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【第10部】東の島国・トヨノクニ開国(物理)編 ~悪役令嬢、黒船になる。鎖国? ならば「開国(物理)」して、美味しいお米と温泉をいただきます
第100話 【祝100話】エドへの進撃:施しではありません、投資(借金)です。街道を埋め尽くす「悪魔と仏」のブロマイド
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関ヶ原での「大運動会」を制し、雪だるま式に膨れ上がったレヴィーネ・ノブナガ連合軍は、東海道を怒涛の勢いで進撃していた。
沿道の村々や宿場町は、幕府の圧政により疲弊しきっていたが、わたしたちの到着と共にその色は一変した。
「腹が減っているようね。……ミリア、炊き出しを」
「はいッ! 特大おにぎり、配給開始です!」
飢えた民衆におにぎりが配られる。彼らは涙を流して感謝し、「ありがたや、仏様じゃ……」と拝んでくる。
だが、わたしは鉄扇でピシャリと彼らの頭を叩いた。
「勘違いしないでちょうだい。これは『施し』じゃないわ」
わたしはミリアに用意させた和紙の束を取り出し、突きつけた。
「これは『投資』よ。……食べた分は働いて返しなさい。この国の復興後、あなたたちが作る米、野菜、そして労働力……その売り上げの2割を、今後十年に渡って『V&C商会』に納めること。……覚悟はいい?」
悪徳高利貸しのような条件。
普通なら拒絶されるはずだが、民衆たちの反応は予想外だった。
「は、はいぃぃッ!! 一生ついていきます姐さん!!」
「2割でいいんですか!? 幕府には8割持っていかれてました!」
「契約させてください! むしろ俺を家臣にしてください!」
……チョロいわね。
まあ、それだけ彼らが追い詰められていたということか。
こうしてわたしは、救済者の仮面を被った「経済的支配者」として、街道沿いの経済圏を次々と掌握していった。
さらに、リョウマの仕掛けた情報戦も効果を発揮していた。
「見てみぃ、これが今度エドに乗り込む『黒船の鬼神』と『おにぎりの女神』の御姿じゃ!」
リョウマ配下の飛脚たちが、街中に大量の「浮世絵」をばら撒いている。
そこには、鬼のような形相で悪代官を踏みつけるわたしと、後光を背負って巨大なおにぎりを掲げるアリスの姿が、極彩色で描かれていた。
「おおっ、魔除けになりそうだ!」
「これを貼っておけば飯に困らねえって噂だぞ!」
民衆たちは争うように浮世絵を求め、家の門や神棚に貼り付けている。
将軍家の高札は剥がされ、代わりにわたしのドヤ顔が街を埋め尽くす。
恐怖と感謝が入り混じった「信仰」が、エドへ向かう道を切り開いていく。
しかし、順調な進軍も、ハコネの山越えで一時停止を余儀なくされた。
「姐さん! 前方に高魔力反応! ……『全自動カノン砲』の陣地です!」
斥候のカエデが叫ぶ。
箱根の険しい山肌に、無数の砲門が並び、こちらに照準を合わせている。
あれはラノリアの技術を悪用した自律兵器だ。近づけばハチの巣にされる。
「チッ、小賢しい真似を……!」
ノブナガが舌打ちをする。
「黒鉄隊を突撃させるか?」
「いいえ、足が止まるわ」
わたしは首を横に振り、懐から魔導通信機を取り出した。
「リョウマ。……『掃除』の時間よ」
「待っちょったぜよ! ばっちり射程圏内じゃ!」
通信機の向こうで、リョウマの弾んだ声が聞こえる。
海上のヴィータヴェン号では、船首にあるクラーケンの口が大きく開かれ、ダンジョンの魔導炉から直結されたエネルギーが充填されていた。
『ヴィータヴェン号、主砲発射用意! ――喰らいな、海の怪物の味を! 『Ωクラーケン砲』、てぇぇぇぇッ!!!』
ズギャァァァァァァァンッ!!!!
海の方角から、極太の「水流と魔力の奔流」が放たれた。
それは山脈を越え、正確無比に敵のカノン砲陣地へと着弾する。
ドゴゴゴゴゴォォォォッ!!!
爆発ではなく、消滅。
高圧の水流と魔力によって、カノン砲も、陣地も、設置されていた岩盤ごと跡形もなく削り取られた。
残ったのは、綺麗に整地された更地だけ。
「……ひゅぅ。イカれた威力ね」
わたしは口笛を吹き、呆然とするノブナガたちに合図した。
「道は開いたわ。……全軍、進めェッ!!」
一方その頃――ハコネの手前でわたしたちは軍を二つに分けていた。ひたすら東海道を進むレヴィーネ・ノブナガ連合。そして、アリスとミリア、カエデからなる別動隊は、霊峰フガクへと向かっていた。
目的は、将軍家(および脚本家)がこの国全土に張り巡らせた「呪いの結界」を解除し、敵をエド城に孤立させること。
これまで中部から西日本の龍脈上にある神社仏閣を巡ってきた『小さなお祭り』、その総仕上げだ。
そのためには、この国の地脈の頂点であるフガクで、大規模な浄化儀式を行う必要があるのだ。
――ここからは、アリス視点で語られる、もう一つの戦いの記録である。
◆◆◆
「ううぅ……寒いよぉ、高いよぉ……」
霊峰フガクの五合目。
わたし、アリスは杖を杖代わりに(ややこしい)つきながら、急な山道を登っていた。
息が切れる。空気が薄い。
でも、弱音を吐いている場合じゃない。レヴィちゃんが最前線で戦っているんだもの。相棒の私が、ここで踏ん張らなきゃ女が廃る!
「アリス様、もう少しです! ……頂上の祭壇が見えてきました!」
先導するカエデちゃんが、忍びの健脚で軽々と岩場を飛び越えていく。
「アリスさん! 栄養補給です! 特製ドリンクをどうぞ!」
ミリアちゃんが、自分の体より大きなリュックを背負っているのに、平然とした顔で水筒を差し出してくる。
「ありがとう……! 生き返るぅ……」
甘い蜜の味。疲れが吹き飛ぶ。
私たちはついに、雲海を見下ろす頂上へとたどり着いた。
そこには、古びた石の祭壇があった。かつてはこの国を守護する神々が祀られていた場所。
けれど今は、どす黒いヘドロのような瘴気に覆われ、石像はひび割れている。
「……ひどい」
私は胸が痛んだ。
耳を澄ますと、聞こえてくるのは風の音だけじゃない。
『腹減った……』『力が出ない……』『もう無理……』
そんな、弱々しい神様たちの嘆きの声が、大地から響いてくる。
将軍家の持つ妖刀『魂喰』は、人だけでなく、土地神様たちのエネルギーまで吸い上げていたんだ。
神様たちが弱っているから、大地は枯れ、作物が育たない。負の連鎖だ。
「……許せない」
私は『星光の聖杖』を強く握りしめた。
レヴィちゃんが怒るのも無理はない。みんながお腹いっぱい食べられないなんて、そんな悲しい世界、私も大っ嫌いだ!
「ミリアちゃん! 準備をお願い!」
「はいッ! 『タカニシキ』の米粉と、オワリの赤味噌で作った特製饅頭、展開します!」
ミリアちゃんがリュックを開けると、そこから湯気を立てるセイロが現れた。
蓋を開けると、ふっくらとした茶色いお饅頭がぎっしり。
甘じょっぱい味噌の香りが、頂上の冷たい空気に広がる。
「神様たちー! ご飯の時間だよー!!」
私は杖をマイクのように構え、空に向かって叫んだ。
詠唱? 祝詞? アイドルライブ?
今はそんなのはナシ! レヴィちゃん流に行くよ!
「元気がないなら、美味しいものを食べよう! 悲しいなら、甘いものを食べよう! 私たちが作った、最高のお供え物だよ!」
『星光の聖杖』で霊峰フガクのマナを、そして瘴気すらも吸収してエネルギーに変換していく。
杖から腕へ、腕から身体へ、そしてわたしの「根源」にある「光」へと繋ぎ、また杖へと回し、杖の先端から、光の魔力を放出させる。
それは攻撃魔法じゃない。
お饅頭の匂いと、私たちの「食べて元気になってほしい」という祈りを乗せた、暖かな波動。
『……いい匂いじゃ』
『これは……味噌か?』
『懐かしい……人の祈りの味がする……』
瘴気の奥から、小さな光の玉がいくつも現れた。
土地神様たちだ。彼らはフラフラと引き寄せられ、祭壇に置かれた饅頭に吸い付いていく。
「おかわりもたくさんありますよ! 沢山食べてくださいね!」
ミリアちゃんが神様(光の玉)にお饅頭を食べさせてあげている。
パクパク、モグモグ。
神様たちが食べるたびに、その光が強くなっていく。
くすんでいた色が、鮮やかな金色や緑色に戻っていく。
『うまい……!』
『力が……湧いてくるぞ!』
『なんという生命力じゃ! この米、タダモノではない!』
神様たちが復活していく。
タカニシキに込められた、レヴィちゃんの不屈の魂と、ミリアちゃんの執念が、神様たちの胃袋(?)を満たしたんだ!
「さあ、お腹がいっぱいになったら、お仕事の時間だよ!」
私は杖を高々と掲げた。
今こそ、あの大技を使う時。
「西日本の神様、全員集合! ……みんなの元気を、私に貸して!
――超広域・浄化儀式!! 『国土豊穣大結界』ッッ!!」
カッッッ!!!!
フガクの頂上から、太陽よりも眩しい光の柱が天を貫いた。
その光は成層圏で弾け、巨大なドームとなって日本列島の西側半分を覆い尽くす。
光の雨が降り注ぐ。
龍脈に力が戻り、枯れた大地に緑が蘇り、濁った水が清流に変わり、人々の心にかかっていた「諦め」という名の靄が晴れていく。
そして。
行き場を失った黒い瘴気は、東へと押しやられ――すべて、エド城の一点へと集束していく。
「やった……! これで、将軍は丸裸だよ!」
私はへなへなと座り込んだ。魔力切れだ。
でも、心地よい疲れ。
「あとは頼んだよ、レヴィちゃん。……黒幕の横っ面に、特大の一発をお見舞いしてやって!」
東の空、黒い雲が渦巻く彼方へ、私は祈りを込めてエールを送った。
◆◆◆ 幕間:脚本家の絶望 ~管理者権限が応答しない~
関ヶ原を突破され、レヴィーネ・ノブナガ連合軍が東海道を爆走してくる。
その勢いは止まらない。
海からは謎の黒船が艦砲射撃を行い、陸からは黒鉄隊が道を切り開き、空には花火が上がっている。
「ええい、認めん! こんな『喜劇』は認めんぞ!」
脚本家は玉座から立ち上がり、妖刀を振りかざした。
彼はこの世界における「演出家」だ。災害を起こし、進軍を阻むことなど造作もないはずだった。
「強制イベント発動! 『東海道・大地震』ッ!!」
……シーン。
何も起きない。鳥が鳴く声だけが聞こえる。
「……あ、あれ? おかしいな」
彼は冷や汗を流しながら、再度叫んだ。
「ど、土砂崩れだ!! 箱根の山よ、崩れ落ちて彼らを埋め尽くせ!!」
……シーン。
山は微動だにしない。むしろ、アリスによって浄化された土地神たちが「ようこそおいでなさいました」と道を整えている気配さえある。
「や、山火事!! 洪水!! 隕石!! ……な、なぜだ!? なぜ発動しない!?」
彼は妖刀を見つめた。刀身の輝きが消えかかっている。
モニターの隅に、警告文が表示されているのが見えた。
『ERROR:アクセス権限がありません。現在の管理者=【光と闇のタッグチーム】』
「りゅ、龍脈を……あいつらに抑えられているだとぉぉぉッ!?」
脚本家は膝から崩れ落ちた。
「私の……私の世界が……! 物理と筋肉と食欲に乗っ取られていくぅぅぅッ!!」
そして、遠くからドゴォォォン!! と城門が物理的に粉砕される音が響いた。
主役(悪役)の到着である。
◆◆◆
ついに、わたしたちは最終決戦の地、エド城の目前に到着した。
城はどす黒い瘴気の結界に覆われ、門は堅く閉ざされている。城壁の上には、妖刀の力によって怪物化した幕府兵がびっしりと並び、こちらを睨みつけている。
「……堅いわね。まともに攻めれば時間がかかるわ」
わたしが呟くと、ミリアが眼鏡を光らせて前に出た。
「レヴィーネ様。……敵の士気を挫き、こちらの腹を満たすための『前線基地』が必要です」
「あら、いい案があるの?」
「はい! ……黒鉄隊、工兵部隊! 出番ですよッ!」
夜闇に紛れ、ミリアの指揮の下、黒鉄隊が動き出した。
彼らが担いでいるのは、解体された家屋の廃材や、即席の建材。
魔導外骨格のパワーと、これまでの経験で培った超高速建築スキルが唸りを上げる。
カンカンカンッ! ガガガガッ!
そして、夜が明けた時。
エド城の守兵たちは、我が目を疑った。
「な、なんだあれはァァッ!?」
一夜にして、エド城の目の前に、城壁よりも高い巨大な「櫓」が出現していたのだ。
いや、ただの櫓ではない。
そこからは、食欲を刺激する強烈な「匂い」と、大量の湯気が立ち上っている。
名付けて、「キッチンフォートレス」。
その最上階ステージに、わたしとノブナガ、霊峰フガクから合流したアリスが立った。
「さあ、仕上げよアリス! アンタの歌と踊りで、この陰気な城を『お祭り会場』に変えてやりなさい!」
「う、うん……! でも……」
アリスがモジモジと震えている。
「道中の巡礼は『握手会』と『おにぎり配り』と『アニソン神楽』で誤魔化せたけど、こんな大舞台で本格的なライブなんて……! 私、あくまで『推す側』だったから、持ち歌なんてそんなにないんだよぉ……」
彼女は巫女服から、煌びやかな衣装に着替えようとしていたが、手が止まっていた。
「正直、ここまでのツアーで歌ってた『いつものアニソン』じゃ、この場の空気には合わないし……! 相手は将軍だし、もっとこう、この国の人たちの魂に響くような、ド派手な『和風な曲』じゃないと……!」
「ええい、なんでもいいから景気のいいやつをやりなさい! この国の神様が喜びそうなやつを!」
わたしが急かすと、アリスは頭を抱え、必死に記憶の底を探った。
みんなが知っていて、盛り上がって、この「和風な世界観」にマッチする、最強のエンターテインメント……。
その時。
悩むアリスの脳裏に、前世のテレビで見た、ある強烈な「将軍」の姿がフラッシュバックした。
白馬にまたがり悪を成敗する、暴れん坊な上様。
……が、なぜか金色の着物を着て、南国のリズムで踊り狂う姿。
『カァーーッ! カァーーッ! カァーーッ!』
脳内で弾ける、小気味よい打楽器音。
時代劇とサンバの融合。厳格さと陽気さの奇跡のマリアージュ。
(……これだ! これこそが、日本の……ううん、トヨノクニの夜明けにふさわしい『神楽』だよ!)
「……降りてきた! 降りてきたよレヴィちゃん!!」
アリスが顔を上げ、覚醒した。
彼女はバッと衣装を脱ぎ捨て(早着替え)、まばゆいばかりの金色の着流しと、頭にはチョンマゲ風のヘッドドレスを装着した。
「ミュージック、スタートッ!!」
ズンドコズンドコ、ピーヒャララ!!
アリスの光魔法が、空中に巨大な「金色の太陽(ミラーボール)」を作り出し、回転を始める。
軽快なラテンのリズムと、和太鼓の重低音が混ざり合った、摩訶不思議なイントロが戦場に響き渡る。
「♪五~穀~豊穣~! 天~下~泰平~! 踊れ東のカルナバル~!!」
アリスが、金色の着物を翻し、ステップを踏む。
そのバックダンサーとして、ミリアと黒鉄隊の精鋭たちが「腰元ダンサーズ」として乱入する。
「オレ! オレ! 金色サンバ~!!」
まばゆい光と、陽気すぎるリズム。
そして何より、「五穀豊穣」「天下泰平」という、民が最も求めている願いを乗せた歌詞。
エド城を包んでいた重苦しい空気が、物理的な音圧と光量によって吹き飛んでいく。
「な、なんだこれは!? 体が勝手に……踊りだす!?」
「ありがてぇ……なんだか知らんが、後光が差して見えるぞ!?」
城壁の守兵たちが、武器を捨てて手拍子を打ち始める。
瘴気が晴れ、洗脳が解けていく。これぞ最強の浄化魔法『お祭り騒ぎ』だ。
「今じゃ! 畳み掛けるぞ!!」
ノブナガが叫び、自らのコレクションである「天下五剣」を、ステージの四隅と中央に突き立てた。
「神剣よ! 人々の熱狂を吸い上げ、魔を祓う刃となれ!! ――『天下布武・敦盛乱舞』ッッ!!」
刀が共鳴し、アリスのサンバの熱気を「浄化の波動」へと変換してエド城に叩きつける。
結界がガラスのように砕け散った。
「道は開いたわ!! 来なさい、相棒!!!」
ズヌゥッ……!!!
わたしは「漆黒の玉座」を呼び出すと最上段に構え、城門へと跳躍した。
「へし――折れろッ!!!!!」
「オレ!」の掛け声とリズムに乗せて、最強の一撃が城門を粉砕する。
祭りの熱狂と共に、わたしたちはエド城へと雪崩れ込んだ。
沿道の村々や宿場町は、幕府の圧政により疲弊しきっていたが、わたしたちの到着と共にその色は一変した。
「腹が減っているようね。……ミリア、炊き出しを」
「はいッ! 特大おにぎり、配給開始です!」
飢えた民衆におにぎりが配られる。彼らは涙を流して感謝し、「ありがたや、仏様じゃ……」と拝んでくる。
だが、わたしは鉄扇でピシャリと彼らの頭を叩いた。
「勘違いしないでちょうだい。これは『施し』じゃないわ」
わたしはミリアに用意させた和紙の束を取り出し、突きつけた。
「これは『投資』よ。……食べた分は働いて返しなさい。この国の復興後、あなたたちが作る米、野菜、そして労働力……その売り上げの2割を、今後十年に渡って『V&C商会』に納めること。……覚悟はいい?」
悪徳高利貸しのような条件。
普通なら拒絶されるはずだが、民衆たちの反応は予想外だった。
「は、はいぃぃッ!! 一生ついていきます姐さん!!」
「2割でいいんですか!? 幕府には8割持っていかれてました!」
「契約させてください! むしろ俺を家臣にしてください!」
……チョロいわね。
まあ、それだけ彼らが追い詰められていたということか。
こうしてわたしは、救済者の仮面を被った「経済的支配者」として、街道沿いの経済圏を次々と掌握していった。
さらに、リョウマの仕掛けた情報戦も効果を発揮していた。
「見てみぃ、これが今度エドに乗り込む『黒船の鬼神』と『おにぎりの女神』の御姿じゃ!」
リョウマ配下の飛脚たちが、街中に大量の「浮世絵」をばら撒いている。
そこには、鬼のような形相で悪代官を踏みつけるわたしと、後光を背負って巨大なおにぎりを掲げるアリスの姿が、極彩色で描かれていた。
「おおっ、魔除けになりそうだ!」
「これを貼っておけば飯に困らねえって噂だぞ!」
民衆たちは争うように浮世絵を求め、家の門や神棚に貼り付けている。
将軍家の高札は剥がされ、代わりにわたしのドヤ顔が街を埋め尽くす。
恐怖と感謝が入り混じった「信仰」が、エドへ向かう道を切り開いていく。
しかし、順調な進軍も、ハコネの山越えで一時停止を余儀なくされた。
「姐さん! 前方に高魔力反応! ……『全自動カノン砲』の陣地です!」
斥候のカエデが叫ぶ。
箱根の険しい山肌に、無数の砲門が並び、こちらに照準を合わせている。
あれはラノリアの技術を悪用した自律兵器だ。近づけばハチの巣にされる。
「チッ、小賢しい真似を……!」
ノブナガが舌打ちをする。
「黒鉄隊を突撃させるか?」
「いいえ、足が止まるわ」
わたしは首を横に振り、懐から魔導通信機を取り出した。
「リョウマ。……『掃除』の時間よ」
「待っちょったぜよ! ばっちり射程圏内じゃ!」
通信機の向こうで、リョウマの弾んだ声が聞こえる。
海上のヴィータヴェン号では、船首にあるクラーケンの口が大きく開かれ、ダンジョンの魔導炉から直結されたエネルギーが充填されていた。
『ヴィータヴェン号、主砲発射用意! ――喰らいな、海の怪物の味を! 『Ωクラーケン砲』、てぇぇぇぇッ!!!』
ズギャァァァァァァァンッ!!!!
海の方角から、極太の「水流と魔力の奔流」が放たれた。
それは山脈を越え、正確無比に敵のカノン砲陣地へと着弾する。
ドゴゴゴゴゴォォォォッ!!!
