【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい

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⑧秘密の花畑と巡り合い(4)

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 ピクリ、と掌の上で、小さな生き物が身体を震わせた。



 ゆっくりと。まるでスローモーションで蕾が花開く様を見ているように......髪と同じ色の長いまつ毛が揺れ、瞼があがる。



 そこから見えたのは、琥珀色の宝石と見紛うほどの神秘的な瞳。



 モモネリアの視線と絡まると、その宝石のような目が優しげに細められた。





「.......やっと、逢えたね」





 小さくて可愛らしい唇が動いて、脳に直に話しかけられたみたいに鮮明に言葉が響く。





 モモネリアは、初めて感じたその感覚に驚いた。





 同時に、今、聞こえた言葉の意味が理解できず戸惑った。





 そのまま視線を外せずにいると、フッと綺麗な顔立ちに笑みを浮かべて、その生き物は上品な動きで上体を起こした。





 そして、モモネリアの掌の上で立ち上がると、畏まった様子で右手を胸にあて、腰を折った。






「.......私の名前は、ローネル。よろしくね、愛らしいお嬢さん。......あなたのお名前をうかがっても?」





 まるで、絵本の中から飛び出してきたみたいだと、ほぅっと見惚れてしまった。




 それほど幻想的な容姿と声、仕草だった。




 名前を問われて、ハッと我に返ったモモネリアは、慌てて自分の掌を少し上げて、ローネルの目線を自身のそれと合わせて軽く頭を下げた。





「ご、ごめんなさい。あまりに、あなたが綺麗で見惚れてしまって。......私は、モモネリア・クローネ。この国には隣国から来ているの」





「......モモネリア。とっても素敵な名前だね。私の大好きな“桃“と同じ響きだ」




 ローネルは、宝物を包みこむような穏やかな声音でモモネリアの名を呼んだ。





「.......“桃“はね、私たちの国では不老不死の果物とされてるんだ。花や枝、葉にも邪気を払う力があるといわれていて、とても縁起がいいんだよ。それから.......」





 そこまで言って言葉を切ったローネルは、じっくり幸せを噛み締めるような顔をした。




 次の言葉を促して、モモネリアは首を少し傾げた。



 ローネルは、ゆるりと首を横に振る。




「......ううん、いいんだ。なんでもない」



「.......そう」




 モモネリアはローネルが言いかけた言葉が気になったが、その顔を見る限り悪い話ではないのだろうし、何よりローネルが幸せそうだからいいかと、それ以上は聞かなかった。





「それより、モモネリアは一人でこの国に?」




 そう問われて、再びハッとして慌てふためいた。





「っ!!.....そうだった!ごめんなさい、ローネル。私、そろそろ行かないと.......。一緒に来た人たちを待たせているの」




「誰かと一緒に来たの?......ねぇ、モモネリア。.......私も一緒に連れていってくれない?」





「え?」





 ローネルが、可愛らしく上目遣いでおねだりしてきて、モモネリアはきょとんとして、聞き返した。





「......私を、連れていって。あなたと.....“もう“離れたくないんだ」





「.......ローネル、私たち、初対面よね?」




 だって、その言い方......まるで以前から私を知っていたみたい。.......ずっと離れ離れになっていたみたい。





「........」




 モモネリアの問いに答えず、少し顔を俯けたローネルは口元に僅かな笑みをたたえながらも、寂しげにまつ毛を伏せた。




「........わかったわ。リードに聞いてみる」





 その陰のある顔を見たら、何故だか胸が締め付けられて苦しくて、咄嗟に口走っていた。




「っ!!ありがとう」




 ローネルは、パッと顔を輝かせて前のめりになる。




 しまった、と思ったときには遅かった。



 リードネストに確認したとて、許可がおりるとも限らない。



 そもそも、この国の人間をむやみに連れ出すのはいかがなものか。




 一時的なものか、長期になるかもわからないのに、軽く口走ってしまった自分を情けなく思った。



 だが、ローネルが連れていってほしいとおねだりしてきた際、やはり強く断れず、お願いを聞いてあげたくなった。



 この可愛らしさに惑わされているのだろうか。




 それに、ローネルは目を覚まし意識もしっかりしているのだから心配など必要なくなったにも関わらず、いまだにローネルを連れて帰りたいたいという思いがモモネリアの心のすみに鎮座していた。





 さて、どうしよう。





 そこまで考えたとき、聞き慣れた声が耳元でして、後ろから温かな体温を感じた。











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