王太子妃(仮)でしたが、聞いたこともない予言のせいで追放されました。ですから、今さら呼び戻されても困ります。

實藤圭

文字の大きさ
12 / 44
序章:断罪の儀

叫び

しおりを挟む
「どうして?」

 ミラは、クラリスの言葉に応えると、言った。

「主は常にお導き下さいます。それが、どれほど罪深き者であったとしても。……私はそのお導きに従ったばかり──」

 ミラの言葉を聞いたクラリスの中で、何かがはじけた。

「どうして……どうして私なの……? 私、これまでだって、神様を裏切るような真似なんて一度だってしたことが無いわ。お姫様にはふさわしくない振る舞いもあったかもしれないけれど、それだけは確かよ。なのにそんな──」

 ミラはリオネルを見た。

「ねえ、王子。そうでしょ? 私が神託に示された、汚すものだなんて、ね? 殿下!」

 リオネルはクラリスを見ようとはしなかった。

「昨日だって……殿下と……お庭……」

 クラリスがふらふらと壇上に向かう。

 ──違う、違う、違う、違う、私じゃない。私がそんなはずない。
 そう思ったときには、クラリスの脚は壇上に向かって駆けだしていた。

「どうして……どうして……!」


 誰もが、今、目の前で何が起こっているのか理解できないでいた。
 突然の出来事に声も出せずに、茫然と、ただ眺めることしかできなかった。

 唯一、クラリスの様子に不穏な空気を感じ取っていたセラドだけが、群衆をかき分けクラリスを止めようとする。
 だが、そのセラドより数瞬も早く、黒い鎧を身にまとった男がクラリスの前に悠々と立ちはだかった。


「王太子殿下の御前で、まったく……不敬だねぇ」


 刹那、黒鉄の気配が空気を裂いた。
 クラリスの左頬を拳が襲い、その華奢な身体が宙を舞う。
 クラリスは声にならない叫び声をあげ、そのまま動かなくなった。

「クラリス様ぁ!」

 リュシアが、クラリスに駆け寄る。

「デスフォルト。王太子殿下のご命令通り、その者を"追放"しておきなさい」
 
「ははっ」

 デスフォルトと呼ばれたその男は、ミラに仰々しく一礼すると、床に転がるクラリスを一瞥した。
 白い鎧に身を包んだ聖騎士が、ちょうどクラリスと、デスフォルトの間に入るように立つ。

「デスフォルト、国境の守りはどうした。先日も襲撃があったところではないか。このような場所にいて大丈夫なのか?」

「ひさしぶりだなあ、ヴァレンティス。いやあ……面白い"見世物"があるから来いってね。今日、ここに呼ばれていたのさ。……国境はまあ大丈夫だな。優秀な部下がいるンでね。」


 デスフォルトは、セラドの脇を通り抜けるようにクラリスに向かって歩みを進めた。


「そうか……しかし、これは少々やり過ぎではないか? それに──知っての通り、王都、王宮内で正義の鉄槌を下す権限は私の下にある。それを無視するつもりか?」

 セラドは続ける。

「聖の座を汚す者は、もちろん断罪すべきだ、だが、その"行為"を断罪すべきであって、彼女は──」


 ──彼女はすでに神の代理人たる王太子殿下によって裁かれた身。それ以上の罪を与える必要は無い。それに罪人と言えど、先ほどまでの仕打ちと言い、ここまでの辱めを与える必要がどこにある?──



 だが、セラドの言葉はデスフォルトに遮られた。

「ここで問答してもしょうがないだろうよ。それにほら、聖女様は、こいつを"追放"しておきなさい……ってよ」

 クラリスをかばうように傍にいたリュシアごと、無造作に蹴り飛ばす。



「デスフォルトォォォォォォッ!!!」


 
 セラドはデスフォルトの両肩を掴んだ。


 広場の空気が、ひときわ凍りつく。


 ぎちぎちと肩の留め具から悲鳴が聞こえ始めたところで、デスフォルトは大袈裟に痛そうなそぶりをすると、セラドの両手を払いのけた。 

「おお、怖い、怖い……」

 しばらくの間、デスフォルトは、セラドと睨み合うようにしていたが、やがてそう言い残すと、両手をひらひらとさせながら、広間に姿を現した時と同じように悠然と祭壇の方へと下がっていった。
 



