固有能力『変身』を使いヒーロー活動をしていた私はどうやらファンタジーな異世界でも最強のようです

遠野紫

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48 グレイグの終わり

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 どうしてこうなったのか。答えは簡単である。
 レイナが咲のことを魔人王と魔獣王討伐の功労者としてギルドに伝えていたのだ。

「それにしても、まさかあの五大魔将の二体が倒されるとは……私、夢でも見ているんでしょうか」

 そう言いながら受付嬢は自分の頬をつねる。

「うぅ、痛いです」

 当然夢ではないので痛みを感じていた。
 そんなコントのような事をしている彼女の元にグレイグがやってくる。

「なあなあ受付ちゃんよぉ。今日こそは俺と遊ぼうぜぇ?」

 そしてあの時のように受付嬢に絡み出すのだった。
 
「やめて……ください」

 拒否する受付嬢を無視して彼女の豊満な胸に手を伸ばすグレイグ。

「嫌がってますよ?」

 そんなグレイグに咲もあの時と同じように声をかける。

「あ゛ぁ?」

 するとグレイグは中々に治安の悪い声を上げながら彼女を睨んだ。

「待て、お前は……そうか、懲りずにまた来やがったのか」

 しかしすぐに咲の事を思い出したのか、グレイグはニヤリと笑いながら標的を彼女に切り替えるのだった。

「あれ以降見てねえからよぉ。てっきり冒険者やめちまったのかと思ったぜ」

「こっちにも色々あるの。で、どうする? やる気があるなら受けて立つけど」

 咲はそう言ってグレイグを挑発した。そうすれば彼のヘイトが自身に向き受付嬢を守れると、そう考えての行動だった。

「くっ……この俺をバカにしやがって……! いいぜ乗ってやる。だが良いのかぁ? どうやらレイナは最近忙しいみたいだからな。パトロールもしてないし、この間みたいに助けちゃあくれんだろうよ」

 グレイグは咲を挑発し返すようにそう言った。
 どうやら咲の考えたヘイトを自身に向けさせる作戦は成功したようだ。

「つっても、所詮は見習い冒険者だからなぁ。手加減できずに殺しちまうかもしれねえ」

 余裕たっぷりでそう言うグレイグ。
 そんな彼の元に一人の男冒険者が駆け寄って来る。

「ま、不味いですよグレイグさん!」

 そしてその男は慌てた様子でグレイグにそう言った。

「おいおいどうしたんだ? そんなに慌てて」

「どうしたも何も、この女と戦っちゃあ駄目っす!! コイツ、あのダニエルとの決闘に勝利したどころか魔獣王すら討伐しちまったんすよ!?」

「……なんだって? いやいや、そんな訳があるかよ! この女はつい先日まで見習いだったんだぜ?」

 男のその言葉を信じられなかったグレイグはそう言って、彼の襟を掴んで頭をぶんぶんと振り回した。
 だがそれでも男は決して折れなかった。
 彼は実際にその目で咲の戦いを見たのだ。このまま彼女に挑めばグレイグの命は無いと、本能レベルで察していたのである。

「はぁ……どうやら妙な嘘を吹聴しているみたいだが、俺がそんなものを信じるとでも?」

 しかしグレイグはそれを信じることなく咲に絡み続けた。
 それも受付嬢を守りたい咲にとっては都合が良く、とどめと言わんばかりにさらに彼を挑発する。

「嘘だと思うならやってみたら?」

「クソッ……! わかった。そっちがその気ならやってやるよ。いいか、後悔するなよ!!」

 そう叫ぶとグレイグは拳を握り、それを咲に叩き込んだ。

「オラァッ!! その奇麗な顔をベッキョベキョにしてやるぜぇ!! 今更後悔してももう遅いからな!」

 グレイグはヤシの実程はあろうかと言うサイズの巨大な拳で何度も何度も咲を殴り続ける。
 だが……。

「ぐあ゛ぁぁっ!? い、いてぇ゛ぇ゛!」

 気付けばグレイグの拳の方がメキョメキョになっているのだった。
 一方で咲の顔は傷一つ付いておらず、奇麗なままであった。この奇麗と言うのは状態の話であって容姿の話ではもちろんないが、それはそれとして彼女は物凄く容姿端麗である。

「くそぉっ、どうなってんだよ! 俺の拳は岩をも砕くんだぞ!」

「じゃあ私の顔が岩よりも堅いってだけだね」

「そんなバカな話があってたまるか……!!」

 血を噴き出しながらもグレイグはもう一度彼女の顔を殴る。
 だが何度やっても結果は同じだった。
 それでも殴るのをやめなかったグレイグの拳はいつしか肉が剥がれ、骨が見えている箇所すらある凄惨な状態となっていた。

「嘘だ……そんな訳ねえ……」

「これで分かった? あなたは私には絶対に勝てない。これに懲りたらもう二度と……あの、ちょっと? ……ごめん、やり過ぎたかも」

「あ、ぁぁ……俺は、弱い……」
 
 咲はグレイグの様子がおかしいことに気付き、思わず謝罪した。
 だがその声はもうグレイグには届いていなかった。彼は完全に心を打ち砕かれてしまったのだ。
 自分の強さに圧倒的な自信を持っていたのにも関わらず、全力を出してもたかだか少女一人に傷一つ付けられなかった。
 その事実が彼にとてつもないトラウマを植え付けてしまったのである。

 もはや彼は冒険者としてやっていける精神では無い。しかしこれまでやってきた事を考えれば自業自得であった。
 それに結果的にとは言え彼が傲慢な態度をとることはもう二度と無いため、新人冒険者や受付嬢に安寧が訪れたのだ。

 恐らく、きっと、多分これが一番平和だと思われる。
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