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第3話 噂は風とともに
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召使いさんの名前を考え始めて1週間が過ぎようとしていた日の朝、事件は起こった。
私が目を覚まして食堂に向かおうと廊下を歩いていると、血相を変えて走ってくる召使いさんと鉢合わせた。
「お、お嬢様!!大変でございます! 」
「おはよう、召使いさん。どうしたのそんなにあわてて… 」
「とにかくこちらをご覧ください! 」
彼女の手には今朝の新聞と思われるものが握られていた。その一面にはとてもよく知っている人物の写真が載っており…
『天音製薬、遂に不老不死の薬の開発に成功か 』
「…え? 」
そう、そこには…
私のお父様、天音 樹のインタビュー記事が掲載されていた。
見出し通り、長年に渡り開発していた不老不死の薬をお父様の会社が開発したらしい。ただ、材料が物凄く希少なため、2人分しか作れなかったそうだ。勿論、その2つの薬には既に買い手がついていて、一般販売はできない云々…というのが記事の大まかな内容だったのだ。
「凄いじゃないの!さすがは私のお父様だわ! 」
はしゃぐ私とは裏腹に召使いさんの顔色はどんどん青くなっていく。
「……? どうしたの召使いさん?喜ぶべきことじゃない 」
ふと我に返ったように召使いは口を開いた。
「よくお考えくださいお嬢様!不老不死になりたい人間がどれだけの数いるとお思いですか!?この薬が買えなかった人々はどのように行動するでしょうか!? 」
……ハッと、そこで私もようやく気がついた。
「……薬の、奪い合い…? 」
召使いさんは静かに頷いた。
「…ただの奪い合いならまだ結構です。しかし恐らく彼らは殺してでも薬を奪おうとするでしょう。そしてその矛先はここの記事に載っておられる2名の購入者、そして…… 」
私は戦慄した。召使いさんが次言うであろう言葉がわかったからだ。…わかってしまったのだ。
「……私たち、天音家の人間…! 」
その時だった。玄関のドアが強引に開けられた音がしたのは…
「さがせぇぇぇ!!薬はここにあるはずだぁぁぁ!! 」
男たちが武装してお屋敷に侵入してきたようだ。幸い、私たちのいた廊下は玄関とは反対方向にあり、気づかれてはいないようだった。
召使いさんと私は息を殺して耳を澄ませていた。音がよく響く構造がこれほど役に立ったことは今までない。
「旦那!ここが天音製薬の社長の屋敷ってのは間違いありません! 」
どうやら若い男がリーダー格の男に報告しているようだった。
「それとこの情報が確かなら、少なくともこの屋敷には社長の1人娘と召使いがいるようですぜ?見つけたらどうしましょうか? 」
「そんなの決まってるだろ、娘は薬の人質にする、召使いの方は…… 」
殺せ。
「「……!! 」」
私たちは声を押し殺して絶叫した。ついさっきまで可能性の話だった召使いさんの話が現実になってしまったのだから。
「……?旦那、こっちの方にも部屋があるようですぜ? 」
……まずい、こっちに来る!!
「……ね、ねぇ召使いさ… 」
「…お嬢様、しっかり掴まっていて下さい 」
そう言って召使いさんは私を強く抱きしめた。私は何がなんだか分からなかったが、召使いさんの背中に手を回した。
次の瞬間、召使いさんは近くにあった窓に思いっきり飛び込んだ。
バリンッ、と鋭い音が屋敷中に響いた。
「旦那ぁ!こっちです!! 」
「よし!追いかけろ!絶対に逃すな! 」
召使いさんは私を抱えたまま、全力で庭園を疾走していた。振り返れば死、止まれば死、捕まれば死であった。彼らが拳銃を持ってないとも限らない。とにかく必死に走っていた。
「召使いさん!どうやって逃げるの!? 」
私が尋ねると召使いさんは答えてくれた。
「以前ここで花を摘んだとき遠目で見たのですが、この先に池がありますよね!?その池には下水道と繋がっている排水口がありました。そこから脱出しますよ!! 」
……そこまで考えていたなんて。やっぱり召使いさんは凄い人だ。
「待てヤァゴラァァァァァ!! 」
…まだ追いかけてきている!幸いにも拳銃などはないようだが。
そして私たちは池まで辿りついた。
召使いさんは私を下ろすと排水口の鉄格子の止め具を外した。
「ヘヘッ、もう逃げられなヘブッ!? 」
そして思いっきり外した鉄格子を追っ手の男の頭部に投げつけた。男はナイフを地面に落とし、気を失ったようだった。
「お嬢様、今のうちに!! 」
