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EP3 新生魔王軍との戦い

50 決戦ディアウス

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「私の力、忘れたとは言わせんぞ?」

「こちらとて、負けに来たわけでは無い。前の様には行かんぞ」

 ディアウスは両手に魔力を集中させ、鋭利な爪を生やす。
 以前は容赦なく負けてしまったが、今は装備も整えられ頼れるものと共にある。負ける訳には行かないのだ。

 しばらく様子見をした後、先に動いたのはディアウスだった。
 地を蹴り一瞬で国王に肉薄しその首を切り裂こうとするも、壁によって阻止される。高威力な一撃が防がれたことにより、衝撃波が発生する。
 流石は神が住まう塔。この程度の衝撃ではびくともしない。であれば大規模な魔法を使っても崩れることは無さそうだ。

「ほう、今の一撃を防ぐか」

 国王から一度距離を取るディアウス。攻撃は通らなかったものの、変わらず笑みは浮かべたままだ。

「しかし、そう長続きするものでもあるまい?」

 国王が張った壁には既にひびが入っており、次の一撃を食らえば破壊されてしまうだろう。そうなれば再度張り直すまでに少し時間がかかる。その少しの時間がディアウスの前では命とりになるだろう。
 そうなる前に遠距離から攻撃をするため、我とエレナは魔法の詠唱を行う。もはや魔力の温存を行う必要も無いため、初手で大規模な魔法を使う。
 
 練り上げられた魔力は凝縮され、ディアウスへと放たれる。床へと着弾した瞬間、大規模な爆発が発生しディアウスは炎と煙に巻き込まれ姿が見えなくなった。
 これで倒せるとは思わないが、少しでもダメージは与えられるはずだ。そう思っていたのだが、その希望的観測はあっけなく崩れ去る。
 煙が晴れた後、ディアウスは少し黒くなっただけで大したダメージは負っていないようであった。
 かなり強力な魔法であったはずだ。それでもディアウスには通用しなかった。こうなれば我とエレナの魔法攻撃に大きなダメージは期待出来ない。神と海神、そしてアリサの援護に徹することにした。

「行くぞ!」

 アリサの掛け声とともに、神と海神が動く。3人がそれぞれ別の方向から攻撃を仕掛けることによって、ディアウスの対処を遅らせる作戦だ。
 
「ほう、見事な連携だ。だが遅い」

 ディアウスは正面から神殺しの剣を振り下ろすアリサを蹴り飛ばし、そのまま身を翻す。そして両手で神と海神の攻撃を防ぎ、同じく蹴り飛ばした。

「……アイツ、前より強くなってやがる」

「どうやら神の力が芽生え始めているようだね」

「神の力じゃと?」

 神の話によると、ディアウスは新たに生まれた魔王でありながら天界に存在する魔力を多量に取り入れることで神に近い存在となっているようだ。
 ただでさえ強力だったディアウスが神の力を取り入れ完全に覚醒してしまっては勝ち目が無くなる。そうなる前に決着を付けなければ我らの負けだ。

「その程度の力で私に勝てると思っているのか!」

「くっ……速い上に一撃が重いぜ」

 ディアウスの爪による攻撃は速度を上げて行く。最初の内は辛うじて避けていたアリサ達だが、徐々に避けきれずに攻撃を受けてしまう。パワードスーツを着ているアリサだが、衝撃を受け止めきることは出来ず後退してしまう。
 素の耐久性に自信がある神と海神も、致命傷では無いものの少しずつ傷が増えて行く。

「こんなに可愛らしい容姿からよくもまあこれだけ容赦のない攻撃を繰り出せるものじゃ」

「見た目がどれだけ可愛くとも、仮にも魔王だからね」

「可愛いなどと、そのようなことをいつまで言っていられるかな」

 アリサがある程度離れたためか、神と海神は攻撃の速度を上げる。彼らはまだ本気では無かったのだ。それでもディアウスにかすり傷を付ける程度なのだが……。
 以前戦った時のディアウスであれば、今の我らの戦力でなんとかなっていただろう。しかし神の力を覚醒しつつある今のディアウスにはあと一歩……いや、三歩四歩レベルで届いていないのかもしれない。