爆発ではなく、消滅。
高圧の水流と魔力によって、カノン砲も、陣地も、設置されていた岩盤ごと跡形もなく削り取られた。
残ったのは、綺麗に整地された更地だけ。
「……ひゅぅ。イカれた威力ね」
わたしは口笛を吹き、呆然とするノブナガたちに合図した。
「道は開いたわ。……全軍、進めェッ!!」
一方その頃――ハコネの手前でわたしたちは軍を二つに分けていた。ひたすら東海道を進むレヴィーネ・ノブナガ連合。そして、アリスとミリア、カエデからなる別動隊は、霊峰フガクへと向かっていた。
目的は、将軍家(および脚本家)がこの国全土に張り巡らせた「呪いの結界」を解除し、敵をエド城に孤立させること。
これまで中部から西日本の龍脈上にある神社仏閣を巡ってきた『小さなお祭り』、その総仕上げだ。
そのためには、この国の地脈の頂点であるフガクで、大規模な浄化儀式を行う必要があるのだ。
――ここからは、アリス視点で語られる、もう一つの戦いの記録である。
◆◆◆
「ううぅ……寒いよぉ、高いよぉ……」
霊峰フガクの五合目。
わたし、アリスは杖を杖代わりに(ややこしい)つきながら、急な山道を登っていた。
息が切れる。空気が薄い。
でも、弱音を吐いている場合じゃない。レヴィちゃんが最前線で戦っているんだもの。相棒の私が、ここで踏ん張らなきゃ女が廃る!
「アリス様、もう少しです! ……頂上の祭壇が見えてきました!」
先導するカエデちゃんが、忍びの健脚で軽々と岩場を飛び越えていく。
「アリスさん! 栄養補給です! 特製ドリンクをどうぞ!」
ミリアちゃんが、自分の体より大きなリュックを背負っているのに、平然とした顔で水筒を差し出してくる。
「ありがとう……! 生き返るぅ……」
甘い蜜の味。疲れが吹き飛ぶ。
私たちはついに、雲海を見下ろす頂上へとたどり着いた。
そこには、古びた石の祭壇があった。かつてはこの国を守護する神々が祀られていた場所。
けれど今は、どす黒いヘドロのような瘴気に覆われ、石像はひび割れている。
「……ひどい」
私は胸が痛んだ。
耳を澄ますと、聞こえてくるのは風の音だけじゃない。
『腹減った……』『力が出ない……』『もう無理……』
そんな、弱々しい神様たちの嘆きの声が、大地から響いてくる。
将軍家の持つ妖刀『魂喰』は、人だけでなく、土地神様たちのエネルギーまで吸い上げていたんだ。
神様たちが弱っているから、大地は枯れ、作物が育たない。負の連鎖だ。
「……許せない」
私は『星光の聖杖』を強く握りしめた。
レヴィちゃんが怒るのも無理はない。みんながお腹いっぱい食べられないなんて、そんな悲しい世界、私も大っ嫌いだ!
「ミリアちゃん! 準備をお願い!」
「はいッ! 『タカニシキ』の米粉と、オワリの赤味噌で作った特製饅頭、展開します!」
ミリアちゃんがリュックを開けると、そこから湯気を立てるセイロが現れた。
蓋を開けると、ふっくらとした茶色いお饅頭がぎっしり。
甘じょっぱい味噌の香りが、頂上の冷たい空気に広がる。
「神様たちー! ご飯の時間だよー!!」
私は杖をマイクのように構え、空に向かって叫んだ。
詠唱? 祝詞? アイドルライブ?
今はそんなのはナシ! レヴィちゃん流に行くよ!
「元気がないなら、美味しいものを食べよう! 悲しいなら、甘いものを食べよう! 私たちが作った、最高のお供え物だよ!」
『星光の聖杖』で霊峰フガクのマナを、そして瘴気すらも吸収してエネルギーに変換していく。
杖から腕へ、腕から身体へ、そしてわたしの「根源」にある「光」へと繋ぎ、また杖へと回し、杖の先端から、光の魔力を放出させる。
それは攻撃魔法じゃない。
お饅頭の匂いと、私たちの「食べて元気になってほしい」という祈りを乗せた、暖かな波動。
『……いい匂いじゃ』
『これは……味噌か?』
『懐かしい……人の祈りの味がする……』
瘴気の奥から、小さな光の玉がいくつも現れた。
土地神様たちだ。彼らはフラフラと引き寄せられ、祭壇に置かれた饅頭に吸い付いていく。
「おかわりもたくさんありますよ! 沢山食べてくださいね!」
ミリアちゃんが神様(光の玉)にお饅頭を食べさせてあげている。
パクパク、モグモグ。
神様たちが食べるたびに、その光が強くなっていく。
くすんでいた色が、鮮やかな金色や緑色に戻っていく。
『うまい……!』
『力が……湧いてくるぞ!』
『なんという生命力じゃ! この米、タダモノではない!』
神様たちが復活していく。
タカニシキに込められた、レヴィちゃんの不屈の魂と、ミリアちゃんの執念が、神様たちの胃袋(?)を満たしたんだ!
