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13 決戦、魔王軍

75 勇者

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「勇者だと?」

「そう、俺は勇者だ。本来は魔王を倒すために生まれたんだけど……そうも言っていられなくなってしまってね。さて、君たちに勇者の強化魔法を授けよう。共に戦ってくれるね?」

 勇者はサザンに勇者の特権である特別な強化魔法を付与する。

「こいつは凄いな……俺の付与魔法がまるでおもちゃみたいだ」

 身体能力から各種耐性、魔法能力までありとあらゆる要素が数十倍に跳ね上がる。それはサザンのエンチャンターとしての付与魔法とは比べようもない程の上昇量であった。

「行くよ!」

 勇者が魔法で剣を召喚し、魔王へと向かって行く。

「ええいちょこまかと!」

 魔王が周囲を飛び回る勇者を叩き落とそうと腕を振り払うが、勇者の速度に追いつくことが出来ない。その間に勇者は隙を見ては魔王の機械の体に剣で斬りつけて行く。甲高い音とともに火花が散る。

「……やはり剣では駄目か」

 勇者の斬撃は次々に魔王の体へと傷を付けて行く。しかしそれは表面を斬りつけるだけで、深くまでダメージを与えることは無い。

「やはり君たちの力が必要だ。俺が気を引いている内に、ヤツに全力を叩きこんでくれ」

「わ、わかった!」

 突然現れた勇者にまだ理解が追いついていなかったサザン達だが、自分のやるべきことははっきりしていた。強化された魔力砲を全力で叩きこむ。それが魔王を倒すために必要なことだと瞬時に理解したのだった。

「その程度の攻撃では私は倒せんぞ!」

「だがそちらの攻撃も俺には当たっていないぞ!」

 勇者が魔王の気を引いている内に、サザンは魔力砲と魔法集中の準備を進める。勇者の強化魔法によって魔力砲一発一発が今までとは比べようも無い威力へと跳ね上がっている。それを魔法集中で合体させ、さらなる威力上昇を図る。

「勇者! 避けろ!」

 サザンが叫ぶのと同時に、勇者は射線上から脱出する。

「な、貴様……!!」

 魔王が魔法を放つよりも速く、サザンの魔力砲が魔王を包み込む。

「ぐぁあっぁぁあぁっぁぁぁぁ!!」

 魔王の体が魔力の塊に焼かれ、徐々にその姿を崩していく。そして直に動かなくなった。

「終わった……のか?」

「そうみたいだね。俺だけでは魔王には勝てなかった。君たちのおかげだよ」

 勇者はサザンの方へと飛んでいく。

「勇者……確かにルカと似ているな」

 改めて近くでその顔を見たサザンは、勇者がルカと似ていることを認識した。

「ルカか。彼にも迷惑をかけたな」

「本当一時はどうなるかと思ったが、なんだかんだ今も元気にやっているみたいだぞ」

「そうか、それは良かった」

「それより、あなたが勇者なら何故このタイミングに出てきたんだ。もっと前にも手は打てたんじゃないのか?」

「それは……色々あるんだこちらにも」

 勇者はサザンのもっともな意見に対して、表情を曇らせながら答え始める。

「俺には『千里眼』というスキルがある。過去や未来のことをある程度見通すことが出来るものだ。俺はこのスキルによって、生きている世界が箱庭というものの中であることを知った。そして同時に箱庭に現れる異常性についても知ってしまったんだ」

「異常性?」

「機械で出来た魔物が箱庭の中に出現してしまうことがあったんだ。俺はそれの対処をする必要があった。放置していれば絶対に良くないことが起こるだろうからね。でも勇者としての旅を続けながら並行して行うのは無理があった。だから影武者として彼を……ルカを勇者に仕立て上げたんだ」

「そう言う事だったのか」

『そうか思い出したぞ! 我を昔殺したのはこの勇者だ! 道理でルカに出会った時に見覚えがあったはずだ』

 突然ファルが声を上げる。勇者の顔を見て、かつて自分を殺したのが勇者であったのを思い出したようだった。

「何だって? ……あなたが昔ファル……魔人ファレルロを倒したというのは本当なのか?」

「魔人……ああ、あの時の。機械の魔物を倒すためにダンジョンを探索していたらいきなり襲われたものだから仕方なく倒したんだよね。まあその後過去を見て可哀そうになっちゃって蘇生させたんだけども。でも何故突然その話を?」

「ああ、わけあって魔人ファレルロは今俺の中にいるんだ」

「君の中に?」

 勇者は驚く。

『強い者を見たら気が昂ってしまって……我としたことが浅はかだったわ』

「そうだったんだな」

「でもその千里眼があればなおさら魔王へと対策が出来たんじゃないのか?」

「そう思うのも無理はない。でもそれが出来ないのはこのスキルの欠点が大きいからだ。このスキルは使用すると膨大な量の魔力と生命力を消費してしまうんだ。だからそうポンポン使えるものでは無いんだよ。だから今の今まで、俺は戦うためのエネルギーを回復していたと言うわけだ」

「なるほどな。スキルに苦しめられるのは俺も良くわかる」

 サザンは大器晩成スキルのせいでレベルが全く上がらなかった頃を思い出す。

『不味いぞサザン! 魔王の中に強大な魔力反応が生まれている!』

「何だと!?」

 ファルの突然のその言葉を聞き、サザンは即座に魔王の方を向く。そこには倒したはずの魔王が再び立ち上がり、静かに笑みを浮かべている姿が。

「もう私は長くは無い……。こうなれば貴様らも道連れにしてやろう……!!」

「クソッ俺の千里眼でもここまでは読めなかった……! このままでは結界が!」

 魔王の中にため込まれている魔力が爆発すれば今この場にいるサザン達だけでは無く、結界も破壊されて中の生物は軒並み死滅してしまうだろう。

「こうなったら結界を張って爆発を閉じ込めるしかない!」

「だがどうやって!? 俺たちの力では恐らく……!」

「なら進化すれば良い……でしょ? 君たちの大器晩成スキルは素材を取り込んで進化できる力を持つ。それを利用すれば君たちも緋星龍になれるはずだ」

「無理だ。緋艦龍を飛ばして緋星龍に進化するにはあまりにも負担が大きすぎる。成功するかもわからないんだ。何より進化するには緋星龍の一部が必要なんだ」

「俺の強化魔法があれば大丈夫かもしれない」

「それは……可能性はあるかもしれないが、結局進化するために必要な材料が無いのでは意味が……」

「いや待て、ガルデが言っていた。魔王はデオスの基地の残骸を取り込んだのだと。であればもしかしてこの基地は……」

「……そうか!」

 サザンは一か八かで、基地の破片を自身に取り込んだ。途端に進化が始まり、全身を苦痛が走り抜ける。しかし勇者の強化魔法によって何とか耐えることが出来たのだった。そうしてサザン二人は無事に緋星龍になることが出来たのだ。

「これが、最後の戦いだな」

「ああ」

 二人は結界を張り、魔王の爆発を抑え込もうとするのだった。
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