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13 だから君を(1)
しおりを挟む13.だから君を
それから、二人は死が別つときまで寄り添い続けた。
寿命の長いドワーフにしては、確かにカレンの一生は短かった。
でも、最期の瞬間彼女は笑っていた。
愛する人の腕の中で。
確かに幸せを感じて。
彼女が去ってからも、ロイドは懸命に生きた。
時には、どうしようもなく寂しくて、押し潰されそうな夜もあった。
でも、その度にあの日二人で食べた桃を思い出して、笑顔で生きた。
来世でまた出会えたとき、残りの人生をどう生きたのか自信を持って彼女に話せるようにーーー。
********
「....ねぇ、モモネリア。......いや、カレン。.....これでも思い出さない?」
泣き笑いの表情で、ローネルは尋ねた。
「......覚えて、ないわ」
「.....そっ、か....。ふふ、君らしいや。君は、おっちょこちょいだから」
「.........」
「いいよ、覚えてなくても。その分、僕が覚えていよう」
覚えていないモモネリア、いや、『カレン』を責めるでもなく。
心の底から愛する者に向ける、優しげに細められた目。
それをモモネリアは、ただ呆然と見つめる。
覚えていない。
でもーーー。
確かに、ローネルに出会ってから不思議な感覚に陥ることはあった。
自然の中でいきいきと生きる動物たちが好きで、連れて帰りたいなど思ったことがないモモネリア。
それなのに、ローネルは出会った時から放っておけなくて、あろうことか離れたくない連れて帰りたいと思ってしまった。
そして、お願いされると何故か断れなくて何でもお願いをきいてあげたくなった。
さっきは、突然変わったローネルの声に、疑問をもちながら何故か安心感を覚えた。
何か術をかけていたのかと一瞬思ったが、もしかしたら自分の中にあるカレンの.....ローネルの番の魂の想いから来る感情だったのかもしれない。
そう考えると、何だかしっくりくるのだ。
記憶はない。
ただ、自分の中に得体の知れぬ懐かしさや好意のようなものは感じる。
「......覚えていない、の。......でも、あなたに対して初めて会った時から何か感じるものがあったのは事実だわ。.....なんだか腑に落ちた気がする。......私の中には、『カレン』の魂が宿っているのね」
「......信じてくれるんだね」
愛おしげに細められていた目がぱっと開き、ローネルの表情が、明るさを増した。
「えぇ、信じるわ」
「良かった....。君も、僕に縁を感じてくれていたのは嬉しいよ。君の中の.....“カレンの魂“は僕に反応している.....と考えてもいいの、かな」
「......えぇ、きっとそうね」
素直に、心と身体が感じるままに、私は頷いた。
「......ありがとう。.......じゃぁ、僕と.......一緒に来てくれるよね?」
「.........え?」
周りの空気が、一瞬で変わった。
突然張り詰めた空気に、嫌な汗が背中を伝う。
ローネルの声は、先ほどまでの優しい声音ではなくなった。
決して大きくないのに、低く、低く、けれどはっきりと耳に響いて、身体が自然と凍りつく。
反射的に、右足を下げ、左足を下げ.....二歩、三歩と後ずさっていた。
モモネリアの顔の目の前にいたローネルと、少しだけ距離があく。
「........何故、逃げるの?......帰ろう、カレン。.......僕たちの家に」
狂気にも似た雰囲気を纏いながら、ローネルは右手を差し出し、ゆっくりと、ふわりふわりとモモネリアに近づいた。
「........い、家?......何のこと?......きゃっ!」
ドサッ!
どんどん詰まる距離を何とか保とうと、モモネリアは更に後ずさる。
けれど、数歩下がったところで倒れていた彼女の護衛の足先に踵をひっかけ、尻餅をついてしまった。
もう目の前まで、ローネルが迫ってきている。
モモネリアは、震えながら首を横に振る。
ローネルがぴたりと動きを止めた。
「.....君と暮らす家に決まっているだろう。君と.....将来生まれる僕たちの子供に、何不自由なく暮らしてもらえるように整えたんだ。....本当はもっと早く迎えに行くつもりだったんだけれど.....君は何故か別の国に生まれていて、見つけるのに時間がかかってしまった」
モモネリアは尻餅をついたまま小刻みに震え、顔は青くなっている。
僕たちの家だとか、将来生まれる子供だとか......この人は一体何を言っているのだろう。
モモネリアには、前世の記憶がないのだ。
心と身体が懐かしさを感じているのは認めるが、本当にそれだけで......生まれ変わった『今の』モモネリアにとっては、前世でしたという約束も現実味なんてない。
ただ絵本の中の物語を聞いているような感覚だ。
それを、さも当然みたいに連れ帰ろうとするローネルをただただ、恐ろしく感じる。
こわい。このままここにいたら......連れて行かれる。
頭の中で警鐘が鳴っても、身体は恐怖ですくみ震える腕や足には力など入らない。
「.......や、ふぅ......え」
うまく言葉が出てこない。
これ以上、近づかないで。
そう思った瞬間ーーーー。
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