【完結】今日、愛する妻が死にました。

こころ ゆい

文字の大きさ
2 / 11

妻の日記

しおりを挟む
「....突然、申し訳ありません。こちら、奥様のものでして。渡しそびれておりました」

 よく見れば、葬儀屋のスタッフであるその女性は、今日、妻の湯灌や着替えを担当してくれた方だった。

「....これ、が?.....妻が、持っていたのでしょうか?」

「はい。奥様のお着替えをさせて頂きました際に、内ポケットから出て参りました。...きっと、大切なものだったのでしょう」

「.....あ、りがとう...ございます」

 それは、灰色で無地のハンカチ。
 とても妻が好むデザインとは思えない、地味で暗いデザイン。
 古くて、所々に汚れやほつれが目立ち、端には、サインペンで小さく『ま.......あ....み』と書かれていることが辛うじて読み取れた。
 使い込まれて、自然と消えていったのだろう。


「.....これを、本当に....のぞみが?」

 圭吾は、違和感を覚えた。
 妻の性格上、好みではない持ち物を持ち歩くとは思えない。
 可愛いものやオシャレなものが大好きだったのぞみは、身の回りのものにこだわっていた。
 どれも好きなデザインのものを厳選し、長年使用していたのだ。

 だが、目の前のハンカチは妻の好みではないはずなのに、見るからに使い込まれている。
 葬儀屋の女性が言ったように、一見『大切なものだった』ように見える。


 なぜ......?


 ......いやーーー。



「....誰か、友達に返しそびれた、か?.....返すタイミングを逃したのかも」

 ならば、返してあげなくては。
 妻が肌身離さず、死ぬ間際まで胸に抱き続けていたハンカチを.....その持ち主に。
 
*****
 
 妻の四十九日の法要も終えて、圭吾はリビングのソファに座っていた。

 
 妻が亡くなってから、何もする気が起きなかった。
 もぬけの殻になった気分で、毎日食欲がわかない中、砂を噛むような思いで食事をとっていた。


 ふと、机に置かれたハンカチが目に入る。
 葬式の日に、葬儀屋から渡された妻の遺品。

 圭吾は、あの日、持ち主に返さなくてはと考えたことを思い出した。

「.....のぞみの部屋、探してみるか」

 結婚後建てた家は、ひとつひとつの部屋は大きくないが、部屋数を多めにとった。
 子供が生まれたときのことを考えて、だ。

 だが、結局子供は諦めた。

 授からなかったからというわけではない。
 ただ、最初は子供を望んでいた妻が、ある頃から夫婦二人での生活を望み始めたからだ。

 妻がそう望むのなら、と本当は子供が欲しかった僕だが、気持ちを切り替えた。

 そして、妊活をやめた。


******

 たくさんある部屋を、夫婦二人で使っていたため、のぞみには、いくつか部屋があった。
 仕事やプライベート用を使い分けていて、荷物置き専用の部屋もある。

 圭吾は、のぞみが使っていた3部屋のうちのひとつ、荷物置き用の部屋に入った。


「.......はは、ごちゃごちゃしてるな。のぞみのやつ、さては、全部ここに詰め込んであったな」

 まだ痛む胸を知らないフリしてわざと笑ってみても、虚しいだけだった。

 それから、何か手がかりがないかと、何十冊とあるアルバムをざっと見返してみたりした。
 なにせ数が多くて、かなり端折って見た自覚はあるが、持ち主に繋がるヒントは見つけられなかった。

 一応、のぞみが通っていた学校の卒業アルバムも全部みてみたが、『ま.......あ....み』と似た名前の子は居なかった。

 
「あ.....これ、懐かしいな。はは、二人で初めて旅行に行ったときの写真か。のぞみ、写真撮るの好きだったよな。いっつもカメラ向けてきて.....僕の変顔が撮れたって大はしゃぎしてたっけ」

