【13章まで完結】25人の花嫁候補から、獣人の愛され花嫁に選ばれました。

こころ ゆい

文字の大きさ
39 / 59
美しき雪豹は凍える少女を包み込みたい

6 〔完〕

しおりを挟む
*****

「...はぁ。寒い」

 吐いた息は、一瞬で冷えた空気にのみこまれる。
 桃は、何度も手に吹きかけた。

 図書館からの帰り道、公園に立ち寄った。

 そこは時折、雪と一緒に来ていた場所で...ふと思い出して来てみたのだ。

 一人、冷たいベンチに腰掛けて見る藍色の空は、何だかもの悲しくて....ツキンと小さく胸が痛んだ。
 誤魔化すように口を開いて....桃は名を呼んだ。

 ーー雪さん。

「...なに?」

 ふわりと背後から何かに包み込まれて、桃はわけもわからずかたまった。
 ゆるゆると目を見開いて、少しだけ振り返り見えたのは....会いたくてたまらなかった、雪の姿。

(....夢?)

 桃は信じられない心地だった。

「桃ちゃん....危ないだろう?こんな時間に人気のない公園なんかに居たら」
「あ.....」

 ぎゅうと力を込めて抱きしめられて。
 桃はされるがまま...雪の腕に手を添えた。

 その手まで、パシッと掴まれ、雪の大きな手に包まれれば。桃はこれが現実であるとじわじわ理解する。

「...どうして?」
「それより」

 ギラと強い光を宿して至近距離で見つめられ、桃はピタリと動きを止める。

 雪は腕を解いて、トスンと桃のすぐ隣に座った。

「...東堂 元に告白された?」
「あ....」

 どうして知っているのだろうと、気まずく視線を逸らす。じっと見つめたまま、雪はおもむろに言った。

「....ダメだよ」
「え?」

 ーーよそ見なんて許さない。僕のことだけ見てて。

「....ゆ、きさん?」

 雪が、再び...今度はそっと...桃の冷えきった手を握る。
 その間も、視線はじっと桃を貫いていて。
 桃はその妖しい美しさに囚われて、動けない。

 いつも優しく、穏やかで。
 静かな海みたいな。しんしんと降る雪みたいな。
 桃の知る雪は、そんな人物だったのに。

 今はまるで...獲物を狙う獣のようだ。

 トクントクンと胸が騒いだ。

 と、雪の綺麗な唇がゆっくり動いて...言葉を紡いでいく。

「....桃ちゃん」
「.....はい」

 ーー18歳の誕生日、おめでとう。

「........っ」

 思わず口元を押さえた桃に、さらに言葉を続けた。

「...やっと、言える」
「....え?」

 ーー僕に、君を一生守らせてほしい。

 ーー僕の『花嫁』になって下さい。

「.......っ」

 ぎゅぅと、目を瞑って涙を堪える桃を、雪は大きな身体で抱きしめる。

「....返事は?」

 耳元で問われて、カァと赤くなりながら。
 桃はコクリとひとつ頷いた。

「....いい?」

「はい...よろしくお願いします」

 ぐすっと鼻を鳴らしながら、震える声で伝えれば、雪は満面の笑みを浮かべる。

 再び抱きしめられて。さっきまで凍えていた体も心も、ぽかぽか温かくなっていた。

「...残念だな」
「.......へ?」

 ちゅっ。

 突然、額に落ちてきた口付け。
 桃は、しっとり濡れた感触を肌で感じた。

「...本当の誕生日は、明日だろう?...あと数時間だけど」

 ーー今日は...我慢しなきゃね。

「....っ、うん」
「はは、真っ赤だ。可愛い」

 ぷしゅうと湯気が上がりそうなほど、顔を赤くして。桃は額を押さえていた。

 嬉しそうな雪に、つんつんとほっぺをつつかれる。

「....桃ちゃん。...大好きだよ」

 そう言って雪は、桃を抱き寄せる。
 手の甲や額、耳、頬。色々なところに、軽くリップ音を響かせて。キスの雨が降ってきた。

「...ふふ、くすぐったい、雪さん」
「ん。ごめん...可愛すぎて」
「...もう。...あれ?そういえば、どうして元ちゃんに告白されたこと知ってたの?」
「...それ。繋がったままだったよ」
「.....?....っ、え、うそ!」

