遼遠の獣宿し~異世界にTS転移させられた俺は世界を救うことになった~

遠野紫

文字の大きさ
11 / 56

11 魔族化したSランク冒険者

しおりを挟む
「……では何故そのようなことを言ったのだね」

 よし、その調子でどんどん行け! どんどん真実を暴き出せ!

「……僕は彼女を、リーシャと言ったあの獣人を襲おうとしました。そこをあのショータという獣人に邪魔され……駆け付けた仲間たちを騙すために……アアァァッッ!! そうだ! 騙そうとしたんだよ! 見られちまった以上咄嗟に嘘をつくしかねえだろうが!!」

 開き直った。アイツ、もう終わったな。

「そんな……どうしてそんなこと」
「どうしてだって!? お前らも思わないのか? なんで獣人なんかが人間と同じ扱いをされているのかを!」
「お前、何を言って……」

 ヤツの暴露に仲間たちも戸惑いを隠せないみたいだな。今までは外向けの善人としての顔を使っていたんだろう。実際は差別主義者のやべえ奴だったわけだが。
 
「獣人は俺たち人間のためにその身を尽くすべき存在なんだ! それが最近、どんどん地位を上げてきやがった! 俺は獣人風情が人間として扱われていることが許せない……! 俺たち人間が獣人と同じものだと言われているようで虫唾が走るんだ!!」
「……クライム、そんなこと思ってたんだ。最低」
「クソッどうしてこんなことに……」
「なんで……私クライムのことが好きだったのに! こんな人だったなんて知っちゃったら……もう今までと同じようにはいられないじゃない!!」

 アマンダだったか。彼女は本気でクライムを愛していたんだな。だがまさか中身がこんなヤツだったとは。お悔やみ申し上げるぜ。

「うるせえよ。お前なんて所詮2番目3番目の女だからな?」
「……え?」

 想像以上だった! こいつとんでもねえヤツだぞ!!

「ちょっと顔と体が良いからそばに置いてやってたのに、まさかここまで思い上がるなんてな。俺、今までにお前以外とも関係持ってっから」
「嘘……」
「あーせっかくSランクパーティのリーダーになって欲望の限りを尽くそうと思ってたのに全部台無しだ。こうなった以上、お前たちには消えてもらうしかねえな」
「クライム……それ……!!」

 何だ……? ヤツが謎の球体を出した瞬間、空気が変わった。そう言えばアマンダがさっきドス黒い魔力とかなんとか言っていたような。まさにそんな感じだ。

「ちょうどいい。獣人なんかを対等に扱うこのふざけた国も消滅させてやるよ。ウォォォオォォォッッッ!!」

 ヤツの体が膨れ上がり始めた。ここは裏路地だってのにそんな巨大化したら……。いや、それが目的なのか……!

「不味い! 皆の者、逃げるのだ!」
「間に合わねえ! 獣宿し『肆牙』!!」

 このままだと街に被害が出る! どうにかしてこいつを国の外に出さねえとな! 思えばコイツさっきも周りの被害関係なしに大技出してきやがった。Sランク冒険者ってのが皆コイツみたいな自己中じゃねえことを祈るぜ。

「国王様、リーシャを頼みます!」
「ドラゴンロードの一件と言い、またしても貴殿に頼り切りになってしまい申し訳ない。この者は必ず私が守り通す故、心置きなく戦ってくれ」
「ショータ様、どうかご無事で……!」

 よし、後はコイツを国から離せばひとまず不安材料は無くなるな。にしても禍々しい見た目にこの重くドロドロとした魔力、まさかコイツ自身が魔族になっちまうとは。

「フゥ……フゥ……またしてもお前か……! お前のせいで俺は何もかもを失った! だがこの力があればもう仲間もいらない。魔族になった俺は正真正銘最強になったのだ!!」
「なら、そんなお前を倒したら俺が最強になるんだな」
「はっはっは! そんな軽口が叩けるのも今の内だ。俺の力にひれ伏すが良い!」
「うぉっ!?」
 
