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孤独な狼は生涯一度きりの恋に身を捧ぐ
5 〔完〕
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****
百合子がやって来てあっという間に10日が経った。
黎はすっかり百合子に気を許していて、耳も尻尾も。感情を隠さずに忙しなく動いている。
「百合子さん、これどこに運ぼうか?」
「あ、じゃあ、玄関先でお願いします。花瓶が置いてあるので、そこに生けてもらってもいいですか?」
「うん、わかった」
最近は、仕事以外ずっと百合子と行動している。
ピンポーン。
「あ、はーい!」
「百合子さん、俺でるからいいよ」
「じゃあ、お願いします」
玄関先で花を生けていた黎が、百合子の代わりに出てくれた。
と、戻ってきた黎は、何やら大きな荷物を抱えていた。しかも、ひとつだけでなくいくつも。
「ん?それなんですか?」
「あ、これ、俺が注文したんだ」
「.......?」
黎は、どうやら必要なものをよくインターネットで注文するらしい。買うものは様々だが、百合子がここに来てからはーー。
「実は、百合子さんになんだけど」
届いた荷物を早速ガサガサと開けていった。
「うわぁ」
一つ目の段ボールからは、百合子の好みど真ん中の可愛らしいマグカップや器、お箸。大好きなブランドのルームウェアに、スリッパ。好きなキャラクターのぬいぐるみ。
二つ目は毛布や布団カバー。ふかふかの高級そうな布団セット。今使っている布団は家にあったもので、百合子専用のものをということらしい。それから、部屋に敷くラグ。
三つ目は、これまたすごく可愛い洋服が何枚も。しかもサイズはぴったりときている。
どれもこれも百合子のツボを押さえたものばかりだった。
一瞬、ものすごくテンションが上がってしまった自覚はあるが...ハタと我に返った。
満足そうに頬杖をついて、百合子をみていた黎を振り返り尋ねる。
「あの...どうしてですか?」
「ん?必要だろ?」
「...有り難いんですが、でも...私」
ーーあと四日だけです、ここに居られるの。
「.........」
ピタリと黎の動きが止まった。
「もしかして、手紙読んでませんか?...私は二週間の約束で....そのあとはまた別の女性がいらっしゃる予定です」
(別の、女性?)
ガバリと黎は近くの棚の引き出しを開けて、
無造作に入れたあの手紙を見つける。
急いで便箋を取り出して、もう一度よく確かめてみる。
ーーなお、アシスタントは『花嫁候補者』から選ばれ、二週間ごとに交代する。
ーーアシスタント本人には、『花嫁候補者』であることは伝えていない。
ーー獣人であることを伝えるかは、貴殿の自由である。
(....書いてある)
本当に小さく、注意書きのように記してあった。
そう言えば、初めて会った時にも『二週間』だと言われていた。その時は深く考えていなくて...彼女と過ごす時間が楽しくてすっかり頭から飛んでいた。
(...帰る?彼女が?)
ザワリと嫌な感覚がした。
ドクドクと心臓が騒ぎ始める。
「.....帰って、どうするの?」
「え.....?」
「帰って....日常に戻るの?」
ーー俺のことなんてすぐに忘れて。
黎の表情がぐにゃりと歪んだ。百合子は目を瞠る。
「....黎、さん?」
「....嫌だ。...帰らないでよ、百合子さん」
「..........」
「....俺の居ない日常になんて、帰らないで」
「.......っ」
黎は仄暗い感情を隠しもせずに縋りついて。
百合子をそばにあったソファに押し倒した。
「....れ、れい」
「.....君のためなら何でもする。ここが嫌なら君の好きなところに家を建てよう。お金だって何だって、君の好きにしていい。俺の....全部あげるから。....ねぇ。帰らないって言ってよ。じゃないと俺....君に何するか.....」
黎は、俯いて奥歯をギリと鳴らした。
と、その時ーー。
そっと優しく...黎の艶のある黒髪が撫でられる。黎は目を見開いた。
「...な、なにを」
「...だって、黎さんすごく辛そうだったから」
「...襲われてるのに呑気にそんなこと言ってていいの?....無理やり俺のものにされるかもしれないんだぞ?」
「............」
ーー黎さんなら、いいって言ったら...嫌いになりますか?
