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第二章
第九話 ショタはシルヴィアお姉さんと遊ぶ
しおりを挟むサーカス小屋の中に入って来たシルヴィアお姉さんは、剣を抜いてモンスターさんたちの方を見ながら構えた。
シルヴィアお姉さんはモンスターさんたちに近付くと、素早く腕を動かしてモンスターさんたちを斬っていく。
『ギャオオオオオォォォォォォン!』
切られたモンスターさんが悲鳴を上げながら倒れると、シルヴィアお姉さんは標的を変えて次々とモンスターさんを斬った。
やっぱりシルヴィアお姉さんは強いな。僕も頑張って遊ばないと。
お姉さんの活躍を見てやる気が起き、次の遊びを考える。
「シルヴィア、後!」
そんな中、ソフィーお姉さんが叫んだ。シルヴィアお姉さんの後にジャイアントコングと呼ばれた大猿のモンスターさんが立ち、お姉さんに拳を振り下ろそうとしていた。
大猿のモンスターさんはステージから降りており、段差がある。これなら、あの遊びを使えば、シルヴィアお姉さんを助けられるかもしれない。
お願い! 間に合って!
心の中で叫んだ瞬間、大猿のモンスターさんは拳を振り下ろす。けれど、拳が当たったのにも関わらず、シルヴィアお姉さんは平然としていた。
「いったい……何が起きた? モンスターの攻撃を受けたのに痛みを感じない?」
「シルヴィアお姉さんには高鬼の効果を使ったよ。これで高いところにいる限りは、10秒間はモンスターさんの攻撃を受け付けない」
驚きと戸惑いを見せているシルヴィアお姉さんに、何が起きたのかを説明する。
「なるほど、高鬼か。懐かしい遊びだ。なら、10秒の間に別の場所に移動しないといけないな」
高鬼の効果を説明すると、シルヴィアお姉さんは次の高所を探すために移動を始めた。
さすがシルヴィアお姉さんだ。今の説明だけで、高鬼の効果を把握してくれた。
僕のユニークスキルは、遊びが元になっている。遊びのルールに則って、効果も発揮される。
高鬼のルールは、逃げる側が高い場所にいると10秒間タッチされない。だけど10秒以内に別の高い場所に逃げる必要がある。
ユニークスキルで使用したこの遊びは、ルールを守れば無敵に近いけれど、ルールから外れるとただのごっこ遊びになってしまう。
シルビアお姉さんは階段を登ったり、サーカスで使ったボールの上に乗ったりして、上手いこと無敵の10秒間を維持しながらモンスターさんを次々と倒していく。
よし、僕も頑張らないと。
団長さんの方を見ると、おじさんは顔を引き攣らせている。そしてチラチラと出入り口の方を見始めた。
団長さん、どうしてあんなに出入り口の方を見ているのかな?
おじさんの行動が気になる。ここは早く、団長さんを捕まえた方が良いかもしれない。
僕と団長さんは憲兵とシーフという遊びをしている。おじさんにタッチして、檻の中に閉じ込めた方が良いかもしれない。
「くそう。あの女が乱入してから一気に戦況が変わってしまった。いつになったら現れてくれる」
ブツブツと独り言を漏らす団長さんに近付き、タッチしようと手を伸ばす。
「これで僕の勝ちだね。団長さん、つーかまえたー!」
勝ちを確信したその瞬間、団長さんは懐から鞭を取り出して、僕の腕に巻き付ける。
これではタッチすることができない。団長さんを檻に閉じ込めることができないよ。
「残念だったな。お前にタッチされなければ、檻に閉じ込められることはないことが分かっている。このまま吹き飛ばしてくれる!」
火事場のバカ力を発揮しているのか、おじさんは鞭ごと僕を空中に持ち上げる。そしてブンブン振り回し始めた。
まるで空中浮遊をしている感じで楽しいけれど、素早く風景が変わる光景を見ていると、目が回ってくる。
目が回って気持ち悪くなってきた。
「それ! そのまま客席にぶつかって死ね!」
腕を掴んでいた鞭を離したようで、僕の体はそのまま後方に吹き飛ばされた。
目が回っていて気分が悪くなっているせいで、何も考えられない。
僕はこのまま観客席にぶつかって死んでしまうのかな?
「ラル君!」
そんなことを思っていると、ソフィーお姉さんの声が聞こえてきた。その後、僕の体は柔らかいものにぶつかる。
「良かった。間に合った」
後からソフィーお姉さんの声が聞こえてくる。どうやら僕は、ソフィーお姉さんに受け止められたみたいだ。
「ソフィーお姉さん、ありがとう」
「待っていてね。今、回復魔法をかけるから」
回復魔法をかけると言ったその瞬間、僕の視界がぐるぐると回っていたのが治った。
「はい。これでラル君の眼振が治ったわ」
「眼振?」
「そう。人間には平衡感覚が備わっているのだけど、耳の中にある三半規管には水平、垂直、回転加速度を感知しているのだけど、センサーの役割をしている三半規管の根本にあるクプラが動くことで、小脳に伝達されるの。それで目が回ってしまうってわけ」
ソフィーお姉さんが親切に説明してくれるけれど、難しい言葉ばかりで僕にはよく分からない。
「だから、GABAという神経伝達物質を小脳から脳幹へ分泌させ、神経の興奮を抑えてあげたの。こうすることで、眼振を防いだのよ」
続いてどのようにして治したのかも説明してくれるも、難しい言葉の数々で頭の中が混乱しそうになる。
「三半規管? クプラ? 神経伝達物質?」
「えーとね。つまり、耳の中には液体が入っていて、それが揺れることで、脳が目を回していると思い込むの。だから、目が上下左右に動いて、目が回ってしまうって訳ね」
どうやら何も伝わっていないことが分かったみたいで、ソフィーお姉さんはもう一度簡潔に話してくれた。
「うん、今の説明ならなんとなく分かったよ」
起き上がってソフィーお姉さんから離れる。
「魔物たちがいると言うサーカス小屋はここか!」
再びサーカス小屋の出入り口から複数の武装した人々が現れた。
今度こそギルドからの援軍なのかな?
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