「さあ、お腹がいっぱいになったら、お仕事の時間だよ!」
私は杖を高々と掲げた。
今こそ、あの大技を使う時。
「西日本の神様、全員集合! ……みんなの元気を、私に貸して!
――超広域・浄化儀式!! 『国土豊穣大結界』ッッ!!」
カッッッ!!!!
フガクの頂上から、太陽よりも眩しい光の柱が天を貫いた。
その光は成層圏で弾け、巨大なドームとなって日本列島の西側半分を覆い尽くす。
光の雨が降り注ぐ。
龍脈に力が戻り、枯れた大地に緑が蘇り、濁った水が清流に変わり、人々の心にかかっていた「諦め」という名の靄が晴れていく。
そして。
行き場を失った黒い瘴気は、東へと押しやられ――すべて、エド城の一点へと集束していく。
「やった……! これで、将軍は丸裸だよ!」
私はへなへなと座り込んだ。魔力切れだ。
でも、心地よい疲れ。
「あとは頼んだよ、レヴィちゃん。……黒幕の横っ面に、特大の一発をお見舞いしてやって!」
東の空、黒い雲が渦巻く彼方へ、私は祈りを込めてエールを送った。
◆◆◆ 幕間:脚本家の絶望 ~管理者権限が応答しない~
関ヶ原を突破され、レヴィーネ・ノブナガ連合軍が東海道を爆走してくる。
その勢いは止まらない。
海からは謎の黒船が艦砲射撃を行い、陸からは黒鉄隊が道を切り開き、空には花火が上がっている。
「ええい、認めん! こんな『喜劇』は認めんぞ!」
脚本家は玉座から立ち上がり、妖刀を振りかざした。
彼はこの世界における「演出家」だ。災害を起こし、進軍を阻むことなど造作もないはずだった。
「強制イベント発動! 『東海道・大地震』ッ!!」
……シーン。
何も起きない。鳥が鳴く声だけが聞こえる。
「……あ、あれ? おかしいな」
彼は冷や汗を流しながら、再度叫んだ。
「ど、土砂崩れだ!! 箱根の山よ、崩れ落ちて彼らを埋め尽くせ!!」
……シーン。
山は微動だにしない。むしろ、アリスによって浄化された土地神たちが「ようこそおいでなさいました」と道を整えている気配さえある。
「や、山火事!! 洪水!! 隕石!! ……な、なぜだ!? なぜ発動しない!?」
彼は妖刀を見つめた。刀身の輝きが消えかかっている。
モニターの隅に、警告文が表示されているのが見えた。
『ERROR:アクセス権限がありません。現在の管理者=【光と闇のタッグチーム】』
「りゅ、龍脈を……あいつらに抑えられているだとぉぉぉッ!?」
脚本家は膝から崩れ落ちた。
「私の……私の世界が……! 物理と筋肉と食欲に乗っ取られていくぅぅぅッ!!」
そして、遠くからドゴォォォン!! と城門が物理的に粉砕される音が響いた。
主役(悪役)の到着である。
◆◆◆
ついに、わたしたちは最終決戦の地、エド城の目前に到着した。
城はどす黒い瘴気の結界に覆われ、門は堅く閉ざされている。城壁の上には、妖刀の力によって怪物化した幕府兵がびっしりと並び、こちらを睨みつけている。
「……堅いわね。まともに攻めれば時間がかかるわ」
わたしが呟くと、ミリアが眼鏡を光らせて前に出た。
「レヴィーネ様。……敵の士気を挫き、こちらの腹を満たすための『前線基地』が必要です」
「あら、いい案があるの?」
「はい! ……黒鉄隊、工兵部隊! 出番ですよッ!」
夜闇に紛れ、ミリアの指揮の下、黒鉄隊が動き出した。
彼らが担いでいるのは、解体された家屋の廃材や、即席の建材。
魔導外骨格のパワーと、これまでの経験で培った超高速建築スキルが唸りを上げる。
カンカンカンッ! ガガガガッ!
