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【第12部】トヨノクニ大博覧会 ~富は天下の回りもの、ならば筋肉で回しますわ~
第130話 食の迷宮(グルメ・ラビリンス):エルフも唸る「大豆ミート」と、獣王が泣く「ホルモン焼き」。胃袋は掴みました
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大博覧会二日目。
昨夜の狂乱の宴から一夜明け、アツタの人工島「安土パビリオン」は、朝から食欲を刺激する香ばしい匂いと、心地よい海風に包まれていた。
今日は世界中から招かれたVIPたちを連れての、会場視察ツアーである。
案内役を務めるのは、わたし、レヴィーネ・ヴィータヴェンと、V&C商会CEOのミリア。
そして、毒味兼・浄化担当として、白衣に巫女服を合わせた奇妙な(しかし可愛い)制服を着たアリスが同行している。
一行の中には、鋭い目つきで周囲を値踏みする一団が混じっていた。
大陸西方の経済を牛耳る巨大組織、「西方連邦商業ギルド」の重鎮たちだ。
「ほう……。これが極東の島国の技術ですか。……随分と『野蛮』なエネルギーを感じますな」
先頭を歩くギルド連合議長、ロックウェルが鼻で笑う。
その目は笑っているが、奥底にはトヨノクニの富を吸い上げんとするハイエナの光が宿っている。
「野蛮、結構ですわ。……そのエネルギーが何を生み出すか、とっくりとご覧あそばせ」
わたしは鉄扇で口元を隠し、冷ややかに返した。
◆第一のパビリオン:『奥州・ダテ美食倶楽部』◆
最初に訪れたのは、香ばしい肉の焼ける匂いが充満するエリアだ。
ド派手な眼帯男、ダテ・マサムネが鉄板の前でコテをさばいている。
「Yeah!! 奥州最強のミート・フェスティバルへようこそ! まずはこれ、『厚切り牛タンの炭火焼き』だ!」
ジュウウゥゥゥッ……!!
炭火の上で踊る肉に、獣王ガロンが目を輝かせた。
「グオォォォッ! この血の滴るようなレア加減! たまらねえ!」
ガロンが皿ごとひったくって豪快に頬張る。
一方で、エルフの女王エルウィンは、ハンカチで鼻を覆い、露骨に顔をしかめていた。
「……野蛮じゃのぅ。動物の死骸を焼いて喜ぶなど、吐き気がするぞえ」
予想通りの反応。
わたしはマサムネに目配せをした。彼はニヤリと笑い、別の鉄板で焼かれた「ステーキ」を差し出した。
「おや、女王陛下。肉がお嫌いなら、こちらの『大地のステーキ』はいかがかな?」
「……ふん。焼き方を変えたところで、死骸は死骸……む?」
エルウィンの鼻がピクリと動く。
漂ってくるのは、肉の脂の匂いではなく、香ばしい穀物の香り。
「アリス、お願い」
「はーい! 毒味チェック、はいりまーす!」
アリスが元気よく前に出ると、ナイフでステーキを一切れ切り取り、口に放り込んだ。
もぐもぐと咀嚼し、ごっくん。
「うん! 毒性反応なし! ついでに――『浄化』!」
カッ!
