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13 決戦、魔王軍
76 最強
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「うぉぉぉぉお!!」
全力で結界を維持する二人のサザン。魔王の爆発は想像よりも威力が大きく、気を抜けばすぐにでも結界が破壊されてしまいそうだった。
「ぐっ……まだ力が足りない……!」
「二人でも駄目なのか……!?」
徐々に結界にひびが入る。サザンの魔力にも限界が見え始めていた。これ以上結界にダメージが入れば修復は難しくなる。
そんな時、魔王の部屋の壁が破壊されて二体の龍が入って来たのだった。大きな砲塔が目立つ巨砲龍と、緋の金属質の甲殻に包まれ、さらに巨大な砲塔を持つ緋艦龍。魔王が機能停止したことで結界内へと侵攻していた魔王軍も停止し、結界外へと出てくることが出来たのだった。
「あれ、なんでそっちの俺が緋星龍に!?」
「良いからそっちも緋星龍になってくれ!」
城内の二人が緋星龍になったように、新たにやって来た二人も緋星龍になる。緋艦龍のみが負担なく進化することが出来たのだった。とは言えその負担も勇者の強化魔法で軽減される。
「よし、俺たち二人の力も合わせるぞ!」
四体の緋星龍が結界を張り、魔王の爆発を抑え込む。最初の内は抑え込めていたように見えたが、徐々に強化された結界にも限界がやって来る。
ピシピシとひびが入り、隙間から魔力が漏れ始める。ほんの少しのその魔力が掠るだけで、緋星龍の甲殻が蒸発する。
「駄目だ……四人でも足りない……!!」
「……俺のスキルはこの時のためにあったんだな」
サザンの前に勇者が飛んでくる。
「勇者……?」
「俺の持つもう一つのスキル『贄』を使えば、この状況を打開出来るしれない。けどその代償として俺と君たちは消え去ることになるだろう」
「……それでも、やるしかない。世界を救うためにはこの身を犠牲にしてやる覚悟だ!」
「わかった。やろう!!」
勇者がスキルを発動させると同時に、四体の龍と勇者の体が溶けあい一つの光の塊になる。
「これだけの力を持つ者がその体を代償にすれば、恐らく世界最強の魔力触媒になる。一度だけどんな願いだって叶えられるはずだ。それだけの膨大な魔力量が今ここにはある」
「……そうか」
溶け合った結果一人に集約されたサザンの精神に、勇者が語り掛ける。
「この爆発を抑えても、世界が平和になる保証はない……。それに、結界の外は変わらず高濃度の魔力で満たされたままになる。……それなら」
『な、何をするんだサザンよ! 我も最後まで付いて行く! だから!』
サザンは結界内の緋星龍へと通信用パスを通じてファルを送り返す。
「良いんだ。お前は生きてくれ。今ここに居る俺は消えてしまうが、結界の中の俺を……他の皆を頼んだぞ」
そう言って、サザンは無理やりにもファルを結界内に飛ばした。
「……これで思い残すことは無い」
サザンは一つの願いを浮かべ、光の中へと溶けて行った。
その瞬間、光の塊は魔王城をも包み込み、結界も、そしてこの星自体をも包み込んだのだった。
------
数年後
「ねえお母さん、なんで海ってあんなに赤いの?」
エルフの少女が美しい緋色の海を見ながら、母親である黒髪のエルフの女性に尋ねる。
「あの海の色はな、その昔世界を救った英雄を象徴する色なんだ。その身を犠牲にしてこの美しい星『緋星』を作り上げ、皆を助けたんだよ」
「お母さんはそのえーゆーに会った事あるのー?」
「会った事……か」
エルフは少し懐かしさを含む目をしながら、物思いに耽った。
場所は変わって星龍の街。かつて緋星龍がいた地下洞窟の上に建てられた星龍の像の前に、メルとリアは立っていた。
二人が意識を取り戻した時には、地下洞窟が崩落してしまっていたのだ。中にいた緋星龍の安否は不明。数年姿を現さないことから亡くなったのだろうと判断され、地下洞窟のあった場所の地上に星龍を称える像が建てられたのだった。
「サザン……やっぱりもう会えないのかな」
