ!絶対に逃すな! 」
召使いさんは私を抱えたまま、全力で庭園を疾走していた。振り返れば死、止まれば死、捕まれば死であった。彼らが拳銃を持ってないとも限らない。とにかく必死に走っていた。
「召使いさん!どうやって逃げるの!? 」
私が尋ねると召使いさんは答えてくれた。
「以前ここで花を摘んだとき遠目で見たのですが、この先に池がありますよね!?その池には下水道と繋がっている排水口がありました。そこから脱出しますよ!! 」
……そこまで考えていたなんて。やっぱり召使いさんは凄い人だ。
「待てヤァゴラァァァァァ!! 」
…まだ追いかけてきている!幸いにも拳銃などはないようだが。
そして私たちは池まで辿りついた。
召使いさんは私を下ろすと排水口の鉄格子の止め具を外した。
「ヘヘッ、もう逃げられなヘブッ!? 」
そして思いっきり外した鉄格子を追っ手の男の頭部に投げつけた。男はナイフを地面に落とし、気を失ったようだった。
「お嬢様、今のうちに!! 」
「ええ!急ぎましょう!! 」
……こうして私たちは何とか屋敷から脱出することができたのだった。
私が目を覚まして食堂に向かおうと廊下を歩いていると、血相を変えて走ってくる召使いさんと鉢合わせた。
「お、お嬢様!!大変でございます! 」
「おはよう、召使いさん。どうしたのそんなにあわてて… 」
「とにかくこちらをご覧ください! 」
彼女の手には今朝の新聞と思われるものが握られていた。その一面にはとてもよく知っている人物の写真が載っており…
『天音製薬、遂に不老不死の薬の開発に成功か 』
「…え? 」
そう、そこには…
私のお父様、天音 樹のインタビュー記事が掲載されていた。
見出し通り、長年に渡り開発していた不老不死の薬をお父様の会社が開発したらしい。ただ、材料が物凄く希少なため、2人分しか作れなかったそうだ。勿論、その2つの薬には既に買い手がついていて、一般販売はできない云々…というのが記事の大まかな内容だったのだ。
「凄いじゃないの!さすがは私のお父様だわ! 」
はしゃぐ私とは裏腹に召使いさんの顔色はどんどん青くなっていく。
「……? どうしたの召使いさん?喜ぶべきことじゃない 」
ふと我に返ったように召使いは口を開いた。
「よくお考えくださいお嬢様!不老不死になりたい人間がどれだけの数いるとお思いですか!?この薬が買えなかった人々はどのように行動するでしょうか!? 」
……ハッと、そこで私もようやく気がついた。
「……薬の、奪い合い…? 」
召使いさんは静かに頷いた。
「…ただの奪い合いならまだ結構です。しかし恐らく彼らは殺してでも薬を奪おうとするでしょう。そしてその矛先はここの記事に載っておられる2名の購入者、そして…… 」
私は戦慄した。召使いさんが次言うであろう言葉がわかったからだ。…わかってしまったのだ。
「……私たち、天音家の人間…! 」
その時だった。玄関のドアが強引に開けられた音がしたのは…
「さがせぇぇぇ!!薬はここにあるはずだぁぁぁ!! 」
男たちが武装してお屋敷に侵入してきたようだ。幸い、私たちのいた廊下は玄関とは反対方向にあり、気づかれてはいないようだった。
召使いさんと私は息を殺して耳を澄ませていた。音がよく響く構造がこれほど役に立ったことは今までない。
「旦那!ここが天音製薬の社長の屋敷ってのは間違いありません! 」
どうやら若い男がリーダー格の男に報告しているようだった。
「それとこの情報が確かなら、少なくともこの屋敷には社長の1人娘と召使いがいるようですぜ?見つけたらどうしましょうか? 」
「そんなの決まってるだろ、娘は薬の人質にする、召使いの方は…… 」
殺せ。
「「……!! 」」
私たちは声を押し殺して絶叫した。ついさっきまで可能性の話だった召使いさんの話が現実になってしまったのだから。
「……?旦那、こっちの方にも部屋があるようですぜ? 」
……まずい、こっちに来る!!
「……ね、ねぇ召使いさ… 」
「…お嬢様、しっかり掴まっていて下さい 」
そう言って召使いさんは私を強く抱きしめた。私は何がなんだか分からなかったが、召使いさんの背中に手を回した。
次の瞬間、召使いさんは近くにあった窓に思いっきり飛び込んだ。
バリンッ、と鋭い音が屋敷中に響いた。
「旦那ぁ!こっちです!! 」
「よし!追いかけろ!絶対に逃すな! 」
召使いさんは私を抱えたまま、全力で庭園を疾走していた。振り返れば死、止まれば死、捕まれば死であった。彼らが拳銃を持ってないとも限らない。とにかく必死に走っていた。
「召使いさん!どうやって逃げるの!? 」
私が尋ねると召使いさんは答えてくれた。
「以前ここで花を摘んだとき遠目で見たのですが、この先に池がありますよね!?その池には下水道と繋がっている排水口がありました。そこから脱出しますよ!! 」
……そこまで考えていたなんて。やっぱり召使いさんは凄い人だ。
「待てヤァゴラァァァァァ!! 」
…まだ追いかけてきている!幸いにも拳銃などはないようだが。
そして私たちは池まで辿りついた。
召使いさんは私を下ろすと排水口の鉄格子の止め具を外した。
「ヘヘッ、もう逃げられなヘブッ!? 」
そして思いっきり外した鉄格子を追っ手の男の頭部に投げつけた。男はナイフを地面に落とし、気を失ったようだった。
「お嬢様、今のうちに!! 」
「ええ!急ぎましょう!! 」
……こうして私たちは何とか屋敷から脱出することができたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる