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冷然たる狐は甘い熱に翻弄される
5 〔完〕
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その言葉にバッと顔をあげた茜は、ハッキリと傷ついた表情を見せた。
そして泣きそうな顔で、反論してくる。
「...知ってます。...でも嫌なんです」
「.......」
続く拒否の言葉に、十治は心臓を掴まれてもう何も言えない。しばらく沈黙が続いて、また茜が言葉を繋ぐ。
「...好きな、人と」
「.......」
「...好きな人と結婚したい。...例え、『候補者』だとしても、好きな人以外と結婚するなんて...考えるのも嫌」
その言葉は、確実に十治にダメージを与えた。
そして、気づけばまた普段の自分では考えられない言葉を口にしていた。
「...好きに、なるかもしれないだろう。...その獣人を」
十治は口にしながら、自分の発言がおかしなことを感じていた。だが、どうしても止めることができない。
(...そんなに、嫌か。...俺と...獣人と結婚するのは)
わけのわからない感情に支配されて、冷然たる彼の姿は鳴りをひそめている。
すると、キッと睨むみたいに茜が十治を見て、先ほどよりもさらに強い口調で言った。
「どうして!...先生は...私に、そんなに『候補者』になって欲しいんですか?」
「..........」
ーーなってほしい。そうしたら...俺は君を...。
その問いに、十治は唐突に気づく。
自分の...奥深くに隠されて...見ようとしていなかった気持ちに。
「...もちろん、選ばれるなんて思ってません。でも、例え数%でも...違う人の花嫁になる可能性を残したくないんです。私は...私は...」
言葉を切った茜は、気づいた心に翻弄されて身動きできない十治を...まるで何かを乞うような、切なげな目で見つめた。
十治はその視線に息をのむ。
(...ああ、だめだ。...ごめん、橋本。いや...)
「茜....」
「...え?....きゃっ」
十治は目の前の....自分にとって『唯一』の名をつむぎーーその長い腕を伸ばす。
次の瞬間ーー。
茜は、十治の大きくて温かな腕の中にいた。
突然の出来事に目を白黒させる茜に、頭の上から声が落ちてくる。...甘くて、優しくて...それでいて逃さないとでも言われているような強さを感じる声。
「...好きだ。...茜。俺の『花嫁』になってくれないか」
「.....え?」
茜は驚いて...知らず知らず目尻に溜まっていた涙がぽろんと溢れ落ちる。
「...は、はな...よめ?」
確かめるように紡いで、茜は雷に打たれたような衝撃を受ける。
十治の腕に包まれた状態で、寄りかかっていた体勢をガバリと起こして、しっかりと目を合わせて言った。
「...ま、まさか。先生が...その獣人さん?」
茜のあまりの驚きように、十治の表情が初めて大きく崩れ....何とも優しげな、蕩けた笑顔を見せる。
「はは。...ああ。黙っていてごめんな。だがもう秘密は必要ない。俺は...君を『花嫁』にすると決めた」
今度はイタズラな笑みを見せる十治。
茜は先ほどまでの彼との変わりように、もうしどろもどろだ。
「え...嘘...じゃ、じゃあ、私は...先生の『花嫁候補』で...それで...え、え、え?」
「...落ち着け」
ギュッと腕に力を込めてさらに密着してから、十治は茜の顎に手を添えクイッと上向かせた。
トクトクといつもより早い鼓動を刻む、彼の心臓の響きを感じながら、目を見開いたまま動けない茜の視界が、十治でいっぱいになっていく。
そしてーー。
茜のふっくら柔らかな唇に...温かな体温が重なった。「ちゅっ」とリップ音を響かせて。
「...可愛い。...好きだよ」
蕩けた目をして茜の耳元で囁くように告げた十治は、満足げだ。
茜はかたまって...今起きたことを理解した途端、顔をゆでだこのように真っ赤に染め上げた。
しばし甘い時間が、二人の間に流れていくーー。
****
「あ....」
「...え?」
秋の冷えた空気から守るように茜を抱いたまま、腰掛けていた十治が、思い出したみたいに声をあげる。
茜は包まれている安心感にほうけて、トロンとした目で聞き返す。
「...好きな、やつが...いるのか?茜」
「.........っ」
その顔はさっきと変わらないが、だが確かに黒くドロっとした感情を含んだものだ。
(...せ、先生...こわい)
いつも冷静沈着で感情を乱さない彼の、新しい一面を茜は垣間見ている。
と、ふいっと視線を逸らして...拗ねた子供みたいな声で十治が言った。
「...好きな、人以外の『花嫁候補』なんて嫌、なんだろう」
「あ.....」
さっき言った自分の言葉のことだと気づいて、茜が口元をおさえた。
「...例え、好きな人がいても。君は俺がもらう。もう決めた。...キスまでしといて何だが...これから君に振り向いてもらえるように頑張ろう。....プロポーズの返事はその時聞かせてくれ」
言われて、自分がまだ返事をしていないことに気づいた。
(...もう。この人は、本当に)
茜は、仕方ない子を見る目を十治に向けて...そっと身体を起こして彼の耳元に唇を寄せる。
「...先生。“なぞなぞ“の答え、教えてあげます」
「........っ」
じっと耳を澄ませていた十治は、その言葉を理解してーー。今度は、彼の首から上が徐々に赤く染まっていった。
