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第4話 スタボに初めて行った
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「で? なんで姉(あね)ちゃんが昨日の転校生と一緒に登校してきたんだよ?」
一時間目が終わるとすぐに、友人の骨(ほね)川(かわ) 武(たけし)君が目をむき気味に今朝のことについて聞いてくる。姉(あね)ちゃんというのは俺のあだ名だ。
「何のことだ? 俺は別に篠塚と一緒になんて登校してきてないぞ?」
「嘘つくなっ! 一緒の車から出てきただろうが! お前っ。どういう理由で、あんなにかわいい子と一緒に登校してきたんだよ? 付き合ってるんだろ? お前ら大人の階段上ってんだろっ? 一緒に手を取り合ってなあ!」
骨川は俺に食い掛らんばかりの気迫だ。時々、興奮のあまり声が裏返り、汚い高音が俺の耳小骨を震えさせる。
興奮のあまり瞳孔が開いている。
「お前だけは、お前だけは友達だと思っていたよ。貴一。お前もとうとうリア充になっちまったんだな·····」
骨川は深い溜め息をつく。
「あれはだな·····遅れそうになった俺を、慈悲深い篠塚さんが拾ってくれただけなんだ」
「ほんとか?」
「ああ」
「デン〇に誓ってもか?」
「もちろんだ。俺は篠塚と付き合ってなどいない」
「俺はお前を裏切らない。お前も俺を裏切らない。リア充は敵。そうだな?」
「もちろんだ。リア充は我々非リアの敵だ」
「そうだ。今回は姉ちゃんを信じよう。お前は心の友だからな」
名前とセリフがドラえも〇のガキ大将と大体合致している。
骨川のこの態度。これが普通だ。篠塚は黙っていれば美人そのものであり、俺が同じ車で登校してきたことは驚愕に値する。
篠塚は日和が学校に行けるようにする事に協力すると言った。なにか引っかかる。違和感を感じる。今日は篠塚にとって、十年振りに俺と再会した次の日。いくらなんでも急展開すぎる気がする。まるで、初めから日和の不登校問題を解決するのが目的だったみたいだ。篠塚が持っていた、日和が写った写真は偶然に撮られたものなんだろうか?
俺の考え過ぎか?
或いは·····
「はいはい。もうすぐチャイムが鳴るので、みんな席ついてー」
そこで思考が途切れる。
俺たち、二年一組の担任で、数学担当の真代ちゃんが教室に入ってきた。身長約140cm(本人は150cmと詐称している)の真代ちゃんは、教台の後ろに行ってしまうと見えなくなるので、いつも木で作った台を持ってきて、そこに立ち、授業をする。
今日も茶髪のつむじには、アホ毛が絶好調に立っている。自分でセットしてるわけではなく、一族全員、生まれつきアホ毛が立つらしい。
先祖がアホ毛の妖怪でも封印して、呪われたのか·····?
「じゃあ、赤チャ出してー。今日は微分の·····」
チャイムが鳴る前に授業は始まった。
************************
始業式の次の日という誰にとっても気怠い日。授業がすべて終わった放課後。正確には、一七時三十二分。
普段なら家に向かう電車に揺られながら本を読んでる時間に、俺はリア充に埋め尽くされた魔の空間である、スタボにいた。
スタボとは、スターボックスの略で呪文のような名前のドリンクを人々に提供する大型ドリンクチェーン店である。
もちろん俺が一人でこんなところに来るわけがない。俺が座っているテーブルの向かいには、篠塚。そして俺の隣には篠塚の使用人の佐藤さん(男、三十歳ぐらい)。今朝はお世話になりました。ペコリ。
「要件というのは、今朝のことなの。あの、日和ちゃんのこと」
校門を出ると朝と同じリムジンが止まっていて、佐藤さんが目で俺に車に乗るように促してきた。そして今、此処にいる。
「やっぱりか。いや、そのことについてじゃなけりゃ、帰ってたけどな」
「私に日和ちゃんが学校に行けるようになる、アイデアがあるよ·····それは·····」
そのまま話を続けようとする篠塚を、俺は遮る。
「篠塚。お前、日和のことを知ったのは、その写真が初めてじゃないだろ」
篠塚の眉が微かに動く。
「なんの事かな?」
そう、シラをきる。
「とぼけるなよ。じゃあ何で日和の不登校を聞いて直ぐに俺に協力する?」
「それは、日和ちゃんも、きー君が学校に行ってる間、家でずっと待ってるのも辛いだろうなと思って·····ほら、お父さん居ないから·····」
「篠塚、お前·····何で日和の父さんが亡くなってることを知ってるんだ。このことはお前に教えていないはずだぞ?」
