悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~

みやもと春九堂@月館望男

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【第12部】トヨノクニ大博覧会 ~富は天下の回りもの、ならば筋肉で回しますわ~

第129話 大一番(後編):暴走する若武者には「愛の鞭(TLC)」を。リングの上で乾杯するのが流儀ですわ

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 達人同士の静謐な技術戦が終わり、会場の興奮が心地よい余韻に変わっていた頃。
 第4試合のゴングと共に、その空気は硝煙のような危険なものへと変貌した。

 ◆第4試合:狂気と傾奇者◆

『第4試合! オワリの傾奇者、天下御免の暴れん坊! マエダ・ケイジ!!』
『対するは、サツマの狂犬、若き薩摩隼人! シマヅ・トシヒサ!!』

 花道の両側から、二人の若武者が入場する。
 ケイジは派手な虎柄の着流しに、身の丈ほどの朱槍を担いでいる。
 対するトシヒサは、質実剛健な袴姿で、腰には二振りの刀を帯びている。

 だが、リングインの直前。
 二人は恭しく一礼し、それぞれの武器をセコンド介添人へと預けた。
 「大一番」は素手喧嘩ステゴロがルール。武士としての礼節を守り、身一つでリングに上がる。

 カーン!

 試合は序盤から激しい打撃戦となった。
 トシヒサの剛拳が唸り、ケイジがトリッキーな動きで翻弄する。
 互いに一歩も引かない、真っ向勝負の殴り合いに会場が沸く。
 若さゆえの、ブレーキの壊れたような打ち合いだ。

 だが、中盤。
 ケイジの放った死角からのフックが、トシヒサの顎を完璧に捉えた。

 ガクンッ。

 トシヒサの膝が落ち、白目を剥く。
 勝負あったか――誰もがそう思った瞬間。

「……ウ、ガァァァァァァッ!!!」

 倒れるどころか、トシヒサの身体から赤黒い闘気が噴き出した。
 意識はない。あるのは純粋な闘争本能のみ。
 シマヅの血に流れる特異体質――『狂武者バーサーカー』の発動だ。

 トシヒサは獣のような動きでリングを飛び降り、セコンドに襲いかかって預けていた刀を強引に奪い取った。
 ジャキッ!!
 抜刀。白刃が照明を反射してギラリと光る。

「おい! 刀を抜いたぞ!?」
「殺し合いになるぞ! 止めろ!」

 会場が騒然となる。審判が止めに入ろうとするが、殺気に当てられて足が動かない。
 だが、対するケイジは、それを見てニヤリと笑った。

「面白い! 意識が飛んでもなお戦うか! ……その狂気、俺が喰らってやろう!」

 ケイジもまた、セコンドから愛用の朱槍をひったくった。
 切っ先をトシヒサに向ける。
 完全に「殺し合い」の空気に――。

 ――その、瞬間。

 ジャァァァァァァンッ!!!

 会場の空気を引き裂くような、巨大な銅鑼ドラの音が鳴り響いた。
 続いて、腹に響く重厚なリズムが轟く。

 ドンドコドン! ドンドコドン!

 大太鼓の連打。
 その音を聞いた瞬間、凍りついていた観客たちが総立ちになり、拳を突き上げた。
 悲鳴ではない。歓喜と興奮の叫びだ。

「「「クッロガネッ! クッロガネッ! クッロガネッ!」」」

 大「黒鉄」コールの中、花道のスモークから現れたのは、黒い革のボンテージ風戦闘服に身を包み、肩に贋作のパイプ椅子フェイクを担いだ、大会主催者レヴィーネ――わたしだった。

「――神聖なリングで武器ごっこ? ……100年早いわよッ!!」

 わたしはトップスピードでリングインし、刃物が交錯する寸前、両者の間に割って入った。

 ガォンッ!!

 走り込みつつのフルスイング・チェアショット一閃。
 バーサーカー状態のトシヒサの脳天に炸裂し、彼は再び白目を剥いて(今度こそ完全に)ダウンした。手から刀がこぼれ落ちる。

「……ここからは『教育』の時間よ」

 わたしはリング下から「長机テーブル」を放り込み、ダウンしているトシヒサをその上に寝かせた。
 さらに、高さ3メートルの「巨大脚立ラダー」を立てる。
 T(テーブル)・L(ラダー)・C(チェアー)。
 暴走した若武者への、愛のフルコースだ。

 わたしはラダーの頂上に立ち、足元の影から「漆黒の玉座オリジン」を召喚した。
 数百キロの鉄塊を抱え、眼下の獲物を見下ろす。

「頭を冷やしなさいッ!! ――『玉座式・天板崩しボディプレス』ッッ!!」

 ズッガァァァァァァン!!!

 机が真っ二つに砕け散り、トシヒサがマットにめり込む。
 完璧なKO。
 会場が静まり返り、そして爆発的な歓声が上がった。

「やったぜ姐さん!」
「これぞ大一番の華だ!」
「シマヅの若造、いい根性してたぞ!」

 黒鉄隊の救護班がリングになだれ込み、白目を剥いてピクリとも動かないトシヒサを、手際よく担架に乗せて運んでいく。
 その様子を見送りながら、わたしはコーナーポストによじ登った。
 そこへ、リング下のミリアが、絶妙なタイミングで放り投げた。
 缶入り「トヨ・ドライ」を二本!

 パシィッ!

 空中でキャッチしたわたしは、二本の缶を頭上で激しく打ち合わせた。

 ガガンッ! プシュゥゥゥッ!!