箱庭と外の世界が合体したことにより、箱庭内に残された二人の情報が外の二人を上書きしてしまったのだ。そのため二人は若返ってしまっていた。
そして若返ったという事は、これからの長い時間をサザンを失った悲しみを背負って生きて行かなければならないという事であった。
しばらく経って二人が像を後にしようとしたその時、突如地面から人の腕が生えてきたのだった。
「な、何!?」
「魔物!?」
メルとリアが身構えると、今度はもう片方の腕が生えてくる。そして数秒後、頭が生えてきたのだが……その正体がメルとリアには信じられなかった。
「……嘘」
「なんで……」
「その声、メルとリアか!? なんでこんなところに……。そんなことより、助けてくれないか?」
土から生えてきたのは、サザンだったのだ。
砂と泥にまみれ目を瞑っていたサザンはメルたちの声を聞き助けを求める。二人はサザンを土から引っこ抜くと、水属性魔法で洗浄した。
「ふぅ……助かったよ。ただいま」
「サザン……今まで心配したんだから!」
「うああぁぁぁんサザン生きてて良かったぁぁ!!」
二人は涙をこらえきれずにサザンに抱き着いた。
「ごめんな。まさか洞窟が崩落しているとは思わなくて。ファルが俺の記憶のバックアップと力の一部を持って行っていたのは驚きだったが、そのおかげで色々と何とかなった」
「ファルちゃんも一緒に居るの?」
「ああ、俺の中に確かに存在している。これからファルを元に戻す方法も探さないとな。色々あったが、これでまた皆一緒にいられるのか」
「そうね。もう離さないから」
メルの力が強くなる。
「ん……? メ、メル……?」
「私もだよ、サザン」
リアも同じようにサザンの腕を掴む力を強くした。
「あ、あれなんか様子がおかしいぞ二人共……?」
こうして再会を果たした三人。この後メルとリアのサザンへの距離感がおかしくなっていくが、それはまた別の物語である。
世界を救うだけの力を持つ最強のエンチャンターサザンの冒険は、これからも続いていくのだ。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる 完
全力で結界を維持する二人のサザン。魔王の爆発は想像よりも威力が大きく、気を抜けばすぐにでも結界が破壊されてしまいそうだった。
「ぐっ……まだ力が足りない……!」
「二人でも駄目なのか……!?」
徐々に結界にひびが入る。サザンの魔力にも限界が見え始めていた。これ以上結界にダメージが入れば修復は難しくなる。
そんな時、魔王の部屋の壁が破壊されて二体の龍が入って来たのだった。大きな砲塔が目立つ巨砲龍と、緋の金属質の甲殻に包まれ、さらに巨大な砲塔を持つ緋艦龍。魔王が機能停止したことで結界内へと侵攻していた魔王軍も停止し、結界外へと出てくることが出来たのだった。
「あれ、なんでそっちの俺が緋星龍に!?」
「良いからそっちも緋星龍になってくれ!」
城内の二人が緋星龍になったように、新たにやって来た二人も緋星龍になる。緋艦龍のみが負担なく進化することが出来たのだった。とは言えその負担も勇者の強化魔法で軽減される。
「よし、俺たち二人の力も合わせるぞ!」
四体の緋星龍が結界を張り、魔王の爆発を抑え込む。最初の内は抑え込めていたように見えたが、徐々に強化された結界にも限界がやって来る。
ピシピシとひびが入り、隙間から魔力が漏れ始める。ほんの少しのその魔力が掠るだけで、緋星龍の甲殻が蒸発する。
「駄目だ……四人でも足りない……!!」
「……俺のスキルはこの時のためにあったんだな」
サザンの前に勇者が飛んでくる。
「勇者……?」
「俺の持つもう一つのスキル『贄』を使えば、この状況を打開出来るしれない。けどその代償として俺と君たちは消え去ることになるだろう」
「……それでも、やるしかない。世界を救うためにはこの身を犠牲にしてやる覚悟だ!」
「わかった。やろう!!」
勇者がスキルを発動させると同時に、四体の龍と勇者の体が溶けあい一つの光の塊になる。
「これだけの力を持つ者がその体を代償にすれば、恐らく世界最強の魔力触媒になる。一度だけどんな願いだって叶えられるはずだ。それだけの膨大な魔力量が今ここにはある」
