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序章:断罪の儀
夢のあと
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──クラリスは夢を見ていた。
村に住む、二人の少女が、仲よく遊んでいた。
小さな庭で、白い花を編んで笑っていた。
少女たちは、口々に、「私はお姫様になる」「私は聖女様よ」と夢を語り合っていた。
やがて、少女たちは、美しく成長した。
一人は、聖女になった。
そして──
「クラリス様!クラリス様!」
「……こ、ここは……っ痛……」
自分を呼ぶ声に、クラリスは目覚めた。口の中に、少し血の味がにじむ。
「よかった……うぅ……」
目を開けると、上から覗いているリュシアと目が合った。
リュシアの声は普段通りの様子だったが、ちょうどおでこのあたりに傷を負っているのが見える。
「怪我してる!? 大丈夫!? リュシア?」
「私は大丈夫です!……クラリス様の方がひどいんですぅ……」
リュシアはずっとクラリスの頬を水で冷やしていたが、クラリスが目覚めたことに安心したのか、べそをかきだした。
クラリスがそんなリュシアをなだめていると、部屋の隅で腕組みをして立っていた白い鎧の男がクラリスの方に向かってくる。
一瞬身を固くしたが、よく見ると、王宮内でも顔をよく合わせる見知った顔の騎士であったことにクラリスはほっとした。
「ご気分はいかがですか? クラリス様。いや、……うーむ……クラリス嬢……?」
真面目そうな男が、少し難しそうな顔をして困っていることに、クラリスは吹き出してしまった。
「ふふ……クラリスでいいわよ。白の騎士団の団長さん。えーと確かお名前は……」
クラリスが名前を思い出そうとしていると、騎士の方が先に、名を名乗った。
「ヴァレンティスだ。セラド・ヴァレンティス。クラリス様……いや、クラリス、君が少々無茶をしたのでその後始末をしている、というわけだ」
セラドは、ここが自分の執務室であり、クラリスが怪我をして気を失っていたのでその手当てをしていた、という事実を淡々と話したが、クラリスが事情をよく呑み込めないでいると、横からリュシアが、セラドが如何にクラリスを救ってくれたかという英雄譚を熱心に話し出した。
クラリスは、話を一通り聞き終えると、まだ痛みの残る体をリュシアに支えられながらゆっくりと立ち上がり、深く頭を下げた。
「申し訳ありません、セラドさん。まさかそんなことになっていたなんて……」
「まあ、私としても、立場上、あれ以上王宮内での狼藉を見逃すわけにはいかなかったのでな。ただ……」
「ただ……?」
「君は──"聖の座を汚す者"には違いない」
「ですが……!」
「残念ながら、『ですが』、は無いのだ。君が何と言おうと。君は神にそう裁かれたのだから」
クラリスは何も言えなかった。ようやく今の自分の立場というものが、わかったような気がした。
「というわけで、私にできることはここまでだ。私には、この王都から君を"追放"しなければならない責務がある」
「……はい。……わかりました……」
「何とかならないんですか?」
リュシアがセラドに迫る。
「繰り返しになるが──」
セラドはリュシアをじっと見つめた。
決して大きな声ではなかったが、気圧されるようにリュシアの小柄な体が、より小さくなる。
「残念ながら、もし私がクラリスを助けたくとも、立場上それはできない。そして君たちにとってはさらに残念なことに、私は今、"聖の座を汚す者"を助けたいとは思っていない」
「ひどい!そんないい方しなくても」
「いいのよ、リュシア。たぶん、それが普通なんだと思う」
「クラリス様ぁ……」
「すまないが、わかってくれるとありがたい」
セラドは立ち上がると言った。
「もちろん──"追放"という命令の中には、追放する側にもある程度の責任が含まれると私は考える。旅に必要な物の準備など、出立の支度はこちらでもできる限り手伝わせてもらおう」
