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第5話 日和は可愛い(作者的に)
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篠塚の策を口の中でつぶやき、確認してから、俺は家の玄関を開けた。
「ただいま」
「お帰りなのですっ。お兄ちゃん」
日和が迎えてくれる。風呂に入ったらしく、日和の赤い髪は、しっとりと濡れ、ホカホカとした湯気が日和の体から出ている。シャンプーの香りが落ち着く。
といっても、俺は日和と同じシャンプーを使っているので、その香りは俺の香りでもあるのだが·····。
こうやって、半分同棲みたいな状態になってもう、一年が経った。その一年は日和が学校に行けていない時間と等しい。
そこそこ名の知れた進学校である、七条高校に通う俺は、毎日、自習室に残って勉強し、クタクタになって家に帰る。家の玄関を開ければ、毎日、日和が飛び切りの笑顔で迎えてくれる。その眩しい笑顔に、食卓で教えてくれる留守番している間にあった些細な出来事に、俺はどれだけ救われたのだろう。
この一年、日和は俺の支えになってくた。次は俺が恩返しをする番だ。
「どうしたのですか? 日和の顔をじっと見たりして」
いかん。日和をじっと見ながら、つい考え込んでしまった。
「そんなに見られたら、日和でも、さすがに照れちゃうのですよっ?」
「ごめん。ちょっと考え事してて·····」
「日和を見ながらする考え事·····? はっ! さてはお兄ちゃん、春休みが終わって一日中ずっと日和と一緒に居られないから、学校でずーっと寂しかったのですね?」
寂しかったというか·····日和のことずーっと考えてたのは確かだけど·····。
「でも、それにしては今日のお兄ちゃんは帰って来るのが遅かったですね。今日はまだ自習室も開放されてないですよね?」
疑いの色を顔に湛えて日和は続けた。
「まさか、女狐の毒牙にっ!」
「そんなわけあるかっ!」
若干合っているような気もするが·····。
「じゃあ、どうしてたって言うんですか?」
「友達とちょっと遊んでたんだよ」
「えっ! お兄ちゃんって友達居ましたっけ?」
「居るわ‼」
骨川 武とか、骨川 武とか、骨川 武とか。ほら、いっぱい居る。
「お兄ちゃん·····友達いないからって、まさか、人形と話していたりして·····大型フライドチキンチェーン店のダンディーなおじさまと」
「そんなわけあるかっ! カーネルに話しかけるほど、俺は落ちぶれてねえ」
一時、人形と友達になれば、現実に友達いらないんじゃね? と思っていたことはあるけど·····。
「お腹すいてるだろ? 日和。すぐにご飯作ってやるからちょっとテレビでも見て待っててくれ」
「手伝うですよ?」
「いや。大丈夫だ」
俺はキッチンに行って素早くキムチチャーハンを作った。少し野菜不足な気がしたから、ミニサラダも作っておいた。
「「いただきますっ」」
スタボでコーヒー(正式名称はもっと長い呪文メニュー)を飲んだだけで、食べ盛りの男子高校生の腹が満たされているわけがない。超絶空腹。レンゲが止まらん。
「おいひいですよっ。やっぱりお兄ちゃんは料理の天才なのですっ」
「飲み込んでから喋れよ」
そう言われて日和は、口いっぱいに頬張ったチャーハンを胃に落とすべく、リスのようにもぐもぐ口を動かした。ゴクリ。
「やっぱりおいしいのです。お兄ちゃんお嫁さんスキルが高いですねっ」
「嬉しいんだか、嬉しくないんだか·····」
「日和がお嫁さんに貰ってあげるのです。安心して喜ぶのです」
「そりゃどうも。日和のお嫁さんって、成った所で今の状況となんも変わらないよな」
このようにご飯は俺が毎日作っているし、洗濯も、掃除も。大体の家事は俺がこなしている。
「じゃあ。もう結婚しているようなものですねっ」
「ああ。そうだな」
「~♪花は咲き誇り、鳥は歌いだす♪ 心の景色はいつでも燦々と~♪」