「……そうか」
溶け合った結果一人に集約されたサザンの精神に、勇者が語り掛ける。
「この爆発を抑えても、世界が平和になる保証はない……。それに、結界の外は変わらず高濃度の魔力で満たされたままになる。……それなら」
『な、何をするんだサザンよ! 我も最後まで付いて行く! だから!』
サザンは結界内の緋星龍へと通信用パスを通じてファルを送り返す。
「良いんだ。お前は生きてくれ。今ここに居る俺は消えてしまうが、結界の中の俺を……他の皆を頼んだぞ」
そう言って、サザンは無理やりにもファルを結界内に飛ばした。
「……これで思い残すことは無い」
サザンは一つの願いを浮かべ、光の中へと溶けて行った。
その瞬間、光の塊は魔王城をも包み込み、結界も、そしてこの星自体をも包み込んだのだった。
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数年後
「ねえお母さん、なんで海ってあんなに赤いの?」
エルフの少女が美しい緋色の海を見ながら、母親である黒髪のエルフの女性に尋ねる。
「あの海の色はな、その昔世界を救った英雄を象徴する色なんだ。その身を犠牲にしてこの美しい星『緋星』を作り上げ、皆を助けたんだよ」
「お母さんはそのえーゆーに会った事あるのー?」
「会った事……か」
エルフは少し懐かしさを含む目をしながら、物思いに耽った。
場所は変わって星龍の街。かつて緋星龍がいた地下洞窟の上に建てられた星龍の像の前に、メルとリアは立っていた。
二人が意識を取り戻した時には、地下洞窟が崩落してしまっていたのだ。中にいた緋星龍の安否は不明。数年姿を現さないことから亡くなったのだろうと判断され、地下洞窟のあった場所の地上に星龍を称える像が建てられたのだった。
「サザン……やっぱりもう会えないのかな」
箱庭と外の世界が合体したことにより、箱庭内に残された二人の情報が外の二人を上書きしてしまったのだ。そのため二人は若返ってしまっていた。
そして若返ったという事は、これからの長い時間をサザンを失った悲しみを背負って生きて行かなければならないという事であった。
しばらく経って二人が像を後にしようとしたその時、突如地面から人の腕が生えてきたのだった。
「な、何!?」
「魔物!?」
メルとリアが身構えると、今度はもう片方の腕が生えてくる。そして数秒後、頭が生えてきたのだが……その正体がメルとリアには信じられなかった。
「……嘘」
「なんで……」
「その声、メルとリアか!? なんでこんなところに……。そんなことより、助けてくれないか?」
土から生えてきたのは、サザンだったのだ。
砂と泥にまみれ目を瞑っていたサザンはメルたちの声を聞き助けを求める。二人はサザンを土から引っこ抜くと、水属性魔法で洗浄した。
「ふぅ……助かったよ。ただいま」
「サザン……今まで心配したんだから!」
「うああぁぁぁんサザン生きてて良かったぁぁ!!」
二人は涙をこらえきれずにサザンに抱き着いた。
「ごめんな。まさか洞窟が崩落しているとは思わなくて。ファルが俺の記憶のバックアップと力の一部を持って行っていたのは驚きだったが、そのおかげで色々と何とかなった」
「ファルちゃんも一緒に居るの?」
「ああ、俺の中に確かに存在している。これからファルを元に戻す方法も探さないとな。色々あったが、これでまた皆一緒にいられるのか」
「そうね。もう離さないから」
メルの力が強くなる。
「ん……? メ、メル……?」
「私もだよ、サザン」
リアも同じようにサザンの腕を掴む力を強くした。
「あ、あれなんか様子がおかしいぞ二人共……?」
こうして再会を果たした三人。この後メルとリアのサザンへの距離感がおかしくなっていくが、それはまた別の物語である。
世界を救うだけの力を持つ最強のエンチャンターサザンの冒険は、これからも続いていくのだ。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる 完
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