悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~

みやもと春九堂@月館望男

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【第10部】東の島国・トヨノクニ開国(物理)編 ~悪役令嬢、黒船になる。鎖国? ならば「開国(物理)」して、美味しいお米と温泉をいただきます

第096話 死の商人ピエロ:救済を騙る道化師へ。「死ぬのが幸せ」なんて、土下座しても認めません

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 アリスが西で新たな「信仰推し活」を集め始めた頃。
 オワリの北、国境地帯で、異様な集団が確認されたとの報告が入った。

「……死を恐れぬ暴徒、ですか」

 急造の作戦室で、わたし、レヴィーネは眉をひそめた。
 報告によれば、隣国から侵入してきたその集団は、武器を持たず、ただ経文や聖歌を唱えながら行進してくるという。
 そして、制止しようとする兵士に抱きつき――自爆する。

「『虚無宗』と『救済教』……。最近、飢えた農村を中心に急速に広まっちゅうカルト教団じゃ」
 リョウマが渋い顔で報告書を叩く。

「奴らの教義はシンプルじゃ。『現世は地獄。死こそが解脱であり、滅びを受け入れることが救いである』とな。……腹を空かせた民に、毒入りの飴玉をしゃぶらせるようなもんじゃき」

「最低ね」

 わたしは吐き捨てた。
 生きるための努力を放棄させ、死を美化する。それは、わたしが最も嫌悪する「敗北主義」だ。

 わたしはノブナガと共に、現場へと急行した。
 そこには、数百人のボロボロの服を着た信者たちが、虚ろな目でこちらに向かって歩いてきていた。彼らの胸には、赤黒く明滅する魔石が埋め込まれている。

「止まれ! それ以上進めば撃つぞ!」

 オワリの兵士たちが警告するが、彼らは止まらない。それどころか、恍惚とした表情で叫ぶ。

「撃て! 我らを殺せ! それが救いだ!」
「肉体の檻から解放されよ! 滅びこそ祝福なり!」

 話が通じない。
 そして、その集団の後ろ、安全な高台から、一人の男が楽しげに手拍子を打っていた。

 白塗りの顔に、裂けたような赤い口紅。派手な道化師の衣装。
 手には指揮棒を持ち、信者たちの死の行進を「指揮」している。

「あーっはっはっは! 素晴らしい! なんて美しい『自己犠牲』! なんて感動的な『フィナーレ』でしょう!」

 男の声は、魔法で拡声され、戦場に響き渡る。

「はじめまして、愛しき演者たち! 私は『扇動者アジテーター』のピエロ。……偉大なる『脚本家スペクテイター』様が描く悲劇の、忠実なる演出家ですよぉ!」

 ピエロ。そして「脚本家スペクテイター」。
 その名を聞いた瞬間、わたしの背筋に冷たいものが走った。

「……レヴィちゃん、気をつけて」

 隣にいたアリスが、青ざめた顔で杖を握りしめながら呟いた。

「こいつらの背後にいる気配……ラノリアの『管理者運営』と似てるけど、決定的に違う。あっちが決められた動きしかしない『プログラム』だとしたら、こっちは……もっと粘着質で、悪意を持って物語をいじくり回す『プレイヤー』の匂いがする」

「プレイヤー?」

「うん。自分だけ安全圏にいて、人が死ぬのをポテチ食べながら楽しんでるような……そんな最悪の気配だよ」

 ラノリアで「運営」に取り込まれていたアリスだからこそわかる直感。それは、この敵がこれまでとは違う「意思を持った巨悪」であることを示していた。

「レヴィーネ・ヴィータヴェン! 貴女の『ハッピーエンド』は退屈なんですよ! 汗臭くて、泥臭くて、見ていられない!」

 ピエロは指揮棒を振りかざした。

「物語には『悲劇』が必要だ! 絶望こそが美しい! さあ信者たちよ、彼らに『死』というプレゼントを届けなさい! ……自爆クライマックスの時間だァッ!!」

 信者たちの胸の魔石が赤く輝き始める。
 数百人が同時に自爆すれば、この一帯は消滅する。

 ノブナガが刀に手をかける。

「……斬るしかあるまい」
「待ちなさい、ノブナガ」

 わたしは彼を制し、一歩前に出た。
 鉄扇を開く。

「斬れば奴らの思う壺よ。『殉教者』を作って、さらに火に油を注ぐことになる」

「ではどうする!?」

「……簡単なことよ」

 わたしはニヤリと笑い、影から『漆黒の玉座』を取り出した。
 ただし、今回は武器としてではない。

「死ぬのが幸せ? 痛くない? ……そんな寝言、言わせないわ」

 わたしは黒鉄隊に号令した。

「総員、武装解除! 『農具』を構えなさい!」
「へ?」
「これからやるのは戦争じゃないわ。……『強制給食』よ!」

 わたしはピエロを指差し、宣言した。

「あのふざけた道化師に見せつけてやるのよ。……死ぬことよりも、生きることの方が、一億倍『重くて』『痛くて』『美味い』ってことをね!」

 対テロ・プロレスのゴングが、今鳴らされる。
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