「.....え?」
「..........」
カァッとみる間に真っ赤に染まる百合子の顔。
それがうつったみたいに、黎の顔も染まっていく。
「....いいのか?」
百合子がコクリと小さく頷いて...
自分のシャツのボタンに手をかけた。
プチッ。プチッ。
「...慎みがないって、嫌わないで下さいね?」
スローモーションのように見えた。
あまりに綺麗な光景で....
黎はポウッと視線が釘付けになる。
(.....なんて美しいんだろう)
永遠にも思える一瞬の時を過ごしてーー。
.....すぐにハッと気づいた。
「.......っ!!ち、ちち、ちがう!!」
必死に声を上げた。
ガバリ、とソファの背にかけてあった大きめのブランケットを手に取り、顔を背けてなるべく見ないようにしながら百合子の身体を包み込む。
「.....黎、さん?」
キョトリとして、百合子がかけられたブランケットの合わせ目をぎゅっと握った。
「...ち、違うんだ。そういうことがしたいんじゃなくて。......いや、したいのはしたいんだが。.....あれはただの言葉のあやというか。...ただ、君の気持ちを確認するための言葉だったというか」
「.........」
「...だから、その....」
黎は一拍置いて、大きく深呼吸すると、真っ直ぐに百合子を見据えて言った。
「城田 百合子さん。どうか...俺の『花嫁』になってくれませんか?」
「....はな、よめ」
コクリと黎が頷いて、百合子は何やら思案顔になる。
「あ....そっか。耳と尻尾...黎さんは獣人さんで....じゃあ、私は...」
そこでやっと状況が理解できて....百合子はふわりと笑って答えた。
「....はい、よろしくお願いします」
ブワッと全身の毛が逆立つ、あの感覚。
黎の尻尾はものすごい勢いで振れ始めた。
背中に見え隠れする振り子みたいに揺れる尻尾を見て、百合子が「ふふっ」と笑う。
黎も眉を下げて照れ笑いする。
「....抱きしめてもいい?」
百合子は恥ずかしそうに、頬を染めてゆっくり頷いた。
ぎゅう。
途端、ふわっと香る愛しい人のにおい。
触れる感触はふにふにと柔らかで、温かくてーー。
たった今、両思いになって。
たった今、結婚の約束までした女性ーー。
「...........」
ちらりと黎の視線が百合子の首元を滑る。
ゴクリ。
喉が鳴った。
先ほどの勘違いで、百合子のシャツははだけて白い肌がいつもよりも広く晒されている。
覆ったブランケットの隙間からは、女性らしいラインが見え隠れしていた。
(だ、ダメだ。初めてはロマンチックに...思い出に残るようにしてあげたい。彼女を大切に...大切にするんだ。でも....)