 弾ける泡。飛び散る酒しぶき。
 わたしは溢れ出す酒を口いっぱいに流し込み、残りをシャワーのように全身に浴びた。

「プハァッ!! ……凶器の懲罰にはわたくしの凶器を! それがこのリングの『正義』であり『ルール』よ!!」

 わたしの宣言に、会場のボルテージは最高潮に達する。

「「「クッロガネッ! クッロガネッ! クッロガネッ!」」」

 すると、背後から呆れたような、しかし楽しげな声がかかった。

「おいおい、一番いいとこ取りかよ。黒鉄の大将」

 振り返ると、マエダ・ケイジが槍を肩に担ぎ、ニヤリと笑っていた。

「せっかく燃えてきたところだったのによ。……あの若造の首を取る寸前だったんだぜ?」

「あら。神聖なリングを屠殺場にするつもりだったのなら、止めて正解だったわね」

 わたしは残ったトヨ・ドライの一本を、ケイジに向かって放り投げた。
 彼はそれを片手で受け止めると、プシュッと開けて一気に呷る。

「……ぷはっ! まあいい。おかげで頭が冷えた。……だが、こっちはすっかり不完全燃焼でな」

 ケイジは空になった缶を握り潰し、好戦的な瞳でわたしを睨みつけた。

「責任取って、今度はあんたが相手してくれよ? なんでもあり、でな」

「あら、わたしと踊りたいの? ……いいわよ。賭けるものが釣り合えば、いつでも受けて立つわ」

 わたしが鉄扇を開いて不敵に笑い返すと、リング下から「では、その『前祝い』を!」という声と共に、新たな銀色の弾丸が二つ、飛んできた。
 ミリアからの追加補給だ。

 パシィッ! パシィッ!

 わたしとケイジは、それぞれの手に新しい「トヨ・ドライ」をキャッチする。
 よく冷えた缶の感触に、ケイジが満足げに鼻を鳴らした。

「気が利くじゃねえか。……決まりだ。じゃあ、とりあえず今は、あの哀れな若造の生還を祈って乾杯といくか」
「ええ。彼もいい勉強になったでしょうしね」

 カシュッ! プシュッ!
 ガチンッ!!

 わたしたちはリングの上で、再び缶をぶつけ合った。
 担架で運ばれていく敗者――まだピクピクと痙攣している――を尻目に、リングに残った二人の傾奇者が祝杯を上げる。
 そのシュールで、けれど最高に「トヨノクニらしい」光景に、観客たちは笑いと拍手を送った。

 ◆メインイベント:サウナと桃の龍虎対決◆

 わたしの乱入劇で会場の空気が十分に温まった後、いよいよメインイベントの幕が開いた。
 リング上の瓦礫は瞬く間に片付けられ、厳粛な空気が流れる。

『メインイベント! 時間無制限一本勝負!
 赤コーナー! 甲斐の虎、タケダ・シンゲン!!』

 ドォォォォン!!
 火山が噴火するような赤い照明の中、真っ赤な鎧直垂(よろいひたたれ)を着た巨漢が入場する。
 その背後には、「風林火山」の旗指物が揺らめいている。

『青コーナー! 越後の龍、ウエスギ・ケンシン!!』

 キィィィィン……。
 氷の結晶が舞うような青い照明の中、白頭巾を被った美丈夫が静々と歩み出る。
 その手には軍配ではなく、数珠が握られている。

 カワナカジマの開発権を賭けた一戦。タケダのサウナと、ウエスギの桃。
 リゾート開発と領地の名産とを賭けた、仁義なきプレゼン・バトルの開幕だ。
 他にもこの二人はいくつもの案件を賭け、何度もぶつかっている好カード。
 盛り上がらないわけがない。

 カーン!!

 ゴングが鳴った瞬間、二つの巨星が激突した。

 ドガァァァァァッ!!

 小細工なし。
 リング中央での、真正面からのラリアットの打ち合い。
 シンゲンの剛腕が唸り、ケンシンの強烈なミドルキックが空を切る。
 一発一発が、岩をも砕くほどの威力。だが、二人は倒れない。

「ぬんッ! 相変わらず硬いな、越後の龍よ!」
「ふっ! そなたこそ、暑苦しいほどの熱気だ、甲斐の虎!」

 一進一退の攻防は、30分を超えても決着がつかない。
 互いに手の内を知り尽くしたライバル同士。
 最後は、互いに残された全力を込めた、必殺のクロスカウンター。

風林火山フォー・エレメンツ・インパクトォォッ!!」
「大車懸かり蹴りッッ!!」

 ズガァァァン!!

 両者、大技が相打ちとなり、ダブルノックアウト。
 二人の巨体が同時にマットに沈み、そして動かなくなった。

 シーン……と静まり返る会場。
 審判がカウントを取る。
 ……ナイン、テン。
 引き分け。

 だが、マットに大の字になった二人は、荒い息を吐きながら、天井を見上げて笑い出していた。

「……ハァ、ハァ……。やるな、越後の龍。……サウナの後の桃、悪くないかもしれん」
「……フッ、甲斐の虎よ。……桃の収穫で汗を流した後のサウナもまた、義に適う」

 二人の英雄が認め合い、新たな「共同事業(コラボ)」が生まれる瞬間を、観客たちは目撃したのだ。

 ワァァァァァァァァッ!!!

 惜しみない拍手が降り注ぐ。
 VIP席では、わたしも満足げにグラスを傾けていた。
 技術、狂気、乱入、そして熱血。
 全てが詰まった最高の興行だった。

 こうして、初日の夜は更けていった。
 だが、これはまだ序章に過ぎない。
 翌日には、さらなる「食」と「技術」の嵐が待ち受けていることを、まだ誰も知らない――。
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