「え? そうだったっけ? 言ってたよね」
「いや。絶対に言っていない」
強くそう言って、俺は篠塚を真っ直ぐに見つめる。
篠塚の目が泳ぎ、佐藤さんに視線を向けた。それに気付いた佐藤さんは、すぐさまフォローに入る。
「貴一坊ちゃん。この際、一旦その事は置いておきませんか?」
鋭い目付きでそう言う。
「置いとけって·····これを置いておけと? 篠塚はやけに事を知りすぎているというか·····」
「まあまあ。それは色々あるのでございますよ。ね? 椋薇様」
「その通りよ。別にきー君の事ストーキングしてるとかじゃないんだからっ!」
「あの写真を持ってる時点で、ストーキングについても怪しいと思うが?」
「違うの。きー君。これには本当にちゃんとした理由があって·····今は言えないんだけど、日和ちゃんが学校に行けるようになったら、どういう訳か洗いざらい話すから」
「うーん·····」
幼稚園の時に交わした婚約書を今になって持ち出したりする奴の言うことを信じて良いものか·····。
考え込む俺に佐藤さんが、
「貴一坊ちゃん。坊ちゃんは、日和様に学校に行けるようになって欲しいんですよね?」
「それは、もちろんそうだけど」
「なら、良いじゃないですか。椋薇様を問い詰めるのはその後でも」
「それは·····」
確かにそうかもしれない。どちらの優先順位の方が上なのかは自明だった。
「分かりました。篠塚、日和が学校に行けるようになってから理由を聞く」
「分かったよ。きー君」
「これで、話を進めて良いですね?」
佐藤さんは俺に確認する。
「はい。大丈夫です」
佐藤さんは軽くうなづき、
「それでは、椋薇様。よろしくお願いします」
「うん。きー君、私に作戦があって·····」
小一時間ほど、俺はその作戦というやつの説明を聞いた。試してみる価値はありそうだ。
「·····って感じかな。この作戦·····どうかな? きー君?」
「ああ。成功する可能性はありそうだな。やってみることにする」
俺の前向きな回答に、篠塚の顔に光が差す。
「良かった! こんな作戦ダメだって言われたら、どうしようって心配してたのっ」
「俺一人では思いつかない作戦だった。それだけの事だ」
成功率は低いかもしれない。それでもやらないより、マシだ。
「日和ちゃんが学校に行けるようになったら、きー君と私と日和ちゃんとで一緒に学校に行こうねっ」
「日和が学校に行くようになったら、俺と一緒に学校に行くけど、お前は一緒じゃないぞ」
「そんなあ!」
****************************
帰りの電車の乗り継ぎは、走って済ます。俺は息を切らしながら、家路を急いだ。
家では日和が俺の帰りを待っている。
一時間目が終わるとすぐに、友人の骨(ほね)川(かわ) 武(たけし)君が目をむき気味に今朝のことについて聞いてくる。姉(あね)ちゃんというのは俺のあだ名だ。
「何のことだ? 俺は別に篠塚と一緒になんて登校してきてないぞ?」
「嘘つくなっ! 一緒の車から出てきただろうが! お前っ。どういう理由で、あんなにかわいい子と一緒に登校してきたんだよ? 付き合ってるんだろ? お前ら大人の階段上ってんだろっ? 一緒に手を取り合ってなあ!」
骨川は俺に食い掛らんばかりの気迫だ。時々、興奮のあまり声が裏返り、汚い高音が俺の耳小骨を震えさせる。
興奮のあまり瞳孔が開いている。
「お前だけは、お前だけは友達だと思っていたよ。貴一。お前もとうとうリア充になっちまったんだな·····」
骨川は深い溜め息をつく。
「あれはだな·····遅れそうになった俺を、慈悲深い篠塚さんが拾ってくれただけなんだ」
「ほんとか?」
「ああ」
「デン〇に誓ってもか?」
「もちろんだ。俺は篠塚と付き合ってなどいない」
「俺はお前を裏切らない。お前も俺を裏切らない。リア充は敵。そうだな?」
「もちろんだ。リア充は我々非リアの敵だ」
「そうだ。今回は姉ちゃんを信じよう。お前は心の友だからな」
名前とセリフがドラえも〇のガキ大将と大体合致している。
骨川のこの態度。これが普通だ。篠塚は黙っていれば美人そのものであり、俺が同じ車で登校してきたことは驚愕に値する。
篠塚は日和が学校に行けるようにする事に協力すると言った。なにか引っかかる。違和感を感じる。今日は篠塚にとって、十年振りに俺と再会した次の日。いくらなんでも急展開すぎる気がする。まるで、初めから日和の不登校問題を解決するのが目的だったみたいだ。篠塚が持っていた、日和が写った写真は偶然に撮られたものなんだろうか?
俺の考え過ぎか?