着信音にしている、サブちゃんが歌う、おじゃる○のopがスマホに電話がかかっていることを告げた。
「電話だ。ちょっと席外すぞ。日和」
「りょーかいですっ」
自分の部屋に入って、スマホをポケットから出して誰からの電話なのか確認する。
し、篠塚や。スタボで今後の連絡に使うからという理由で連絡先を交換してたんだった。
「もしもし」
「あ、きー君? 随分と楽しそうね」
「っつ⁈ お前? え? は?」
パニック状態になって、言葉が出ない。
「もう一度言うわ。随分と楽しそうね?」
なんでもう一回言ったし。
「し、篠塚? 何の用だ?」
「ほら、あれよ。日和ちゃんの件。どうなったかなあって。きー君は私じゃなくて日和ちゃんと結婚したいのねっ!」
「お前、なんで俺たちの会話知ってんだ? はっ! まさか体のどこかに盗聴器を仕込みやがったのかっ!」
「そんなわけないよ。もっと原始的な方法だよ? まあ、なんで会話が漏れてるのかは、キッチンの窓を見ればわかるよ。そんなことより、大丈夫? もうあの事は話したの?」
「いや。まだだ。つい日和と話すのがいつも通りに楽しくて当初の目的を忘れかけてた」
「楽しそうなこと!」
スマホの向こうからドゴッという音が聞こえた。おい。物を壊してないだろうな。篠塚。
「貴一坊ちゃん。手筈通りに行くことを陰ながら、椋薇様とともに佐藤祈っております」
話し手が佐藤さんに変わった。初めから佐藤さんにかけてきて欲しかった。
今回の日和が学校に行けるようにしよう作戦、略して日和作戦の内容は次の通りだ。
作戦は二段階。第一段階は、一年間外に出ていない日和を俺が外に遊びにでも連れ出して、家の外に慣れてもらうこと。第二段階は、外に出られるようになった日和が学校に行くのをサポートしてくれるような同世代の友達をあらかじめ作っておくことだ。
第二段階は今は置いておくとして、今日中に第一段階の外に遊びに行くことが可能なのかどうか確かめる必要があった。
「それでは失礼いたします。ご健闘を」
そう言うと、佐藤さんは電話を切った。切る直前に篠塚のなんで切るのっ! という叫び声に近い声が聞こえた。
「電話、遅かったですね」
「ああ。ちょっと新学期早々いろいろあってな」
「大変なのですね。なでなでしてあげましょうか?」
「いや、今日はいいよ」
なんとなく、篠塚に見られているような気がするし。
そういや、あいつキッチンの窓を見ればわかるとか言ってたよな。日和を挟んで向かい側にある窓をふと見てみる。
その窓には、銀色のつややかな髪を流し、目を見開いてこっちを睨んでいる女。
もちろん篠塚である。
「ゲホッ」
思わず、チャーハンが口から飛び出た。目が合っている篠塚が笑った。
「大丈夫ですかっ? お兄ちゃんっ」
日和が直ぐにお茶を入れたコップを渡してくれる。気が利く。
篠塚が早く言えという意思を目で伝えてくる。
「なあ。日和·····」
「どうしたですか?」
「今度の休日にさ、どこか遊びに行かないか?」
「外に、ですか?」
「うん。どう·····かな?」
ここで断られたら、いきなり計画が破綻する。イエスと言ってくれっ。
「外にお兄ちゃんと二人きりで出かけるですか?」
「ああ。もちろん俺が日和と一緒に行く」
日和は少しうつむいて考えた後、
「なら、行くのです」
やったっ! 第一の関門は突破したみたいだ。
「でも、一つだけお兄ちゃんにお願いしてもいい?」
「何だ? 可能な限り日和のお願いには答えるぞっ」
「どこに出かけるにしても、お兄ちゃんは日和のそばから絶対に居なくならないことなのです」
「そんなこと、頼まれなくてもそうするさ」
「そばから居なくならないように、日和とずっと手を繋いでいてくださいねっ?」
「日和が恥ずかしくないなら、そうするよ」
日和とは、昔から両親が仲が良く、家も近いことからよく一緒に手を繋いで遊んだものだ。今更、手を繋ぐ事なんて全く恥ずかしくなんてない。
「恥ずかしくない。ですか」
ん? 何故か日和が怒っているようなオーラを発する。
何かまずいことでも言ったか?
