悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~

みやもと春九堂@月館望男

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【第11部】トヨノクニ黄金狂時代(ジパング・ラプソディ) ~技術と筋肉の力技で、数百年分の文明開化を「強制執行」しますわ~

第106話 【人事異動】前職:征夷大将軍。現職:中間管理職。……胃痛四天王、ここに結成

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 トヨノクニ平定から一ヶ月。オワリ城での休息を終え、体力を回復したノブナガは、その足でキョウの都へと上洛した。目的は、この国の最高権威である「ミカド」への戦勝報告と、今後の統治体制の確立である。

 御所・紫宸殿。張り詰めた空気が支配する広間。御簾(みす)の向こうには、帝の気配がある。並み居る公家たちが平伏する中、ノブナガは一人、堂々と顔を上げて座していた。

「……オダ・ノブナガよ。大儀であった」

 鈴を転がすような、しかし内臓に響くような威厳に満ちた声。

「して、そなたには『征夷大将軍』の位を授けようと思う。……幕府を開き、この国を統治するがよい」

 将軍。武士にとっての最高栄誉。だが、ノブナガはニカッと笑い、扇子を開いた。

「――お断りいたしまする」

 広間が凍りついた。公家たちが「なっ、なんと!?」とざわめく。

「将軍などという古臭い椅子は、それがしの尻には合いませぬ。某は、法にも身分にも縛られぬ『枠外の存在』として、この国をもっと面白くしたいのです」

 彼は懐から、一枚の白紙を取り出し、帝の前に差し出した。

「地位はいりませぬ。……代わりに、某が何をしようと、誰にも文句を言わせぬ『お墨付き』をいただきたい」

 沈黙。誰もが息を呑む中、御簾の中から、楽しげな笑い声が漏れた。

「……アハハハハ! 面白い! 実に見事な『かぶき』じゃ!」

 帝は筆を取り、ノブナガの白紙にサラサラと文字を走らせ、朱色の御璽をドンッ!と押した。

「よかろう、オダ・ノブナガ。……そなたを『天下人』と認める。将軍の位は空席とし、実務は執権に任せよ。そなたは好きに生き、好きに国を富ませよ。……それが余の望みじゃ!」

 投げ渡された書状には、金文字でこう書かれていた。『天下御免』。ここに、神聖なる権威「帝」と、絶対なる自由人「天下人」。二つの太陽が並び立つ時代の幕が開けた。

 ◆数日後・オワリ城 行政執務室◆

 オワリに戻ったノブナガとレヴィーネは、即座に幹部たちを招集した。集められたのは、ノブナガ子飼いの優秀なブレインたちだ。
 筆頭家老アケチ・ミツヒデ。
 普請奉行ハシバ・ヒデヨシ。
 勘定奉行マツダイラ・イエヤス。
 彼らは緊張していた。天下統一を成し遂げた主君から、どんな大役を仰せつかるのかと。だが、ノブナガが開口一番に放った言葉は、彼らの理解を超えていた。

「余とレヴィーネは『面白いこと』を考えるのに忙しい。よって、面倒な政治と実務は、すべて貴様らに丸投げする!」
「は、はいぃぃッ!?」

 イエヤスが裏返った声を出す。

「そ、それはあまりにも……我々だけでは手が足りませぬ! 国の舵取りなど……!」
「安心せい。助っ人を用意した」

 ノブナガがパンと手を叩く。襖が静かに開き、一人の男が入ってきた。やつれた顔に、深いため息。しかし、その所作には隠しきれない高貴さが漂っている。その顔を見た瞬間、三人は石像のように硬直した。

「…………へ?」

 ミツヒデが眼鏡を落とした。ヒデヨシが口をポカンと開けた。イエヤスが魔導計算機電卓を取り落とした。そこにいたのは、アシカガ・ムネノリ。つい先日まで敵の総大将であり、本来なら雲の上の存在である「征夷大将軍」その人だったからだ。

「……ア、アシカガ、様……?」
「よそう。私はもう将軍ではない」

 ムネノリは力なく微笑み、三人の隣にある空席に、ドカッとおにぎりの包みを置いて座った。

「今日から君たちの同僚となる、執権のアシカガだ。……よろしく頼む」
「えええええええええええッ!!??」

 三人の絶叫が城内に響き渡る。将軍が、同僚? 上司の上司の上司が、隣のデスク? レヴィーネが冷ややかに告げる。

「ムネノリには、国を荒廃させた罪を『労働』で償ってもらうわ。あんたたち三人、彼を補佐して、死ぬ気でこの国を回しなさい。……さあ、最初の仕事よ。山を一つ削る予算を組みなさい」

 レヴィーネとノブナガは、嵐のように去っていった。残されたのは、山積みの書類と、元将軍と、呆然とする三人の男たち。

「……あの、アシカガ様。……これ、夢でしょうか?」
「夢ならどれほど良いか。……だが現実だ」

 ムネノリが懐から胃薬の瓶を取り出した。

「……飲むか? よく効くぞ」
「……いただきます」

 イエヤスが震える手で薬を受け取る。ヒデヨシが涙目で天を仰ぐ。かつての上司の上司が、隣で胃薬を分け合っている。その異常な光景に、彼らは悟ってしまった。この「トヨノクニ」という組織が、入ったら二度と抜け出せない、地獄のようなブラック企業であることを。

 こうして、呉越同舟のチーム、通称「胃痛四天王」が結成された。彼らの胃袋がキリキリと痛むたびに、この国は強くなっていくのだ。
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