記憶喪失のおねショタハーレム〜遊んでいるだけなのになぜか大人や魔物よりも強いです〜

仁徳

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第一章

第三話 え?僕が倒したの?

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 ギルドに来た僕は、ソフィーお姉さんに連れられて受付に向かっていた。その時、ソフィーお姉さんは男性に声をかけられ、その場で立ち止まる。

 この人、ソフィーお姉さんの知り合いなのかな?

「何よ、グリゴリー。私は忙しいのだから、あんたの相手をしている暇はないのだけど」

 ソフィーお姉さんが嫌そうな顔をして溜め息混じりの声を出す。どうやら知り合いみたいだけど、ソフィーお姉さんは嫌っているみたい。

 男性が近付き、僕のことを見るとニヤリとした。

「ワハハハハハ! 遂に冒険者を辞めて保育の仕事でも始めたのか? まぁ、クソザコの冒険者であるお前には、相応しい仕事じゃないか。ワハハハハハ!」

 グレゴリーと呼ばれた男性の言葉を聞き、自分のことをバカにしていないのにも関わらず、嫌な気分になる。

「悪いけど、私は冒険者は辞めていないわよ。この子は迷子で、今からご両親を探す依頼を作成するところなのよ。だからあんたのような筋肉しか取り柄のない木偶の坊の相手をしている暇はないわ。分かったのならあっちに行った。シッシ!」

 右手の甲をグレゴリーさんに向け、野良猫を追い払うように前後に動かす。

「誰が木偶の坊だ! 俺よりも弱いくせに生意気な口を聞くな!」

 グレゴリーさんが右手で拳を作り、振り上げる。

 このままでは、ソフィーお姉さんがケガをしてしまう。

 そう思った僕は、気が付くと2人の間に入り、両手を広げる。

「止めてよ! 何でも暴力で解決しようとするのは良くないよ! 確かにソフィーお姉さんも悪口を言ったけど、最初に言ったのはそっちじゃないか。どうしてソフィーお姉さんにそんなに酷いことを言うの! ソフィーお姉さんは何も悪いことはしていないじゃないか!」

 声を上げると、グレゴリーさんの手が止まる。

「うるせぇ! ガキの癖に俺の何が分かるって言うんだ!」

 一度は動きを止めてくれたグレゴリーさんだったが、再び拳を振り下ろして来た。今度はソフィーお姉さんではなく、僕の方に向かっている。

 僕が殴られる! 痛いのは嫌だ!

 殴られる瞬間を見たくなく。両の瞼を閉じた。

 正面から殴られるよりも、背中の方がマシのような気がして方向転換をしようとする。

「ぐあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 すると突然グレゴリーさんの悲鳴が耳に入る。

 あれ? 何が起きたの?

 気になり、閉じていた瞼を開ける。すると僕は体を90度回転させた状態だった。

 どうやら、目を瞑ってしたせいで、180度体の向きを変えることが出来なかったみたい。

 先程聞こえたグレゴリーさんが気になり、正面に向き直す。

 すると、彼は建物の端っこにまで飛ばされ、起き上がろうとはしない様子だった。

 そうか! ソフィーお姉さんが助けてくれたんだ! あの人、ソフィーお姉さんが弱いって言っていたくせに、自分がぶっ飛ばされているなんて。口だけの男だったんだね。

「ソフィーお姉さんありがとう! 僕、とても怖かったよ!」

 お姉さんに腕を回して抱き付く。

 しかし、彼女からの反応がなかった。

 あれ? 思っていたのと反応が違う。僕の予想では『怖かったよね。もう大丈夫だから。悪い男は私が倒したからね』って言って、優しく頭を撫でてくれると思っていたのに。

 不思議に思いながらも、顔を上げてソフィーお姉さんを見る。

 彼女は、戸惑っている様子だった。

 どうしてそんな顔をするのだろう?

「おい、今のを見たか?」

「ああ、ソフィーが連れている子どもの腕が当たった瞬間に、グレゴリーが吹き飛びやがったぞ!」

「いったい何者なんだ! あの子どもは! どう見たって普通じゃないぞ!」

 ギルドの中にいる人たちが、口々に言うのが聞こえる。

 僕がグレゴリーさんを倒した? 何を言っているんだろう。子どもの僕が、大人に勝てる訳がないのに。

 疑問に思っていたけど、ふっとあることに気付き、納得することにする。

 分かった! きっとみんなで僕のことを揶揄っているんだ! まったく、そんなことで僕が信じると思っているの?