そして、夜が明けた時。
エド城の守兵たちは、我が目を疑った。
「な、なんだあれはァァッ!?」
一夜にして、エド城の目の前に、城壁よりも高い巨大な「櫓」が出現していたのだ。
いや、ただの櫓ではない。
そこからは、食欲を刺激する強烈な「匂い」と、大量の湯気が立ち上っている。
名付けて、「キッチンフォートレス」。
その最上階ステージに、わたしとノブナガ、霊峰フガクから合流したアリスが立った。
「さあ、仕上げよアリス! アンタの歌と踊りで、この陰気な城を『お祭り会場』に変えてやりなさい!」
「う、うん……! でも……」
アリスがモジモジと震えている。
「道中の巡礼は『握手会』と『おにぎり配り』と『アニソン神楽』で誤魔化せたけど、こんな大舞台で本格的なライブなんて……! 私、あくまで『推す側』だったから、持ち歌なんてそんなにないんだよぉ……」
彼女は巫女服から、煌びやかな衣装に着替えようとしていたが、手が止まっていた。
「正直、ここまでのツアーで歌ってた『いつものアニソン』じゃ、この場の空気には合わないし……! 相手は将軍だし、もっとこう、この国の人たちの魂に響くような、ド派手な『和風な曲』じゃないと……!」
「ええい、なんでもいいから景気のいいやつをやりなさい! この国の神様が喜びそうなやつを!」
わたしが急かすと、アリスは頭を抱え、必死に記憶の底を探った。
みんなが知っていて、盛り上がって、この「和風な世界観」にマッチする、最強のエンターテインメント……。
その時。
悩むアリスの脳裏に、前世のテレビで見た、ある強烈な「将軍」の姿がフラッシュバックした。
白馬にまたがり悪を成敗する、暴れん坊な上様。
……が、なぜか金色の着物を着て、南国のリズムで踊り狂う姿。
『カァーーッ! カァーーッ! カァーーッ!』
脳内で弾ける、小気味よい打楽器音。
時代劇とサンバの融合。厳格さと陽気さの奇跡のマリアージュ。
(……これだ! これこそが、日本の……ううん、トヨノクニの夜明けにふさわしい『神楽』だよ!)
「……降りてきた! 降りてきたよレヴィちゃん!!」
アリスが顔を上げ、覚醒した。
彼女はバッと衣装を脱ぎ捨て(早着替え)、まばゆいばかりの金色の着流しと、頭にはチョンマゲ風のヘッドドレスを装着した。
「ミュージック、スタートッ!!」
ズンドコズンドコ、ピーヒャララ!!
アリスの光魔法が、空中に巨大な「金色の太陽(ミラーボール)」を作り出し、回転を始める。
軽快なラテンのリズムと、和太鼓の重低音が混ざり合った、摩訶不思議なイントロが戦場に響き渡る。
「♪五~穀~豊穣~! 天~下~泰平~! 踊れ東のカルナバル~!!」
アリスが、金色の着物を翻し、ステップを踏む。
そのバックダンサーとして、ミリアと黒鉄隊の精鋭たちが「腰元ダンサーズ」として乱入する。
「オレ! オレ! 金色サンバ~!!」
まばゆい光と、陽気すぎるリズム。
そして何より、「五穀豊穣」「天下泰平」という、民が最も求めている願いを乗せた歌詞。
エド城を包んでいた重苦しい空気が、物理的な音圧と光量によって吹き飛んでいく。
「な、なんだこれは!? 体が勝手に……踊りだす!?」
「ありがてぇ……なんだか知らんが、後光が差して見えるぞ!?」
城壁の守兵たちが、武器を捨てて手拍子を打ち始める。
瘴気が晴れ、洗脳が解けていく。これぞ最強の浄化魔法『お祭り騒ぎ』だ。
「今じゃ! 畳み掛けるぞ!!」
ノブナガが叫び、自らのコレクションである「天下五剣」を、ステージの四隅と中央に突き立てた。
「神剣よ! 人々の熱狂を吸い上げ、魔を祓う刃となれ!! ――『天下布武・敦盛乱舞』ッッ!!」
刀が共鳴し、アリスのサンバの熱気を「浄化の波動」へと変換してエド城に叩きつける。
結界がガラスのように砕け散った。
「道は開いたわ!! 来なさい、相棒!!!」
ズヌゥッ……!!!
わたしは「漆黒の玉座」を呼び出すと最上段に構え、城門へと跳躍した。
「へし――折れろッ!!!!!」
「オレ!」の掛け声とリズムに乗せて、最強の一撃が城門を粉砕する。
祭りの熱狂と共に、わたしたちはエド城へと雪崩れ込んだ。
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