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第一章 回想
嘘①
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そして、現在ーー。
確かに、病名が判明しても、花乃の病状が劇的に変化することはなかった。だが、その告知を受ける前後、19歳をピークに、24歳の現在まで体調は落ち着いた状態が続いている。まぁ、少しずつ麻痺は広がりを見せているし、何となく食欲も落ちて来ているので悪化していることは間違いないが。
「...ケホッ、ゴホッゴホッ」
「...千春?大丈夫?...最近よく咳出るね」
屋上でベンチに腰掛け、二人で景色を眺めていたところで、千春が咳き込み始めた。
「...大丈夫だ」
「寒くない?ブランケット、一緒に使おう?」
花乃は、先ほど千春が膝にかけてくれたブランケットを、少し彼に身を寄せてから二人の膝に掛け直す。
「はは、ありがとう。そうだ、花乃。もうすぐ誕生日だろ」
「あ...本当だ。もうそんな時期なんだね」
「あの花乃も25かぁ。大きくなったなぁ」
「ふふ、何それ。私はもう大人よ?千春、親戚のおじさんみたい」
「お、おじ...はぁ~。まぁ、俺も29だしな。30もすぐ目の前で...もうおじさんか...はぁ~」
花乃のツッコミに、あからさまに千春が落ち込んだフリをする。
「え...ちょ、ちょっと、本気で落ち込まないでよ?千春は、おじさんなんかじゃないわ。ほら、このお顔。お肌もツルツルでー...あれ?千春....また発疹増えたんじゃない?....これ、一時期腕に出ていたものよね?」
花乃が、千春を励まそうと腕を伸ばして千春の顔に触れた時。伝わる感触は、いつものすべすべしたものと違っていた。
「....あぁ。時々、季節の変わり目に出るんだ」
「...季節の、変わり目?」
「そうだ。またすぐに治るさ」
「...でも、あの時もそう言って随分長く荒れていなかった?....検査とか、しなくて大丈夫なの?」
「はは、花乃は心配症だな。大丈夫だって。もし必要な時は、同僚に頼んで診てもらうから」
「....うん」
千春の大きな手に、背中をポンポンと優しく撫でられる。
「あ...誕生日、欲しいものとかある?」
「....ううん、何もない」
「花乃は本当、昔からいつもそれだな。....誕生日プレゼントくらい、友人なんだから強請ればいいのに。ちょっとくらいワガママ言え?」
花乃は、呆れたようなため息混じりの声のする方に顔を傾けて、フルフルと首を振った。
「いつももらってる」
「ん?」
「千春からは、いっぱいもらってる。....この二十年近く、毎日のように」
「.....?」
「お花とか、貝殻とか。石とか...本。溶けちゃったけど、雪も触れてすごく嬉しかったし。それに、優しさも。私の宝物は、ほとんど千春からもらったものなんだよ。ふふ、知ってた?...だから、もう十分なの。千春が居てくれたら、それでいいの」
花乃は、満足げな微笑みとともに、千春の方を向いた。
「....毎日は言い過ぎだろ。ただ拾ってきたものだし」
千春が照れているのは、花乃に伝わっていた。
「...私の喜ぶ顔、想像しながら見つけてきてくれたんだなって思うのが、嬉しいの。それに、千春が私に見せたいとか話したいって会いに来てくれるってことも。だって、その度に私たちは友達だって実感するから」
「.........」
「.....千春?」
「あ...あぁ。そう、だな」
「........」
その後黙ってしまった千春に、何故か花乃の胸がザワザワと騒いだ。
それなのに...気になるのに、聞けなくて。
結局、静かに屋上での『気分転換』は過ぎていった。
「花乃、そろそろ戻ろう。冷えてしまうから」
ベンチから立ち上がり、千春はブランケットをたたんだ。慣れた動きで、花乃に腕を差し出す。
もう先ほどの雰囲気など、微塵も残っていなかった。
「....もう少し、座っていたかったな」
「....だめだ。そういえば、昨日、あまり食が進んでなかったみたいだな。食欲ない?」
「........」
「...戻ったら、書天堂の筆饅頭あげるよ」
「え、買ってきてくれたの?」
「食欲がなさそうな時でも、これなら食べてくれるからな。念の為に買って来た」
「ありがとう」
その通り、病室に戻ったら花乃の大好物の筆饅頭が出て来て、彼女は目を輝かせた。
「いただきます!」
そう言って手を合わせると、パクリと大きめの口でかぶりつく。
「むぅぅ~~、美味しい」
「はは、良かった」
その時、ガラリと病室のドアが開いて看護師が飛び込んできた。
「先生!患者さんが...」
「...あぁ、すぐ行く。花乃、それ食べたらゆっくり休むんだよ。俺はもう行かなきゃ。後で退勤前に、また顔を出すよ」
「え、えぇ。気をつけてね」