「ええ!急ぎましょう!! 」
……こうして私たちは何とか屋敷から脱出することができたのだった。
私が目を覚まして食堂に向かおうと廊下を歩いていると、血相を変えて走ってくる召使いさんと鉢合わせた。
「お、お嬢様!!大変でございます! 」
「おはよう、召使いさん。どうしたのそんなにあわてて… 」
「とにかくこちらをご覧ください! 」
彼女の手には今朝の新聞と思われるものが握られていた。その一面にはとてもよく知っている人物の写真が載っており…
『天音製薬、遂に不老不死の薬の開発に成功か 』
「…え? 」
そう、そこには…
私のお父様、天音 樹のインタビュー記事が掲載されていた。
見出し通り、長年に渡り開発していた不老不死の薬をお父様の会社が開発したらしい。ただ、材料が物凄く希少なため、2人分しか作れなかったそうだ。勿論、その2つの薬には既に買い手がついていて、一般販売はできない云々…というのが記事の大まかな内容だったのだ。
「凄いじゃないの!さすがは私のお父様だわ! 」
はしゃぐ私とは裏腹に召使いさんの顔色はどんどん青くなっていく。
「……? どうしたの召使いさん?喜ぶべきことじゃない 」
ふと我に返ったように召使いは口を開いた。
「よくお考えくださいお嬢様!不老不死になりたい人間がどれだけの数いるとお思いですか!?この薬が買えなかった人々はどのように行動するでしょうか!? 」
……ハッと、そこで私もようやく気がついた。
「……薬の、奪い合い…? 」
召使いさんは静かに頷いた。
「…ただの奪い合いならまだ結構です。しかし恐らく彼らは殺してでも薬を奪おうとするでしょう。そしてその矛先はここの記事に載っておられる2名の購入者、そして…… 」
私は戦慄した。召使いさんが次言うであろう言葉がわかったからだ。…わかってしまったのだ。
「……私たち、天音家の人間…! 」
その時だった。玄関のドアが強引に開けられた音がしたのは…
「さがせぇぇぇ!!薬はここにあるはずだぁぁぁ!! 」
男たちが武装してお屋敷に侵入してきたようだ。幸い、私たちのいた廊下は玄関とは反対方向にあり、気づかれてはいないようだった。
召使いさんと私は息を殺して耳を澄ませていた。音がよく響く構造がこれほど役に立ったことは今までない。
「旦那!ここが天音製薬の社長の屋敷ってのは間違いありません! 」
どうやら若い男がリーダー格の男に報告しているようだった。
「それとこの情報が確かなら、少なくともこの屋敷には社長の1人娘と召使いがいるようですぜ?見つけたらどうしましょうか? 」
「そんなの決まってるだろ、娘は薬の人質にする、召使いの方は…… 」
殺せ。
「「……!! 」」
私たちは声を押し殺して絶叫した。ついさっきまで可能性の話だった召使いさんの話が現実になってしまったのだから。
「……?旦那、こっちの方にも部屋があるようですぜ? 」
……まずい、こっちに来る!!
「……ね、ねぇ召使いさ… 」
「…お嬢様、しっかり掴まっていて下さい 」
そう言って召使いさんは私を強く抱きしめた。私は何がなんだか分からなかったが、召使いさんの背中に手を回した。
次の瞬間、召使いさんは近くにあった窓に思いっきり飛び込んだ。
バリンッ、と鋭い音が屋敷中に響いた。
「旦那ぁ!こっちです!! 」
「よし!追いかけろ!絶対に逃すな! 」
召使いさんは私を抱えたまま、全力で庭園を疾走していた。振り返れば死、止まれば死、捕まれば死であった。彼らが拳銃を持ってないとも限らない。とにかく必死に走っていた。
「召使いさん!どうやって逃げるの!? 」
私が尋ねると召使いさんは答えてくれた。
「以前ここで花を摘んだとき遠目で見たのですが、この先に池がありますよね!?その池には下水道と繋がっている排水口がありました。そこから脱出しますよ!! 」
……そこまで考えていたなんて。やっぱり召使いさんは凄い人だ。
「待てヤァゴラァァァァァ!! 」
…まだ追いかけてきている!幸いにも拳銃などはないようだが。
そして私たちは池まで辿りついた。
召使いさんは私を下ろすと排水口の鉄格子の止め具を外した。
「ヘヘッ、もう逃げられなヘブッ!? 」
そして思いっきり外した鉄格子を追っ手の男の頭部に投げつけた。男はナイフを地面に落とし、気を失ったようだった。
「お嬢様、今のうちに!! 」
「ええ!急ぎましょう!! 」
……こうして私たちは何とか屋敷から脱出することができたのだった。
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