アリスの手から聖なる光が放たれ、料理を包み込む。
食中毒の原因菌から、微細な汚れに至るまでを完全消滅させる、無駄に高位な神聖魔法だ。
「さあどうぞ! アリス乳業認定、安心安全の保証付きだよ!」
「……そ、そこまでするか」
エルウィンは呆れつつも、浄化されたステーキを恐る恐る口に運んだ。
咀嚼する。
その瞬間、彼女の碧眼が見開かれた。
「……! これは……肉ではない!? 噛みごたえは肉そのものなのに、溢れ出してくるのは……濃厚な大豆の旨味!?」
「その通りです!!」
すかさずミリアが解説に入る。
「これは『ダイズミート』。我らがトヨノクニの誇る大豆を加工し、肉の繊維を再現したものです。ソースも野菜と果実のみで作った特製オニオンソース。……100%、植物由来の逸品です!」
「信じられぬ……。これなら、殺生を忌む森の民でも、罪悪感なく『肉』の味を楽しめるというもの……!」
エルウィンが夢中でナイフを動かす。
まずは第一段階、クリアね。
「お次はこいつだ! 『ミックスホルモン焼き』!」
マサムネが次に差し出したのは、独特の形状をした肉片が味噌ダレに絡まったものだった。
それを見たガロンが、眉をひそめる。
「あん? なんだこりゃ。内臓じゃねえか。……俺たちは王族だぞ? ハイエナじゃあるまいし、そんな捨てるところを食えるかよ」
「捨てる? とんでもねえ!」
マサムネが笑い飛ばし、焼きたての一つをガロンの口に放り込んだ。
「むぐっ……!? ……んんッ!?」
ガロンの目が丸くなる。
噛みしめるたびに溢れ出る濃厚な脂の甘み。コリコリとした食感。そして焦げた味噌の香ばしさ。
「な、なんだこれは……! 赤身より味が濃い! 脂が甘い! いつまでも噛んでいたい……!」
「へへッ、酒が進むだろう? 命を余すところなくいただく。それがトヨノクニ流の供養であり、最強のスタミナ食だ!」
ガロンが夢中で皿を抱え込む横で、ミリアが商人たちに向かってパネルを示す。
「このように、我が商会では食材を『無駄なく』使い切るシステムを構築しております」
パネルには、トヨノクニの農業サイクルが描かれていた。
大豆の加工で出る「おから」や「茎」を発酵させて「サイレージ」という飼料にし、それを家畜が食べ、家畜の排泄物が堆肥となって大豆を育てる。
「この『黄金の循環』こそが、低コストかつ高品質な食材供給の秘密です」
商人のロックウェルたちが、顔色を変えてメモを取る中、エルウィンがふぅ、と満足げな息を吐いた。
「……見事じゃ。植物の可能性、しかと見届けたぞえ。……じゃが、やはり口の中が少々油っこいような……」
「でしたら、お口直しにこちらを」
ミリアが満を持して差し出したのは、鮮やかな緑色のシェイクだった。
「『ソイ・ずんだシェイク』です。牛乳ではなく豆乳を使用し、甘みも砂糖ではなく米飴などで調整した、森の女王陛下のための特製デザートです」
「……ほう」
エルウィンがストローをくわえる。
ちゅぅっ。
冷たく、滑らかな緑の液体が、彼女の喉を潤していく。
「――ッ!!!」
エルウィンの背筋がピンと伸びた。
枝豆の爽やかな香り。豆乳のまろやかなコク。そして時折舌に当たる、豆のつぶつぶとした楽しい食感。
「な、なんじゃこれは……! 森の息吹そのものを飲んでおるような……! それでいて、心の底からとろけるような甘美さ……!」
彼女は一気に飲み干すと、空になったカップを握りしめて叫んだ。
「代わりを持ってまいれ! ……いや、樽じゃ! 樽で持ってこぬか! これをエルフの里の『聖水』に指定するぞえ!!」
――完全に落ちたわね。
わたしは鉄扇で口元を隠しながら悪役らしい笑みを浮かべた。
◆第二のパビリオン:『ホウジョウ物流 & アシカガ水産』◆
続いて訪れたのは、磯の香りが漂うエリアだ。
ここでは、内陸のオワリでは食べられないはずの、新鮮な海の幸が並んでいる。
「いらっしゃいませ! セトウチ産の生牡蠣に、近海マグロのステーキ! カツオのタタキはいかがかな!」
ホウジョウ・ウジマサが、氷の敷き詰められた台の上で、ピカピカに光る魚介を売りさばいている。
「……これは妙だな」
アレクセイ皇子が、生牡蠣をツルリと飲み込みながら、知的な顎に手をやった。
「美味い。……だが、論理的に合わない。この島国の地理から考えて、牡蠣の産地である南方の海からは相当な距離があるはずだ。早馬でも三日はかかる距離を、どうやってこの『獲れたて』の鮮度で運んだ?」
「……カツオもだ!」