 くすり、と思い出し笑いして、また涙腺が緩む。
 この辛さは、いつ頃まるみを帯びてくるのだろう。


「........ん?これは.....日記?」


 それは、古い段ボールにいくつも積み重なっておさめられていた。

 一番日付が昔のものから取り出せば、のぞみが結婚前からつけている日記であることがわかった。


「......のぞみ、ごめんな」

 日記を覗き見ることに罪悪感を覚えたが、ハンカチを返すためだと言い訳をして、圭吾はパラパラとそれをめくり始めた。

 そこには、結婚前......圭吾と出会った頃のことが書かれている。

 だが、すぐにピタリと圭吾の手が止まる。

「......な、んだ?これ....?」

 圭吾は、背筋をゾクリと凍らせた。

 その日記の、前半部分。
 圭吾と出会う前の日記が書いてあったのであろうページが.......全て引きちぎられていたからだ。

 誰かの手で......ごっそりとーーー。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

君は恋人、でもまだ家族じゃない

山田森湖
恋愛
あらすじ 同棲して3年。 毎朝コーヒーを淹れて、彼の寝ぼけた声に微笑んで、 一緒に暮らす当たり前の幸せを噛みしめる——そのはずだった。 彼女は彼を愛している。 彼も自分を愛してくれていると信じている。 それでも、胸の奥には消えない不安がある。 「私たちは、このまま“恋人”で止まってしまうの?」 結婚の話になると、彼はいつも曖昧に笑ってごまかす。 最初は理由をつけていたのに、今では何も言わなくなった。 周囲の友人は次々と結婚し、家族を持ち始めている。 幸せそうな写真を見るたび、彼女の心には “言えない言葉”だけが増えていく。 愛している。 でも、それだけでは前に進めない。 同棲という甘い日常の裏で、 少しずつ、確かにズレ始めているふたりの未来。 このまま時間に流されるだけの恋なのか、 それとも、家族へと歩き出せる恋なのか——。 彼の寝息を聞きながら、 彼女は初めて「涙が出そうな夜」を迎えていた。

遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)

スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」 唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。 四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。 絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。 「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」 明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは? 虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【完】25年後、君と答え合わせ

こころ ゆい
ミステリー
※完結いたしました。初めてのコンテストで、完結まで辿り着けたこと。全ては読者の皆様のおかげです。本当に、本当に、ありがとうございました! 東山 花乃(ひがしやま かの)24歳。 花乃は、病気に侵され、小さい頃から目がほとんど見えていない。身体も一部麻痺している。 そんな彼女には異性の親友がいた。 手越 千春(てごし ちはる)29歳。 5歳の頃、院内で出会った男の子。成長して医師になり、今では花乃の担当医をしてくれている。 千春の祖父は、花乃の入院する大きな病院の医院長。千春は将来この病院を継ぐ跡取りだ。 花乃と出会った頃の千春は、妙に大人びた冷めた子供。人を信用しない性格。 交流を続けるなかで、花乃とは友人関係を築いていくが、まだどこか薄暗い部分を抱えたまま。 「ずっと友達ね」 無邪気に笑う花乃に、千春は言った。 「ずっと友達、なんてありえない」 「...じゃぁ、25年後、答え合わせをしましょう?」 「25年後?」 「そう。25年後、あなたと私がまだ友達か。答え合わせするの」 「いいけど...どうして25年後なの?」 「...それは秘密。25年後のお楽しみだよ」 そんな会話を出会った頃したことを、千春は覚えているだろうか。花乃は、過保護な千春や両親、友人たちに支えられながら、病気と向き合っていく。 しかしーー。 ある日、花乃は千春に関する不穏な噂を耳にする。 それをきっかけに、花乃は千春にまつわるある事実を知ることになっていくーー。 25年後、花乃と千春が出した答えとは? 🌱この物語はフィクションです。登場人物、建物、題材にされているもの、全て作者の考えた架空のものです。実際とは異なります。 🌱医療行為として、チグハグな部分があるかもしれません。ご了承頂けると幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今日、愛する両親が死にました。

こころ ゆい
ホラー
17歳の谷口紅子(たにぐち べにこ)は、田舎町に住んでいた。 都会とは離れた町だが、過疎とは無縁。 緑豊かな環境、畑でとれる美味しい野菜、 一応整った医療環境と教育環境。 子育てにはそこそこいい環境のため、子供は比較的多かった。 優しい両親や周囲の大人たちは、いつも何かと世話を焼いてくれる。 年頃の紅子にとっては、少しばかりお節介だと感じることはあるものの、日々そこにある当たり前の幸せを感じていた。 だがーー。 18歳の誕生日を迎えた日、紅子の日常は突如として変化する。 それは、優しい両親から告げられた、『ある話』から始まった。

処理中です...