「日和は、どこに行きたい? 」
「う~ん。悩みますけど、やっぱり遊園地ですかね」
「近くの遊園地って言ったら·····祇園パークになるけど、そこでいいか?」
「はい。行ったことがないので楽しみなのです」
俺もほとんど行ったことはない。五歳ぐらいの時に一度行っただけなので実質今回が初めてになる。
「それじゃあ、今週の土曜日に行こうか」
「了解なのです。楽しみですっ」
日和は、ポケットから手帳をとりだし、土曜日に大きなハートマークを書いた。
その中には「お兄ちゃんとデート」と書き入れられている。
「もう八時だけど、今日は家に帰るか? 日和」
日和は朝から夜にかけては俺の家に居るが、寝るのは自分の家か俺の家で日によって違う。
「今日は自分の家に帰るです」
「そうか、送ってくよ」
「ありがとなのです。でも、今日は一人で帰るのです」
そう言うと直ぐに、日和は家に帰っていった。
外は暗いし、心配なので俺が後ろからついて行き、日和が家の中に入るまで見届けた事を知っているのは、篠塚と佐藤さんだけだ。
「ただいま」
「お帰りなのですっ。お兄ちゃん」
日和が迎えてくれる。風呂に入ったらしく、日和の赤い髪は、しっとりと濡れ、ホカホカとした湯気が日和の体から出ている。シャンプーの香りが落ち着く。
といっても、俺は日和と同じシャンプーを使っているので、その香りは俺の香りでもあるのだが·····。
こうやって、半分同棲みたいな状態になってもう、一年が経った。その一年は日和が学校に行けていない時間と等しい。
そこそこ名の知れた進学校である、七条高校に通う俺は、毎日、自習室に残って勉強し、クタクタになって家に帰る。家の玄関を開ければ、毎日、日和が飛び切りの笑顔で迎えてくれる。その眩しい笑顔に、食卓で教えてくれる留守番している間にあった些細な出来事に、俺はどれだけ救われたのだろう。
この一年、日和は俺の支えになってくた。次は俺が恩返しをする番だ。
「どうしたのですか? 日和の顔をじっと見たりして」
いかん。日和をじっと見ながら、つい考え込んでしまった。
「そんなに見られたら、日和でも、さすがに照れちゃうのですよっ?」
「ごめん。ちょっと考え事してて·····」
「日和を見ながらする考え事·····? はっ! さてはお兄ちゃん、春休みが終わって一日中ずっと日和と一緒に居られないから、学校でずーっと寂しかったのですね?」
寂しかったというか·····日和のことずーっと考えてたのは確かだけど·····。
「でも、それにしては今日のお兄ちゃんは帰って来るのが遅かったですね。今日はまだ自習室も開放されてないですよね?」
疑いの色を顔に湛えて日和は続けた。
「まさか、女狐の毒牙にっ!」
「そんなわけあるかっ!」
若干合っているような気もするが·····。
「じゃあ、どうしてたって言うんですか?」
「友達とちょっと遊んでたんだよ」
「えっ! お兄ちゃんって友達居ましたっけ?」
「居るわ‼」
骨川 武とか、骨川 武とか、骨川 武とか。ほら、いっぱい居る。
「お兄ちゃん·····友達いないからって、まさか、人形と話していたりして·····大型フライドチキンチェーン店のダンディーなおじさまと」
「そんなわけあるかっ! カーネルに話しかけるほど、俺は落ちぶれてねえ」
一時、人形と友達になれば、現実に友達いらないんじゃね? と思っていたことはあるけど·····。
「お腹すいてるだろ? 日和。すぐにご飯作ってやるからちょっとテレビでも見て待っててくれ」
「手伝うですよ?」
「いや。大丈夫だ」
俺はキッチンに行って素早くキムチチャーハンを作った。少し野菜不足な気がしたから、ミニサラダも作っておいた。
「「いただきますっ」」
スタボでコーヒー(正式名称はもっと長い呪文メニュー)を飲んだだけで、食べ盛りの男子高校生の腹が満たされているわけがない。超絶空腹。レンゲが止まらん。
「おいひいですよっ。やっぱりお兄ちゃんは料理の天才なのですっ」
「飲み込んでから喋れよ」
そう言われて日和は、口いっぱいに頬張ったチャーハンを胃に落とすべく、リスのようにもぐもぐ口を動かした。ゴクリ。
「やっぱりおいしいのです。お兄ちゃんお嫁さんスキルが高いですねっ」
「嬉しいんだか、嬉しくないんだか·····」
「日和がお嫁さんに貰ってあげるのです。安心して喜ぶのです」
「そりゃどうも。日和のお嫁さんって、成った所で今の状況となんも変わらないよな」
このようにご飯は俺が毎日作っているし、洗濯も、掃除も。大体の家事は俺がこなしている。
「じゃあ。もう結婚しているようなものですねっ」
「ああ。そうだな」
「~♪花は咲き誇り、鳥は歌いだす♪ 心の景色はいつでも燦々と~♪」
着信音にしている、サブちゃんが歌う、おじゃる○のopがスマホに電話がかかっていることを告げた。
「電話だ。ちょっと席外すぞ。日和」
「りょーかいですっ」
自分の部屋に入って、スマホをポケットから出して誰からの電話なのか確認する。