「……! ありがとうございます、セラドさん!」
セラドの精一杯の厚意に、クラリスは顔を明るくした。
村に住む、二人の少女が、仲よく遊んでいた。
小さな庭で、白い花を編んで笑っていた。
少女たちは、口々に、「私はお姫様になる」「私は聖女様よ」と夢を語り合っていた。
やがて、少女たちは、美しく成長した。
一人は、聖女になった。
そして──
「クラリス様!クラリス様!」
「……こ、ここは……っ痛……」
自分を呼ぶ声に、クラリスは目覚めた。口の中に、少し血の味がにじむ。
「よかった……うぅ……」
目を開けると、上から覗いているリュシアと目が合った。
リュシアの声は普段通りの様子だったが、ちょうどおでこのあたりに傷を負っているのが見える。
「怪我してる!? 大丈夫!? リュシア?」
「私は大丈夫です!……クラリス様の方がひどいんですぅ……」
リュシアはずっとクラリスの頬を水で冷やしていたが、クラリスが目覚めたことに安心したのか、べそをかきだした。
クラリスがそんなリュシアをなだめていると、部屋の隅で腕組みをして立っていた白い鎧の男がクラリスの方に向かってくる。
一瞬身を固くしたが、よく見ると、王宮内でも顔をよく合わせる見知った顔の騎士であったことにクラリスはほっとした。
「ご気分はいかがですか? クラリス様。いや、……うーむ……クラリス嬢……?」
真面目そうな男が、少し難しそうな顔をして困っていることに、クラリスは吹き出してしまった。
「ふふ……クラリスでいいわよ。白の騎士団の団長さん。えーと確かお名前は……」
クラリスが名前を思い出そうとしていると、騎士の方が先に、名を名乗った。
「ヴァレンティスだ。セラド・ヴァレンティス。クラリス様……いや、クラリス、君が少々無茶をしたのでその後始末をしている、というわけだ」
セラドは、ここが自分の執務室であり、クラリスが怪我をして気を失っていたのでその手当てをしていた、という事実を淡々と話したが、クラリスが事情をよく呑み込めないでいると、横からリュシアが、セラドが如何にクラリスを救ってくれたかという英雄譚を熱心に話し出した。
クラリスは、話を一通り聞き終えると、まだ痛みの残る体をリュシアに支えられながらゆっくりと立ち上がり、深く頭を下げた。
「申し訳ありません、セラドさん。まさかそんなことになっていたなんて……」
「まあ、私としても、立場上、あれ以上王宮内での狼藉を見逃すわけにはいかなかったのでな。ただ……」
「ただ……?」
「君は──"聖の座を汚す者"には違いない」
「ですが……!」
「残念ながら、『ですが』、は無いのだ。君が何と言おうと。君は神にそう裁かれたのだから」
クラリスは何も言えなかった。ようやく今の自分の立場というものが、わかったような気がした。
「というわけで、私にできることはここまでだ。私には、この王都から君を"追放"しなければならない責務がある」
「……はい。……わかりました……」
「何とかならないんですか?」
リュシアがセラドに迫る。
「繰り返しになるが──」
セラドはリュシアをじっと見つめた。
決して大きな声ではなかったが、気圧されるようにリュシアの小柄な体が、より小さくなる。
「残念ながら、もし私がクラリスを助けたくとも、立場上それはできない。そして君たちにとってはさらに残念なことに、私は今、"聖の座を汚す者"を助けたいとは思っていない」
「ひどい!そんないい方しなくても」
「いいのよ、リュシア。たぶん、それが普通なんだと思う」
「クラリス様ぁ……」
「すまないが、わかってくれるとありがたい」
セラドは立ち上がると言った。
「もちろん──"追放"という命令の中には、追放する側にもある程度の責任が含まれると私は考える。旅に必要な物の準備など、出立の支度はこちらでもできる限り手伝わせてもらおう」
「……! ありがとうございます、セラドさん!」
セラドの精一杯の厚意に、クラリスは顔を明るくした。
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