バタバタと急ぎ足で離れていく足音を聞きながら、花乃は口をむぐむぐさせていた。
確かに、病名が判明しても、花乃の病状が劇的に変化することはなかった。だが、その告知を受ける前後、19歳をピークに、24歳の現在まで体調は落ち着いた状態が続いている。まぁ、少しずつ麻痺は広がりを見せているし、何となく食欲も落ちて来ているので悪化していることは間違いないが。
「...ケホッ、ゴホッゴホッ」
「...千春?大丈夫?...最近よく咳出るね」
屋上でベンチに腰掛け、二人で景色を眺めていたところで、千春が咳き込み始めた。
「...大丈夫だ」
「寒くない?ブランケット、一緒に使おう?」
花乃は、先ほど千春が膝にかけてくれたブランケットを、少し彼に身を寄せてから二人の膝に掛け直す。
「はは、ありがとう。そうだ、花乃。もうすぐ誕生日だろ」
「あ...本当だ。もうそんな時期なんだね」
「あの花乃も25かぁ。大きくなったなぁ」
「ふふ、何それ。私はもう大人よ?千春、親戚のおじさんみたい」
「お、おじ...はぁ~。まぁ、俺も29だしな。30もすぐ目の前で...もうおじさんか...はぁ~」
花乃のツッコミに、あからさまに千春が落ち込んだフリをする。
「え...ちょ、ちょっと、本気で落ち込まないでよ?千春は、おじさんなんかじゃないわ。ほら、このお顔。お肌もツルツルでー...あれ?千春....また発疹増えたんじゃない?....これ、一時期腕に出ていたものよね?」
花乃が、千春を励まそうと腕を伸ばして千春の顔に触れた時。伝わる感触は、いつものすべすべしたものと違っていた。
「....あぁ。時々、季節の変わり目に出るんだ」
「...季節の、変わり目?」
「そうだ。またすぐに治るさ」
「...でも、あの時もそう言って随分長く荒れていなかった?....検査とか、しなくて大丈夫なの?」
「はは、花乃は心配症だな。大丈夫だって。もし必要な時は、同僚に頼んで診てもらうから」
「....うん」
千春の大きな手に、背中をポンポンと優しく撫でられる。
「あ...誕生日、欲しいものとかある?」
「....ううん、何もない」
「花乃は本当、昔からいつもそれだな。....誕生日プレゼントくらい、友人なんだから強請ればいいのに。ちょっとくらいワガママ言え?」
花乃は、呆れたようなため息混じりの声のする方に顔を傾けて、フルフルと首を振った。
「いつももらってる」
「ん?」
「千春からは、いっぱいもらってる。....この二十年近く、毎日のように」
「.....?」
「お花とか、貝殻とか。石とか...本。溶けちゃったけど、雪も触れてすごく嬉しかったし。それに、優しさも。私の宝物は、ほとんど千春からもらったものなんだよ。ふふ、知ってた?...だから、もう十分なの。千春が居てくれたら、それでいいの」
花乃は、満足げな微笑みとともに、千春の方を向いた。
「....毎日は言い過ぎだろ。ただ拾ってきたものだし」
千春が照れているのは、花乃に伝わっていた。
「...私の喜ぶ顔、想像しながら見つけてきてくれたんだなって思うのが、嬉しいの。それに、千春が私に見せたいとか話したいって会いに来てくれるってことも。だって、その度に私たちは友達だって実感するから」
「.........」
「.....千春?」
「あ...あぁ。そう、だな」
「........」
その後黙ってしまった千春に、何故か花乃の胸がザワザワと騒いだ。
それなのに...気になるのに、聞けなくて。
結局、静かに屋上での『気分転換』は過ぎていった。
「花乃、そろそろ戻ろう。冷えてしまうから」
ベンチから立ち上がり、千春はブランケットをたたんだ。慣れた動きで、花乃に腕を差し出す。
もう先ほどの雰囲気など、微塵も残っていなかった。
「....もう少し、座っていたかったな」
「....だめだ。そういえば、昨日、あまり食が進んでなかったみたいだな。食欲ない?」
「........」
「...戻ったら、書天堂の筆饅頭あげるよ」
「え、買ってきてくれたの?」
「食欲がなさそうな時でも、これなら食べてくれるからな。念の為に買って来た」
「ありがとう」
その通り、病室に戻ったら花乃の大好物の筆饅頭が出て来て、彼女は目を輝かせた。
「いただきます!」
そう言って手を合わせると、パクリと大きめの口でかぶりつく。
「むぅぅ~~、美味しい」
「はは、良かった」
その時、ガラリと病室のドアが開いて看護師が飛び込んできた。
「先生!患者さんが...」
「...あぁ、すぐ行く。花乃、それ食べたらゆっくり休むんだよ。俺はもう行かなきゃ。後で退勤前に、また顔を出すよ」
「え、えぇ。気をつけてね」
バタバタと急ぎ足で離れていく足音を聞きながら、花乃は口をむぐむぐさせていた。
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