し、篠塚や。スタボで今後の連絡に使うからという理由で連絡先を交換してたんだった。
「もしもし」
「あ、きー君? 随分と楽しそうね」
「っつ⁈ お前? え? は?」
パニック状態になって、言葉が出ない。
「もう一度言うわ。随分と楽しそうね?」
なんでもう一回言ったし。
「し、篠塚? 何の用だ?」
「ほら、あれよ。日和ちゃんの件。どうなったかなあって。きー君は私じゃなくて日和ちゃんと結婚したいのねっ!」
「お前、なんで俺たちの会話知ってんだ? はっ! まさか体のどこかに盗聴器を仕込みやがったのかっ!」
「そんなわけないよ。もっと原始的な方法だよ? まあ、なんで会話が漏れてるのかは、キッチンの窓を見ればわかるよ。そんなことより、大丈夫? もうあの事は話したの?」
「いや。まだだ。つい日和と話すのがいつも通りに楽しくて当初の目的を忘れかけてた」
「楽しそうなこと!」
スマホの向こうからドゴッという音が聞こえた。おい。物を壊してないだろうな。篠塚。
「貴一坊ちゃん。手筈通りに行くことを陰ながら、椋薇様とともに佐藤祈っております」
話し手が佐藤さんに変わった。初めから佐藤さんにかけてきて欲しかった。
今回の日和が学校に行けるようにしよう作戦、略して日和作戦の内容は次の通りだ。
作戦は二段階。第一段階は、一年間外に出ていない日和を俺が外に遊びにでも連れ出して、家の外に慣れてもらうこと。第二段階は、外に出られるようになった日和が学校に行くのをサポートしてくれるような同世代の友達をあらかじめ作っておくことだ。
第二段階は今は置いておくとして、今日中に第一段階の外に遊びに行くことが可能なのかどうか確かめる必要があった。
「それでは失礼いたします。ご健闘を」
そう言うと、佐藤さんは電話を切った。切る直前に篠塚のなんで切るのっ! という叫び声に近い声が聞こえた。
「電話、遅かったですね」
「ああ。ちょっと新学期早々いろいろあってな」
「大変なのですね。なでなでしてあげましょうか?」
「いや、今日はいいよ」
なんとなく、篠塚に見られているような気がするし。
そういや、あいつキッチンの窓を見ればわかるとか言ってたよな。日和を挟んで向かい側にある窓をふと見てみる。
その窓には、銀色のつややかな髪を流し、目を見開いてこっちを睨んでいる女。
もちろん篠塚である。
「ゲホッ」
思わず、チャーハンが口から飛び出た。目が合っている篠塚が笑った。
「大丈夫ですかっ? お兄ちゃんっ」
日和が直ぐにお茶を入れたコップを渡してくれる。気が利く。
篠塚が早く言えという意思を目で伝えてくる。
「なあ。日和·····」
「どうしたですか?」
「今度の休日にさ、どこか遊びに行かないか?」
「外に、ですか?」
「うん。どう·····かな?」
ここで断られたら、いきなり計画が破綻する。イエスと言ってくれっ。
「外にお兄ちゃんと二人きりで出かけるですか?」
「ああ。もちろん俺が日和と一緒に行く」
日和は少しうつむいて考えた後、
「なら、行くのです」
やったっ! 第一の関門は突破したみたいだ。
「でも、一つだけお兄ちゃんにお願いしてもいい?」
「何だ? 可能な限り日和のお願いには答えるぞっ」
「どこに出かけるにしても、お兄ちゃんは日和のそばから絶対に居なくならないことなのです」
「そんなこと、頼まれなくてもそうするさ」
「そばから居なくならないように、日和とずっと手を繋いでいてくださいねっ?」
「日和が恥ずかしくないなら、そうするよ」
日和とは、昔から両親が仲が良く、家も近いことからよく一緒に手を繋いで遊んだものだ。今更、手を繋ぐ事なんて全く恥ずかしくなんてない。
「恥ずかしくない。ですか」
ん? 何故か日和が怒っているようなオーラを発する。
何かまずいことでも言ったか?
「日和は、どこに行きたい? 」
「う~ん。悩みますけど、やっぱり遊園地ですかね」
「近くの遊園地って言ったら·····祇園パークになるけど、そこでいいか?」
「はい。行ったことがないので楽しみなのです」
俺もほとんど行ったことはない。五歳ぐらいの時に一度行っただけなので実質今回が初めてになる。
「それじゃあ、今週の土曜日に行こうか」
「了解なのです。楽しみですっ」
日和は、ポケットから手帳をとりだし、土曜日に大きなハートマークを書いた。
その中には「お兄ちゃんとデート」と書き入れられている。
「もう八時だけど、今日は家に帰るか? 日和」
日和は朝から夜にかけては俺の家に居るが、寝るのは自分の家か俺の家で日によって違う。
「今日は自分の家に帰るです」
「そうか、送ってくよ」
「ありがとなのです。でも、今日は一人で帰るのです」
そう言うと直ぐに、日和は家に帰っていった。
外は暗いし、心配なので俺が後ろからついて行き、日和が家の中に入るまで見届けた事を知っているのは、篠塚と佐藤さんだけだ。
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