「....国にすぐ連絡する。次のアシスタントは不要だと。....でもその前にーー」
「........?」
黎はたっぷり間を置いてから、百合子の柔らかな唇をそっと撫でた。
「触れたい....」
熱っぽくそう言われて、百合子はピクリと肩を跳ねさせる。黎は返事も聞かず近寄ってきて。
視界いっぱいに黎の顔が広がった瞬間、唇が重なったーー。
「........っ」
何度も何度も、優しく角度を変えて落ちてくる。
ふいにキスが止んだ時、百合子の愛らしい唇はポソリと名を呼んだ。艶めかしい吐息とともに。
「......黎」
思いがけず呼び捨てにされ、黎のスイッチが切り替わる。
再び始まったキスは、獰猛さを増してどんどん深くなり。やがて百合子の息は上がって、目はトロンと蕩けた。
「....言葉のあや、だったんじゃ」
「....君が悪い」
「..........」
「はぁ....早く」
ーー君の、もっと深いところに触れたい。
「....結婚したら覚悟して。生涯ずっと....俺の全部は君のものだ.....」
黎の妖しい笑顔は、とても綺麗だったーー。
百合子がやって来てあっという間に10日が経った。
黎はすっかり百合子に気を許していて、耳も尻尾も。感情を隠さずに忙しなく動いている。
「百合子さん、これどこに運ぼうか?」
「あ、じゃあ、玄関先でお願いします。花瓶が置いてあるので、そこに生けてもらってもいいですか?」
「うん、わかった」
最近は、仕事以外ずっと百合子と行動している。
ピンポーン。
「あ、はーい!」
「百合子さん、俺でるからいいよ」
「じゃあ、お願いします」
玄関先で花を生けていた黎が、百合子の代わりに出てくれた。
と、戻ってきた黎は、何やら大きな荷物を抱えていた。しかも、ひとつだけでなくいくつも。
「ん?それなんですか?」
「あ、これ、俺が注文したんだ」
「.......?」
黎は、どうやら必要なものをよくインターネットで注文するらしい。買うものは様々だが、百合子がここに来てからはーー。
「実は、百合子さんになんだけど」
届いた荷物を早速ガサガサと開けていった。
「うわぁ」
一つ目の段ボールからは、百合子の好みど真ん中の可愛らしいマグカップや器、お箸。大好きなブランドのルームウェアに、スリッパ。好きなキャラクターのぬいぐるみ。
二つ目は毛布や布団カバー。ふかふかの高級そうな布団セット。今使っている布団は家にあったもので、百合子専用のものをということらしい。それから、部屋に敷くラグ。
三つ目は、これまたすごく可愛い洋服が何枚も。しかもサイズはぴったりときている。
どれもこれも百合子のツボを押さえたものばかりだった。
一瞬、ものすごくテンションが上がってしまった自覚はあるが...ハタと我に返った。
満足そうに頬杖をついて、百合子をみていた黎を振り返り尋ねる。
「あの...どうしてですか?」
「ん?必要だろ?」
「...有り難いんですが、でも...私」
ーーあと四日だけです、ここに居られるの。
「.........」
ピタリと黎の動きが止まった。
「もしかして、手紙読んでませんか?...私は二週間の約束で....そのあとはまた別の女性がいらっしゃる予定です」
(別の、女性?)
ガバリと黎は近くの棚の引き出しを開けて、
無造作に入れたあの手紙を見つける。
急いで便箋を取り出して、もう一度よく確かめてみる。
ーーなお、アシスタントは『花嫁候補者』から選ばれ、二週間ごとに交代する。
ーーアシスタント本人には、『花嫁候補者』であることは伝えていない。
ーー獣人であることを伝えるかは、貴殿の自由である。
(....書いてある)
本当に小さく、注意書きのように記してあった。
そう言えば、初めて会った時にも『二週間』だと言われていた。その時は深く考えていなくて...彼女と過ごす時間が楽しくてすっかり頭から飛んでいた。
(...帰る?彼女が?)
ザワリと嫌な感覚がした。
ドクドクと心臓が騒ぎ始める。
「.....帰って、どうするの?」
「え.....?」
「帰って....日常に戻るの?」
ーー俺のことなんてすぐに忘れて。
黎の表情がぐにゃりと歪んだ。百合子は目を瞠る。
「....黎、さん?」
「....嫌だ。...帰らないでよ、百合子さん」
「..........」
「....俺の居ない日常になんて、帰らないで」
「.......っ」
黎は仄暗い感情を隠しもせずに縋りついて。
百合子をそばにあったソファに押し倒した。
「....れ、れい」
「.....君のためなら何でもする。ここが嫌なら君の好きなところに家を建てよう。お金だって何だって、君の好きにしていい。俺の....全部あげるから。....ねぇ。帰らないって言ってよ。じゃないと俺....君に何するか.....」
黎は、俯いて奥歯をギリと鳴らした。
と、その時ーー。
そっと優しく...黎の艶のある黒髪が撫でられる。黎は目を見開いた。
「...な、なにを」
「...だって、黎さんすごく辛そうだったから」
「...襲われてるのに呑気にそんなこと言ってていいの?....無理やり俺のものにされるかもしれないんだぞ?」
「............」
ーー黎さんなら、いいって言ったら...嫌いになりますか?