 携帯電話の電源ボタンはまだ押されていなくて。電話はずっと繋がっていた。

 気づいた桃は慌てたけれど、雪はくすくす楽しそうで。

「昔、言った言葉みたいで。僕は嬉しかったよ?」
「....“ずっと繋がっていられる“?」
「覚えてたんだ」
「うん、だって...嬉しかったもん」

 二人視線を交わして、微笑み合う。

 空を見上げれば、いつの間にか、藍色から夜の色へと変化していて。

 公園の中にも、ベンチから見える景色にも。
 人の影は見当たらなくて。
 世界に二人だけしか存在しないような...
 そんな気持ちになった。

「ねぇ....花嫁って」
「うん?」
「雪さん...もしかして、獣人さんだったの?」
「....ああ。意味が伝わってて良かった。...あとね、僕、君に言っておかないといけないんだ」
「........?」
「...誰も居ないから。少しだけ、目瞑っててくれる?」
「はい...」

 そう言って立ち上がった雪は、桃が目を瞑ったのを確認すると....その姿を一変させた。

「...いいよ」

 桃は目をゆっくりと開け、目の前の光景に息をのんだ。

「...雪、さん?」
「...そう。僕だよ」

 そこには、夜の闇にも負けない白銀色の毛皮に覆われた大きな獣。月の光を受けて、幻想的に輝いていた。
 まるで、自分が物語の中に入り込んだ錯覚に陥る。

 ーーすごく...綺麗。

 桃はうっとりと見惚れてしまった。

「....僕、獣化できるんだ」
「....けもの、か?」
「うん。...獣人には、時々居るんだよ。僕みたいな特異体質の者が」
「........」
「もちろん。今はコントロールできるし、生活で困ることはない。....嫌、になった?」
「...ううん!そんなこと、絶対ない!」

 桃は、ぶんぶん首を振って。そっと雪に近づいた。

「...触ってもいい?」
「うん...」

 それは、ふわふわもこもこしていて。しっとり柔らかい。

「うわぁ....っ、すっごい気持ちいいね」
「....そうかな」
「うん!ずっと触れてたいくらい」

 桃は嬉しそうに笑った。

「...良かった。僕ね、家族は持てないと思ってたんだ」
「..........」
「でも、『花嫁』と...桃ちゃんと出会えて。僕は本当に幸せだ」
「私も....」

 桃はふわふわの毛皮に抱きついて頬ずりした。
 雪はペロリと桃のほっぺを舐めて、そしてまた人の姿へと戻っていく。


「あ....桃ちゃん」
「ん~?」

 ご機嫌の桃が見上げれば、そこにはギラギラ光る雪の瞳。

「...東堂 元には、僕が断りを入れておくから」

 ーーいいよね?

「....っ、は、はい」


 二人の恋は、今始まったばかりだーー。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚活に疲れたアラサーOLの私、癒やし的存在の弟分(高校生)に「もう待てない」と外堀を埋められています ~10年分の執着は、甘すぎて重すぎる~

ダルい
恋愛
「29歳? 子供産むならもっと若い子がよかったな」  中堅企業で働く早川結衣(29)は、婚活市場における年齢の壁と、デリカシーのない男たちにすり減らされる日々を送っていた。  そんな結衣の唯一の癒やしは、マンションの隣に住む幼馴染の高校生・瀬戸湊(16)。  両親が共働きの彼に代わって、幼い頃はお世話をしてあげていた……はずが、いつの間にか立場は逆転。 手料理を振る舞われ、愚痴を聞かれ、マッサージまでされる始末。「湊がお嫁さんならいいのに」なんて冗談を言っていたけれど。 「今の結衣姉が一番綺麗だよ。……早く、誰も手出しできない『おばさん』になってくれればいいのに」  可愛い弟分だと思っていた彼が、時折見せる『オス』の顔。 16歳の高校生と、もうすぐ30歳のアラサー。  13歳差の常識と理性に抗いながら、生意気な年下男子に外堀を埋められていく、甘くて重い現状維持(ラブストーリー)。 「俺が大人になるまで、誰とも結婚しないで」 癒やされたいすべての女性に贈る、最強の年下幼馴染による溺愛包囲網、開始。

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。

汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。 元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。 与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。 本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。 人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。 そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。 「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」 戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。 誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。 やわらかな人肌と、眠れない心。 静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。 [こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

あなたのためなら

天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。 その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。 アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。 しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。 理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。 全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

処理中です...