ーーと、う、じ、す、き。
「...大好きですよ?とーじ、せんせ?」
そして泣きそうな顔で、反論してくる。
「...知ってます。...でも嫌なんです」
「.......」
続く拒否の言葉に、十治は心臓を掴まれてもう何も言えない。しばらく沈黙が続いて、また茜が言葉を繋ぐ。
「...好きな、人と」
「.......」
「...好きな人と結婚したい。...例え、『候補者』だとしても、好きな人以外と結婚するなんて...考えるのも嫌」
その言葉は、確実に十治にダメージを与えた。
そして、気づけばまた普段の自分では考えられない言葉を口にしていた。
「...好きに、なるかもしれないだろう。...その獣人を」
十治は口にしながら、自分の発言がおかしなことを感じていた。だが、どうしても止めることができない。
(...そんなに、嫌か。...俺と...獣人と結婚するのは)
わけのわからない感情に支配されて、冷然たる彼の姿は鳴りをひそめている。
すると、キッと睨むみたいに茜が十治を見て、先ほどよりもさらに強い口調で言った。
「どうして!...先生は...私に、そんなに『候補者』になって欲しいんですか?」
「..........」
ーーなってほしい。そうしたら...俺は君を...。
その問いに、十治は唐突に気づく。
自分の...奥深くに隠されて...見ようとしていなかった気持ちに。
「...もちろん、選ばれるなんて思ってません。でも、例え数%でも...違う人の花嫁になる可能性を残したくないんです。私は...私は...」
言葉を切った茜は、気づいた心に翻弄されて身動きできない十治を...まるで何かを乞うような、切なげな目で見つめた。
十治はその視線に息をのむ。
(...ああ、だめだ。...ごめん、橋本。いや...)
「茜....」
「...え?....きゃっ」
十治は目の前の....自分にとって『唯一』の名をつむぎーーその長い腕を伸ばす。
次の瞬間ーー。
茜は、十治の大きくて温かな腕の中にいた。
突然の出来事に目を白黒させる茜に、頭の上から声が落ちてくる。...甘くて、優しくて...それでいて逃さないとでも言われているような強さを感じる声。
「...好きだ。...茜。俺の『花嫁』になってくれないか」
「.....え?」
茜は驚いて...知らず知らず目尻に溜まっていた涙がぽろんと溢れ落ちる。
「...は、はな...よめ?」
確かめるように紡いで、茜は雷に打たれたような衝撃を受ける。
十治の腕に包まれた状態で、寄りかかっていた体勢をガバリと起こして、しっかりと目を合わせて言った。
「...ま、まさか。先生が...その獣人さん?」
茜のあまりの驚きように、十治の表情が初めて大きく崩れ....何とも優しげな、蕩けた笑顔を見せる。
「はは。...ああ。黙っていてごめんな。だがもう秘密は必要ない。俺は...君を『花嫁』にすると決めた」
今度はイタズラな笑みを見せる十治。
茜は先ほどまでの彼との変わりように、もうしどろもどろだ。
「え...嘘...じゃ、じゃあ、私は...先生の『花嫁候補』で...それで...え、え、え?」
「...落ち着け」
ギュッと腕に力を込めてさらに密着してから、十治は茜の顎に手を添えクイッと上向かせた。
トクトクといつもより早い鼓動を刻む、彼の心臓の響きを感じながら、目を見開いたまま動けない茜の視界が、十治でいっぱいになっていく。
そしてーー。
茜のふっくら柔らかな唇に...温かな体温が重なった。「ちゅっ」とリップ音を響かせて。
「...可愛い。...好きだよ」
蕩けた目をして茜の耳元で囁くように告げた十治は、満足げだ。
茜はかたまって...今起きたことを理解した途端、顔をゆでだこのように真っ赤に染め上げた。
しばし甘い時間が、二人の間に流れていくーー。
****
「あ....」
「...え?」
秋の冷えた空気から守るように茜を抱いたまま、腰掛けていた十治が、思い出したみたいに声をあげる。
茜は包まれている安心感にほうけて、トロンとした目で聞き返す。
「...好きな、やつが...いるのか?茜」
「.........っ」
その顔はさっきと変わらないが、だが確かに黒くドロっとした感情を含んだものだ。
(...せ、先生...こわい)
いつも冷静沈着で感情を乱さない彼の、新しい一面を茜は垣間見ている。
と、ふいっと視線を逸らして...拗ねた子供みたいな声で十治が言った。
「...好きな、人以外の『花嫁候補』なんて嫌、なんだろう」
「あ.....」
さっき言った自分の言葉のことだと気づいて、茜が口元をおさえた。
「...例え、好きな人がいても。君は俺がもらう。もう決めた。...キスまでしといて何だが...これから君に振り向いてもらえるように頑張ろう。....プロポーズの返事はその時聞かせてくれ」
言われて、自分がまだ返事をしていないことに気づいた。
(...もう。この人は、本当に)
茜は、仕方ない子を見る目を十治に向けて...そっと身体を起こして彼の耳元に唇を寄せる。
「...先生。“なぞなぞ“の答え、教えてあげます」
「........っ」
じっと耳を澄ませていた十治は、その言葉を理解してーー。今度は、彼の首から上が徐々に赤く染まっていった。
ーーと、う、じ、す、き。
「...大好きですよ?とーじ、せんせ?」
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