「思っていたよりもディアウスの覚醒が速い……これ、もしかしたら不味いかもね」

「それにしてはえらく余裕じゃの」

「僕はまだ本気を出していないからね」

「ならさっさと出すのじゃ!」

 海神にそう言われたためか、はたまた能力がディアウスに届かなくなってきたためか、神は一度距離を取り魔力を集中させ始める。今までに感じたことのない程に練り込まれた魔力は、少し触れただけでその部分が蒸発してしまいそうなほどだ。

「僕の本気……見せる時が来たようだね」

 神の着ていた鎧がはじけ飛び、数倍程の巨躯へと変貌する。全身に浮き出た血管はドクドクと脈打ち、大きく膨れ上がった筋肉は今にもはちきれそうだ。

「化け物じゃねえか!?」

「失礼だな。神たるもの鍛錬は大事なんだよ」

「鍛錬でどうこうなるレベルを超えておらんか?」

「ふっ、ただ大きくなっただけでは無いか。その程度の強化なら何も……うおぇぁっ!?」

 ディアウスの顔よりも大きな神の拳が豪速で振り抜かれる。間一髪のところでそれを避けたディアウスだが、あまりに突然なことに驚きを隠せないようだ。

「やっぱりこの形態だと速度が死んでしまうな」

「速度全然死んどらんが!? ギリギリだったぞ今の攻撃!」

 流石のディアウスも焦りを感じ始めたのか表情が険しくなる。圧倒的な力量差であったはずの相手が一気に脅威となったのだからそれもそのはずだ。
 その言葉を聞きつつも神はじりじりとディアウスに近づいていく。もう一度その大木のように太い腕を振り抜いた神だが、今度はディアウスに素手で受け止められてしまった。

「何!?」

「わかっていれば何とかなるものだな……。それでも一歩間違えればミンチだが……」

 ディアウスは腕を掴んだまま、神を全力で蹴り飛ばした。強い力で腕を掴まれていることにより、肩からちぎれてしまう。出血は酷く、放っておけば死は免れない。だが地下で見たように、神は即座に腕を再生させる。

「な、なんだそれは気持ち悪い!!」

「ちぎったのは君だろう?」

 神は変わらず余裕そうに振舞っているが、変身した時に比べ纏っている魔力量が遥かに少なくなっている。この状態でいられるのはそう長くないのだろうと推測出来る。恐らく再生には多量の魔力を消費するのだろう。地下の時の細い体と違い、あれほどの巨躯となれば理解も出来る。

「ならこれはどうだ!」

 神は凄まじい速さで拳を繰り出す。その速度があまりにも速すぎるために、まるで拳が複数個あるように見える。この速度で連撃を受ければいくらディアウスと言えどただでは済まないだろう。

「なんのぉぉ!!」

 あろうことかディアウスは華奢な体から同じように拳を繰り出した。普通に考えれば避けて背後に周り攻撃を行うのが定石だろう。しかし彼女は真正面からの力比べを選んだのだ。
 互いの拳がぶつかり合い、音と衝撃が伝わって来る。これほどの体格差があっても若干ディアウスの方が押していた。

「ぐっ……やはりまだ鍛錬が足りなかったか!」

「其方、これ以上異形の存在にでもなる気か!?」

 こんな状況でも神は己の努力不足を嘆いている。ディアウスの言うように、これ以上鍛錬を積めばそれこそ異形の怪物にでもなってしまいそうだ。

 そんな状況も長くは続かず、神の纏う魔力が底を尽きることで戦いは終了した。恐らく拳を繰り出すのにも傷を治すのにも膨大な魔力を消費するのだろう。あれだけあった神の魔力は全くと言っていい程感じられなかった。

「不味い……反動が」

 魔力が尽きたためか神はその場に崩れ落ちる。一歩も動けない彼にディアウスはとどめを刺そうと近づく。

「はぁ……はぁ……流石に今のは危なかったぞ。だがそれもここまで。ギリギリで最後に勝つのは私なのだ!」

 神を切り裂こうと鋭利な爪が振り下ろされる。しかしその爪は神を貫くことは無かった。

「がふっ……」

「お前は……アズ!?」

 神とディアウスの間に入るように、アズがその身で爪を受け止めていたのだ。
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