ガロンが、表面を炙っただけの真っ赤なカツオの切り身を頬張り、唸り声を上げた。
「俺たちの国じゃ、魚なんざ干物か塩漬けしかねえ。……なんだこの『タタキ』ってのは! 表面は香ばしいのに、中は生の肉みてぇに血が滴ってやがる! 魚ってのはこんなに野性味あふれる食い物だったのか!」
ガロンがカツオの皿を両手に抱え込み、他者に取られまいと唸る。
アレクセイの疑問と、ガロンの感動。
その答えを示すために、わたしはニヤリと笑い、パビリオンの裏手に停まっている巨大な「箱」を指差した。
「答えはあれ。……『コールドチェーン』の確立ですわ」
そこにあったのは、冷気を纏った巨大なコンテナ。
氷魔法と断熱材を組み合わせ、産地から食卓まで、一度も温度を上げずに輸送するシステム。
「食文化を支えているのは、舌の肥えた料理人だけではありません。それを運ぶ『技術』があってこそ、美味は国境を越えるのです」
わたしは呆然とするVIPたちを促し、会場中央にそびえる黄金のタワー――技術館へと足を向けた。
昨夜の狂乱の宴から一夜明け、アツタの人工島「安土パビリオン」は、朝から食欲を刺激する香ばしい匂いと、心地よい海風に包まれていた。
今日は世界中から招かれたVIPたちを連れての、会場視察ツアーである。
案内役を務めるのは、わたし、レヴィーネ・ヴィータヴェンと、V&C商会CEOのミリア。
そして、毒味兼・浄化担当として、白衣に巫女服を合わせた奇妙な(しかし可愛い)制服を着たアリスが同行している。
一行の中には、鋭い目つきで周囲を値踏みする一団が混じっていた。
大陸西方の経済を牛耳る巨大組織、「西方連邦商業ギルド」の重鎮たちだ。
「ほう……。これが極東の島国の技術ですか。……随分と『野蛮』なエネルギーを感じますな」
先頭を歩くギルド連合議長、ロックウェルが鼻で笑う。
その目は笑っているが、奥底にはトヨノクニの富を吸い上げんとするハイエナの光が宿っている。
「野蛮、結構ですわ。……そのエネルギーが何を生み出すか、とっくりとご覧あそばせ」
わたしは鉄扇で口元を隠し、冷ややかに返した。
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ド派手な眼帯男、ダテ・マサムネが鉄板の前でコテをさばいている。
「Yeah!! 奥州最強のミート・フェスティバルへようこそ! まずはこれ、『厚切り牛タンの炭火焼き』だ!」
ジュウウゥゥゥッ……!!
炭火の上で踊る肉に、獣王ガロンが目を輝かせた。
「グオォォォッ! この血の滴るようなレア加減! たまらねえ!」
ガロンが皿ごとひったくって豪快に頬張る。
一方で、エルフの女王エルウィンは、ハンカチで鼻を覆い、露骨に顔をしかめていた。
「……野蛮じゃのぅ。動物の死骸を焼いて喜ぶなど、吐き気がするぞえ」
予想通りの反応。
わたしはマサムネに目配せをした。彼はニヤリと笑い、別の鉄板で焼かれた「ステーキ」を差し出した。
「おや、女王陛下。肉がお嫌いなら、こちらの『大地のステーキ』はいかがかな?」
「……ふん。焼き方を変えたところで、死骸は死骸……む?」
エルウィンの鼻がピクリと動く。
漂ってくるのは、肉の脂の匂いではなく、香ばしい穀物の香り。
「アリス、お願い」
「はーい! 毒味チェック、はいりまーす!」
アリスが元気よく前に出ると、ナイフでステーキを一切れ切り取り、口に放り込んだ。
もぐもぐと咀嚼し、ごっくん。
「うん! 毒性反応なし! ついでに――『浄化』!」
カッ!
アリスの手から聖なる光が放たれ、料理を包み込む。
食中毒の原因菌から、微細な汚れに至るまでを完全消滅させる、無駄に高位な神聖魔法だ。
「さあどうぞ! アリス乳業認定、安心安全の保証付きだよ!」
「……そ、そこまでするか」
エルウィンは呆れつつも、浄化されたステーキを恐る恐る口に運んだ。
咀嚼する。
その瞬間、彼女の碧眼が見開かれた。
「……! これは……肉ではない!? 噛みごたえは肉そのものなのに、溢れ出してくるのは……濃厚な大豆の旨味!?」
「その通りです!!」
すかさずミリアが解説に入る。
「これは『ダイズミート』。我らがトヨノクニの誇る大豆を加工し、肉の繊維を再現したものです。ソースも野菜と果実のみで作った特製オニオンソース。……100%、植物由来の逸品です!」
「信じられぬ……。これなら、殺生を忌む森の民でも、罪悪感なく『肉』の味を楽しめるというもの……!」
エルウィンが夢中でナイフを動かす。
まずは第一段階、クリアね。