「ソフィーお姉さん。みんなで僕のことを揶揄わないでよ。僕は分かっているんだからね。みんなで僕のことを騙そうとしているんだ。絶対に引っかからないんだから」

 ソフィーお姉さんから離れ、胸を張って騙されないことを伝える。

 でも、ソフィーお姉さんは真剣な表情で僕のことを見ていた。

 そして屈むと僕の肩を掴む。

「みんなは決してラル君のことを揶揄ったり、騙そうとしていないからね。本当のことを言っているのよ」

 真剣な眼差しでソフィーお姉さんが本当のことだと告げる。

 そんな! 僕があのグレゴリーさんをぶっ飛ばしたって言うの?

「おい! 大きな音が聞こえたが、何があった!」

 奥の部屋の扉が開かれ、50代と思われる男の人がフロントにやって来た。

「グレゴリーが倒れているじゃないか。これはいったい何が起きた。説明できるやつがいたら教えてくれ」

「あのう、ギルドマスター。実は……グレゴリーがいつものように私に絡んできたのよ」

 恐る恐ると言った感じで、ソフィーお姉さんはギルドマスターと呼んだおじさんに、これまでのことを語る。

「なんだ。痴話喧嘩かよ。毎度のことながら毎回激しいな。でも、グレゴリーが吹き飛ばされるとは珍しいな。余程油断していたのだろうな」

 やれやれと言いたげに、ギルドマスターのおじさんは肩を竦める。

「痴話喧嘩じゃないわよ! 毎回変な言い方をしないでちょうだい! それに、グレゴリーを倒したのは私ではないわ。この子よ」

 ソフィーお姉さんから軽く背中を押され、ギルドマスターのおじさんの前に出される。

「ワハハハハハ! お前もそんな冗談を言えるようになったのだな。こんな子どもが、Aランクのグレゴリーを倒せる訳がないじゃないか」

「いや、俺も見たぞ。その少年がグレゴリーをぶっ飛ばすところを」

「ああ、俺も見た。ソフィーの言っていることは本当だ」

 ギルドマスターのおじさんが笑い声を上げると、驚いていた人たちがソフィーお姉さんが言っていたことは本当だと告げる。

「小僧、それは本当か?」

 ギルドマスターのおじさんが目を細めて睨み付けてきた。急に怖くなった僕は、ソフィーお姉さんの後に隠れ、顔だけを出す。

「わ、分からないよ。いきなりグレゴリーさんが殴ろうとして、怖くて目を瞑っていたもん」

 それだけは本当のことなので、嘘偽りなく事実を告げる。

「ソフィー、この子はいったいどこの子なんだ?」

「それが分からないのよ。ラル君は記憶喪失みたいなの。だからこの子のことを知っている人を探そうと、ギルドに依頼をしようと思って連れてきたら、こんなことなったのよね」

「なるほど、訳ありの子どものようらしいな。だが、その依頼は少し難しいだろう」

「どうしてよ。人探しの依頼だって時々あるでしょう」

「それが今回に関しては簡単ではない。その小僧が特別な力を持っていることは分かった。だが、Aランクの冒険者をワンパンで倒してしまうほどの子どもだ。国や闇の一族、更には魔族なんてものも絡んできてもおかしくはない。危ない橋は渡りたくない」

「何よそれ! 保身のために、こんなに小さいラル君を放っておくって言うの! それでもギルドマスターなの! 見損なったわ!」

 ソフィーお姉さんとギルドマスターのおじさんが言い合いを始めた。

 僕のせいだ。記憶がないせいで、ソフィーお姉さんたちに迷惑をかけている。

「ソフィーお姉さん。僕は1人でも大丈夫だよ。多分どうにかなると思う。今までありがとう」

 彼女に迷惑をかけたくない。その思いから、僕は1人で生きて行くことを告げる。

「それはダメよ! ギルドが使い物にならないポンコツなら、私がラル君を引き取って、知っている人を見つけ出してあげるから。行きましょう。こんなところにいたら、臆病者が移ってしまうわ」

 不機嫌そうな声音でソフィーお姉さんが声を上げると、僕は彼女に手を握られ、ギルドを後にした。
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