永遠の生命と想い出の花園 〜鷹華キャラシナリオ〜

内藤 春翔

文字の大きさ
4 / 5

第4話 月が綺麗な夜に

しおりを挟む
私と召使いさんは屋敷を脱出したあと、お父様や薬の購入者が何者かに殺害されたことを新聞の号外で知った。そして私たちは行くあてもなく、放浪の旅をすることになった。

その旅は人生で一番楽しい時間だった。
それは今までお屋敷の中しか知らなかった私にとって全てが新鮮だった。

生まれて初めて山に行った。
とても虫が多かったけれど、庭園では見られない綺麗なお花や植物をたくさん見ることができた。

生まれて初めて海に行った。
潮風の香りは清々しくて思わず泳ぎたくなってしまった。帯を解いて泳ごうとしたら召使いさんに
「お嬢様、おやめ下さいませ。あちらの殿方たちが見ております 」
と止められてしまった。…別に見られても構わないのだけれど。

生まれて初めて繁華街に行った。
人が波のように押し寄せて大変だったけれど、店先に並んでいるものがキラキラ輝いているように感じた。今までお父様に頼めば何だって買ってくれたのだけれど、買い物にいくってことがこんなにも楽しいことだとは思わなかったわ。…もっとも、お金が無くて何も買えなかったのだけれど。

本当に楽しかった。それからしばらく旅を続けていた。しかしもともと身体は強い方ではなかったし、長い屋敷暮らしのせいで長旅に慣れてなかったのでしょうね。日に日に私は衰弱していってしまった。




「……お嬢様、おはようございます 」
「おはよう、召使いさん。……次はどこに行くの? 」

ある街の宿屋で目を覚ました私は召使いさんに話しかける。

「……いえ、お嬢様、しばらく移動は控えましょう 」
召使いさんが暗い顔で答える。

「…どうして?わたしなら大丈夫よ。次はお花畑に行きたいわ。またいつかみたいに2人で冠をつくりましょ…… 」
「お嬢様! 」

私の言葉を遮って召使いさんが口を開いた。いつもでは考えられないほど口調は強く、その瞳は悲しそうに揺らめいていた。

「…もう、それ以上、ご無理はなさらないで下さい…!お嬢様は…お嬢様は、もう1人では歩くことすらできないではありませんか!! 」

「……そう、ね。…そうだったわね 」

ベッドから上半身を起こす。下半身の感覚がない。1週間ほど前から足の感覚が少しずつ消えていって、今ではもうほとんど何も感じない。

何度か召使いさんが連れてきてくれたお医者様に診てもらったのだけれど、首を横に振るばかりだった。

中には「もう先は長くない 」とおっしゃられた方もいらした。そんなお医者様に召使いさんは「あなたヤブですか!! 」と言って食いついていたのだけれど…

私の先が長くないのは、私が一番よくわかっていた。



そして屋敷を出てから今日で3年目の夜。


「……ねぇ、召使いさん。…今日は…月は綺麗? 」

「…えぇ。大変綺麗でございますよ 」

…そう。もう私は目もほとんど見えなくなってしまっていた。それに加えて3日ほど前から吐き気が止まらず何も食べられていない。熱もかなり高く、宿屋の人も心配してくれていた。


…私はもう今夜にでも死ぬかも知れない。

でもその前に、少しでも私の大好きな彼女にせめて恩返しがしたい。

そう思って、彼女がずっと欲しがっていたものをプレゼントすることにした。

「…召使いさん、…ずぅっと前に、私に名前を付けてっていったの覚えている…? 」

「……はい 」

召使いさんは小さく頷いた。

「…私ね、ずっと、ずぅっと考えてね、でも中々納得できる立派な名前が思いつかなかったの 」

「…はい 」

「…でもね、今になって…ようやく素敵な名前を思いついたの。あなたの宝物だったあの鷹のお守り…と、私の宝物だった花の冠……どっちもあのときお屋敷に置いて来ちゃったけど…あなたには忘れないでいて欲しいの。自分の好きなものと、できればでいいから…私のことを 」

「………勿論でございます 」

目が見えなくてもわかる。召使いさんは涙を流している。

「……あなたの名前はね、私たちの好きなもの…鷹とはなって書いて、ヨウカって読むの…素敵でしょ? 」

「…はい、とっても素敵です… 」

…あと少し。吐き気をこらえて踏ん張る。ここで伝えないときっと死んでも後悔するから。

「……わたしね、夢があるの…あなたみたいにね、何でもできる素敵な女性になりたいの…わたしとっても不器用だけど…なれるかしら? 」

「……はい…!…お嬢様ならきっと…私よりも遥かに素敵な女性になれます…ぜったいです…! 」

あぁ、声を出すのがやっとなのに、苦しい、よりも、幸せだ、と思ってしまう。こうやって大好きなひとの隣に居られるだなんて。いつか庭園で感じた温かい気持ちで胸がいっぱいになる。

「……ありがとう鷹華ようか、あなたと出会えて…よかった…あなたは私の憧れよ… 」

そう言ってできる限り微笑もうとしたが、意識がどんどんと遠くなっていく。

やがて手に感じていた召使いさんの温もりも感じなくなっていった。

……こうして天音あまね りんという少女の人生は幕を下ろした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

麗しき未亡人

石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。 そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。 他サイトにも掲載しております。

処理中です...