「お次はこいつだ! 『ミックスホルモン焼き』!」
マサムネが次に差し出したのは、独特の形状をした肉片が味噌ダレに絡まったものだった。
それを見たガロンが、眉をひそめる。
「あん? なんだこりゃ。内臓じゃねえか。……俺たちは王族だぞ? ハイエナじゃあるまいし、そんな捨てるところを食えるかよ」
「捨てる? とんでもねえ!」
マサムネが笑い飛ばし、焼きたての一つをガロンの口に放り込んだ。
「むぐっ……!? ……んんッ!?」
ガロンの目が丸くなる。
噛みしめるたびに溢れ出る濃厚な脂の甘み。コリコリとした食感。そして焦げた味噌の香ばしさ。
「な、なんだこれは……! 赤身より味が濃い! 脂が甘い! いつまでも噛んでいたい……!」
「へへッ、酒が進むだろう? 命を余すところなくいただく。それがトヨノクニ流の供養であり、最強のスタミナ食だ!」
ガロンが夢中で皿を抱え込む横で、ミリアが商人たちに向かってパネルを示す。
「このように、我が商会では食材を『無駄なく』使い切るシステムを構築しております」
パネルには、トヨノクニの農業サイクルが描かれていた。
大豆の加工で出る「おから」や「茎」を発酵させて「サイレージ」という飼料にし、それを家畜が食べ、家畜の排泄物が堆肥となって大豆を育てる。
「この『黄金の循環』こそが、低コストかつ高品質な食材供給の秘密です」
商人のロックウェルたちが、顔色を変えてメモを取る中、エルウィンがふぅ、と満足げな息を吐いた。
「……見事じゃ。植物の可能性、しかと見届けたぞえ。……じゃが、やはり口の中が少々油っこいような……」
「でしたら、お口直しにこちらを」
ミリアが満を持して差し出したのは、鮮やかな緑色のシェイクだった。
「『ソイ・ずんだシェイク』です。牛乳ではなく豆乳を使用し、甘みも砂糖ではなく米飴などで調整した、森の女王陛下のための特製デザートです」
「……ほう」
エルウィンがストローをくわえる。
ちゅぅっ。
冷たく、滑らかな緑の液体が、彼女の喉を潤していく。
「――ッ!!!」
エルウィンの背筋がピンと伸びた。
枝豆の爽やかな香り。豆乳のまろやかなコク。そして時折舌に当たる、豆のつぶつぶとした楽しい食感。
「な、なんじゃこれは……! 森の息吹そのものを飲んでおるような……! それでいて、心の底からとろけるような甘美さ……!」
彼女は一気に飲み干すと、空になったカップを握りしめて叫んだ。
「代わりを持ってまいれ! ……いや、樽じゃ! 樽で持ってこぬか! これをエルフの里の『聖水』に指定するぞえ!!」
――完全に落ちたわね。
わたしは鉄扇で口元を隠しながら悪役らしい笑みを浮かべた。
◆第二のパビリオン:『ホウジョウ物流 & アシカガ水産』◆
続いて訪れたのは、磯の香りが漂うエリアだ。
ここでは、内陸のオワリでは食べられないはずの、新鮮な海の幸が並んでいる。
「いらっしゃいませ! セトウチ産の生牡蠣に、近海マグロのステーキ! カツオのタタキはいかがかな!」
ホウジョウ・ウジマサが、氷の敷き詰められた台の上で、ピカピカに光る魚介を売りさばいている。
「……これは妙だな」
アレクセイ皇子が、生牡蠣をツルリと飲み込みながら、知的な顎に手をやった。
「美味い。……だが、論理的に合わない。この島国の地理から考えて、牡蠣の産地である南方の海からは相当な距離があるはずだ。早馬でも三日はかかる距離を、どうやってこの『獲れたて』の鮮度で運んだ?」
「……カツオもだ!」
ガロンが、表面を炙っただけの真っ赤なカツオの切り身を頬張り、唸り声を上げた。
「俺たちの国じゃ、魚なんざ干物か塩漬けしかねえ。……なんだこの『タタキ』ってのは! 表面は香ばしいのに、中は生の肉みてぇに血が滴ってやがる! 魚ってのはこんなに野性味あふれる食い物だったのか!」
ガロンがカツオの皿を両手に抱え込み、他者に取られまいと唸る。
アレクセイの疑問と、ガロンの感動。
その答えを示すために、わたしはニヤリと笑い、パビリオンの裏手に停まっている巨大な「箱」を指差した。
「答えはあれ。……『コールドチェーン』の確立ですわ」
そこにあったのは、冷気を纏った巨大なコンテナ。
氷魔法と断熱材を組み合わせ、産地から食卓まで、一度も温度を上げずに輸送するシステム。
「食文化を支えているのは、舌の肥えた料理人だけではありません。それを運ぶ『技術』があってこそ、美味は国境を越えるのです」
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