 人間だった時とは段違いの攻撃速度で殴って来た。それだけじゃない。ただの拳だってのに纏っている魔力のせいで周りの空気が一瞬にして蒸発してやがる。まともに食らえば有機物である俺の体は一瞬で焼失しちまいそうだ。

 なら有機物じゃ無けりゃいい。

「獣宿し『剛鎧』!」

 全身を金属で覆う。そうすればヤツの攻撃だって……。

「そんな強度で何が出来る!!」
「あがっ!?」

 嘘だろ!? 俺の剛鎧が砕けやがった……!! 

「金属如きで僕の攻撃を止められるとでも思っているのか? このまま生身の部分に……な、なんだその体は!?」

 ヤツは俺の砕けた傷口を見て驚いているようだ。それもそのはず。ヤツは俺の剛鎧をただの外皮か何かだと思っていたようだからな。だが実際は違う。この状態になると中身が全て金属質になるんだ。筋肉も臓器も、俺の全てが頑強な金属と化す。だからどれだけ砕いたって生身の体なんてやってこない。

「ありえない……! ロックドラゴンもアイアンドラゴンも堅牢なのは表面だけだ! 中身まで全て無機質だなんてありえるはずが……!!」
「ありえるんだよ。俺ならな」
「ぐっ……ならこれなら!」
「おっと」

 人間の時に使って来たアステロイドショットだったか。それを何発も同時に撃ってきたが魔力攻撃なら蝕命ですべてを無効化できる。

「うぐぐ……一体何をした! さっきも僕の最大の一撃を受けて何ともなかったじゃないか!」
「俺の力を使って魔力を吸収した。だから魔法攻撃は俺には通用しない」
「そんなの反則だ……。だがそれなら肉弾戦なら通用するってことだよなぁ!!」
「ぐっ……」

 確かにヤツの攻撃は俺の剛鎧を破壊できる。このまま食らい続ければ不味いだろう。だがそれはあくまで食らい続ければの話だ。

「獣宿し『炎龍』!! 骨の髄まで焼き尽くしてやっから覚悟しやがれ!!」
「わざわざ硬化を解除したな馬鹿が!!」
「うるせえ! 当たらなければどうってこたあねえんだよ!!」

 いくらヤツの攻撃が化け物じみていても所詮は生物。炎龍の超高温の炎で焼き尽くしてしまえば良い!

「バ、バカなァァ!! この力は絶対のはずだ! こんな炎なんかに敗れるはずが……敗れるはずがァァァァッッ!!」

 ふぅ。完全に焼き尽くしたな。

「ぐ……クソッ……」

 まだ生きていたか。しぶとさもSランクだな。

「何が最強の力だ……獣人一人にさえ勝てないじゃないか。やっぱりあんな怪しい奴らの話なんか信じるんじゃなかった」
「怪しい奴らだと?」
「何だ気になるのか? だがただで話すわけには……ヒィィわかった話す! 話すからその拳を下げてくれ!」

 拳に炎を纏わせたら素直になってくれた。聞き分けが良くて助かるぜ。

「アイツらは僕に魔族化の宝玉を渡してきたんだ。最強の力が欲しく無いかってな。でも結局はこのザマだ」
「そいつらの特徴は覚えているか」
「容姿については全くもってわからない。全員ローブを被っていた。ただ奴隷商と親しげにしていたのは見たな」

 奴隷商か。目が覚めて初っ端のこともあるし、奴隷商にはあまりいい思い出が無いぜ。俺たちと直接関係があるとは思えないが、龍種を洗脳しているヤツらと関係が無いとも言い切れないし警戒しておくにこしたことはねえか。

「それにしてもお前、本当不用心だね」
「うん?」
「ついさっき僕を蹴飛ばしたばかりだってのに、また僕のそばに立っている。それではまるで見てくれって言っているようなものだぞ?」

 ああ? コイツ何を言って……。

「……ッッ!!」
「まあ僕としては獣人とは言え良いものを見せて貰えて良かっグボァッ」
「だからキメエんだよ!!」

 コイツこんな状況でもまだそういうことしやがるのか!? もはや一種の狂気を感じやがる!!