 セラドはリオネルに向き直ると言った。

「殿下、この神聖なる神託の間が、血で汚れるような真似はお望みではありますまい。クラリス様……いやクラリスの件は私目にお任せいただけませんでしょうか」

「……ああ、そうだな……任せよう……」

 安心したようにリオネルはそう言うと、ミラを見た。
 
 ミラは黙って広場の様子を見つめていたが、やがて、やさしく微笑み頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖女らしくないと言われ続けたので、国を出ようと思います

菜花
ファンタジー
 ある日、スラムに近い孤児院で育ったメリッサは自分が聖女だと知らされる。喜んで王宮に行ったものの、平民出身の聖女は珍しく、また聖女の力が顕現するのも異常に遅れ、メリッサは偽者だという疑惑が蔓延する。しばらくして聖女の力が顕現して周囲も認めてくれたが……。メリッサの心にはわだかまりが残ることになった。カクヨムにも投稿中。

「可愛げがない」と婚約破棄された公爵令嬢ですが、領地経営をしていたのは私です

希羽
恋愛
「お前のような可愛げのない女との婚約は破棄する!」 卒業パーティの会場で、婚約者である第二王子デリックはそう宣言し、私の義妹ミナを抱き寄せました。 誰もが私が泣き崩れると思いましたが――正直、せいせいしました。 だって、王子の領地経営、借金返済、結界維持、それら全ての激務を一人でこなしていたのは「可愛げのない」私だったのですから。 「承知しました。では、あとはミナと二人で頑張ってください」 私は手切れ金代わりに面倒な仕事を全て置いて国を出ました。 すると、国境で待っていたのは、隣国ガルガディア帝国の冷徹皇太子ことクライド様。なぜか彼は私を溺愛し、帝国で最高の地位と環境を与えてくれて……。

婚約破棄されたら、実はわたし聖女でした~捨てられ令嬢は神殿に迎えられ、元婚約者は断罪される~

腐ったバナナ
ファンタジー
「地味で役立たずな令嬢」――そう婚約者に笑われ、社交パーティで公開婚約破棄されたエリス。 誰も味方はいない、絶望の夜。だがそのとき、神殿の大神官が告げた。「彼女こそ真の聖女だ」と――。 一夜にして立場は逆転。かつて自分を捨てた婚約者は社交界から孤立し、失態をさらす。 傷ついた心を抱えながらも、エリスは新たな力を手に、国を救う奇跡を起こし、人々の尊敬を勝ち取っていく。

聖女を怒らせたら・・・

朝山みどり
ファンタジー
ある国が聖樹を浄化して貰うために聖女を召喚した。仕事を終わらせれば帰れるならと聖女は浄化の旅に出た。浄化の旅は辛く、聖樹の浄化も大変だったが聖女は頑張った。聖女のそばでは王子も励ました。やがて二人はお互いに心惹かれるようになったが・・・

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】

小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。 これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。 失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。 無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。 そんなある日のこと。 ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。 『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。 そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

【完結】偽物聖女として追放される予定ですが、続編の知識を活かして仕返しします

ユユ
ファンタジー
聖女と認定され 王子妃になったのに 11年後、もう一人 聖女認定された。 王子は同じ聖女なら美人がいいと 元の聖女を偽物として追放した。 後に二人に天罰が降る。 これが この体に入る前の世界で読んだ Web小説の本編。 だけど、読者からの激しいクレームに遭い 救済続編が書かれた。 その激しいクレームを入れた 読者の一人が私だった。 異世界の追放予定の聖女の中に 入り込んだ私は小説の知識を 活用して対策をした。 大人しく追放なんてさせない! * 作り話です。 * 長くはしないつもりなのでサクサクいきます。 * 短編にしましたが、うっかり長くなったらごめんなさい。 * 掲載は3日に一度。

聖女を追放した国が滅びかけ、今さら戻ってこいは遅い

タマ マコト
ファンタジー
聖女リディアは国と民のために全てを捧げてきたのに、王太子ユリウスと伯爵令嬢エリシアの陰謀によって“無能”と断じられ、婚約も地位も奪われる。 さらに追放の夜、護衛に偽装した兵たちに命まで狙われ、雨の森で倒れ込む。 絶望の淵で彼女を救ったのは、隣国ノルディアの騎士団。 暖かな場所に運ばれたリディアは、初めて“聖女ではなく、一人の人間として扱われる優しさ”に触れ、自分がどれほど疲れ、傷ついていたかを思い知る。 そして彼女と祖国の運命は、この瞬間から静かにすれ違い始める。

「王妃としてあなたができること」を教えてください

頭フェアリータイプ
ファンタジー
王妃候補達に王太子様が決意を問う。そんな一幕。

処理中です...