「.....え?」
「..........」
カァッとみる間に真っ赤に染まる百合子の顔。
それがうつったみたいに、黎の顔も染まっていく。
「....いいのか?」
百合子がコクリと小さく頷いて...
自分のシャツのボタンに手をかけた。
プチッ。プチッ。
「...慎みがないって、嫌わないで下さいね?」
スローモーションのように見えた。
あまりに綺麗な光景で....
黎はポウッと視線が釘付けになる。
(.....なんて美しいんだろう)
永遠にも思える一瞬の時を過ごしてーー。
.....すぐにハッと気づいた。
「.......っ!!ち、ちち、ちがう!!」
必死に声を上げた。
ガバリ、とソファの背にかけてあった大きめのブランケットを手に取り、顔を背けてなるべく見ないようにしながら百合子の身体を包み込む。
「.....黎、さん?」
キョトリとして、百合子がかけられたブランケットの合わせ目をぎゅっと握った。
「...ち、違うんだ。そういうことがしたいんじゃなくて。......いや、したいのはしたいんだが。.....あれはただの言葉のあやというか。...ただ、君の気持ちを確認するための言葉だったというか」
「.........」
「...だから、その....」
黎は一拍置いて、大きく深呼吸すると、真っ直ぐに百合子を見据えて言った。
「城田 百合子さん。どうか...俺の『花嫁』になってくれませんか?」
「....はな、よめ」
コクリと黎が頷いて、百合子は何やら思案顔になる。
「あ....そっか。耳と尻尾...黎さんは獣人さんで....じゃあ、私は...」
そこでやっと状況が理解できて....百合子はふわりと笑って答えた。
「....はい、よろしくお願いします」
ブワッと全身の毛が逆立つ、あの感覚。
黎の尻尾はものすごい勢いで振れ始めた。
背中に見え隠れする振り子みたいに揺れる尻尾を見て、百合子が「ふふっ」と笑う。
黎も眉を下げて照れ笑いする。
「....抱きしめてもいい?」
百合子は恥ずかしそうに、頬を染めてゆっくり頷いた。
ぎゅう。
途端、ふわっと香る愛しい人のにおい。
触れる感触はふにふにと柔らかで、温かくてーー。
たった今、両思いになって。
たった今、結婚の約束までした女性ーー。
「...........」
ちらりと黎の視線が百合子の首元を滑る。
ゴクリ。
喉が鳴った。
先ほどの勘違いで、百合子のシャツははだけて白い肌がいつもよりも広く晒されている。
覆ったブランケットの隙間からは、女性らしいラインが見え隠れしていた。
(だ、ダメだ。初めてはロマンチックに...思い出に残るようにしてあげたい。彼女を大切に...大切にするんだ。でも....)
「....国にすぐ連絡する。次のアシスタントは不要だと。....でもその前にーー」
「........?」
黎はたっぷり間を置いてから、百合子の柔らかな唇をそっと撫でた。
「触れたい....」
熱っぽくそう言われて、百合子はピクリと肩を跳ねさせる。黎は返事も聞かず近寄ってきて。
視界いっぱいに黎の顔が広がった瞬間、唇が重なったーー。
「........っ」
何度も何度も、優しく角度を変えて落ちてくる。
ふいにキスが止んだ時、百合子の愛らしい唇はポソリと名を呼んだ。艶めかしい吐息とともに。
「......黎」
思いがけず呼び捨てにされ、黎のスイッチが切り替わる。
再び始まったキスは、獰猛さを増してどんどん深くなり。やがて百合子の息は上がって、目はトロンと蕩けた。
「....言葉のあや、だったんじゃ」
「....君が悪い」
「..........」
「はぁ....早く」
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「....結婚したら覚悟して。生涯ずっと....俺の全部は君のものだ.....」
黎の妖しい笑顔は、とても綺麗だったーー。
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