或いは·····
「はいはい。もうすぐチャイムが鳴るので、みんな席ついてー」
そこで思考が途切れる。
俺たち、二年一組の担任で、数学担当の真代ちゃんが教室に入ってきた。身長約140cm(本人は150cmと詐称している)の真代ちゃんは、教台の後ろに行ってしまうと見えなくなるので、いつも木で作った台を持ってきて、そこに立ち、授業をする。
今日も茶髪のつむじには、アホ毛が絶好調に立っている。自分でセットしてるわけではなく、一族全員、生まれつきアホ毛が立つらしい。
先祖がアホ毛の妖怪でも封印して、呪われたのか·····?
「じゃあ、赤チャ出してー。今日は微分の·····」
チャイムが鳴る前に授業は始まった。
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始業式の次の日という誰にとっても気怠い日。授業がすべて終わった放課後。正確には、一七時三十二分。
普段なら家に向かう電車に揺られながら本を読んでる時間に、俺はリア充に埋め尽くされた魔の空間である、スタボにいた。
スタボとは、スターボックスの略で呪文のような名前のドリンクを人々に提供する大型ドリンクチェーン店である。
もちろん俺が一人でこんなところに来るわけがない。俺が座っているテーブルの向かいには、篠塚。そして俺の隣には篠塚の使用人の佐藤さん(男、三十歳ぐらい)。今朝はお世話になりました。ペコリ。
「要件というのは、今朝のことなの。あの、日和ちゃんのこと」
校門を出ると朝と同じリムジンが止まっていて、佐藤さんが目で俺に車に乗るように促してきた。そして今、此処にいる。
「やっぱりか。いや、そのことについてじゃなけりゃ、帰ってたけどな」
「私に日和ちゃんが学校に行けるようになる、アイデアがあるよ·····それは·····」
そのまま話を続けようとする篠塚を、俺は遮る。
「篠塚。お前、日和のことを知ったのは、その写真が初めてじゃないだろ」
篠塚の眉が微かに動く。
「なんの事かな?」
そう、シラをきる。
「とぼけるなよ。じゃあ何で日和の不登校を聞いて直ぐに俺に協力する?」
「それは、日和ちゃんも、きー君が学校に行ってる間、家でずっと待ってるのも辛いだろうなと思って·····ほら、お父さん居ないから·····」
「篠塚、お前·····何で日和の父さんが亡くなってることを知ってるんだ。このことはお前に教えていないはずだぞ?」
「え? そうだったっけ? 言ってたよね」
「いや。絶対に言っていない」
強くそう言って、俺は篠塚を真っ直ぐに見つめる。
篠塚の目が泳ぎ、佐藤さんに視線を向けた。それに気付いた佐藤さんは、すぐさまフォローに入る。
「貴一坊ちゃん。この際、一旦その事は置いておきませんか?」
鋭い目付きでそう言う。
「置いとけって·····これを置いておけと? 篠塚はやけに事を知りすぎているというか·····」
「まあまあ。それは色々あるのでございますよ。ね? 椋薇様」
「その通りよ。別にきー君の事ストーキングしてるとかじゃないんだからっ!」
「あの写真を持ってる時点で、ストーキングについても怪しいと思うが?」
「違うの。きー君。これには本当にちゃんとした理由があって·····今は言えないんだけど、日和ちゃんが学校に行けるようになったら、どういう訳か洗いざらい話すから」
「うーん·····」
幼稚園の時に交わした婚約書を今になって持ち出したりする奴の言うことを信じて良いものか·····。
考え込む俺に佐藤さんが、
「貴一坊ちゃん。坊ちゃんは、日和様に学校に行けるようになって欲しいんですよね?」
「それは、もちろんそうだけど」
「なら、良いじゃないですか。椋薇様を問い詰めるのはその後でも」
「それは·····」
確かにそうかもしれない。どちらの優先順位の方が上なのかは自明だった。
「分かりました。篠塚、日和が学校に行けるようになってから理由を聞く」
「分かったよ。きー君」
「これで、話を進めて良いですね?」
佐藤さんは俺に確認する。
「はい。大丈夫です」
佐藤さんは軽くうなづき、
「それでは、椋薇様。よろしくお願いします」
「うん。きー君、私に作戦があって·····」
小一時間ほど、俺はその作戦というやつの説明を聞いた。試してみる価値はありそうだ。
「·····って感じかな。この作戦·····どうかな? きー君?」
「ああ。成功する可能性はありそうだな。やってみることにする」
俺の前向きな回答に、篠塚の顔に光が差す。
「良かった! こんな作戦ダメだって言われたら、どうしようって心配してたのっ」
「俺一人では思いつかない作戦だった。それだけの事だ」
成功率は低いかもしれない。それでもやらないより、マシだ。
「日和ちゃんが学校に行けるようになったら、きー君と私と日和ちゃんとで一緒に学校に行こうねっ」
「日和が学校に行くようになったら、俺と一緒に学校に行くけど、お前は一緒じゃないぞ」
「そんなあ!」
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帰りの電車の乗り継ぎは、走って済ます。俺は息を切らしながら、家路を急いだ。
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