 それに俺も俺だ……下着を見られるくらいどうってことはねえ……ねえはずなのに。

「……最悪だ」

 俺は……女になって行っている。確証はねえが直感的にそう思う。でなきゃ辻褄が合わねえ。

 とりあえずコイツを連れて国王さんのとこに行くか。これ以上コイツといたら俺が俺じゃなくなっちまいそうだ。



「ショータ殿、無事で何よりだ」
「良かった……良かったですぅぅ!」
「リーシャ、心配かけたな」

 涙目で抱き着いてきたリーシャの頭を撫でる。幸い国内の被害は無かったようだ。リーシャも無事だしひとまずは安心して良さそうだな。だが、まだ話は終わっちゃいない。

「それで、コイツ……クライムはどうするのですか」
「ああ、そうだな。今回は未遂で終わったが、危険な存在で有ることに変わりはない。ひとまずは厚生施設に送ることになるだろうな。Sランク冒険者の称号も剥奪することになるだろう」
「そんな……」
「……でも妥当ではある。それくらいクライムは最低なことをしようとした」
「まさかこんな形で別れることになるとはな……」

 クライムめ。こんなに思ってくれる仲間を持っておきながらその思いを裏切るなんて。心を入れ替えて一からやり直せることを願うぜ。

「それと国王様。クライムから聞いた話なのですが……」

 ヤツから聞いた話を一応国王さんとも共有しておこう。龍種洗脳の件と何かしら関りがあるかもしれねえしな。

「なるほど。彼の魔族化はそういう経緯であったか。しかし、だとすると疑問が残るな。何故そのような危険なマジックアイテムを国内に持ち込めたのか。本来ならば結界に弾かれるはずだ」

 そう言えばこの国に入る時の検査は凄いザルだったな。リーシャも言っていたが、本来ならばそう言った危険物は鑑定スキルや結界によって弾かれるはずなのか。となると厄介だ。何しろその結界を無効化してしまう危険物が存在するってことだからな。もう国内も安全とは言えなくなっちまった。

「こうなってしまえば入国時の検査を入念に行うしかあるまい。しかしそれでも食い止められなければ……」

 な、なんでこっちを見るんだ。

「ショータ殿、何度もすまないが……」
「わかりました。内部で何かあった時にはお任せください」
「そうか、感謝するぞ」

 ちょっと俺に頼りすぎな気もするが、今回みたいなことが起きたんじゃ並みの騎士や傭兵じゃ太刀打ちできねえってのはわかる。こうなりゃもうリーシャを守るついでに国だろうが何だろうが守ってやるよ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!

naomikoryo
ファンタジー
【★♪★♪★♪★本当に完結!!読んでくれた皆さん、ありがとうございます★♪★♪★♪★】 気づけば異世界、しかも「ただの数学教師」になってもうた――。 大阪生まれ大阪育ち、関西弁まるだしの元高校教師カイは、偶然助けた学園長の口利きで王立魔法学園の臨時教師に。 魔方陣を数式で解きほぐし、強大な魔法を片っ端から「授業」で説明してしまう彼の授業は、生徒たちにとって革命そのものだった。 しかし、なぜか公爵令嬢ルーティアに追いかけ回され、 気づけば「奥様気取り」で世話を焼かれ、学園も学園長も黙認状態。 王子やヒロイン候補も巻き込み、王国全体を揺るがす大事件に次々と遭遇していくカイ。 「ワイはただ、教師やりたいだけやのに!」 異世界で数学教師が無自覚にチートを発揮し、 悪役令嬢と繰り広げる夫婦漫才のような恋模様と、国家規模のトラブルに振り回される物語。 笑いとバトルと甘々が詰まった異世界ラブコメ×ファンタジー!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

処理中です...